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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
10章 それならもう、魔王と呼ぶしかない
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第116話 さりげなく充実した魔王の一日



 ――余が寝起きするために間借りしているのは、勇者の母方の祖父母の住居……(はなぶさ)家の一室だ。



 勇者たちの赤宮(あかみや)家に比べれば、さすがに年数を経た日本式家屋で、決して広くはないのだが……。



 しかし、余は大変気に入っている。


 ベッドではなく、畳の上に敷いた布団で眠る――というのも、実に新鮮で良い。



 ちなみに、ばば殿とじじ殿は、余は身体が大きいからと、わざわざ広めの部屋をあてがってくれていた。



 押しかけ同然にやってきた余を邪険にすることもなく、当然のように――だ。

 それがまた、ありがたく気持ちの良いことだった。



 無論、余は恩知らずではないし、年長者への敬意はわきまえているつもりだ。



 ……なので、ばば殿とじじ殿には、もし余で手伝えるようなことがあれば、いつでも何なりと申しつけてほしいと頼んでおいた。


 いや、実際には、もっと自主的に手を貸そうともしたのだが……。



「……あなたのその気持ちはとても嬉しいわ、ハイリア。

 だけど、歳を取ったからこそ、出来ることは自分でやらないとますます老いてしまうのよ。

 だから、本当に必要なときだけお願いするわね」



 ……と、ばば殿に、なるほどと納得してしまうことを言われたのである。






 ――さておき……。


 朝の準備を済ませ、高校の制服に着替えた余は、その足でまずはすぐそこの赤宮家に向かう。



 平日の朝食、そして夕食は、なるべく若者で一緒の方がいいだろう――という、これもばば殿とじじ殿の気遣いだ。



「ああ、おはようハイリア。今日も早いね」



 玄関口で、ちょうど出勤する養父上(ちちうえ)と会うのも、この数日で見慣れた景色だ。



「おはよう、養父上。

 ……なに、これから仕事の貴方や、食事を用意してくれる養母上(ははうえ)亜里奈(ありな)に比べれば、まったく大したことではない」



 養父上と挨拶を交わし、そのままリビングへ。




 ……そう言えば……。


 養父上と養母上を初めてそう呼んだとき、なぜか勇者と聖霊の方が噛み付いてきたな。



 ――まだ早い! 認めてない!……みたいなことを言って、だ。



「……だが、二人とも、今の余の養父母であることは間違いないのだぞ?

 それに、まず妹の方が『パパさん、ママさん』などと呼んでいるではないか?」



 そう反論してやると、二人して頭を抱えて悶絶していたが。



 ――で、亜里奈はそんな二人を見て「なにやってるんだか……」とタメ息をついていたな。




 面白そうなので、いっそ勇者を『義兄上(あにうえ)』などと呼んでやろうかとも思ったが……。


 さすがにそれは面倒なことになりそうなのでやめた――というのは、秘密だ。





 ――リビングに入ると、その日キッチンに立っていたのは亜里奈だった。



「……あ、おはようございます、ハイリアさん!」


「ああ、おはよう亜里奈。

 ――しかし本当に大したものだな、お前は。

 朝食に弁当の準備と……大変だろう?」


「そうでもないですよ?

