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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
9章 万難排し、世界を守るが〈勇者〉の役目
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第101話 それは、黄金に輝く青天の霹靂



 ――〈呪疫(ジュエキ)〉の反応があったんは、赤宮(あかみや)くんの家からはわりと近場の、緑地公園の一画やった。



 先に、空から霊力を込めた小柄(こづか)型の(くさび)を打ち込み、結界を張っておいて……。


 そんで――結界内に着地。



 ……もうすでに、あたりにはちらほらと〈呪疫〉の影が浮かび上がってた。




「……悪の魔の手から人々を守るためェ~!

 破邪の鐘で正義を打ち鳴らし、世に平和の天則を織りなす聖女ォ~っ!

 〈聖天(セイテン)織姫(オリヒメ)〉シルキーベル! 今、推・参――ッ!」



 ウチに代わって、テノールの美声高らかに名乗りを上げるカネヒラ。



「やらなくていいって言ってるのに……」



 今回は邪魔せんと、ちゃんと全部言わせてあげたからかな……カネヒラ、なんか満足そう。



「とにかく、今日はちょっと大変みたいだから……ちゃんと頑張ってね、カネヒラ」


「い、いえす御意~っ!

 迫る戦の重圧に、思わず腹を切りそうになるところでありましたがァ……!

 拙者、姫の御為とあらば、ミジンコより矮小で微々たる我が微力を尽くし――」


「――口上はいいから、ホント頑張って」


「いい、いえす御意ィ〜っ!」



 カネヒラにハッパをかけながら……。


 ウチはさっき、おばあちゃんから受けた連絡を思い出す。





 ――能丸(のうまる)は今回参戦出来ない。変身アイテムに不具合があるらしい――





「…………」


 その連絡通り、能丸さんは姿を見せへん……。



 一人でやるしかあれへん――。


 いつも以上の緊張感をもって、ウチは聖具〈織舌(シゼツ)〉を握り込む。



 こういう状況になって、ふと心細さみたいなんを感じると……。

 なんやかんやで、やっぱり仲間がおるって大きかったんやなあ……って、改めて思う。


 けど……とにかく、今日は一人。



 ……数は多そうやけど、〈呪疫〉だけならなんとかなる――!



 そう、気合いを入れ直したそのとき――。




「……よう、シルキーベル」




 背後から――聞き慣れた声がかけられた。


 今日みたいな状況やと、出来れば聞きたくなかった声――。



「……クローリヒト……」



 わざわざそちらを振り返るまでもなく……クローリヒトは無防備な足取りで、ウチの隣に並んできた。


 見たところ、周りに、この間の仲間――クローナハトの姿はなくて。

 しかもその手には、いつものあの剣が握られてへん……。



「で……どうした、一人か? 能丸は?」



「……今日は――お休みです。

 あなたこそ……仲間はどうしたんです?

 それに、いつもの剣は――」



「まあ……どちらも、一種の休暇だな。そっちと同じく」



 悪意も敵意も、まるで感じさせへんで……まして、ノンキに頭とか掻きながら答えるクローリヒト。


 仮面っていうかマスクっていうか……ともかく、そんなん被ってたら意味なさそうやけど。



 これまでさんざん敵対してきたのがウソみたいな、その気安い態度に、思わずこっちも気が抜けそうになる――って、あかんあかん……!



 内心首を振って警戒心を持ち直し、〈織舌〉を構えようとしたら……。



「――ところでシルキーベル、一つ提案があるんだが」



 クローリヒトは、唐突にそんなことを言い出した。



「……なんです、提案って」




「お互い、〈呪疫〉を消滅させようって目的は同じだろう?

 しかも、今日は仲間がいないのも同じなわけで……。


 ――どうだ? ここは手を組まないか?」




「あなたと……ですか?」


「ああ。見たところ、今夜はまた〈呪疫〉どもの数が多いようだし……悪い話じゃないだろう?」



「………………」



 ウチは、しばらく、クローリヒトの……マスクの奥に隠れた顔の、その瞳を見ようと――心底を見ようと、目を凝らした。



 もちろん、そんなんで本当に見えるはずもない。


 ウチはそんな達人でもなんでもない。



 でも……。



 ……なんでやろう。


 ウチは、クローリヒトが、その言葉が――信用出来るって、そう思えて……。



 明確な理由を考えるより先に、首を縦に振ってもうてた。



「――そうこないとな」



 クローリヒトが――笑みを浮かべた、そんな気がした。




 そんで、それは――。


 ウチのよく知る、大好きな、あのホッとする笑顔にどことなく似た雰囲気で――。




 ……って――あかんあかん!


