表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ホームレスヒーロー。』  作者: あああ
第二章 Family memories ~紅と白の咆哮~
29/43

第七話 ホストのお仕事

「三名様入りました~!」


 イーグルさんの爽やかな声が店内に響く。

 イーグルさんと俺は三人の年配の主婦たちを挟むようにして、奥の比較的大きなテーブルに向かう。

 翼さんに光さん、キリヤはすでにそれぞれキャッチしてきた女性を相手している。

 キリヤと目が会う。キリヤは俺の前にいる女性方を見て、力強く頷いた。

 なんだその反応。もしかして、憐れんでるわけじゃねえだろうな。

 翼さんと光さんは女性の相手をしながら、こちらに向けて固まったままの笑顔を飛ばす。

 アンタたちもか。

 終いには、店長にすれ違いざまに肩をポンポンと叩かれる始末。

 アンタにだけは憐れまれたくない。何の役にも立たないマニュアルくれやがって、このヒゲ面。

 ていうか、俺が連れてきたわけじゃないからね。イーグルさんチョイスだから。

 しかも、何でそこまで憐れまれなければいけないの。

 確かに年配の人たちだけど、列記とした女性だぞ。

 そんなことを考える最中、ふとあることに気付く。

 アルコールの匂いがすることに。

 あれ、アルコールの匂い? 

 ……しまった。そうだ、そうだよ。

 ホストってお酒飲むんだよ。

 今更気づいたのかよ、俺。

 どうすんだよ、俺。

 だが、時すでに遅し。俺たちはもう椅子に腰を掛けてしまっていた。


「とりあえず乾杯しようよ。お姉さんたちの若々しい瞳に」

『いや~ね~、またそんなこと言って口が上手なんだからっ』

『しかし、男前よね~』

「ホントに? そんなこと言ってもらえるなんて嬉しいよ、お姉さんたち。ねえ、お姉さんたちに出会えた今日の運命には安い酒なんて似合わないと思わない?」


 イーグルさんはお姉さんたちに煽りを掛けている。

 目が本気だ。獲物を狩る鷲のように鈍い光を帯びている。

 本来ホストという仕事は、客である女性からどれだけ金を絞り出すことができるかという至って健康的ではない危ない仕事だ。

 差し詰め、仕事モードに入ったってわけか。


『そうね。それなら、この店で一番素敵なものをお願いしましょうか、奥様』

『そうですわね』

「この店ではドンペリのゴールドが一番だけど? いいの? いや、いいよね。だって黄金に輝く聖水ほどお姉さんたちに似合うものはないんだから」


 そうして、お姉さんたちにウインク。

 すると、お姉さんたちは歓声を上げる。


『きゃあーーーっ!』

『飲みましょ飲みましょっ。ゴールドちょうだあいっ』

「ドンペリゴールド入りましたーーーーっ!」


 イーグルさんの声が店中に響き渡る。

 すると店内に流れていたジャズの静かなメロディが消え、室内の明かりが消える。

 それから、先ほどの静かなメロディとは打って変わった胸躍るBGMが流れ、色とりどりのライトが辺りを飛び交う。

 なんだなんだ。一体何が始まるんだ?

 混乱気味になっていると、マイクを通しているような光さんの声がメロディにのって聞こえてきた。


「う~~~わっしょいっ、う~~~わっしょいっ、ドンシャン、ドンシャン、ドンペリわっしょい~~~!」


 え? なにこれ? 今これどういう状況?

 完全に混乱しきっていると腕を掴まれ立たされる。

 誰かと思い見てみると、キリヤだ。


「コールだ。高い酒が入るとみんなで祝うんだよ。とりあえず周りに合わせろ」


 キリヤは小声で俺に教える。

 コール?