 たまに早起きすると気持ち良いし、朝ご飯もお弁当も、料理って言うほど大したことでもないし……別に嫌いじゃないですし」



 小学校の制服(堅隅(かたすみ)高校のそれの色違いという感じだ)にエプロン姿の亜里奈は、そう答えて、テーブルについた余の前に、チェック柄の包みを置く。



「その……可愛い柄の包みでごめんなさい。

 今度またママとお買い物に行ったとき、もうちょっと大きめで似合うやつ買ってきますね」


「……これは……?」


「もちろん、ハイリアさんの分のお弁当です。

 この数日は学食でお願いしてましたけど、いくら安いって言ってもやっぱりもったいないですから、お金」


「……いいのか? 余の分まで」


「2つも3つも同じですから。

 ……あ、持っていくの忘れちゃダメですよ?」



「すまないな……では、ありがたく。

 ――それと、そこ! ドアの陰で様子を窺っているキサマら!」



 余が、ドアの方へ声と視線を飛ばすと……。


 おずおずと、勇者と聖霊が顔を覗かせた。



「他者の目があろうがなかろうが、余は亜里奈に何もせぬと言うに……まったく。

 ――ともかく、せっかく亜里奈が用意してくれた朝食だ、ばば殿が勧めてくれたように、皆で揃っていただくぞ! さっさと席につけ!」






 ――朝食を終えた後は、養母上(この日は〈(あま)()〉の方にいた)に挨拶し、小学校へ向かう亜里奈や聖霊と別れ……勇者とともに高校へ。



 駅へと向かう途中の商店街では、早くも余の顔は住民に覚えられてしまったらしく……あちらこちらから愛想良くかけられる声に、都度、挨拶を返していく。



 こうした対応は、まあ……一応『王』だったわけだからな。


 自分で言うのも何だが、慣れたものだ。





 ――電車に乗り、最寄りの堅隅駅に降り立てば、そこから学校までの通学路で当然のごとく、上級生下級生他クラスを含めた、多くの生徒と会う。



 もちろん、そのほとんどが面識の無い相手だが……挨拶をしてくる者もしない者も、我らが、ウワサの『2-Aの勇者と魔王』であることは承知しているようだ。



「……しっかし、まさか揃って、こっちでも勇者に魔王とはなあ……」


「構うまい。互いに慣れているのだから、逆に気負わずに済む」


「まあ、そうなんだけどさ……」



「しかし、この光景をアルタメアの者どもが見れば……なかなか愉快な反応をしそうではないか?」



 余が喉の奥で笑いながらそう言うと、勇者も合わせて相好を崩した。



「ははっ、まぁなあ。

 俺の仲間だったヤツらはともかく、頭のおカタい国のお偉いさんとかは絶句しそうだよなー。

 ……でも、出来れば……。

 向こうも同じく、人とか魔とか関係ない――こういう光景こそが、当たり前になっててほしいもんだよ」



「――もっともだ」





 ――2-Aの教室に着けば、今度はまた級友から歓迎を受ける。



 さすがに、数日経って『転入生』に対する熱はやや冷めた感じだが、もともとが気さくな連中であるらしく、やたらと友好的だ。


 魔王という呼び名自体は慣れているものの、込められている感情が畏怖などでなく、むしろ親愛となると、これまたなかなかに新鮮で面白い。



「……おーっす、赤みゃん、リャおー!」



 中でも特に元気に声をかけてくるのは、特に小さい女生徒――おキヌだ。



 その体躯に見合わず、彼女の統率力・影響力は相当なものだ――というか、気付けば余が級友をどう呼ぶかも、彼女に影響された節があるしな……。



 そもそも、余を〈リャおー〉などと呼んだのは、古今東西、さらに世界を隔てて後にも先にも彼女一人だろう。



 ……ちなみに、由来を聞けば……。


 ハイリアのリアと、魔王の王を組み合わせ……そのままだとまんま『リア王』になるので、より呼びやすく崩した、とのこと。



 まったく、大した度胸だ。

 アルタメアで余の補佐を務めた魔将軍などが聞いたら、卒倒しかねんだろう。


 ……実に愉快だ。




 その後、穏やかな笑顔とともに挨拶してきた鈴守(すずもり)千紗(ちさ)――おスズに、勇者を押し付けて。


 余は余で、イタダキやら(まもる)といった男子どもと談笑する。



 イタダキも衛も、さすがあの勇者が友として(イタダキについては互いに全力で否定するだろうが)認めているだけあって、面白い人間だ。





 ――それから、授業。



 別世界の学問というのは、それだけで興味深く、楽しいものだ。


 もっとも……まだ高校生というレベルだからか、教材を一読すれば理解出来ることを、改めて事細かに繰り返す程度なので、やや退屈な面もあることは否定しない。



 しかし、運動の授業もあるというのはまた面白い。



 ちなみに、今日はプールで水泳であった。


 季節が夏に近付いているらしく、ちょうど暑くもなってきていたので、なかなかに心地好く、良い時間だったが……。


 ちょうど勇者と競走する形になり、興が乗ったので少し力を出したら、後で水泳部とやらに勧誘を受けるハメになった。



 ――やはり、あまり調子に乗るものではないな。


 悪目立ちせぬようにも、ほどほどが良いようだ。



 それから、プール外に、観客のように多くの女子生徒が集まっていたのだが……水泳の授業とはそういうものなのかと聞くと、



「「「 ……いや、そりゃお前のせいだろ! 」」」



 などと、皆に揃って返された。


 ――ふむ……やはりまだ、余が珍しいということであろうか。





 ――その後、亜里奈の弁当に舌鼓を打つ昼を挟み……午後の授業も終え、放課後。



 部活動やらバイトがあるやらで、早々に席を立つ級友に、挨拶を送りつつ、勇者とともに帰り支度をしていると……。



 そろそろ毎度馴染みというか、イタダキと衛が近付いてきた。



「……そう言やハイリア、お前こんな時期に転校してきて、テスト大丈夫なわけ?」



 そんな質問をしてきたのはイタダキだ。


 ふむ……そう言えば、あと一週間ほどで試験期間とやらに入るのだったな。



「うん、大変じゃない?

