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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
10章 それならもう、魔王と呼ぶしかない
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第113話 ようやくな魔王と、初対面な勇者の妹と



 ――場面は1日遡り、火曜日の放課後――。






 晩ご飯の準備をママに頼まれていたあたしは、その日は見晴(みはる)ちゃんたちと遊ぶのはやめて、学校からまっすぐ家に帰った。



 で、さすがにそのまますぐキッチンに立つには時間として早いから、小一時間ほど宿題でもやってようと思って――。








「……アリナ……アリナ〜……?」



「? アガ……シー……? え――あれ……?」




 アガシーの呼び声に、思わずガバッと身を起こすと……。



 宿題をやろうと部屋に戻ったはずのあたしは、いつの間にか、ベッドにいた。



「え? あ、もしかしてあたし、寝ちゃってた……?」


「はい。宿題やらなきゃ〜……とか言いながらベッドに転がって……そのまま。

 ――ところで……体調は大丈夫ですか?

 しんどい〜とか、ダルい〜とか、ないですか?」



「体調? う、うーん……?」



 なんか、アガシーが妙に真剣な顔で聞いてくるから、反射的な『大丈夫』じゃなく……ちょっとじっくり、自分の身体と向き合ってみるけれど。



 熱っぽいとか、どっかが痛いとか……そんないかにもな体調不良はまるでなかった。



 けれど……。



「んー……なんだろ。

 別に体調が悪いってわけじゃないんだけど……なんて言うかな。

 なにかが足りない、みたいな違和感っていうか……さっきまであったのがなくなってる、みたいな……?」



「おお? それはもしかして、余計なものがどっかいって、身体が軽くなって、気分も良くなった!……みたいなことですか!」



 なんか急に嬉しそうになって、そんなことを聞いてくるアガシー。


 でも……。



「あ、ううん。そんな、憑き物が落ちた――みたいなのじゃなくて。

 その逆……かな。

 あるべきものが――あってほしいものがない、みたいな。

 だからなんか……なんだろ、ちょっと心細いような、さびしいような感じがする」



「そーーーです、かーーー…………」



 今度は一転して、あからさまに残念そうに、ガックリ肩を落とした。



 その普通じゃない様子に、あたしはついついジトーッと見返してしまう。



「……なにアガシー、またあたしになんか魔法とかかけたわけ?」



「! いえいえ、めっそーもございません!

 ただ、ベッドに転がってすぐ寝落ちするとか、アリナらしくないなーって思いまして、ハイ!

 疲れてるのかなー、とか! ええ!」



「ふーーーん…………?」



 なんかちょっと挙動不審だけど……まあいいか。



 改めて時計を見ると、寝てたのは1時間ちょっとぐらいで……晩ご飯の準備を寝過ごしちゃった、とか、致命的なことにはなってないみたいだし。



 ここは素直に、寝坊する前に起こしてくれたことを感謝して……とか、思ったら。



「それで、ですね……アリナ。

 非常に……ひっじょぉぉ~~~に不本意ではあるのですが、あなたに会わせなければならない人物がいまして。

 いっしょに来ていただけますか?」



 あたしは、言葉の通り……本っっっ当に不本意そうな顔をしたアガシーに、お兄の部屋へと連れて行かれたのだった。





「お……来たな、亜里奈(ありな)。調子はどうだ、大丈夫か?」



「なに? もう、お兄まで。

 あたしは大丈夫だけど――」




 部屋に入った途端、いつもの場所に座ったお兄がアガシーと同じことを聞いてきたから、思わず苦笑をもらしたあたしは――。


 部屋にもう一人、知らない人がいるのに気が付いた。




 テーブルを挟んでお兄の斜め前に座っていたその人は、お兄の高校の男子の制服を着ていて――。


 でも、一瞬、男の人か女の人か分からなくて――あたしを振り返ったその顔は、男女どちらでも『美人』で通用する、息を呑むぐらいの本物の美形だった。



 少なくとも、こんな人は知り合いにいない。

 初対面だ……それは間違いない。


 番台のお手伝いで、人の顔を覚えるのは得意になったし……そもそもこんなとんでもない美人さん、忘れるハズなんてない。




 なのに……あたしは。



 なんだか、この知らない人を……よく知っているような、そんな気がしていた。




 なんだろう、ずっと側にいたような……。


 ――いてくれた、ような…………?