 いつの間にか、ドンペリを注文したお姉さんたちのテーブルの周りにホスト全員が集まっている。

 チカチカと飛び交うライトのせいであまり顔は見えずらいが、光さんがマイクのようなものを持っているのが見える。

 周りに合わせろと言われても急すぎる。

 それ以前に、そんなものがあるなら早めに教えてほしいものである。

 俺、ホスト初心者だからね。何も知らない赤子だからねっ。

 だが、そんな俺の気持ちなどお構いなしにホスト共は進めていく。


「ドンドンドンドン」

『ドンペリじゃいっ、はいっ』

「じゃ、じゃいっ」

「シャンシャンシャンシャンっ」

『シャンパンじゃいっ、はいっ』

「は、はいっ」

「ドンペリ飲んでっ?」

『わっしょいっ』

「しょ、しょいっ」

「シャンパン飲んでっ?」

『わっしょいっ』

「わしょいっ」

「それじゃあ、みんなでっ?」

『いただきま~すっ!』

「き、きま~すっ」


 そうして、コールは終わり、店の雰囲気も元に戻る。

 あまりにも急すぎたため、ついて行くことができなかった。

 当たり前じゃん。コールなんてものがあるなんて、人生初今さっき知ったばかりなんだもの。

 騒がしいマイクとBGMにかき消されたことを祈る。

 他のホストは自分の持ち場へ戻って行ってしまった。

 戻り際にもれなく全員から、肩をポンポンと叩かれた。

 恥ずかしさで本気で泣きたくなった。

 すると、イーグルさんは持って来たばかりのドンペリを開ける。


「ねえ、お姉さんたち? 俺がこれを一気したら、もう一本ってのはどう?」

『きゃあ~~~っ! 一気みたいわあっ』

「ついでにほっぺにチューもしちゃうよ?」

『チューしてほしいわあっ!』

「オッケーっ。それじゃあ、いただきま~す」


 そう言って、瓶ごとラッパ飲みを始めた。

 一気って一気飲みのことか。

 ていうか、大丈夫なのか? 一気なんてして?

