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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
10章 それならもう、魔王と呼ぶしかない

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第111話 人それを、焼いても食えないモチという



 ――俺なんかの言葉が、実際どれだけ、悩む鈴守(すずもり)の助けになれたかは分からない。



 でも、まあ、多少なりとは効果があってくれたみたいで……。


 中庭から戻るときには、鈴守は、少なくともはた目には、いつもの調子を取り戻して見えた。



 ……よかった、ホントに。


 俺が見ていたいのは、この子の、こういう何気ない笑顔なんだからな……うん。




「でも、なんか、ホンマに……。

 ウチ、赤宮(あかみや)くんには助けられてばっかりの気がする」



 廊下を歩きながら、ぽつりとつぶやく鈴守。



「え……そう? 俺、なんかしたっけ……?」



「あ! えっと、その……う、ウチの中で勝手に、って感じやねんけど……。

 『家業』でしんどいとき、赤宮くんがおってくれるからとか、赤宮くんたちのためにも頑張ろうとかって……自分を励ましてるから……。

 それがなかったら、ウチ、とっくに投げ出してたかも知らんし……やから……。

 ウチが頑張れてるんは、ホンマに、赤宮くんのおかげなんやなあ、って……」



 ちょっと恥ずかしそうに、うつむき気味に、鈴守はそんなことを言ってくれる。



「……鈴守……」



 ――正直に言おう。

 大好きな女の子に、こんなことを言われて嬉しくない男がいるか!?


 いやいや、いるわけねーだろ!



 ……ってわけで、ヤバい、めちゃくちゃ嬉しいぞ……!!



「……いや、それを言うなら、俺だって……。

 鈴守がいなかったら……その、きっと、戻ってこれなかっただろうし……!」



 で、あまりの嬉しさについ――。


 俺は考えなしに、そんなことを口走ってしまっていた。



「…………?」



 きょとんとした顔で、俺を見上げてくる鈴守……。



 ――い、いかん、やっちまった……!



 なんだよ、『戻ってくる』って!?


 まさか、異世界で勇者やってて……とか言うわけにいかないし、このままだと何言ってるんだかワケ分かんないぞ……!



 ……と、ヘンなヤツ認定されるんじゃないかと、内心冷や汗を流していると……。



 鈴守は、くすっと可愛らしく吹き出した。



「――なんなん、それ?

 なんか、どっか遠いトコ行ってたみたい」



 どうやら……優しい鈴守は、ヘタな冗談の一種と受け取ってくれたらしい。


 よ、良かった……助かった……。



「え、ああ、な、なんて言うか、精神的にね!

 こうして鈴守が側にいてくれなかったら、俺なんて落ち込みまくってもう戻ってこれないだろうなあ、って! うん!」



「……もう、大ゲサやねんから」



 さっきまで沈んでた反動か、そうして快活に笑ってくれる鈴守が、すげー可愛い。



「あ、そうや……!

 ――ゴメン赤宮くん、教室戻る前に購買部寄ってってええかな?

