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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
10章 それならもう、魔王と呼ぶしかない
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第110話 悩み迷う彼女に、勇者の応援



 ――月曜日のお昼休み。



 教室で、いつものみんなとお昼ご飯を食べた後……。


 ウチは赤宮(あかみや)くんと2人、自販機でジュースを買って中庭に出てた。



 せっかく二人でおるのに、なんか、会話も特に思いつかへんくて……。


 力が抜けたみたいに、すとんと手近なベンチに腰を下ろすと、赤宮くんも、無言でその隣に腰掛ける。



 別にムリに会話せんでも、赤宮くんと2人でおるのは、それだけで楽しくて、ホッとする――はずやねんけど。


 今のウチは……何か、そういう気分になれへんかった。



 それで、多分、赤宮くんもそんなウチに気付いてると思う。



 教室とか、授業中はわりと取り繕ってられたんやけど……赤宮くんとこうやって2人になったりすると……なんやろう、甘えてるんかな……。


 なんていうか、モヤモヤしてるっていうか、悩んでるっていうか……すっきりせえへん心の内を、ウチは、そのまま表に出してしまってた。



 でも……赤宮くんは、イヤそうな顔とかはゼンゼンせえへんくて……。



 なんか沈んでるっていうか、あからさまに暗いウチとおって、気分良いハズもないのに……ムリに盛り上げようとするでもなく、無視するでもなく……。


 ただ、いつも通りに、ウチの側におってくれた。



 それだけで……改めて、ウチは……恵まれてるな、って。


 ゲンキンにも……なんかちょっと、気が楽になってた。




「……そう言えばさ、この間作ってくれたカレーだけど……」




 まるでそのタイミングを見計らったみたいに……。


 赤宮くんが、なんでもない調子でそう切り出す。



「――あ、うん」


「俺……全部食べちゃっただろ?」


「うん。ちゃんと出来てるか、やっぱり不安やったから……おいしいって全部食べてくれたんは……嬉しかった」


「そうなんだよ……そりゃもう、俺としては完食して当然、だったんだけどさ――。

 ……なんか、めっちゃ怒られたんだ」



「え……ええっ?」



 どういうことやろう、って顔を見上げると……赤宮くんは、困ったみたいに笑う。



「――食べたかったのに!……だってさ。

 亜里奈(ありな)にアガシー、あげく母さんまで。

 しかも、『一日おいてたら、さらにおいしくなってたのに!』――だよ。

 助けを求めようにも父さんは笑って我関せずだし、女傑3人に包囲されて、『独り占めした!』って責められて……俺、もう生きた心地しなかったよ……」



「そ、そうなんや……」



 そんな風に言うてもらえてたとか……ちょっと緊張もするけど、なんか嬉しい。



「――ってわけだからさ。

 えっと……また時間が出来たら、うちに料理しに来てくれる……かな。

 亜里奈とアガシー……まあ、特に亜里奈が――だけど、鈴守(すずもり)と料理するの、楽しみにしてるからさ」



「あ――う、うん、もちろん……!」



 赤宮くんの笑顔に、ウチも自然と笑顔になってうなずく。



「……よかった、ありがとう。

 えっと……俺も、その、鈴守の手料理なら、いつでも、いくらでも食べたいぐらいだからさ、うん!」


「も、もう、調子ええねんから……!」



 ストレートにそんなことを言うてもらえて、嬉しくて、気恥ずかしくて……。


 ウチは思わずうつむき加減に、手の中のリンゴジュースを一心に吸い上げる。



 そうして、一息ついて……。

 ちょっと、気分が落ち着いたら……。



「赤宮くん……。あの……あのな……」



 ウチは……金曜日の夜からモヤモヤして、悩んでることを……。


 赤宮くんに相談してみようか――って、考え始めてた。






 ――あの日。


 ウチらの前に現れた、〈勇者〉を名乗った黄金の騎士エクサリオ。



 彼とクローリヒトの会話は、全部が聞き取れたわけやないけど……。



 それでも、彼らが、それこそゲームとかみたいに、別の世界を救ったっていう〈勇者〉らしい……っていうのは分かった。


 ありえへんような話やけど、あの2人のとんでもない強さを実際に見てるから……信じるしかない。



 それがホンマに、正義の味方としての〈勇者〉なんか、一種の比喩みたいなもんなんかは、はっきりせえへんけど……。



 とりあえずその事実については、ウチが考えたところでどうなるもんでもないし、おばあちゃんも「調べてみる」て言うてたから、ひとまず置いとくとして……。




 ウチが、今悩んでるんは――。


 ウチは、どうしたらええんやろう……っていうこと。




 ウチの、〈鈴守の巫女〉としての使命からしたら、エクサリオの言うてたことが正しい。



 邪悪なチカラは、断固たる意志をもって根絶する――。



 そうすれば、そのチカラが原因で起こる悪いことは、全部食い止められる。


 それは間違いないし、そうせなあかん、って――ウチも信じてきた。



 でも……。

 ウチは、それを語るエクサリオの言葉に、不安とか怖さとか……そんなんを感じた。



 ホンマやったら、向こうはこっちを味方て認めてくれたわけやし、その主張に同意せなあかんはずやのに……。


 ウチが真っ先に感じたんは、多分……なんかが違うっていう、違和感やった。



 それは、おばあちゃんも同じみたいで――。