 だが、俺の心配なんぞ関係なく、瓶に入っていたドンペリはどんどん無くなっていく。

 そしてイーグルさんは、一滴残らず飲み干しテーブルに力強く置くと、お姉さんたちのほっぺに「ごちそうさま」と言いながらキスをしていく。


『きゃ~~~っ。チューされちゃった~っ』

『イーグルちゃんカッコいい~~~っ!』


 お姉さん方は大喜びだ。

 ウミサルでも瓶を一気飲みしているところを見たことないので、普通にすごいものを見てしまったという感覚に陥る。

 十九歳の飲みっぷりとはとてもじゃないが思えない。

 さすが、本物のホストだ。

 イーグルさんはドンペリをもう一本持ってきて、お姉さんたちのグラスに注いだ。


「さあさあ、お姉さんたちも飲んで飲んでっ」


 お姉さん方は言われるままにグラスを空にしていく。

 それから俺の出番もやってきてしまう。


「ほらほら、デウスも飲んだ飲んだっ」


 俺は必死に抵抗するが、イーグルさんに無理やり瓶ごと飲まされる。

 少ししかなかったためすぐに飲み干し解放される。

 って、なんだこのドンペリって酒。

 喉が焼ける、舌がしびれて味もよく分からん。

 こんなものをイーグルさんは一気したのか。なんて末恐ろしい。

 しかもなんだか、目の前が霞む。

 いかん。いかんぞ、このアルコール量っ。

 俺がむせているのを喜ぶお姉さん方に、イーグルさんはさらにおねだりをする。


「ねえ? あと、二本頼んでいい?」

『二本? なんで同時に?』


 お姉さん方の質問に、イーグルさんは指を立ててこう言う。


「この店にはね、特別な見せ物があるんだ。それを見るにはボトルを二本頼まなければいけないんだよ」


 特別な見せ物? そんなものがあるのか。

 ホント、そういうこととかは最初に教えてもらえないだろうか。

 さっきから知らないことだらけなんだけど。


『何かしら? シャンパンタワー?』

「いいや。そんなものよりも刺激的でダイナミックなヤツだよ」

『あらまっ、タワーよりすごいものなんて、見てみたいわあ』

『見せてちょうだいっ、見せてちょうだいっ』


 アルコールが入ったからかもしれないが、お姉さんたちも結構ノリノリだ。

 それにしても、この人たちよくお金あるな。

 お酒の値段なんて分からないけど、相当なものなのは確かだと思う。


「店長! ゴールドでバーサーカー入りました~~~っ!」

「おおうっ!」


 イーグルさんの呼びかけで、店長の勇ましい声が返って来る。

 バーサーカー? なんともまあ、ダイナミックな名前である。

 すると、またしてもあたりは暗闇に包またと思いきやライトが伸び、今度は太鼓のBGMが流れ出す。

 散り散りになったライトが一か所に集まったかと思うと、そこには店長がいた。


「只今より、バーサーカーをお見せします。良い子のみんなは真似しないようになっ!」


 そう言ってバーテンの服を胸から破き散らす。

 服に隠されていた肉体美が露わになり、なぜか蝶ネクタイだけが首に巻かれたままだ。

 それから、両手に二本のボトルを持ち、栓を親指で開けた。

 何をする気だ? もしかして、口から火を噴くわけじゃないだろうな。

 そんな俺の予想は、豪快に裏切られる。

 ゆっくり両手を大きく開きながら瓶を頭の上まで上げると、太鼓の盛り上がりと同時に一気に下に瓶の口を向けたのである。

 二つの黄金の滝が店長の口めがけて、轟き落ちる。

 ダブル飲みである。

 その姿はけたたましく叫ぶ鬼のように豪快で、まさしくバーサーカーと呼ぶに相応しい所業だ。

 瓶の中の液体は見る見るうちになくなり、最後の一滴までを飲み干すと、瓶を持った両拳を合わせて感謝の意を表した。

 その動作と共に拍手と歓声が飛び交う。

 俺も思わず拍手をしていた。

 さっきのイーグルさんの一気が小さく思えるくらいの、気持ちの良い飲みっぷりだった。

 しかし、冷静になって考えてみると、あの人が早死にすることは間違えない。

 あんなことするから、二日酔いになるのだ。

 店の雰囲気が戻ると、女性陣は盛り上がりまくった。


『きゃーーーっ! 店長もワイルドね~っ』

『素敵だったわ~っ』

「それはなによりだよ。ささっ、勢いにのって飲んじゃおう」


 そう言って、またどんどん飲ませ始める。

 俺はそれに横から深入りにしないように関わる。

 そうして、場が盛り上がっていくとイーグルさんはさらに物凄いことを言いだす。


「俺、今日レディたちに出会えてすんごい幸せだよ。レディたちは?」

『もちろん幸せよお~っ』

『もう最高だわあっ』

『帰りたくないわよ~』

「そう? それならさ、この幸せをみんなにおすそ分けしてあげようよ。俺たちだけで楽しんじゃ、罰が当たっちゃうよ」

『そうよねえ、それなら皆さんのテーブルに二本ずつボトルをお願いしようかしら』

「え? いいの? でも、これ以上は現金じゃ受け取れないよ……」

『大丈夫よ。カードがあるから』


 そう言ってその女性は、カバンの中からあるカードを取り出す。

 見たことのない真っ黒なカードだ。

 ……ん? 真っ黒なキャッシュカード?

 ―――って、ブラックカードぉぉぉぉぉぉぉっ!?

