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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
10章 それならもう、魔王と呼ぶしかない
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第114話 全然似てないのに、でも似てる



 ――そして、時間は再び水曜日の朝……。






「あ、おはよ〜、亜里奈(ありな)ちゃん」


「うん、おはよ」



 先に教室にいた見晴(みはる)ちゃんとあいさつを交わして、あたしは席に着く。



 いっしょに登校したアガシーはと言うと、教室前で男子たちの一団と遭遇するや、そのままレトロゲームの攻略法について話し込んでいた。



 今じゃ、あの子のゲームの腕前は男子の間で有名だからなー……。


 いずれは、軍曹じゃなくて名人とか呼ばれたりして。



 そうして……。



 廊下から聞こえてくるその会話の中に、『魔王』って単語を聞きつけたあたしは。


 それが指してるのが、まったく別のことだって分かってはいても。





 ――さすがに……昨日のことを思い出さずには、いられなかった。









「えー……っと……」




『余は、亜里奈――お前に、心を奪われたのだ』




 魔王――ハイリアさんから、多分、告白だと思うそんなセリフを告げられたあたしは……お兄とアガシーを交互に見やった。



「……で、コレなんの罰ゲーム?」



「「 ! そ、そう、これ罰ゲー……! 」」


「――ではないな」



 お兄とアガシーが高速で首を縦に振るも、キッパリと当のハイリアさんが否定する。



「……冗談でもない?」


「冗談でもないな」


「もしかして――」


「そっちの趣味、というやつでもない」


「………………」



 うーん………………困った。



 この際、相手が元・魔王だっていうのは(それも重要だけど)置いとくとして……。


 初対面で、いきなりこうもはっきり想いを告げられたあたしは、一体どうすればいいんだろう。



 いや、でも……考えてみたら、告白って、割と初対面だったりするのかな?


 うーん、でもそれならそれで、学校が同じとか、接点がありそうなものだし……?



 いやいや、ナンパとかだと完全初対面だったりも……。


 それに、世の中には確かに、一目惚れって言葉もあるわけで……。



 うーん…………困った。



「困らせてしまったか?」



 穏やかな微笑を浮かべたままのハイリアさんの言葉に、あたしは素直にうなずく。



「はい、困ってます」


「これまではどうだったのだ?」


「どうもなにも……告白されたのなんて初めてです。

 だから余計に困ってます」



 ……そう。

 あたしは、男の人にこうして告白されたのなんて初めてだ。



 まあ、まだ小学生だし、当たり前かも知れないけど……。


 それでなくてもあたしは、自分がそんなことをされるタイプだなんて思ってなかった。



 ……だって、ツリ目だしクセっ毛だし、だからかわいい服とかも似合わないし……。


 それに、そう、そのツリ目のせいでキツい性格って思われるだろうし、うんまあ、実際ほかの女の子と比べたら、シビアでキツい方だと思うし……。



 とにかく、女の子らしくなくて……かわいくなくて……。


 ぶっちゃけ、モテない方だと思ってたから。



 だからなのか、とにかく実感がない。


 こういうのって、もっとドキドキすると思ってたんだけど……驚くほど冷静だ。



 そういうところがまた……あたしの、かわいくないところなのかも知れないけど。




「ふむ……困るばかりでなく、イヤか?」


「え? あ、いいえ、イヤ――って感じは、ないんですけど」




 ……これも正直な気持ちだ。


 困ってはいるけど、イヤとは思わない。



 きっとそれは……ハイリアさんが、真剣だって分かるからだ。


 初対面でも、真摯にまっすぐ想いを告げられて……イヤなはずがない。



 だけど、だからこそ……困るんだ。どうしたらいいか。


 そもそも、あたしは……まだ子供だし。




「あの……これ、一目惚れ、ってやつなんですか?」



 なんとなく聞いてみると、ハイリアさんはちょっと考えてから、首を横に振る。



「予感のようなものはあったかも知れないが……そう、封印具の中から度々お前を見ていて……人間としての赤宮(あかみや)亜里奈に惹かれた。そんなところだ」



「人間として……って、あたしなんて、まだ子供ですけど……」




「……そうだな、お前はまだ幼い。

 ゆえに、これから成長する中で、変わっていく面もあるだろう。


 だが――奥底にある魂の輝きまでは、変わるものではない。

 そして、余が惹かれたのは……まさに、そういうところなのだ」




「………………」




 その、ハイリアさんの言葉は……なんていうか、胸に響いた。


 静かに、静かに……小さく広がる、波紋みたいに。



 かすかに、わずかに……ほんの、少し。





「まあ、そんなわけなのでな――」



 なおもあたしが、どうしたらいいかって困惑してると……。


 いきなりハイリアさんは姿勢を崩し、リラックスした調子になった。



「先に否定したように、余は、子供のお前が好きだなどと言うわけではない。

 今すぐ、この求愛を受けろと言うわけではない――」



 そうして、どこか子供みたいな顔で、清々しく笑う。



「ただ、余の気持ちを知っておいてほしかった――それだけだ」



「それって……」



「うむ。この先、お前が余を好くも嫌うも、自由ということだ。

 どちらを選ぼうとも、その選択を尊重しよう。

 どちらであろうと……お前に捧げた余の心は、変わりはせぬ」



「じゃあ……あたしが、誰か他の男の人を好きになってもいいってことですか?