「――こうして、顔を合わせるのは初めて……だな」



 美人さんはそう言うと、あたしに向き直り、足を組み直して、まるでひざまずくような格好をする。


 もともとの背が相当高いみたいだから、それでも、立ったままのあたしより、少し目線が低いぐらいだ。



 そうして――美人さんは。


 穏やかな顔で、あたしに小さく一礼する。



「――余は、ハイリア=サインという。

 以後、見知りおきを――亜里奈」



「え、えっと……はい、赤宮(あかみや)亜里奈……です」



「……亜里奈。そのハイリアが――〈魔王〉だ。

 アルタメアで俺と戦って、和解して、封印具に入っていたってヤツだよ――」



 ……あたしが、どういうこと、って視線を向けながら、いつもの場所に座ると――お兄が順を追って説明してくれた。



 この美人さんは、ハイリアっていう、お兄と戦ったアルタメアの魔王で……。


 今日ようやく、アガシーと同じ〈人造生命(ホムンクルス)〉の身体が出来上がったから、封印具から出てきたってこと。


 社会的には、アガシーのお兄さんって形になるよう根回ししたこと。


 お兄の学校に、明日から転入生として通うこと。



 そして……。



 さすがにうちは手狭になってきたから、住むのは〈(あま)()〉裏手の、おじいちゃんとおばあちゃんの家の方らしいけど……。


 これからこの魔王さんも、赤宮家(うち)の一員として生活するってことを――。




「……そうした方が何かと便利なんで、仕方なく……本っっっ当に仕方なく、わたしと兄妹って設定にしてやりましたが……。

 ホントにもう、嫌々で仕方なくなんですからね! がるる!」


「うむ。安心しろ、余もこんな品性に欠ける妹をもった覚えはない」


「ああん!? 書類やら何やら、根回ししてやったのは誰だと思ってンですか!」


「ふむ、優秀な妹をもつと助かるな」


「もった覚えはないって言ったばっかでしょーが!」


「ないとも。しかし、当の妹がそういう『設定』にしてしまった以上、仕方あるまい?

 ――なあ、妹よ?」


「ぐおああーっ! やっぱやめときゃ良かったー!