 ブラックカードといえば、クレジットカードの中の最上位に位置する、限度額無しの無制限で使えるカードのことじゃねえか。

 その辺に居そうな主婦が持ち歩くものではないぞ。

 そこでハッと気付く。

 イーグルさんはこれを知っていたのか。

 このお姉さんたちが富豪であることを見分けたイーグルさんが、この人たちを狩ったのだ。

 そういえば、妙に高そうなアクセサリーをしていたな。

 イーグルさんの表情を見てみると、いつもの爽やか笑顔だ。

 俺は改めて、この人の恐ろしさを知ったのである。


 その後もイーグルさんの勢いは衰えることはなかった。

 甘い言葉や様々な表情、場の雰囲気を読みながら、お姉さんたちから次々と金を巻き上げていく。

 まさに、イーグルさんの独擅場だった。

 テーブルの上は瓶だらけである。

 もちろん俺も飲まないわけにはいかなく、味のよく分からん酒を少しずつ飲んだ。

 ヤバい。くらくらしてきた。もうそろそろ酒控えないと。

 そう思っていると、俺たちのテーブルの前に翼さんがやってきた。

 メガネをくいっと光らせ、俺に人差し指を突き立てる。


「デウス君っ!」

「は、はいっ!」


 いきなり大きな声で名前を呼ばれたので、つい俺も大きく返事をしてしまう。

 なんだ、いきなり。


「君に、物申~~~すっ!」


 どこのタイツ野郎だ、と思ったがツッコミはしない。

 ていうか、翼さん酔ってないか?


「な、なんですか? 翼さ―――」

「僕とメガネキャラが被ってるんだっ!」

「―――は? もう一度言ってもらっ―――」

「だから、僕とメガネキャラが被ってるんだよっ!」


 聞こえてるよっ。二度聞いたのはアンタの頭が大丈夫か試したんだよっ!

 ていうか、全力でどうでもいい絡みされてるっ!

 ……よし、まずは冷静に対処しよう、俺。

 心はホットに、頭はクールにだ。

 俺は冷静に考え、メガネを取ることにした。

 そうすれば、メガネキャラというものが被ることはないと思ったからだ。


「おっと、デウスっち。その手を止めた方がいいぜ?」


 すると、光さんがこちらに歩きながら、そう言う。俺はメガネに掛けた手を下ろす。

 なんだこのあからさまに異様な雰囲気は。


「ひ、光さん?」

「翼さんは本気だぜ? 本気でメガネという名の命を懸けようとしてるんだ。デウスっちがそれを取っち

まったら、これはお前さんの不戦敗になっちまうが、それで……ホントに……いいのか?」

「はい、いいです」


 俺は即答すると、再びメガネに手を掛ける。

 なんで二回溜めたんだ。

 それにメガネに命賭けるほど、俺の目は落ちぶれていない。


「ちょっと待てよ、デウス」


 今度はキリヤの声が俺の手を止める。

 次はお前か。

 メガネに掛けた手をまたしても下ろす。 


「なあ、デウス……」

「な、なんだ?」

「……ストロンチウムって、なんか強そうじゃねっ?」

「……どうでもいい」


 俺はメガネに手を掛け、外そうとする。

 キリヤ、お前はなぜ今入ってきた。

 それに入ってきたのになぜ、よりにもよって元素名なんだ。

 確かに名前からして強そうではあるけど。

 ていうか、なんだこのコント。誰から始まったんだ。


「ねえ、デウス」

「今度はなんですか、イーグルさん」

 

 俺は半分呆れながらメガネから手を下ろす。

 これが最後であることを願うだけだ。


「正義の味方が敵を前にして、降参するのかい? 護るものも護れず地面に這いつくばって、敵がおめおめ大切なものを奪っていくのをそこから見てるのかい?」


 そのイーグルさんの言葉で俺は胸の奥に、小さく光るなにかを感じた。

 正義の味方が敵前逃亡?

 そんなことをしていいのか?

 俺の後ろには護るべき大切なものが、大切な未来があるのではないのか?

 小さく光ったなにかは、段々俺の中で激しく燃え出し、業火となる。


「分かりました。良いでしょうっ。その挑戦受けて立ちますっ!」


 俺の人差し指はまっすぐに翼さんのメガネに向かって反り返る。

 ……って、あれ?

 なんか、のせられた?

 護るべき大切なものってなんだ? フレームの薄いメガネか? なんと薄っぺらい。 

 しまった。イーグルさんにうまくのせられてしまった。


「い、いや、やっぱり―――」

「ふっふっふっ、いいだろう、デウス君。どちらがメガネキャラに相応しいか、勝負をしようじゃないか」


 もう遅かった。この人、ノリノリだよ。

 俺はイーグルさんを睨む。イーグルスマイルで軽くかわされた。

 ちょっと待てよ。メガネキャラをかけて勝負?