 また、なにアホなこと考えてるんよ、ウチは!



 そんなん、気のせいに決まってるし……! 



「…………?

 どうした、いきなりブンブン首振りまくって……?」



「な、なんでもないです!

 それより、だましたりしたら承知しませんから!」


「……そっちもな。不意打ちとかカンベンしてくれよ?」



 冗談めかしたクローリヒトの言葉に、「しません!」って答えながら――それを合図に。


 ウチらは揃って、芝生を蹴立てて〈呪疫〉の群れに突っ込んだ。



 お互い、まず一撃をもって目の前の〈呪疫〉を消滅させて――。


 どちらからともなく、背を合わせて死角を消し――。



 こちらを敵と認識したんか、一気に群がってくる〈呪疫〉を迎え撃つ……!



「カネヒラ! 左側お願い!」


「いい、いえす御意〜っ!」



 カネヒラだけやと、さすがに一撃で消滅させるのはムリみたいやけど……牽制の役目は充分に果たしてくれるから――。


 その間に、ウチは霊力を込めた〈織舌〉を振るい、〈呪疫〉を(はら)っていく。



 向こうの攻撃は食らえば強烈やけど、こっちも向こうを一撃で祓えるわけやから……。


 不意を突かれへんようにだけ気を付けながら、1体ずつ、確実に祓うように立ち回ればいい。



「……そら! 武者ロボ、無茶はするな!」



 ふと気付くと、トドメを刺そうと深追いして挟まれたカネヒラを、クローリヒトが割り込むようにして助けてくれていた。



「かか、かたじけのうござるぅ……!」



 やけど、そのせいで今度は、クローリヒトが死角から襲われる形になってて――。



「クローリヒトっ!」


「――――!」



 ウチの、名前を呼んだだけの一声に――。


 すべてを悟ったみたいに、素早く姿勢を下げるクローリヒト。



 そして、ウチも……そう動いてくれるのが確信出来てたみたいに。


 その動きを確認するより早く、クローリヒト自身を貫く勢いで〈織舌〉を突き出し――。



 彼が屈んだその向こう、肉薄していた〈呪疫〉を祓い散らした。



 そこから、続けて――



「シルキーベルっ!」



 クローリヒトの声に応えて、屈む彼の背中の上に、こちらも背中を合わせる形で乗っかり、向こうへ転がって……。


 背後に迫っていた〈呪疫〉の攻撃をかわしつつ、瞬時に位置を入れ替え――。


 その上で、着地ざまに〈織舌〉を大きく振るい、さらにクローリヒトを狙っていた2体を一気に打ち祓う。



 一方のクローリヒトも、上体を跳ね起こしざま――夜闇を真円に斬り裂くような、キレイな宙返り蹴りで……ウチの背後を狙ってた〈呪疫〉を消滅させた。



「――いきます!」


「ああ!」



 ――なにを、とかは言うてへんのに……。


 まるで分かってたみたいに、ウチが霊力を込め直して、いっぺんに広範囲を薙ぎ払おうと〈織舌〉を振りかぶるのにキッチリタイミングを合わせて、大きく跳び上がるクローリヒト。



 障害が無くなったから、遠慮なく思い切り一回転。


 巻き込んだ3体を一気に祓う。



 でも、他にも狙ってた4体が、とっさに範囲外に飛び退いてギリギリで難を逃れて――さらに、こちらのスキを突こうとするように、飛びかかってくる。



「させるか!」



 そのうち、最も近かった1体に、まだ空中にいたクローリヒトが跳び蹴りを食らわせる。


 さらに、その蹴りの反動で宙返りして――。



「――頼む!」


「はいっ!」



 ――半ば反射的に、地面に〈織舌〉を突き立てるウチ。



 クローリヒトは、そのてっぺんに手を置いて軸にすると――。


 逆立ち状態での回転蹴りで、飛びかかってきてた〈呪疫〉を一掃してしまった。



「「 よし、次――! 」」



 そうして――ウチらはまた、背中合わせになって構えを取り直す。



「さすがの動き、と言うか――戦いやすいな、お前とは」


「……そっちこそ。案外――察しがいいんですね」



 ……察しがいい……どころやなくて。


 あえてそれ以上のことは言わへんかったけど……それに、認めたないけど。



 以心伝心とか……そんなレベルで。



 向こうのやろうとしてることが分かって――。

 それに、こっちがやろうとしてることも伝わるって――。


 ――そんな、確信があった。




 そして、それは多分……ウチとおんなじように、そこまでは明言せえへんかったけど。



 クローリヒトも、思ってるって……なんとなく、そう感じた。




 ……でも、なんでやの……?


