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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
11章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (前編)
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第130話 晴れてても、逢ってることに気付かない織姫と彦星



「……あれ? 西浦(にしうら)さん」



 閉店後の片付けも済ませたし、ちょっと店の前を掃除しておこうって、ホウキ片手に外に出ると――。


 見知ったスーツ姿のおじさんが、こちらにやってくるところだった。



「やあ(めい)ちゃん、こんばんは。

 ――お父さんはいるかい?」


「えっと、それが……今夜は『お仕事』に」



 わたしは、一応周りを警戒して――当たり障りのない言葉で答える。


 ……どこで誰が聞いてるか分からないから。



「ン……そうか。間が悪かったな……」


「もうしばらくしたら帰ってくると思いますし、中で待ってて下さい」


「……いいのかい? もう閉めたんだろう?」


「大丈夫ですよ。

 ……お(ひや)しか出せませんけどね?」


「――なら、ジョッキでお願い出来るかな。

 この季節、スーツで歩き回るとさすがに暑くてね」



 わたしの冗談に、そんな風に笑って返す西浦さんを連れて店に戻ると、カウンター席の電気だけ付け直して……。


 座った西浦さんに、冷蔵庫に入れていたアイスコーヒーを、大きめのグラスに氷と一緒にたっぷりと注いで出す。



「お……ありがとう」



 西浦さんは美味しそうに、コーヒーを一口飲んで……大きく息をついた。


 そして、暗い店内を見渡して言う。



「それにしても……鳴ちゃん。

 いくらお父さんが元は〈勇者〉とはいえ、こうして待っているのは……やっぱり心配だろう?」



「そうですね……。お父さん、〈勇者〉って言っても、魔法使い系だし。

 なのに、シルキーベルは魔法少女でも前衛系みたいだし、クローリヒトも、お父さんの魔法のことを知ってるみたいだけど、基本は剣士みたいだし……。

 そもそも、お父さんが〈勇者〉だったのはもう20年近く前の話だしで……。

 今日は黒井(くろい)くんが一緒ですけど、やっぱり……心配は心配です」



「まあ、そうだよなあ……」



 西浦さんのグラスの中で、氷がカラン、と音を立てる。




 ……わたしにも、戦えるチカラがあったら……。




 西浦さんの質問に答えるわたしは……改めて、そんなことを思わずにはいられなかった。



 お父さんはイヤがるだろうけど……。


 そうすれば、わたしももっと役に立てるのに……。



「……ああ、そうだ。

 ちょうど鳴ちゃんに聞いておきたいことがあったんだけど……」


「――え? あ、はい、なんでしょう?」



 西浦さんの言葉に、わたしは慌てて思考を引き戻す。



「鳴ちゃんの先輩の……赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)くんのこと。どう思う?」


「えっ!? ど、どう思う、って……!」



 ……ええ、えええ!?

 なな、なんで西浦さんがそのこと知って――




 ――って、あれ……ちょっと待てよ……?




 一瞬、『好きなのか?』って聞かれた気がしてうろたえちゃったけど……。



「……? どうしたんだい?」


「あ、いいえ、何でも!」



 ……やっぱり、っていうか……。


 西浦さんの態度を見る限り、そっちのことを聞いたんじゃないみたい。



 いや、でもまあ、考えてみれば当たり前だよね……。


 いくらお父さんの友達だからって、西浦さんがそんなこと聞いてどうするんだって話だし。



「赤宮くんと、クローリヒトの関係性について、なんだけど……」



 ……そう、そっちだよね、そりゃあね!



 あ〜、危なかったぁ……。


 もしカン違いしたままだったら、余計なコト言っちゃうかも知れなかったよ……。



「実はね……鳴ちゃん。

 明確な証拠があるわけじゃなくて、まだまだカンに近いものなんだけど……。

 私としては、彼――赤宮くんが、クローリヒト本人である可能性も、決して低くないと見ているんだ」



「!――センパイ、が――?」



 安心して緩んでいたわたしの気持ちが、一気に引き締まる。



「まあ、あくまで可能性だよ。言ったように、明確な証拠があるわけでもないからね。

 ――でも、ほら……。

 この間の体育祭のときも、質草(しちぐさ)くんが事前に感じていた〈呪疫(ジュエキ)〉の気配が、後で黒井くんが確認にいくと、何者かに消されていたらしいし……」



「そ、その、〈呪疫〉の処理が、いつのことかは分かりませんけど……!

