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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
10章 それならもう、魔王と呼ぶしかない
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第121話 絹と白の小中少女恋愛談義



 ――ぱちゃん、と。


 一度、お湯をすくって顔に叩き付ける。



 そして、湯気の立ち上る先を見送るように天井を仰いで、タメ息を一つ。


 そのまま……絹漉(きぬごし)センパイに聞き返す。




「……そんなにミエミエでした? わたし」



「いんや、そこまでじゃないよ。

 ……でもまあ、ホレ、アタシにゃ、超地獄耳の相棒がついてっからさー」



「あ〜……沢口(さわぐち)センパイかあ……」



 国家機密すら握ってるとかウワサされる、『モブこそ至福』が座右の銘の、堅隅(かたすみ)高校一の情報通……沢口唄音(うたね)センパイ。


 特に、こと恋バナについては、全学年を通じて逃れる方法は皆無だとかいう……。




「――ま、それだけじゃないけどさー」


「…………?」



 ぽつんと呟いたセンパイの一言が、他と調子が違う感じがして……。


 わたしは思わず、目を向けていた。



「……単純にさ、分かるんだよ――同じだからね」



 わたしと視線を交わして、ニッと苦笑するセンパイ。

 裸眼だからぼやけてるけど……多分。




 ――って、ちょっと待った……!



 同じ……ってのは、え、つまり……そういうこと!?




「あ〜……いや、『同じだった』かな。アタシの場合」



「え、じゃ、じゃあ、絹漉センパイも――」



「うん――わりと好きだったんだよ、赤みゃんのこと」



 さらりと――。


 本当になんでもないことみたいに、センパイは言ってのけた。



「だからまあ……後輩ちゃんのこともなんとなく、ね。

 ほれ、こんなナリだが一応アタシも女だから、女のカンってやつかなー」



「告白、とかは……」




「うんにゃ。そこまでいってない。

 その前に……だね。赤みゃんがおスズちゃんに告白しちまった。


 ――ああ、でも、未練があるとかじゃないんだよ。

 こりゃしょうがないや……って、そんな感じだったからね。


 幸いにして……と言うか、本気でホレ込んじゃう前だったし――あきらめたよ、スッパリと」




 センパイは、さっきわたしがしたように、天井を仰いで語ってくれる。



「――だって、アタシゃおスズちゃんだって大好きだし……。

 どうしようもないぐらいお似合いだな、って……認めちまったからね」



「それじゃ……センパイは、わたしを、その……。

 止める、っていうか……あきらめさせる、っていうか……」



 思わず反射的に……身構えるというか、身をすくめる。



 いや、このセンパイに物理的に攻撃されたところで、ダメージになるはずもないんだけど……。


 なんて言うか、つい、反射的に――そうしてしまった。



「アタシにとっちゃ、おスズちゃんも赤みゃんも、どっちも大事な友達だ。

 そう…………だから。

 だから、後輩ちゃんのやり口によっちゃ、そうしたかもねー」



 言って、センパイは手を組んで水鉄砲を作り、びゅっと水を撃ち出した。


 ……つもりだったんだろうけど、組み方がヘタなのか、暴発してモロに自分の顔にかかっていた。



「――ぶみゃっ!

 ま、まあ……だけど? アタシも人を見る目には自信があってさ。

 後輩ちゃんは、おスズちゃんを貶めたり、陥れたりするようなゲスいマネはしないだろうから……。

 うん、なんて言うか…………いいか、って」



「い、いいか、って……!

 わたしが自分で言うのも何ですけど、わたし、センパイの友達の彼氏を好き――なんですよ? それを……」



 わたしが……ホント、自分で言うことじゃないとか思いつつそんな風に言い募ると――。


 センパイは、なんだか楽しそうに笑った。



「ほらほら、そーゆートコだよ、後輩ちゃん!