 ……くだらん。

 だが、もう何もかもが遅かった。

 店内は盛り上がり、勝負を避けられる雰囲気ではなかったからだ。

 気が付けば、テーブルの上に翼さんと手を固く握りあっていた。

 腕相撲である。

 しかも、店にはさっきより人が入ってきており、バーの方でも仕事帰りのオッサンたちが飲んでいた。

 ここって、ホストクラブだよな。

 いや、ホストバーだから別に良いのかって、あまり良くはないか。

 だって俺たちが今からやることが見せ物にされるんだもの。

 ていうか、店長なんで賭け事してるの。

 さらに言えば、なんで服着てないままなの。服着ろよっ。


「審判はオレがやるぜ」


 キリヤは目をギラギラさせながら、固く握りあっている手の上に両手を置く。

 翼さんの目がレンズを通して、俺に突き刺さる。

 その視線から目を逸らしながら、ある作戦を思いつく。

 そうだ。苦戦するふりをして、負けよう。

 そうすれば、誰も傷つかずに済むじゃないか。

 俺って結構頭いいんじゃないか。

 それに翼さんが弱いとは限らないし。

 案外、俺の負けでさっさと決着が着くかもしれないじゃないか。

 そして俺は、翼さんの目を見返した。


「よ~し、始めるぜ。レディ~~~、ファイトっ!」


 キリヤのスタートコールで俺は力を入れる。

 テーブルと手に、大きな衝撃が奔る。

 勝負は本当に一瞬だった。


「……デウスの勝ち~~~っ!」


 キリヤは俺の手を握る高らかと持ち上げる。

 そうして、店内が驚きと歓声で湧く。


『デウスちゃんすごいわあっ』

『素敵よお~っ』


 ……あれ? 勝っちゃった。

 翼さんは顔を伏せている。確かに俺の手は翼さんの手を下敷きにしていた。

「デウスっ! お前やるなあ。華奢きゃしゃな体のくせに」

 キリヤはそう言いながら、目をキラキラさせている。

 コイツはこれでも褒めているつもりなのだろうけど、最後の華奢な体のくせにはいらない。

 それにしても、随分と軽かった。 

 力を入れ過ぎた? いや待て。

 苦戦して負けるためにも、少しは力を入れたがそこまでの力は入れてないはず。

 少なくとも、一瞬で結果が出るほどの力は入れてないはずだ。

 ということは、結論はただ一つ。

 翼さん、腕相撲めっさ弱い。


「まだだっ、まだ終わらんよっ!」


 翼さんは顔を勢いよく上げ、カウンターの裏へまわり、またこちらの方へ走ってくる。


「これで決めよう」


 そう言って、手に持っているのは栓を抜いた二本のボトル。

 いや~な予感がする。


「これで決めるってまさか」

「そうだ。一気対決だ」

「いやで―――」

「デウス君に拒否権はないのだよ。そうだろ? みんな?」


 翼さんの声に応えるかのように歓声が返ってくる。

 オッサンたちの声に若い人の声、さらには―――


『デウスちゃん頑張ってえ~っ』

『勝てたら、チューしてあげるわあ~っ』


 このような姉さん方の生暖かい声援まで聞こえてくる。

 この空気は絶対やらねばならない、空気だ。

 まだアルコールが抜けてなくてくらくらしてるってのに。

 これはアレだな。

 ……俺、死ぬんじゃねっ?


「キリヤっ、頼むっ」

「ういっすっ! さあ、レディ~~~」

「えっ、ちょっ待っ―――」

「ファイトっ!」


 俺は一気に瓶を上げ、中の液体を口に流し込む。

 いつの間にか俺の見る世界は、逆さになり、歪みに歪んだ挙句、暗転する。

 白黒だったはずの天井が黒一色に染まりきっていく。



感想やアドバイス、誤字・脱字などの指摘お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