 昼休みから午後にかけてなら、センパイ、結構競技に出てましたし……一番時間のかかる最後のリレーにも……!

 それに、そうでなくてもクラスの人たちと一緒にいたみたいだから……センパイに、そんなヒマはなかったと思います……!」



 なんだか反射的に、少し早口になってまくし立ててしまうわたし。



 もしかしたら、すごい不審なんじゃないかって思ったけど……。


 西浦さんはあまり気にした風でもなく、苦笑混じりにうなずいていた。



「まあ、そうだよなあ……。

 そこで明確に怪しかったりしたら、とっくに鳴ちゃんが気付いてるか」



 つい……。


 つい、センパイがなにか、悪いことをしているみたいな――そんな風に疑われてるって感じがイヤで、かばうような言い方をしちゃったけど……。



 でも――でももし、西浦さんの言う通りなら。


 センパイが、クローリヒト本人なら――。



 そうじゃない方が良いって思いと、同じぐらいの強さで……。

 わたしは……。



 そうであってくれたら、とも思っていた。



 だって、もし、そうだったなら。


 わたしは、鈴守(すずもり)センパイよりも、ずっとセンパイの近くにいける――。




 ……鈴守センパイに、勝てる見込みもあるのに――って。












     *     *     *




「…………」


「…………」



 ――俺とシルキーベルは……何だかまだ、ビミョーな空気の中にいた。



 2人してこの場に取り残されてから、まだ1分と経ってない――ハズなんだけど、もう何分もこうしてる気がする。



 なんだろう……別に、もういっそのこと気にすることなく、さっさと引き上げちまえばいいのに、ヘンに名残惜しいような感じもするというか……うーん。



 クローリヒト変身セットの呪いで、体力ガリガリ減少中なんだけどなー。



「…………」


「…………」



「「 えっと 」」



 なんとなく、言葉を探して黙っていた俺たちは――。


 まあ間の悪いことに、何か言おうと口を開くのも同時だった。



「……っと! すまん、なんだ?」


「――あ、いえ! どうぞ、あなたから……」



 ――ついでに譲り合ってしまう俺たち。



 ……うんまあ、このままだとラチが明かないのは明白だったので……。


 俺は一つ咳払いして、男らしく(?)先陣を切ることにする。



「今日は、七夕で……星がキレイに見えて良かったな、と」



「…………」


「…………」



 ……あ、ヤベ。


 なんか、つい、思いっ切り気安いこと言っちまって――。



 また怒らせたかな、って後悔しかけたら。



「……そうですね。織姫も彦星も良く見えます。

 この天気なら……2人が逢えない、ってことはなさそう」



 思ったよりも穏やかな声で、シルキーベルは応えてくれた。



 それが、ちょっと予想外で……俺は、思わず少し言葉に詰まる。



「あ、ああ……まあ……せっかくの1年に一度の機会なんだしな。

 ――で、えっと、あ~……どれがそうだったっけ?」



「……分からないんですか? あっちですよ……あれ。

 一番明るいのが琴座のベガ、そう、織姫と……そこから、右下にずっと、結構大きく下がっていって……ベガほどじゃないけど、他よりは明るいのが、鷲座のアルタイル、彦星です」



 俺の間の抜けた質問に、シルキーベルは東よりの空を指差し、律儀に一つずつ教えてくれる。



「まったく……夏の大三角って、学校で習ったでしょう?」


「……星座とか覚えるの、苦手なんだよ。

 まあ、けど……ありがとな」



「……っていうか、こういう話は、その……。

 か、彼女さんとデートしてすればいいんじゃないですかっ?

