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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
11章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (前編)
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第127話 七夕〈呪疫〉殲滅共闘戦! ~その1~



 ――広隅(ひろすみ)市を貫く一級河川、柚景川(ゆけがわ)の河川敷にて。



 雲一つ無い、晴れ渡った星空の下――。



 俺たち、シルキーベル、そして〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉……〈世壊呪(セカイジュ)〉を巡って争う三者は。


 こればかりは共通の敵であるらしい〈呪疫(ジュエキ)〉の大群を前に――互いに期せずして、肩を並べる形になっていた。




「……まったく、無粋だよなあ……」



 思わず、俺の口からはそんな不満がこぼれる。



 ――なにせ今日は7月7日。


 ばっちり七夕当日の、日曜の夜である。



 まあ別に、鈴守(すずもり)とデートの約束をしてたとか、そういうわけじゃないけど……。


 なにもこんな日に、しかもこんな大発生しなくても――とか、やっぱり思ってしまう。



「……エクサリオとやらはいないようだな」



 俺と背中合わせに、漆黒のローブに仮面という〈クローナハト〉としての装いで立つハイリアが、さっと周囲を見渡して小声で告げた。



 〈救国魔導団〉は、サカン将軍とブラック無糖……もとい無刀。


 そしてシルキーベルの仲間は、あのカネヒラって武者ロボ使い魔の他は、いつものように能丸(のうまる)一人。



 ……確かに、この場にあの黄金勇者はいない。



 まあ、もしいれば、わざわざ確認するまでもなく、すぐにそれと気付くだろう……たとえ面識なんてなくても。


 金ピカ具合はもちろんだが……威圧感がケタ違いだからな。




「で……それはともかくハイリア、お前、戦えるのか?」



 俺も小声で質問を返す。



 ――どうもハイリアは、本人によると、〈人造生命(ホムンクルス)〉による身体に移ったばかりのため、魔力が予想以上に落ち込んでいるようなのだ。


 〈人造生命〉の身体が、言うなればハイリアの魔力に『慣れていない』とのこと。



 それは、そもそも高い魔力を持つ亜里奈(ありな)の身体にいた頃の方が、はるかに強い力を振るえた――ってぐらいらしい。




「ふむ――はっきり言って、今はまだ上位の魔法はまずムリだな。

 中位ですら、複数同時展開は難しいだろう。

 つまり、圧倒的な力による蹂躙は不可能――というわけだ。


 だがまあ……だからこそ、前回仕掛けたハッタリが活きるというもの。


 ――立ち回りで強者を演出すれば、勝手に周りが勘違いして、必要以上に警戒してくれるであろうよ。

 〈呪疫〉が相手では、そこはあまり関係もないやも知れぬが……要は戦い方一つ。


 ……案ずるな勇者、キサマの足を引っ張るような真似はせぬとも」




 ハッタリって……ああ、アレか、初めて〈クローナハト〉を名乗ったときの……。


 確かにあのとき、ハデに魔力は使わず、そのくせスゲー実力者っぽく振る舞ってたな。



 しかし、それはともかく、相当な実力低下(レベルダウン)は事実なハズだけど……。


 ハイリアは気にした風もなく、余裕の笑みすら口元に浮かべていた。



 一瞬、もう強者な演技をしているのかと思ったら……どうも本気で笑っているようだ。



「……なんか楽しそうだなオイ……。

 でも、そういう事情なら――身体が適応するまで、ムリに戦いに出たりしないで、引っ込んでた方が良かったんじゃないのか?」



「――いや、逆だ。

 なればこそ戦場に出た方が、この身体がより早く余の力に『慣れて』くれる。

 ……もっとも……。

 最終的にそうして、余の力が本来の状態まで戻るのかと言えば――否、だろうが」



「…………」



 まあ、『本当の身体』は喪われたわけだしな……。


 いわば仮初めの身体じゃ、どうしたって限度があるってことか……。



 ――なんとなく、かける言葉を見失う俺。



 するとハイリアのヤツは……。


 そんな俺の態度がいかにもバカらしいとばかり、せせら笑った。




「――なにをつまらぬことを気にしている?