 ――お前さんは、律儀で真っ直ぐだ。

 だから、ヘタに止めないことにしたんだよ。

 だってさ――」


「…………」


「止められたからって、止まるモンでもない――。

 そーゆーモンだろ? アタシはそこまでいかなかったけど……。

 ――乙女のコイゴコロってのは、さ?」



 ……颯爽と、カッコイイ――あるいは恥ずかしい台詞を、センパイはニシシ、と白い歯を見せて笑いながら言う。



「赤みゃんを振り向かせようと、正々堂々、オンナ磨いて勝負するっていうなら……。

 止めるのはむしろ野暮かな、って。

 ……まあ、味方もしないけどね」



「……絹漉センパイ……」



 ――あ〜……。


 なんて言うか、この人が、こんな見た目なのにリーダーシップがスゴいの、分かった気がする……。



「じゃあ、センパイ……一つ、聞いていいですか?」



「質問によりけり、だな」



「わたしに……勝ち目って、あると思います?」



 わたしが、チラリとセンパイを見ると……。


 センパイもまた、チラリとこちらを見返していた。



「こりゃまた……答えにくい質問だにゃあ……」



「……でしょうね」



「ん…………ま、自分で分かってるってことか。

 ……そうだね、どうしようもないほど限りなく、ゼロに近い――か」



「でしょうねー……」



 ……改めて、第三者の口からハッキリと言われたからか。


 わたしは、なんだか却って清々しいような気分で……浴槽の縁にもたれかかる。



 ――うん……分かってる。

 分かってるんだよね、そもそも、初めからほぼ負け戦だってことは。



 でも…………。



「……アタシが言うのもなんだけどさ……」


「…………?」


「ホンっト、厄介な相手にホレたモンだね、お互いに」


「……そう――。

 そう、ですよね……ホント」



「ああ。……なんせあの鈍感ヤロー、ただの堅物どころか、オリハルコン級にカっっっっタぁぁ~い信念の持ち主だ。

 アイドルやモデルやらはもちろん、それこそサキュバスみたいな人外の誘惑だって、おスズちゃんのためと思えば、ガチではね除けちまいそうなヤツだ。

 でも――」



 ゆらゆらと立ち上る湯気を追いかけるように、ゆったり視線を上げるセンパイ。



「それこそが、赤宮(あかみや)裕真(ゆうま)ってオトコだ。

 で、だからこそ――」


「……ホレちゃうんですよ。困ったことに」


「だなあ……困ったことに」



 わたしたちは、なんとなく可笑しくなって――。


 顔を見合わせて、笑い合った。



「――センパイ」


「おう」


「わたし……あきらめませんから。

 どんなに勝ち目が無くっても……ゼロじゃないなら」



「……ああ。この絹漉あかねに二言はない。

 明確におスズちゃんの邪魔をするようなことさえなきゃ……何も言わないよ。

 まあ、もちろん……。

 早いトコ納得してあきらめてくれるのが、一番なんだけどさ」



「でも、センパイ……。

 わたしって障害が入ることで、二人の仲が進展するかも……とか、考えてるでしょ?」



「………………」


「………………」



「……鋭いな、後輩ちゃん」



 はっきり見えないけど、多分、イタズラっ子な顔をしてるセンパイに……。


 わたしは、にこやかに笑いかけてあげる。



「……じゃ、ある意味噛ませ犬みたいな役回りのわたしを憐れんで、フルーツ牛乳おごってくれますか?」


「むぅ……仕方あるまい」


「2本」


「むむう……是非もなし」


「じゃ、3本」


「ええ〜……? どんだけ好きなんだよ……」


「じゃ、もう一声!」


「――やめとけって! ヤケフルーツ牛乳とかやめとけって!

 アタシ体育祭の打ち上げで5本いってエラいことになったんだから!

 お腹、たっぷたぷのコロっコロだぞ!?」



 お湯をばちゃばちゃ叩いて訴えるセンパイに、わたしは――。



「じゃ、やっぱり2本! センパイとわたしで!

 同じ厄介なヤローにホレちゃった者同士、乾杯しましょう!」



 カッコ良く、ビッと指を2本立てて見せる――つもりが。



 なんせ距離感が掴めないんで……。


 センパイのほっぺを突っついてしまっていた。



「こ、こりゃ、にゃにを……!」


「! ぷ、ぷにぷに!……子供ほっぺ……ッ!」



 だ、ダメだ……コレやっぱり気持ち良い……!

 と、止まらない……。



「にゃにゃにゃ…………って、ぅおいコラ! 誰が子供ほっぺだ!

 テメー、恍惚としやがって……ケンカ売ってんのか!

 こっちも揉んでやるぞ! うがー!」





 ……結果、わたしは――。


 センパイの反撃は、片手で頭を押さえて無効化し――ぷにぷにほっぺを存分に堪能したものの。




 フルーツ牛乳については、素直に自腹を切ることになったのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] こういう、友情というか腹の探り合いってのもええですなぁ( ´∀` ) さらには青春系のしんみりした感じもするとかお得なセットだと思うのです( ´∀` )(ォィ フルーツ牛乳……3杯以上は…
[良い点] >オリハルコン級に固い信念の持ち主 この表現刺さりました! 1番好きな部分を述べよ、っていうと、ここなのね! ほっぺプニプニはクセになりますよね。
[良い点] おんなじ男すきになって泥沼にならない女の友情ってのは、男が人格者で、女がそこに惚れてる場合のみだとおもうんですよね 相手に似た人間になりたいっていうのは好いた惚れたの特徴ですし なので裕…
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