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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
11章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (前編)
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第129話 共闘後――三陣営会談とその行方



 ――場には、緊張を伴った妙な沈黙が降りていた。



 それもそのはず……。


 共通の敵である〈呪疫(ジュエキ)〉を殲滅した今、俺たちは三つ巴の状況に戻ったからだ。



 ……とはいえ、あれだけ大群の〈呪疫〉を相手にしたばかりで、それぞれ消耗しているからだろう――。


 互いに警戒しているものの、さすがに、今からさらにもう一戦――なんて空気じゃない。



 なので……良い機会だと、俺は改めて問いかけることにした。




「お前たち……〈世壊呪(セカイジュ)〉から手を引く気はないか?」




 〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉、そしてシルキーベルたち……。


 2つの陣営を見渡して、俺はさらに思いを述べる。




「〈世壊呪〉には、意思がある。心がある。

 そしてそれは、決して破壊的なものなんかじゃない。

 ごく普通の、日々を懸命に生きる人々となんら変わりのないものだ。


 それを、その宿してしまったチカラが危険だから、と滅ぼす――。

 あるいは、自分たちにとって必要だから、と犠牲にする――。


 ……本当に、それでいいのか?

 他の道を模索する気はないのか?」




「「 ……………… 」」



 俺の言葉に、両陣営の4人は、それぞれ考えをまとめているのか、しばらく押し黙っていたが……。


 やがて、ブラックが一番に口を開いた。




「あいにくだがオレは、見知らぬヤツのために目的を捨てるようなお人好しじゃねえ。

 ……そりゃあな、わざわざこうやって〈呪疫〉を処理して回ってるぐらいだ、関係ねえヤツを巻き込むなんざ真っ平ゴメンだし、犠牲を増やしたいわけでもねえ。


 だが、それが『必要』なら――。

 オレは、まずオレの守るべきヤツらのために、〈世壊呪〉を犠牲にするだろうよ」




 そうして、ブラックが視線を向けると……。


 サカン将軍も、うなずき返す。




「そもそもが、我らが欲するのは世界を滅ぼすという『チカラ』そのものだ。

 それは、仮に意思の疎通が出来、そして対話で平和的にチカラを分けてもらえたとて……その程度で足りるものではない。

 チカラとは、存在の根幹を成す――いわば命そのものこそが、最も強大だからだ。


 ……私とて、それを得る以外の方法はないかと考えてはみたがね……残念ながらどうしても、〈世壊呪〉が必要という結論に変わりはないのだよ。


 ――多くの命を守り、さらに、今後の無為な争いを避けるためにも」




「……まずその言い分が、どこまで信用出来るかわからないけどね」



 小さく首を振りながら口を挟んできたのは、能丸(のうまる)だ。



「別世界から迷い込んできた者たちを保護するための異空間を築く……だったっけ、アナタたちの目的。

 それがそもそも本当に平和的に利用されるものかも分からないし、だいたい、そのために〈世壊呪〉なんて危険なものを欲するところがまたアヤしいよね」



「あぁ? テメー、ケンカ売ってンのか……?」



 能丸の挑発的な発言に、ブラックが一歩踏み出すが……。


 即座に、将軍が手を伸ばしてそれを制する。



 続いて、能丸がその言葉の矛先を向けたのは俺だ。




「……それにクローリヒト。

 そもそもキミの言い分が正しいって証拠が何もない。

 〈救国魔導団〉が、〈世壊呪〉のチカラを利用して良からぬことを企んでいる可能性もあれば――キミだってそうかも知れないわけだ。


 そして、万が一、キミの言う通りだったとしても――〈世壊呪〉と話し合って和解するようなことが出来たとしても、だよ?


 世界を滅ぼすっていう、危険なチカラそのものが消えるわけじゃない。

 なにかのきっかけで、〈世壊呪〉自身の意思とは別に、そのチカラが暴走したりするかも知れない。


 それなら……やっぱり一番確実なのは、〈世壊呪〉を祓ってしまうことだ。

 ――そうだろ? シルキーベル」




「……わたしは……」



 能丸に話を振られたシルキーベルは、一度そこで続く言葉を呑み込んでから……改めて、意を決したように口を開く。



「能丸さんが言うように、そんなチカラを放ってはおけないと思ってます。

 わたしの……大切な人たちを、守るために。

 だけど――」



 シルキーベルは、俺の方に顔を向けた。



「クローリヒト、あなたの言うことにも共感しています。

 わたしも……出来るなら、無益な争いはしたくないし――犠牲が出ないなら、それに越したことはないから」



「……シルキーベル」




「だから、わたしは……見極めてみるつもりです。

 わたし自身の目で見て、心で感じて――そうして、本当に正しいと思える道を。選ぶべき道を。


 大切な人が……わたしならそれが出来ると、背中を押してくれたから」




「シルキーベルは優しいね。でも――」



 能丸が、俺に刀の切っ先を突きつけながら、間に割って入ってきた。



「それなら、クローリヒト。

 ここまで言ってくれるシルキーベルの信用を得るためにも、〈世壊呪〉でもキミ自身でも……正体を明かすべきじゃないか?