 赤のペン買わなあかんの忘れてた」


「ん? あ、ああ、もちろん。

 そうだなー、じゃ、俺もついでになんか、パンでも買おっかな」



 俺たちは、まっすぐ階段を目指していた足を返して、食堂脇にある購買部の方へと向かう。



「……え? さっき、お弁当食べたばっかりやのに?」


「んー……ビミョーに足りないんだよなー……」


「ふふ、男の子やなあ。

 今日は、お弁当、作ってくれたんは亜里奈(ありな)ちゃん?」


「そう。まあ、ちょっと量が物足りないのは、だから……かな。

 ……まさか、アガシーがつまみ食いしまくったから、ってのはさすがにナイと……思いたい」


「あはは……! アガシーちゃん、やりそう。

 ――でも、亜里奈ちゃんスゴいなあ。

 自分のお弁当作るついで、とかやったらまだしも……小学校って、給食やんな? せやのに、わざわざお兄ちゃんの――あ、お父さんのもかな? お弁当用意するとか……」


「……まあね。

 朝食の当番だったりするときだけだし、残り物とか冷凍のやつとか詰めるだけだから大したことない――って、本人は言うけど……感謝してるよ。手間は手間だもんな」


「……ん〜……でもそっか、赤宮くんも結構しっかり食べるんやから……。

 今度また、ウチがお弁当作るときは……量は多めにするな?」


「――え! マジで!? また作ってくれるの!?」


「う、うん、出来るときは……やけど。

 あ、でも、亜里奈ちゃんのとカブったりしたら申し訳ないかな……」


「問題ない! ちゃんと両方食うから!」


「……もう……」



 可愛らしい苦笑を残し、鈴守は購買のおばちゃんのところへ行った。



 一方俺は俺で、併設されてるパン販売コーナーで、すっかりガラガラになったケースの中に、珍しく残ったマヨコーンを見つけて、ソッコーで買い求める。



 うん、大体この時間になると、残ってるのはほぼ菓子パンだからな……。

 総菜パンが手に入るとは、なかなかの幸運と言えよう……!



 ほくほく顔で鈴守と合流し、さあ教室に戻ろうと思ったら――。




「――センパイっ」




 ……聞き覚えのある声が、背後から投げかけられた。



 鈴守と2人、振り返ると……そこにいたのは、案の定、笑顔の白城(しらき)だ。


 友達らしい女の子と一緒にいる。



「よう、白城。……パンか?

 総菜パンなら、今日は珍しく、ピザパンも残ってたぞ?」


「違いますって。わたし、そんな大食いに見えます?」


「いや、そこは見かけじゃ分からんしな……。

 それに、ご飯をおいしそうにいっぱい食べる女の子って、俺はいいと思うぞ?」


「そ、そうなんですか?

 ……あれ、それじゃセンパイって、実はぽっちゃり系が好みとか……?」


「いや、好みも何も、俺は一択だからな」



 言って、俺は……。


 なんだろう、いつもよりも近くに寄ってきてる感じがする、鈴守を見やる。



「…………!」



 目が合った鈴守は、なんか恥ずかしそうにちょっとうつむき……。


 気付けば、白城の隣の友達らしい子は、やたら大ゲサに、やれやれとばかりに肩をすくめていた。



 白城は……まあ、変わらない感じ……だけど……。



 ――え、なに俺、そんな恥ずかしいこと言った……?


 ヤバいな……あの体育祭でいっぺんはっちゃけたせいか、どーもその辺の線引きがユルくなっちまってる気がする……。



 まあ、イタダキなんかには昔から、『ちょくちょく赤面級のセリフを真顔で吐く』とか言われ続けてるわけだけど……。



「あー……あはは……お昼のデザートごちそうさまでした~、と。

 ところで――センパイ、ケガは大丈夫ですか?」



「……ケガ――って?」



 白城の言葉に、一番に反応した鈴守が俺を見上げる。


 俺より先に――白城がその疑問に答えた。



「あ、はい、そうなんです、鈴守センパイ。

 ――赤宮センパイ、金曜の夜、ケンカに巻き込まれたとかでケガしてて……」


「……金曜の、夜……?」


「はい。それでわたし、センパイの家で手当てを手伝って……」


「あ~……すまん、あのときは迷惑かけた。

 キズなら大丈夫だ、もともと、そんな大したものじゃなかったし――」




 ――ガシッ。




 心配無用、と振ろうとした手を――気付けば、鈴守に掴まえられていた。



「……鈴守?」



「ご……ゴメンな、白城さん!

 ウチと赤宮くん、教室に用があるん忘れてた!