 前に助けてもらったときもそうやったけど、なんで……?




 まさか…………。


 ウチ、赤宮くんと同じぐらい、クローリヒトを信用してるってことなん……?




 ――そんなはずない。そんなわけない……!



 そう……そうやん。


 ずっと戦ってきたから、お互い、相手の動きがよう分かるって……それだけのこと。



 ……うん、そうに決まってる。


 信用とかやなくて、動きとか考え方に慣れてるってだけのことやん――。




 そんなことを考えてる間も、戦いは続いてて……。


 そのせいで、動きはほとんど無意識になってて――。




 それでもウチとクローリヒトのコンビネーションは……乱れへんかった。



 自然と動くその先に、クローリヒトの援護があって――。


 クローリヒトの動いた先に、ウチも、必要と感じる援護を置いていた。





 そうして――。


 一人やったらきっと、相当に手こずったと思う数の〈呪疫〉も、あっという間に数を減らして……。



 気付けば、他の個体より二回りほど大きい1体を残すのみになってた。



「さて――コイツで終わりか。

 予想以上に手間が省けた、お前のおかげだな」


「……こちらこそ。今回の協力については、素直にお礼を言います」



 ウチがそう言うと、ふと足を止めたクローリヒトは、こちらをジッと見てくる。



「……なんですか?」



「なあ、シルキーベル。やっぱり……お前なら理解出来るんじゃないか?

 たとえ、〈闇のチカラ〉だからって、有無を言わせず滅ぼさなくても、他に道が――もっと良い道があるはずだってこと。

 意志を持つ〈世壊呪(セカイジュ)〉を……滅ぼすばかりが道じゃないってことを」



「…………それは…………」



 以前、当のクローリヒトに問われたこと。


 ウチとしても、それから何度も、考えずにはいられへんかったこと――。



 それを改めて明確に問われたウチは、もう一度自分の心を見つめようとして――。




 ――その瞬間。




「「 ――――ッ!? 」」




 ウチとクローリヒトの意識が、揃って前方に向かう。


 そうして、なにかが来る――と、そう感じた刹那。




 いきなり、空を斬り裂く強烈な稲妻が、最後の〈呪疫〉を天から貫き――。


 まばゆい光とともに、文字通り一瞬で消し飛ばしてしまって……!




「…………!」



 しかも、驚くことはそれだけやなくて――。



 その稲妻が、宙に散ったあとには……人がおった。


 それも……なんて言うたらええのか……物語とか、ゲームで出てくるみたいな……。



 この世のものとは思われへん、神々しく輝く黄金の鎧に、頭から足まで全身を包み込み……大きな盾と剣を携え、マントを翻す〈騎士〉が。



「……お前は、いったい――」



 そう尋ねるクローリヒトの声に……ウチはいつもと違うと、違和感を覚える。



 でも、その理由はすぐに分かった。


 ウチもきっと、同じものを感じてたから。



 ――威圧感。



 そう……思わずすくみ上がりそうになるぐらいのそれを、〈騎士〉が放ってたから。


 あのクローリヒトが……声に緊張を混じらせるほどの。




「……わたしか。わたしは〈エクサリオ〉――」




 中性的で――男性やろうけど、女性のようにも聞こえる声で。


 表情も何もかも覆い尽くす兜の向こうから、〈騎士〉は応える。





「……万難を排し、世界を守ることを役目とする者――〈勇者〉だ」






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― 新着の感想 ―
[一言] 鎧武とバロン、555と913みたいに、時に敵対するけどいざ共闘するとすげぇ強いって感じのコンビって最高ですわ( ´∀` ) というか最後の勇者……こいつぁ問答無用でぶっ潰さんといかんニオイ…
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