 ――そういう人がいるなら、ですけど……っ!」



「……そうだな。それが出来れば一番だったけどな」



 俺は星空を見上げながら相づちを打つ。



 そう……それが出来たら、鈴守も――。


 きっと、さっきのシルキーベルみたいに、マヌケな俺に、星のことを優しく丁寧に教えてくれたんだろうなあ……。



「でも、それならお前も……彼氏と過ごしたかったんじゃないのか?」


「そ、それは……!

 だけど、状況が状況、ですし……」



 もごもごと答えるシルキーベル。



 つい勢いで言っちまったけど……彼氏のことは否定しないんだな。


 まあ、中学生ならいてもおかしくないか……。




 いや――って言うか。


 むしろなんかコレ、俺たちがデートしてるみたいじゃないか……?




 ……見た目が、黒ずくめの不審者と魔法少女っぽいコスプレだけど……。



 ――って、イヤイヤ!

 俺が、鈴守を差し置いて他の女子とデートとかありえん!


 ない! ないから!



「――ああ、そうだ!

 それでシルキーベル、お前の方は……なんて言おうとしたんだ? さっき」



「……ふぇっ!?」



 俺が話を振ると、なんかスゲえ素っ頓狂な声を上げて、ぴょん、とばかり跳ねるシルキーベル。


 そして――



「なな、なんでもないです!

 大したことじゃないです、もういいです!」



 妙に慌てた様子で、両手をぶんぶん横に振っていた。



 ……え、この子、まさか……。


 俺と同じこと言おうとしてた、とか……?



「あ! そそ、それじゃあ、そろそろわたしもこれで……!」


「ん、あ、ああ……」



 これ以上の追求を逃れようとでもするように……。


 くるんと勢いよくきびすを返し、ついに立ち去ろうとするシルキーベル。



 しかし……何歩も行かないうちに立ち止まり、肩越しにこちらを振り返った。



「クローリヒト……。

 以前も聞きましたけど……あなたに、考えを変えるつもりは……ないんですよね?」


「〈世壊呪(セカイジュ)〉のことか?」


「……はい」


「ああ……ないな。絶対にない。

 お前と同じく、俺にも――大切な、守るべきものがある。そういうことだ」




「……そう……ですよね。

 うん、なら……わたしも、改めて言っておきます。


 ――わたしが最終的に選ぶ、正しいと思う道は……やっぱり、〈世壊呪〉を滅ぼす道かも知れません。

 そして、そうなったらわたしは、覚悟を決めて〈世壊呪〉を犠牲に――」




「ならねーよ」



「…………え?」



 俺が、その発言に被せるように言い切ってやると、シルキーベルは目を丸くする。




「……ならない、って言った。

 もし、お前が〈世壊呪〉を滅ぼす道を選ぶとしても――。


 俺が、そうはさせない。決して。


 〈世壊呪〉は守り抜くし――お前みたいな人間の手を、汚させもしない。

 だから……誰も、犠牲になんてならない」




「………………。

 クローリヒト、あなたは――」



「……?」



「わたしの良く知る人に……似ている気がします。ちょっとだけ」


「……奇遇だな。俺もそう思うことがある。

 ――ちょっとだけ、な」



 少し弾んだ声のシルキーベルに、声で笑いかけてやると――。


 向こうもまた、口もとに小さく、微かな笑みを浮かべて。




 それじゃあ、と簡素な挨拶だけを残し……その場から、立ち去っていった。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] UMAの伝説、目撃情報が存在する以上。 強大な力を持った異世界人が作中世界に、アガシーやハイリアとは別の経緯でいた場合、そしてそいつが異世界生物の密猟を狙っていた場合、彼らのための世界…
[良い点] くぅーっ! イイ流れ! 敵同士というにはお互いを理解しあったっぽい感! 裕真くんもシルキーベルちゃんも、やっぱりそれぞれに勇者ですねぇ…… それにしても、キョドるベルちゃんかわいいです。
[良い点] うんうん…… 白城さん、裕真のことを冷静に見れなくなってますね。 最初は含みのある曲者なイメージだったのですが、気付けば乙女になっちゃいました。 でも、仮にクローリヒトが裕真だったとしても…
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