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魔法は無料じゃないですよ?  作者: 魔女見習い
第二章 魔法創世
10/11

10:動き出す魔法計画


司教との取り決めから一夜して。


静まり返ったローマの空は群青色。

それが次第に、東の端から光が溢れだし


一日のはじまりを告げる。



時刻は早朝六時。カエサル宅。

このローマを守る防衛術──“魔法の作製“に、私たちはすでに取り掛かり始めていた。



「魔法に必要なのは、この五つ──」



──魔法の核となる心臓──”精霊因子(パーティクルコア


──人の意志に呼応する心──“憑依霊スピリット


──発動を告げる声──“巨鳥人ガルーダ)


──爆発的な血液──“獅子龍バハムート


──それらを調和をする器──“鉄巌鉱(メタルロック)




「これら魔物たちの特質を掛け合わしてカタチにする──要するに複合術(キメラ)です」


「おお!!なんだかそれっぽいな!」


浅い感想を言い、やる気を漲らせる男カエサル。



「魔法は、あくまで武器というカタチでいきます」



それは魔術との差別化のためだった。


魔術の本質は非常に単純だ。

突き詰めればたった一つに収束する。


──大罪欲マナディザイアという欲望、ただ一つの原理である。



だがそれをそのまま扱えば、魔術の核心に必ず辿りつかれる。

魔法が解析されたとき、その情報にたどり着かれないよう、参考にするのは武装としての利便性のみ。



完全な別物。

そう見せかけるのは、ローマと魔女の国──双方のためにもなる。



「では必要行程をリスト化したので上から順に

討伐して、素材を採集していきましょう。


これを今日含めて三日で行います」


「!み、みっか?!これ全部?!」


当然。


「素材を集めてからそれらを解析、加工、成形という作業が控えています。

素材採集のハードルが一番低く、日数をカット出来るのはここしかありません」




「……これは本来予定していた計画メインプラン)ではない、代替案サブプラン)

不安を感じているのは、私も同じです」




私が元々考えていたのは、人間の身体機能の改造──進化だった。


カエサルを痛めつけて、目覚めるまでの間、

私は彼の家で埃を被っていた書物で知る。


人の臓器には複数備わっているモノがあるのだと。

しかもそれは保険のための余剰であり、一つ失ったところで生存には問題ない。


ならば、


その機能の冗長性を失わせ、そこに新たな機能を追加させることが出来れば、


進化という領域に辿り着けるはずの算段だった。



しかし進化それには時間が掛かる。



だから私は、あの教会の場で、思考を焼き切るほどに頭をフル回転させた。


複数の案を即興で弾きだし、

リスクと時間を天秤に掛け、


そして──この案を選んだ。




「……そうだな。そうだよな、ゲビル!」


「今は嘆いている暇はない!

早速その“バカタレコア“の皮、

剥ぎ取りに行こうぜ!」



勢い任せの言葉に、私は小さく息を吐く。


朝からこのハイテンションは、低血圧な私にはちと眩しい。



「……“パーティクルコア”、です。それに皮ではなく核です」


訂正は短く、正確に、


「ここから各個体の座標を算出して打ち出しますので、少し落ち着いててください」


そう言うと私は、懐から小さな鉱石を取り出した。


──くすんだ透明色。

それはどこにでも転がっていそうな、

ただの石にも見えることだろう。



「その変な石ころは?」


彼の目は正しい。


「……これは方解石ほうかいせきです。

位置を特定するのに不可欠なアイテムです」



指先でつまみ、それを朝の陽の光へとかざす。



これは魔女の国を出る際に持ち出したもの。

とても軽く、その語源は『方角を解する石物』から。



光を当てた方解石は、内部で光の乱反射を起こし、通り抜けた光の線がふたつに別れる

──複屈折を利用して、方角と距離を炙り出すのだ。



「ふんふん……最も近いパーティクルコアは、

北西五十度」


方解石に当たる光を少し調整して、距離を測る。


「距離は……お昼くらいには付きそうですね」


私は見えない地図を脳内で展開し、

今日一日のおおよそのプランを練る。




「おっしゃ!じゃあ箒持ってくる!」

「え?箒?」


勢いよく玄関から飛び出そうとするその背中に、

私は慌てて声を掛けた。



「ちょっと、カエサル!」


良かった、止まってくれた……。

いやでも、


「あなたの持ち物は、銀長剣グラディウス)のはずです。

レレレをしている場合ではありませんよ」


「?何いってんだ?