 エクサリオを、戦力としては認めつつも……結局、完全に味方って言い切ったりはせえへんかった。




 ……それに、むしろ……。


 ウチがあのとき、主張に共感出来たんはむしろ……クローリヒトの方やった。




 でも……ウチの役目は、〈世壊呪(セカイジュ)〉がたとえ人やったとしても滅ぼすことで……。

 そしてそれは、エクサリオの主張の通りで……。


 でも……ウチ自身の思いとしては、出来るなら無為な争いはしたくなくて……。

 そしてそれは、クローリヒトが言い続けてきたことで……。


 でも……クローリヒトの言うことが、どこまで正しいかは保証がなくて……。


 万が一のことを考えたら――赤宮くんたちが被害に巻き込まれる可能性を考えたら。

 みんなを守るために一番なんは、やっぱり〈世壊呪〉を滅ぼすことで。



 でも……改めて、それがすごく傲慢で身勝手なんちゃうか、って思えてきて……。




 それでウチは――どうしたらええんやろう、って……。




 いっそ、何もかも全部打ち明けられたら、楽になるんかも知れへん。


 赤宮くんやったらきっと、全部受け止めてくれる……そんな気もする。



 でも……それは、投げ出すだけ。


 自分がしんどいからって、そのしんどいのを、赤宮くんが良い人なんにかこつけて、全部押し付けるみたいな……。


 そんな、どうしようもない……最低の行為。



 そう思い至って、ウチは……。


 やっぱりあかん、ヘタに相談とかするんはやめようって思ったら――。




「俺だって……悩むよ」



「……え?」




 赤宮くんの方から、そんな言葉がかけられた。



「鈴守、『家業』のことで悩んでるんだろ……違う?」


「う、ううん、そう、やけど……でもなんで?」


「あ〜……まあ、まず思いついたのがそれ、ってだけなんだけど」



 照れたように、赤宮くんはさっぱりと笑った。


 それで、すぐに……真面目に顔を引き締める。



「そもそもが俺は部外者だから、簡単には相談出来ないってところはあるんだろうけど……。

 でも、それは仕方ないにしても……俺に負担をかけたくない、みたいな理由で言い淀むのはやめてほしいかな――今みたいに」



「あ……わかってもう――たん?」


「まあ、それぐらいはニブい俺でも。鈴守、優しいから」



 赤宮くんは、ちょっと表情を崩す。



「でも、俺はいつだって鈴守の味方だし、力になりたいって思ってるから。

 だから……負担とか迷惑とか思わず、頼れるようなことなら……頼ってほしいんだ」



「あ、うん、その……ゴメン……」



 なんか、ホンマに悪いことをした気になって、謝ったら……。


 赤宮くんは、「いいよ」と、優しく首を振ってくれた。



「――で、さ。

 なにが言いたいかって……俺だって悩むよ、ってことなんだけど」



「……でも、赤宮くんはウチなんかより、考えも、心も、しっかりしてて……。

 ホンマに大事なことを、これ、ってちゃんと選べる強さ、っていうか……」



 ……そう。

 ウチは赤宮くんにはずっと、そんな強さを感じてた。


 持ちたくても、そうそう持てるもんやない……本当の、心の強さ。



 それは、ウチなんかとは違う――



「――あるよ。

 それを強さっていうなら、その強さは、鈴守にも」



「…………え……?」



 ウチの心を見透かしたように言うて――。


 赤宮くんは、真っ直ぐに……ホンマに真っ直ぐに、ウチを見てくれた。




「……どんなに悩んでも、迷ってもいい。

 大切なのは、本当に大事なときにこそ、どうしても譲れない、曲げられない、手放せない――これしかないって道を選び取ることで……。

 そして、鈴守なら、きっとそれが出来る。


 だって、俺は……鈴守にそんな強さを――まっすぐな心を見て……。

 きっとそれで――うん、その……好きに、なったんだからさ」




「……赤宮、くん……」



「それに……誰よりも、俺が。

 鈴守のこと、ちゃんと見守ってるから」



「あ……うん。うん……!」



「……って、今改めて考えたら、俺、もしかして見当違いのこと言ってない?

 あ〜、ゴメン、俺こういうのヘタクソで――」



「ううん、そんなことない、そんなことないよ……!」




 ――嬉しかった。この人に認められてるってことが。


 ――心強かった。この人が見てくれてるってことが。



 だから、ウチなんかでも――。




「……ありがとう。励ましてもらって……うん、元気出たよ……!」




 単にどうしよう、って悩むばっかりやなくて……。


 ちゃんと、正しいって言える道を選べるようになろう、って――。

 ううん、なれる、って――。




 ――そう、自分を信じられそうやった。






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― 新着の感想 ―
[一言] どれだけ迷ってもいい。 悩んでもいいんだよ(´;ω;`) そして真の勇者ってのは……敵や世界の在り様さえも変えようとするヤツだと思うのよ……!
[良い点] お互いのことを良く理解しているカップルだからこそ、もどかしい擦れ違いが良い味出してます! 特に鈴守さんは良く分かっていらっしゃる。 物語的にあり得ないことですが 「実はウチ、シルキーベ…
[良い点] 鈴守さん視点、ありがとうございます!! 気になってました!! 鈴守さんがクローリヒトに共感出来たと聞いて涙が出ました。 鈴守さぁぁぁんっ!!w 裕真が鈴守さんにかける言葉が、思いやりと共…
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