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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
9章 万難排し、世界を守るが〈勇者〉の役目

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第107話 キャンプの夜、テントの中の少女たち



「うぅべえぇ……! マぁズぅいぃでぇずぅ……っ!」


「因果応報。自業自得」



 何て言うか、ミステリードラマとかで毒を飲んだ人みたいに、寝袋に入ったままゴロゴロ転がって悶絶するアガシー。



 けれど、隣でその様子を観察するあたしの目は、きっととっても冷ややかだ。


 だって――犯人だからね。




 ――結局、肝試しというムダイベントの最中、あたしは……。


 アガシーの、イタズラっていうには度が過ぎるおどかし方のせいで、転んで頭を打っちゃって――。



 そう、もちろん、ビックリし過ぎて気絶した――とかじゃなく。


 フツーに驚いて、足を滑らせて、頭を打っちゃったせいで……うん、そのせいで、ずっと気を失ってたらしい。



 ……で、目が覚めたときには、肝試しは全部終わった後だった。



 まあ……ハッキリ言って、子供だましっていうか、時間のムダでしかないイベントなんだから、いつの間にか終わってたって別に構わないんだけど。


 うん、どーせ、ただ歩いて終わりだったんだし?



 でも、アガシーが、あたしが思わず転んで頭を打つぐらいに、やりすぎなおどかし方をしたのは事実だから……。


 お仕置きとして、今、あの子謹製の〈レーション〉を『味わうの刑』に処しているのだ。



 そう……。


 ただ食べるだけじゃなく、アメみたいに口の中でなめ転がして『味わう』の刑に……!



亜里奈(ありな)ちゃん亜里奈ちゃん~。

 そろそろなんかアガシーちゃんがぁ~、全体的に色がヘンになってきてるよぉ〜?」


「うん、外宇宙の深淵みたいな、名状しがたいイイ色になったねー。

 ……じゃ、もういっか」



 見晴(みはる)ちゃんの報告に、状況を確認したあたしは……。


 そろそろ許してあげようと、お茶の入った水筒をアガシーに差し出した。



「反省した? なら……はい、もうごっくんしていいよ」


「――っ! ――ッ!!」



 スゴい速さで首を上下に振りながら、あたしから水筒をもぎ取ると……。


 ゴキュゴキュと喉を鳴らして、口の中のモノを一気に洗い、流し込むアガシー。



 だけどそれだけじゃ足りないみたいで、青い顔のまま――



「もっかい歯磨きしてきます……」



 ……って、愛用のピーチ味の歯磨き粉を持ってフラフラとテントを出て行った。



 ホント、あのレーションもどき、どれだけマズいんだか……。




「――ね、ね……それで、亜里奈はどうなのっ?」



 アガシーを見送ってゴロッと横になったあたしに……。


 下半身は寝袋に突っ込んだまま、ほふく全身するみたいに近付いてきて……そんなよく分からない質問を向けてきたのは、コンちゃんだ。



「……どう、って……なにが?」



 あたしが首を傾げていると、同じテントの他のみんなも、ずりずりとあたしの方に近付いてくる。



「みんな、好きな男の子の話してたんだよぉ〜。

 で、次はぁ~、亜里奈ちゃんたちの番〜」



 見晴ちゃんが、のんびりとした調子で解説してくれる。



 ああ……そう言えば、何組の誰それがカッコイイとか、あの子とあの子がもう付き合ってるらしいだとか、そんな話が漏れ聞こえてたっけ……。



 お約束っていうか、みんな好きだなあ、こういう話……。



「んー、でも、あたしは別に――」



「――それなら、わたしがお答えしましょう!……とうっ!」



 もう復活したのか、颯爽とテントに戻ってきたアガシーが、スライディングで自分の寝袋に収まりつつ、嬉々とした調子で会話の輪に加わる。



 うーん、元気を取り戻した途端のこのウザさ……。


 やっぱり、まだ慈悲をかけるべきじゃなかったか……。



 ……っていうか、なにを言うつもりだろう――とか思ってたら。



「アリナの理想のタイプは、ズバリ! 兄サマみたいな人です!」



 ――また、とんでもないことを言い出した。



「――こ、こら、アガシー、いきなりなに言って……!」



 あたしは、アガシーにお仕置きのデコピンでも食らわせてやろうとして――。


 周りのみんなが、妙に静かなことに気が付いた。



 ……え?

 ちょっと、なにこの……『やっぱりか』みたいな空気……!



「まーねー……亜里奈はそうだと思ってた」


「ブラコンだからなー……」


「だよねー」


「でも、ちょっと分かる。亜里奈のお兄ちゃんて、結構イイよね」


「あたし会ったことないんだけど……そうなの?」


「わたしも会ったことないけど、お姉ちゃんが同じ高校で……『あれは女装すれば化ける!』とか言ってた」


「あ、それ分かるかも! やっぱり亜里奈と兄妹だからかなー」


「え、そうなの? じゃあ、結構キレイな顔してたりっ?」


「てか、その前に、もう彼女いるよ?

 お姉ちゃんに動画見せてもらったけど、体育祭でさ――」



 ……ゴニョゴニョゴニョ……。



「……え? なにそれホント!? マンガみたい!