 そもそも勇者、キサマも余も……願いは、こちらの世界で『チカラ』を振るうことではないハズだ。

 ゆえに、本来の力が取り戻せぬとて、それはほんの些末事……そうであろう?」



 ――――そうだった。



 今は確かに、〈世壊呪〉を――亜里奈を守るために、ある程度のチカラが必要ではある。



 けど逆に言えば、その必要以上のチカラがあったからと言って、それだけでこの状況をどうにか出来るってものでもない。



 そして――。



 本当に大事なものが、単なるチカラじゃないってことは……。


 誰より、俺とハイリアだからこそ、身に染みて分かっていることだもんな。



「…………だな」



 俺も、ふふんと笑い返してやると――。


 背中合わせのまま、ハイリアと拳の背を軽く打ち合わせた。





 ――そうこうしている間にも、川から湧き出すように、〈呪疫〉がどんどんと数を増して迫ってくる。



 俺たちも含めた3陣営は、それぞれの動向を警戒するように注意を払いつつ――。




 誰からともなく、雄叫びを上げ――。



 群がる〈呪疫〉を相手に、戦いの火蓋を切った!











「……しっかし……今日はまたしつこいっつーか……!」



 ――正確に数えていたわけじゃないけど、おそらく20体近くを斬り伏せたところで……俺は思わずぼやいてしまう。


 俺が20体なら、その間に他の面々が倒した分も含めれば、間違いなく50を超えていることだろう。



 ……だけど、今日の〈呪疫〉は減る気配を見せない。



 バケツの底が抜けたよう……とは言うが、まさにそんなレベルで、次から次へと川から――もう川の水がそのまま打ち寄せるかのような勢いで湧いてくる。



 しかも――だ。


 そのほとんどが、これまでと変わり映えしない、いかにもな〈呪疫〉なんだが――。



《――勇者様、左後方!》


(分かってる――!)



 頭に響くアガシーの声――その示す方を振り向きざま、聖剣を薙ぎ払う。


 普通なら、それで充分一刀両断出来るはずが――。



 そちらにいた、どこか赤みがかって見える〈呪疫〉は……。


 剣のように鋭く変化した腕で俺の一撃を受け流し、さらに勢いを殺すためか飛び退いてみせる。




 ……そう。


 今回は、群れの中にときどき、こうした明らかに強力な個体が混じってるんだ……!




 見た目も、いかにも〈澱み〉の具現化といった感じの不定形をしている基本型に比べて……ソイツらは、きちんと四肢がある、極めて人間に近い姿をしていた。




(……どう思う? アガシー)



《……そうですね……人間の魂を取り込んだとか、そんな感じはしません。

 それに、明確に知性があるわけでもないようです。

 そういう意味では、なるほど〈呪疫〉なんですけど……》



 アガシーの推察を聞きながら俺は、目の前の強い〈呪疫〉が振り下ろす、剣のような腕を打ち払い、ガラ空きの土手っ腹に蹴りを入れて吹き飛ばし――。


 そのスキに、ちょうど逆方向から、2体ほどを長杖で貫きながら突進してきたシルキーベル……その背後を狙っていたヤツらを、まとめて斬り捨ててやる。



 ありがとうございます、と小さく俺に礼を言いながら……。


 シルキーベルはシルキーベルで、改めて、俺の背後をカバーするような位置に陣取ってくれた。



 さらに、ハイリアが、そして能丸が……。


 邪魔をする〈呪疫〉を蹴散らしながら、互いのパートナーの横手の死角を消すように回り込む。




(しかし、この赤っぽいヤツの動き……。

 人間の、それもかなり熟練の剣士を相手にしてるみたいだぞ……?)



 体勢を整えて斬りかかってくる赤っぽい〈呪疫〉の一撃をいなし、返す刃で一気に斬り捨てようとするも――。


 向こうもそれを承知していたと言わんばかりに、ギリギリで身を翻して退がり、致命傷を避ける。


 ……いかにも『らしくない』動きだ。



《……今の動き……さっきも……?》




「――諸君! これより私の前方、扇型を広範囲魔法で一気に殲滅する!

 ケガをしたくなければ、影響範囲に入ってくるなよ!」




 アガシーのつぶやきに、どういうことかと問い直そうとしたその瞬間――。



 戦場に、サカン将軍のシブくてイイ声が響き渡った。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔力のストック的なアイテムがあればねぇ。 アリナ時代に大量にそれ使って大量生産して一時的にパワーアップとかできたかもしれんのにねぇ。 [一言] まさかの共闘!! まさかの広範囲攻撃!!…
[良い点] 平和な日常パートから、いきなり共同戦線という燃える展開に移行するのは、変身ヒーローモノならではって感じですね! そして、臨場感っていうんですか?  乱戦の雰囲気が上手く表現されていている…
[良い点] >「――なにをつまらぬことを気にしている? > そもそも勇者、キサマも余も……願いは、こちらの世界で『チカラ』を振るうことではないハズだ。 > ゆえに、本来の力が取り戻せぬとて、それはほん…
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