 それが出来ないのは、後ろ暗いところがあるから……じゃないの?」



「…………」



 正体――か。


 確かに、それを隠して信用しろと言うのも難しい話なのかも知れないが……。




《……早まるなよ勇者》




 どう答えたものかと考えていると――。


 近付いてきたハイリアが、アガシーがやるように、口には出さず思念で俺に忠告してくる。



《ことがお前や余だけの問題ならばまだしも、中心にいるのは亜里奈(ありな)だ。

 このまま亜里奈に〈世壊呪〉の秘密を明かさず、余計な気負いもさせることなく、守り抜くには――》



(……分かってる)



 俺が小さくうなずくと、ハイリアも満足げにうなずき返し――。

 半歩、俺の前に進み出た。



 そして……フン、と能丸に向かって鼻を鳴らす。



「――片腹痛いな、能丸。

 滅ぼすと言い切り、刃を向けられて……わざわざ身を晒すバカがどこにいる?

 信用うんぬんといった話を出すのなら、まずはそれを納めよ。

 そして――正義と信を問うなら、まずは己がそれを示せ」



「そんな邪悪な力をまとって、信を示せないような相手に、自分をさらすバカもいない――。

 そう答えておくよ」



 ハイリアに真っ向から反論しながらも、能丸は素直に刀を納めた。


 そして――



「……これ以上は時間のムダだね。

 ――シルキーベル、キミのその優しさ……くれぐれも、利用されないように気を付けた方がいいと思うよ」



「……能丸さん……」



 くるりと背を向けると、そのまま、闇の中へと立ち去っていく。


 さらに――



「……つまり、結局は……。

 やはり我らの主張は互いに平行線、というわけだ――残念ながら」



「ふん、オレはハナからこうなると思ってたぜ、クローリヒト。

 ――喉を食い破られたくなけりゃ、次までに〈世壊呪〉を差し出す準備をしとくんだな」



 続けて、〈救国魔導団〉の2人も――。


 話し合いの余地はないことを念押しした上で、将軍の転移魔法によって姿を消した。




「………………」




 ……やっぱり……訴えかけるだけじゃ無理があるか。


 なにか、具体的な手段を講じたりしないことには、説得も――。




 将軍たちが消えた後を見つめながら……。


 小さくタメ息混じりにそんなことを考えていると。



 なにか、焦った感じのする思念が2人分、いきなり俺の頭に飛び込んできた。



《――ところで勇者。余は、ばば殿に頼まれた手伝いがあってな……。

 もういい時間だ、先に戻るぞ》


《むおっ!? そう言えば、わたしもママさんのお手伝いをしなければです!

 おこづかいのためにも、遅れるわけには〜っ!》



(……え? あ、おい――っ!?)



 そうして……呼び止める間もなく、さっさと――。



 ハイリアは、大きく後方に跳んで、そのまま夜の闇に紛れ……。


 アガシーも、勝手に聖剣をアイテム袋に戻し、本来の身体へ帰ってしまった。




「………………マジか」




 ま、まあ、今日は七夕で、〈(あま)()〉もいつもより忙しいからな!


 手伝いを亜里奈一人に押し付けるわけにもいかないし、急ぐのも分かる。



 分かるけど……。



 それを言うなら、実の長男の俺こそ、さっさと帰って手伝わなきゃいけないんじゃないか?


 なのに――。




「…………」


「…………」




 ……立て続けにみんなして帰りやがるから。


 最後の2人になった俺とシルキーベルは、ふとお互い向き合って……。



 そして多分、向こうもだと思うが……。




「…………」


「…………」




 タイミングを逸した、とでも言えばいいのか。


 なんとなーく……「それじゃあ」と気軽に別れづらい――。




 実にビミョーな空気の中に、取り残されてしまったのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] う~~ん、仮面の中に隠すもん隠してる状態で歩み寄れってのがそもそも不可能よなぁ。拳骨同士で握手はできないとはガンジーさんの言葉だったか。まさにそれに近いぜ。 というかねぇサカンさん。 世界…
[良い点] もうちょっと歩み寄ってくれてもいいじゃーん、と思いつつも、それぞれに言い分があるのもわかります……。 双方に双方の正義があるのがしっかりわかるのがいいですね。読者としては亜里奈ちゃんにどう…
[良い点] 各々の正義を語るシリアスな回でしたが、その緊張感からコメディに持っていく落差の使い方が上手いですね! めちゃくちゃ笑ったわけではないですが、心地よい面白さがあります。 上手く言えませんけ…
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