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6:3兆円返済のあて、レギストス司教


「ついたぞ、この先に司教様がいる」


石造りの重そうな扉をカエサルが押し開けると

ヒンヤリとした空気が肌にまとわりつく。


「お邪魔します……」


バタンと扉が閉まる音は、薄暗い教会内を反響する。

私はカエサルの後を付いて歩く。


「うぉーぅ……」


上を見上げれば、外観からは想像出来ないほど天井は高く、視界の果てで闇に溶けている。

細長い窓から差し込む光は、色付いたガラスを通して床を照らす。

ステンドグラス特有の赤や青の模様が影となり、静かに揺れていた。


そして規則正しく並ぶ長椅子。

誰もいないのに言葉にならない残り香と気配を感じた。

人々の祈りの想いが長い時間を掛けて染み付いたんだろう。


──私の国にもこういう場所あったなぁ。

悩みを聞いてくれる神父さん(魔女)が居て、皆その人に洗脳されてた記憶。



「突然のお願いであったのにも関わらず、ご対応して頂き感謝いたします。

──レギストス司教」


教会の最奥の祭壇にその人物はいた。


「これはこれは……ミスターカエサル。ご足労をかけたな」


振り向く白衣姿の男性。

上に重ねられた真紅のストールに、胸元には銀の十字架。


年齢は判別すると、五十か六十代くらいだろうか。

静かな顔立ちだが、その目は異様なまでに澄んでおり、まるで私たちの内側まで見透かしてくるようで、少し気味が悪い。



「──怖がらなくてよい。ここへ来る者は皆、同じ顔をする」


司教はそう言い、

私に向けて柔和な笑顔を向けてくる。


……ほらね。見透かされた。


「申し訳ございません、司教。

訳あってコチラの者も同行させたのです」

「……どうも、ゲビルです」



「其方──魔女であろう?」

「ッ!」

「な、何故それを?!」


「怖がらなくてよいと言ったのだ。

ここでは誰も、其方を裁くことはない」



♢♢♢♢♢


私たちは教会の奥にある、長椅子へと腰を掛けた。


正面に座るのは、この国の最高指導者──レギストス司教。年齢を感じさせる落ち着きと、どこか底知れない静けさを放つ。


私の隣に座るカエサルは、一度深く息を吸いこんでから目的の話を切り出した。


「この国を魔物の侵攻から守ってもらう代わりに──彼女の借金を肩代わりする、と」


その声は、深く厳かなものに聞こえる


「はい、大変申し上げにくいのですが……即金で五千万ほど……」


その雰囲気に押されて、カエサルは言いながらも申し訳なさそうに視線を落とす。


対して司教は、微動だにせず静かに頷きながら耳を傾けている。


「寝ぼけないでください、七千万です」


その会話を静かに聞いていた私だが、それを聞いて思わず二人の間に割って入る


お値段のちょろまかしは許しません。


「……すみません。七千万をなんとか明日までにお借りすることは出来ますでしょうか?」


カエサルが言い直して訂正する。


「いいだろう」


躊躇いもないあっさりとした返答。

私とカエサルは、思わず顔を見合わせる。


彼もまた、拍子抜けした様子だった。


「この国ひいては人々を守って頂くのに、お金という情報はあまりにも安いモノ」


その声は穏やかだが、確固たる意志を含んでいた。


「迷いのないご決断ありがとうございます。レギストス司教」


その言葉にカエサルは、勢いよく立ち上がると深々と頭を下げた。


それは角度約五十度の最敬礼。


そして顔をあげた彼は、今度は私の方へと振り向き──爽やかな笑みで、グッと親指を立ててきた。


これから七千万の借金を背負うというのに……なぜ自分のことのように喜ぶのか、不思議な人だ。





「──しかし、ゲビル殿よ」


周囲の空気が一瞬、ピタリ……と、張り詰めた気がした。

私の名を呼んだ司教の雰囲気が一変したのだ。


先ほどまでの柔らかい声音は、研ぎ澄まされた刃のような鋭さを帯びていた。

初めて会った時と同じ、あの澄みきった底の見えない眼差しに変わっていたのを、


私は見過ごさない。


「この国──ローマの歴史は存じておるか?」


表向きは静かな問い。だが、その裏にある意図を透かして見る。

一拍を置き、私は答える。


「……いえ。ですが言いたいことは凡そ察しがつきます」


司教の視線は、揺るぐことなく私に向けられる。

それに対峙するように、言葉を紡ぐ。


「人々の異様なまでの魔女への敵意──私に求めるのは、身分の開示……でしょうか?」


私の言葉に司教は、わずかに目を細め、


「──仰る通り。魔女とは実に、聡明な種族のようだ」


その評価に、私はなにも返さない。

ただ、やはり、という気持ちで、

私は静かに息をつく。


そんな事だろうとは、薄々気付いていた。


──国を守るのが、その国の安寧を脅かしていた魔女(そんざい)だと知れば、一体誰が受け入れるというのだろう?

猛獣を飼い慣らすには、その猛獣が暴れないだけの絶対的情報が必要なのである。



「魔女と魔術、そしてその国の情報を要求する」

「お断りします」


その言葉の直後、急速に空気が冷え込む中で私は、

司教へ軽く頭を下げて、礼儀としての謝意を残す。


隣で息を呑む気配を感じたが、気にしない。


そして立ち上がると、入口へとそのまま踵を返した。


「ま、待てゲビル!!」


背後から腕を掴まれる。

振り返ると、焦燥を滲ませたカエサルがいた。


「……交渉は決裂です。これ以上の条件を飲む理由が、私にはありません。

これから別の国に移りますので」


私は淡々と言い放ち、掴まれた腕を振り払う。


「な、なぜ」


困惑した表情を浮かべるカエサル。

その問いに対して、私は呆れるように息を吐く。


「一国の兵士である貴方が、自国の情報を売るということがどれほどのことか想像つきませんか?」

「ッ!……」


彼の表情が強ばる。


「それは、反逆行為です」


その言葉は静かに、教会内に反響していた。

何も言い返してはこない彼を一瞥し、私は再び背を向ける。


もうこの場に、用はなかった。


「では」


足を進める。


背後から何かを言おうとする、または実際言っていたのか分からないが。

私を呼び止める、そんな気配が伝わった……が。


私はもう、足を止めることはないだろう。

そして振り返りもしない。




──何せ、私はこの国とは無関係な存在なのだから。





魔術とは、大罪欲(マナディザイア)と呼ばれる7つの大罪を司る者が行使できる力です。


欲望に忠実でそれに満ちているほど濃度が高く、魔女化する前の人生により司る罪欲が決まる。

基本一人一つ、多くても二つが基本であるが、上位層と呼ばれる者達の中では、3つを越す者もいる。


複数を宿すと欲望に飲まれて自我を失い、怪物になるとされているが、一番多くの罪欲を所有するエクスラリリィ・イアリリスは“5つ”であり、自然発生ではそれが限界値とされているようです。



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