 ――ほ、ほら、赤宮くん! はよ戻らなおキヌちゃんに怒られるよ!」



 そして――結構な力で、階段の方へ引っ張って行かれることに。


 え? これって……まさか……。



「あ、じゃ、じゃーな、白城!」



 一応、白城に挨拶を送ると、俺は自分から……。

 大股、かつ足早に、ズンズン購買部から離れていく鈴守に歩調を合わせる。



 その足は……角を折れて階段を上り、踊り場まで来たところで、ようやく止まった。




 そして――うつむき、押し黙る鈴守。




「え、えーっと……」


「ケガは……ホンマに大丈夫なん?」



 俺が、何を言えばいいのか……謝った方がいいのか……とか、考えてると。


 鈴守が真剣な顔を上げる。



「あ、ああ……それは大丈夫。ホントに、大したことじゃないから」


「そっか……」



 そして、今度は大きなタメ息をつきながら……。


 鈴守は、ガックリと肩を落とした。



 ……その後、また黙することしばし……。



「うう……ゴメンな。ウチ、つい、なんか……モヤモヤして。

 赤宮くんが、やましいことするわけないって信じてるし……。

 白城さんも、何より赤宮くんのケガを心配して手当てしてくれたって、そんなん分かってるのに……。

 こういうの、イヤやったのに……ウチは――」



 あー……やっぱりか。


 やっぱり鈴守、ヤキモチ妬いてくれたのか。



 でも……それで俺たちに怒るんじゃなく、こうして自己嫌悪の方にいくってのがまた……らしいよな。



 俺は……実を言うと、ちょっと嬉しかったんだけど――な。


 鈴守が、妬いてくれて。



「ううう〜………………あああ〜、もおっ!!」


「うぉッ!?」



 沈んでた……ハズの鈴守が、いきなりガバッと顔を上げた。


 そして、宣言。



「ウチ、今日はもうサボるっ!!」


「……へ?」



「とっく――ううん、祭事の練習! サボる! サボってパーッと遊ぶ!

 甘いモンとか食べる! もお、めっちゃ食べる!

 ――やから、付き合って、赤宮くん!」




 鼻息荒い、鈴守の……初めて見るそんな姿に、一瞬、呆気に取られたものの……。


 俺はすぐさま、顔がほころぶのを感じながら――思い切り、うなずいていた。




「――もちろん、どこへなりと!」











     *     *     *




「はぁ〜…………やっちゃったー……」



 赤宮センパイと、それを引きずる鈴守センパイが、視界から消えて……。


 わたしが最初にしたことは、自己嫌悪に思いっ切りタメ息をつくことだった。



「なんで? ナイスファイトってヤツだったんじゃないの?」



 いつの間にか購買部で買っていたジャムパンをパクつきながら、美汐(みしお)は首を傾げる。



「いや、だから、あんまりこういう……あの2人の仲をこじらせるようなことはしたくなかったんだって、わたしは」


「じゃ、なんでまたあんなこと言ったわけ?」



「それは…………一択って……一択って言われて」



 わたしは、赤宮センパイの言動を思い出す。


 そうして――。



「――つい、メラっときちゃって……」



 もう一回、大きなタメ息をついた。



 一方美汐は、そんなわたしの肩を、ぽんぽんと叩くと――。




「…………カツ丼、食うか?」



「ハイ、痴情のもつれで、つい……じゃないっての! ネタが古い!

 取調室にカツ丼とか、ないから!」



「……ほい」



「しかもジャムパンだしこれ!」




 ヤケクソ気味に――。


 わたしは、差し出されたジャムパンに大口でかぶり付いてやった。






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― 新着の感想 ―
[一言] かつ丼、出ないよなぁ(遠い目 (*´艸`*) そうそうこういう時はさぼるに限る(*´艸`*)
[一言] 裕福な学校ですね!ピザパンがある (゜∀゜)b ☆彡
[良い点] 裕真の攻撃力が高すぎる!!w 無自覚の惚気無双に私も被弾しまくりです! ごちそうさまです! 鈴守さんが壊れたw 嫉妬心が勝ったような感じになるのは、辛かったでしょう……。 でも可愛いです…
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