 ヤバい、カッコイイかも……!」


「んー……ちょーっと暑苦しくない?」


「あ〜、それは確かにあるかな。でも、アタシも結構イイと思うなー」




 ちょ、ちょっとちょっと、なんか話がヘンな方向行ってない……っ?


 てか、コンちゃんとか、なに、お兄狙ってるわけ……?



 ――あ、うん、いや、それは別にいいんだけどさ、うん、別に……。

 そもそもお兄には千紗(ちさ)さんがいるわけだし……。



「あ、ほらほら、そんなコト言ってるから、亜里奈ちゃんがすっごい顔でニラんでる」


「……ニラんでませんっ!

 だいたい、さっきミキちゃんが言ったみたいに、お兄にはもう彼女さんがいるからっ!」



 あたしがキッパリそう言うと、また、見晴ちゃんとアガシーを除くみんなは顔を見合わせて……。


 なんか、ニヤッと笑った。



 ちなみに、アガシーはこの雰囲気そのものを楽しむように、話題に火を注いでおきながら、今は傍観者まっしぐらに――歯を磨いたばっかりなのに――〈コアラどもの進軍(マーチ)〉をボリボリとむさぼり食っていて……。



 そして、見晴ちゃんは見晴ちゃんで、まるではしゃぐ娘たちを見守る母のように……いつものふんわりした笑顔のまま、ただただこの場に寄り添っている。



 どっちにしても、あたしの助けにはなりそうにない。



「亜里奈ったら、これだもんね〜。

 そりゃ、同い年の男子なんか、がんちゅーにないかあ〜」


「あ、でも、朝岡(あさおか)とは結構仲良いんじゃない?」


「えー? でも、亜里奈のこと〈レッドアリーナー〉とか呼び出したのアイツでしょ?

 それに、しょっちゅう亜里奈にしばかれてるし」


「好きなコにちょっかいかけるのって、男子のバカなお約束じゃない!

 亜里奈ちゃんも、なんだかんだで付き合ってあげてるわけだし、いつの間にか――とか!」


「――――っ!?

 ちょ、ちょちょ、ちょっと……!」



 ……今度はなに、あたしが!? 朝岡を!?



 ないない、ないって! ないないない!



 朝岡なんて、バカでガサツでイタズラばっかで――!


 まあ……うん、悪いヤツじゃないんだけど。



 その上もう、なにかとガキっぽくて――!


 でも……うん、ムダに男気だけはあって……って!



 ――擁護してどうするあたし! ここはバッサリ切り捨てるトコだってば!



「な、ないよ、ない! そんなわけ、ない!」



 でも……。


 あたしの口を突いて出たのは――思った以上に歯切れの悪い否定だった。



「ホントに〜……? アヤしいなあ……」


「あ、でもさー……朝岡っていえば……むしろ、アガシーちゃんじゃない?」




「……おおぅ?」




 アガシーは、まさか自分に話題が向いてくるなんて思ってなかったみたいで……〈コアラどもの行軍〉を頬張ったまま、目を白黒させていた。



「あー……そう言えば、最近特に仲良いよね〜」


「そうそう! さっきも、カレー作るとき、包丁の使い方教えるのにアガシーちゃんがくっついてたら……朝岡のヤツ、顔真っ赤だったもんね〜」


「あ、アタシも見た! あれねー、確かに、ただ女子にくっつかれて恥ずかしがってるだけ、って感じじゃなさそうだったなー」


「しかもそのとき、アガシーちゃんも、すっごい楽しそうだったし!」


「それ思った! 楽しそうなのはいつもだけど、なんかちょっと違うっていうか……」



 みんなの話を聞きながら……あたしも、思わずアガシーを見つめていた。




 え、アガシー……そうなの?


 ホントに、朝岡のこと……?




 みんなの問いかけに、どう答えるんだろうって思ってたら……アガシーは。


 いきなり、お腹を抱えて大笑いし始めた。



「ぶわっはっは! このJS界のピースメーカー、赤宮(あかみや)シオンが、あんな歯が生え揃ってさえいないジャリ坊のことを!? はっはっは!

 そりゃ、指導教官の鬼軍曹が訓練中の新兵に、『お前たちは希望の星だ! 頑張ろうな!』……とか、良い笑顔で言うぐらいありえませんよ!

 まあ、アーサーがわたしに――ってのは分からないでもないですけどね?

 なんせホレ、どこをどう切り取っても魅力しかないわたしですからね! はっはっは!」



 いかにもな、いつも通りに見えるアガシーの態度に、みんなは、「なーんだ」みたいな顔をするけど……。



 あたしは、なんだか……アガシーが、ムリヤリ笑ったような気がした。


 それが引っかかって、気になって、改めて聞こうとしたそのとき――。




「こらー! もう消灯時間だよ! いつまで騒いでるのっ!」




 テントに首を突っ込んできた喜多嶋(きたじま)先生のその一言で、会談(?)は強制お開きになってしまった。



 あわててテント中央に置いていたランプの明かりを消して、それぞれの寝袋に引っ込むあたしたち。




 でも、そのとき――あたしは、確かに見た。




 明かりが消えて、テントが真っ暗になるその一瞬。


 あたしに背を向けて寝袋に潜り込むアガシーの、そのキレイな金髪からのぞく形の良い耳が――。




 ほんのりと……赤くなっていたのを。






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― 新着の感想 ―
[一言] やれやれ。 複雑な相関図になりますなぁ( ´∀` )
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