魔法で空飛ぶのに箒を使うんだろ?」



……頭が痛い。さっき珍しく大きな声を出したからなのか。



「あなたの魔女像を一旦記憶から消してください」



──魔女は鳥ではありません。

自力で空を飛ぶ能力はないです。



そう説明をしてカエサルを叱る。

苦しいが、移動は徒歩であることも伝えた。




……箒ではないが、万能AIai傘あいあいがさがあれば話は早い。

あれ一つでどこへでも飛べる。



後はアイビス……が、これもダメ。


二人で移動出来るものでなければ……。



「……って、カエサル?」


──返事がない。先程まで隣にいたのに……。



……もしかしてあのバカタレマン、箒を探しに行ったのでは──



一瞬だけ考えたが、さすがに言った手前、それはないだろう。



姿を消したカエサル。



そんな彼のことはほっておき、

私は残っていた旅支度を片付ける。


現地で調達できないモノだけを選び、

カエサルの使い古されたリュックサックに詰め込んでいく。


無駄を削ぎ落とした三日分の荷物の用意も終わる。



「……カエサルは、一体どこに行ったのでしょうか」



静まり返る室内。

そのとき、


「ヒヒィーン!」


鋭い嘶きが玄関先から聞こえてきた。


私は荷物を持って急いで外へ出る。


扉を開けた先──


「……ぁ──」


朝の光の中に、彼はいた。




「ゲビル!馬に乗るのは?」


白い毛並みを輝かせる、堂々とした一頭の馬。

そしてその背に跨る、

誇らしげなカエサルの姿。


一瞬だが、私は目を奪われていた。


「……初めてです。

その馬さん、どうしたんですか?」


「知り合いの馬主さんに声掛けといたんだ。

“なにかあれば貸してくれ”ってな!」



カエサルが差し出した手を取り、引き上げられるままに鞍へと跨った。


私の背丈を超える馬さんの背中は、

思った以上に高く、

揺れる大きさもそれなりのものだった。



「初めてにしちゃ安定してるな」

「軍事訓練で似た経験をしましたから」



思い出すのは、必修科目アイビスを習得するために叩き込まれた、過酷な訓練の日々。

平衡感覚を狂わせる反復に、焼き付けるような三半規管。


何度も視界が回り、体を地面に打ち付けられ、

あの頃の不快感は、思い出すだけで胸の奥の胃液を想起させる。



「もうあんな思いは、したくありません」

「……そうか」


と、揺れる体を無意識に整えてると、

カエサルが口を開く。




「……俺は、ゲビルみたいに頭は良くないし気も回せる方じゃない」

「ええ、そうですね」


私が即答すると、目の前の広い背中が少し縮こまった。


「ぅ……で、でも、

──ゲビルが足りてない穴は、俺が埋めてやるから」

「え……?」



その言葉に私は──何も返せなかった。




……ただ、ほんのわずかに、視線を伏せるように

心を落ち着かせていた。




「よし、行くぞ!!」



勇ましいその声とともに、白馬は地を蹴った。


風が頬を打つ。

景色がグングンと流れていき、カエサルの小さな家は一瞬にして見えなくなっていった。



ただ前へ、風を切り駆け抜ける。



嫌な記憶も躊躇も、言葉に出来なかったあの感情も、全てを置き去りにして……。



──ふと、思い出す。


私には昔、好きだった本がある。


それは幼い頃、何度も繰り返し読んだ

一冊の絵本。



白馬に乗った王子様が、お姫様を迎えに来る物語。


荒唐無稽で現実味のない、子供じみた物語。




……けれど今、


風を切るこの背中を見ていると、



カエサルはまるで、



夢にまで見た──








王子様のようであった。



博識!ゲビルちゃんの一口メモ!


後日追加します。

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