 フランスとは色々と違うだろうしさ」



「ふむ……確かに、こちらのテストというのは初めてだが……。

 要は、授業の内容を理解出来ているか、確かめるだけであろう?

 ――ならば、問題ないな。

 そもそも、テスト範囲も何も、教科書とやらの中身は一読してすべて頭に入っている」



「「「 え 」」」



 余の言葉に、イタダキと衛は絶句している。



 いや……よくよく見れば勇者もだな。


 なぜキサマまで驚くのだ……余を阿呆だとでも思っていたのか?



「すべて頭に、って……マジ? 一回読んで?」


「む? 教科書とは、そういうものではないのか?」



「――うぉい!

 超絶美形で運動も出来るくせに、さらに当たり前のように天才ってなんだ!

 もはやバグだろコレ!!」



「なんだイタダキ、小さいことを……。

 キサマは、頂点に立つ男――なのだろう? ん?」



「うぐあぁっ!?

 やめろハイリア、お前に言われるとなんかすげーイタいッ!!」



「うーわー……ハイリアってば、残酷だねー……」


「魔王だからな」



 残酷などと言いつつ、悶絶するイタダキを見て笑っているお前もなかなかだがな、衛。



「……おう、そうだ!」



 悶絶していたと思ったら、あっという間に復活するイタダキ。


 ……驚くべき再生速度だな。スライムか。



「衛の家で、鍋パーティーやろうって話があったろ?

 一緒に、ハイリアの歓迎会と勉強会もやっちまおうぜ!」



「……その発想自体がすでに闇鍋だけどな……。

 ――ってか、そんなモン、ゼッタイ勉強会になるハズないだろ!」



「僕はいいけどね。楽しそうだし!

 それに、一日ぐらい勉強しなくても、まあ大丈夫だし」



「余も衛に同じく、だ。

 が……余が参加しても構わぬのか?」



 余が改めて尋ねると、他の3人は……。


 何を言ってるのか、とばかりに顔を見合わせる。



「……ったく、魔王サマってのは、さすがにズレてやがんなー。

 言ったろ、お前の歓迎会もまとめて、つって!

 お前が来なきゃ意味ねーだろーがよ!」





 ――などと、強引ながら、なかなかに面白そうな約束を交わし、帰宅。



 働かざる者食うべからずの言に従い、〈天の湯〉の仕事を手伝って(今日は勇者とともに浴場の掃除をした)のち、夕食。



 ばば殿からは、食事は赤宮家の方で皆で摂るよう言われているが……今日はじじ殿ばば殿と食卓を囲ませてもらうことにする。


 ときにはゆったりと静かに、人生の先達と夕食をともにするのも良いだろう。



 その旨を正直に述べると、



「ハイリア、あなたは面白い子ねえ……」



 ――と、困ったように笑いながら……しかしばば殿はしっかり、余の分の夕食も用意してくれた。



 恐らく、純和風――という表現がぴったりな食事を、ときにマナーについてばば殿にお叱りを受けつつ、頂戴する。





 ――その後は、改めて赤宮家の方で、勇者や亜里奈も交えてゲームなどして遊んだり、聖霊のヤツがどうしても見たいと駄々をこねる戦争映画に、揃って付き合ってやったり……。



 そんなこんなで夜も更けたところで、風呂で身を清め、英家の自室に戻る。



 そうして、ばば殿が日中に干してくれていたらしい、心地好い布団を自分で敷き直し、潜り込んで……。





 今日もまた余は、充実した一日を終えるのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] >こっちでも勇者に魔王とはなあ いずれ勇者が魔王っぽいこと、魔王が勇者っぽいことして逆の渾名を付けられたりしたら面白い(ォィ こっちの世界の生活。 魔王にはこんな風に映るんですねぇ( ´∀…
[一言] 魔王様の日常ってこんななんですね (*´▽`*)/~♪ 温かみがあって素敵です。ご飯はどんなのを食べてるんですかね? やっぱり絹ごし豆腐かな? (。´・ω・)?
[良い点] 魔王さましあわせそうでよかったです(小並感) [気になる点] >「衛の家で鍋パーティーやろうって話があったろ?  一緒に、ハイリアの歓迎会と勉強会もやっちまおうぜ!」 わたしもいきたい…
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