 なんなんです、この手玉に取られてる感! ムカつくぅー!!」


「魔王だからな」



 余裕たっぷりな魔王さんに対し、ゴロゴロと床を転がってくやしがるアガシー。



 あ〜……なんなんだろ、やっぱり立場上というか、相性悪いのかなあ……この二人。


 ――そのわりにはでも、言葉のやり取り、意外に息が合ってたような。




 まあでも、とりあえず……。


 いくらお兄と和解したっていっても、やっぱり魔王とか言うぐらいだから、もし悪いことしそうな感じだったらどうしようって、ちょっと警戒してたけど……。


 この感じだと、大丈夫そうかな……。




 けど……そうだね、当たり前だよね。


 あのお兄が――認めた相手なんだから。




「……しっかし……さっき亜里奈の前にひざまずくような格好したときは、マジで焦ったぞ……。

 コイツまさか、手の甲に口づけとか、キザすぎることやるんじゃないか、って……」



 お兄がちょっと困ったような顔をしてそう言うと……。


 魔王さんは「まさか」と微かに笑う。



「余とて、こちらの常識はわきまえているつもりだ。

 許可も得ず、無闇に婦女子に触れるような愚かな真似はせぬよ。

 それとも――そうした方が良かったか?」



 魔王さんは最後の一言を、あたしの顔を見ながら聞いてきた。


 当然、あたしの答えは――。



「――困ります」



 そりゃ、魔王さんはアイドルなんて目じゃないぐらいの美人さんだけど……。


 だからって、好きな人でもないのに、いきなりそんなことされたって困るだけだ。



 ほかの子だったらまた別なのかも知れないけど……少なくとも、あたしはそう。

 もしかしたら、反射的に蹴りとか入れちゃうかも知れない。



 ……で、あたしの答えを聞いた魔王さんの反応はと言えば……。


 なんか、満足そうにうなずいてた。



「ま、たとえアリナが許しても、このわたしがそんな暴挙は許しませんがね! がるる!」


「安心しろ。

 そのような、亜里奈に害を為す不埒な輩……そもそも余が許しはせぬ」



 ――いや、あなたがその不埒をやるやらないって話だったと思いますけど……。



 魔王さんの発言に、そんな風にツッコみそうになって――。


 あたしは、ふっと……こんな感じの言葉を、以前、聞いたことがあるような気がした。




何人(なんぴと)であろうとも――お前を傷付けさせはせぬ』




 そう……そんなことを言われたことがあるような……そんな気がするんだけど……。


 でも、そんな記憶はなくて……う〜ん……?




「……どうした?」



「え? あ、いえ……。

 あの、魔王さん。聞いていいですか?」



「ハイリアで良い」


「じゃあ……ハイリアさん」


「お前ならば、さん、も不要だが……」


「それはダメです。

 年長者にはちゃんと敬意を払いなさいって、おばあちゃんが」



 あたしが真面目に答えると、魔王――ハイリアさんは、口もとで微笑む。



「ならば仕方あるまい」



 ――と、そこで、横合いからアガシーが割り込んできた。



「え、あれ――ちょっと待って下さい?

 この中で一番の年長者、わたしなんですけど?」




「「「 ……………… 」」」




 あたし、お兄、ハイリアさんの視線が、いっせいにアガシーに突き刺さる。



 そして…………ちょっとの間を置いて、また、いっせいに逸れた。




「――がっでむ!」



 再び、頭を抱えてゴロゴロと床を転がるアガシー。



 まあ、しょーがないよ、あなたはねー……。




「で……亜里奈、余に聞きたいこととは?」



「あ! あの、えっと……もしかして、ですけど……。

 あたしが知らない間に、あたしを助けてくれたりしたこと……あったりしますか?」



 自分で言ってて、まったくヘンな質問だと思うけど……。


 そうとしか言えないあたしに……でも、ハイリアさんはおかしな顔をするでもなく、小さく首を横に振って答えてくれた。



「さて……記憶にないな。

 そもそも余は、見返りもなく人助けをするようなお人好しではない」



「そうですか……。

 あ、いえ、ごめんなさい、ヘンなこと聞い――」


「――だが」



 謝るあたしに、いきなり……ハイリアさんが、力強い言葉を被せてきた。



「これより――そして、お前は別だ。先ほど言ったな?

 ――余は、亜里奈……お前に害を為す輩は許しはせぬと」



「……え?」



 う、うん、確かにそんなことを言ってくれたけど……。


 でも……考えてみたら、どうしてそんなこと?



「……どうしてそんなことを言うか、分からぬか?

 では改めて、ハッキリと告げよう。余は――」



「「 ! おいハイリア、お前――! 」」



 慌てた様子で口を挟もうとするお兄とアガシーを、力強く手を伸ばして――その動きだけで制して。


 ハイリアさんは、改めてあたしを見つめる。



 そして……一言。





「余は、亜里奈――お前に、心を奪われたのだ」






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― 新着の感想 ―
[一言] こういう、堂々とした告白って好きよ( ´∀` )
[一言] ハイリア!もうっ!! 積極的!!でも紳士! ……いや、紳士じゃなかったら問題あるか……(´・ω・`) ハイリアにはこれからもいっぱい活躍してほしいです。 これからは亜里奈との掛け合いも見…
[良い点] >「余は、亜里奈――お前に、心を奪われたのだ」 ふひゃひゃひゃひゃひゃ いいねえ、いいねえ、おばちゃんあてられちゃうよ(*´艸`*) ふひゃひゃひゃひゃひゃ つづきがたのしみだ
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