 あなたの想いに応えないとしても?」



「言った通り、お前の自由だ。構わんとも。

 もっとも――」



 まさしく、ニヤリ、って言葉がピッタリな笑みを、ハイリアさんは口元に浮かべた。



「……それほどの人物が他にいれば、だが」



「……はあ……」



 なんだか、気が付けばすっかりあたしもリラックスしていて……。


 思わず、そんなハイリアさんの発言に、呆れ顔を返してしまう。



「なんか、大した自信……ですね」


「無論だ、余は――」



 対してハイリアさんは、得意気に――。


 そしてどこか……なぜか、優しく。



 フン――と、鼻を鳴らした。




「魔王だからな」








「……んん〜? 亜里奈ちゃん、どうかしたのぉ~?」



 ふと気が付くと、見晴ちゃんがあたしの顔を覗き込んでいた。



 ――いけないいけない、ぼーっとしてたみたい。



「んーん、なんでも。

 ……そうだ、見晴ちゃんって、男子に告白とかされたこと、ある?」



「わたし~? ううん、ないよぉ~」



 ゆるゆると首を振る見晴ちゃん。



 うーん……そっかぁ。


 見晴ちゃん、あたしよりよっぽどかわいいけど……なんかいろいろハードル高そう、ってイメージあるのかなあ……。


 とりあえず、参考になる話は聞けなさそう……。



 まあ、でもそうだよね……。

 あたしの友達からじゃ、年齢的にさすがにほとんどいないかも。



 ……ってことは……もう少し範囲を広げて……。



 うん、知り合いってなれば……確実に一人は思い浮かぶよね、告白された経験がある女子。


 今度、機会があったらお話、聞いてみようかなあ……。




「……ふぃ〜……。

 まーったく、デキの悪い部下を持つと苦労しますねマッタク!」



 気が付けば、男子との話は終わったのか、アガシーがこちらへやって来ていた。


 見晴ちゃんとハイタッチしながらのあいさつを交わして、あたしの前の席にドスンと座る。



「――で、で、二人でなんのお話してたんですかっ?」


「うん。あなたの『お兄さん』、ちゃんと転入のあいさつ出来てるかなー、って」



 あえてあたしがその話を振ると……。


 上機嫌だったアガシーの顔が、一気に引きつった。



「あ〜……いましたねえ、そんなヤツ」



 声のトーンも、一段どころか二段ぐらい下がってる気がする。



「ええ~?

 アガシーちゃんのお兄ちゃんって、なに~?」



 見晴ちゃんが興味津々といった感じで目を輝かせるから、改めて、アガシーの『お兄ちゃん』がうちにやって来たことを教えてあげた。


 ……どうせ、イタダキさん経由で明日には知られてることだからね。



「ふわあ、そうなんだねえ~……!

 それで、そのお兄ちゃんは、どんな人なのぉ~?」


「敵です」



 拳の骨をパキパキと鳴らしながら即答するアガシーを、ひとまず追いやりながら……。


 さて、どんな人、となるとどう言ったらいいかな、と考えて――あたしの口を突いて出たのは。




「うちのお兄に似てる――かな」




 ……そんな言葉だった。



「――はああっ!?」



 またも即座に、アガシーが思い切り顔をしかめる。



「ゆ――兄サマとアイツが、ですかあ?

 ゼンッゼン、似てないと思いますけど!」



「え? ああ、うん、そっか。そうだよね……。

 あれ……? じゃ、なんであたし、そんな風に思ったんだろ?」



 アガシーの言う通りだ。


 よくよく考えれば、見た目はもちろん、性格だって似てるって感じじゃない。




 でも……なんだろ。なんでだろ……?


 似てないんだけど、似てるっていうか……。




「ふ~ん……なんだか、面白そうな人なんだねえ~。

 そりゃそっかぁ~、アガシーちゃんのお兄ちゃんだもんね~」


「敵です」



 なおも即答するアガシーを、またぐいと脇にどける。



「うん、まあ……また、なにかと大変そうではあるかな。

 ややこしそうな人っていうか……」



「でも~、賑やかになっていいねえ~?

 亜里奈ちゃんも、なんか楽しそうだし~」



「…………え?」



 見晴ちゃんの指摘を受けて、あたしは思わず自分の顔に手をやる。


 いや、うん、さすがに今まさに笑顔ってわけじゃないけど……。



 ……楽しい? あたしが?



 ああ……うん、そう……そうなのかも。



 ――いきなりの告白とか、はっきり言ってビックリしたけど……。



 あたしへのその気持ちが、イヤってわけじゃないし……。

 別に、今すぐ答えを決めろって言われたわけじゃないし……。



 だからそういうの、いったん脇に置いて考えたら――。



 アガシーのときみたいに、普通に、賑やかになって……楽しいんだ。


 ちょっと変わった、新しい友達が出来たみたいで――。




 それなら……今は、それでいいよね。




 正直に言ったら、ハイリアさんなら……。


 笑って「それでいい」ってうなずいてくれそうで――。





「……そうだね。


 うん……楽しいかな……!」





 あたしも、何だか……自然と笑ってしまっていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] もう「敵です」の部分をアニメ……じゃなくてもドラマCDやラジオドラマでもいいから聴きたいッ!! それはそうと……そうよねぇ。 まだ小学生だから分からん部分はあるよなぁ。 逆に小学生が年上お…
[良い点] 前章のことなのですが、あまりにも自然だったのでスルーしてしまったことがあります。 裕真が、ガヴァナードを独占したいとは思ってなさそうなことと、アーサーをアガシーに任せたことです。 この裕…
[良い点] 亜里奈らしい反応で良いと思いますよ。 相手の真剣な気持ちを無下に迷惑がらずに、真摯な対応というか。人間できてますよね。 リアルによくありそうなのが、『困る』が『嫌だ』に直結することで、何…
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