1:巨乳税に敗北
「お前、貧乳じゃないだろ」
「急になんですか……」
早朝の7時前くらいだろうか。あたりはまだ薄暗い。
突然の訪問者に眠い目をこすりながら私は生返事をする。
「”巨乳税の滞納“──3兆4600万50円、直ちに支払いを命ずる」
「…………ん?」
──ほどなくして意識が覚醒する。
扉の前には軍装ドレスを着た女性が複数人。
皆誰もが見上げるほどの背丈なのは、
ハイヒールを履いているからか、
私の背が低いだけか、
この際どうでもいい。
「──てあー!お役人の方々!」
「ゲビル・クニャージ。
バストサイズを日常的にCカップだと偽り、納めねばならない税金を払っていない。
常習性のある極めて卑劣な行為だ」
「あ、あス……スイ……」
淡々と響く声
私汗ダラダラ
「ま、リーダーは『支払いを命ずる』とは言いましたけど、ゲビルに支払い能力なんてない。
よって今からこの部屋にある荷物、全て差し押さえます」
「うええええ!?差し押さえぇ?!
ま、マジですか?!えしかも今?!」
顔も洗ってないのに!
「封書は見たか?
折り返しの連絡がない場合、強制執行と書いてあっただろう?」
「ふ、ふっふ!」※封書と言いたい
「産まれそう?」
取り巻きに背中をさすられる私
「……馬鹿。虹色の、すぐに目に付く」
虹色の封筒……警告を示すカラーで一番ヤバいやつ。
「いや、分カラナイ。言ってるがよく意味が」
「貴様のスリーサイズはB:86 W:56 H:79。
身長は152cm体重は4ー」
「わーわー!!乙女のヒミツ!オトメの秘密!!ダメー!」
「最近またバストアップしただろ。そういう情報はここでは隠し通せないぞ」
ドキリ
「このトンデモナイ怠け者め。
滞納額約3兆円を稼いでくるまでそのツラ見せるな」
かくして私は借金を抱えホームレスになった。
♢♢♢♢♢
ヒュオオオ……
「……おおぅ、ヴァリスティルや……。
今日でお別れなんじゃ」
「……グオ」
家を失った私は、何十年ぶりと外に出た。
前回の記憶では外はこんなにも寒くなかったハズである。
「私はただ、仕事で精神をやられたからお家で療養してただけなのに。しかもギリギリの生活で。
な、の、に!
こんないたいけな女に借金3兆円を返すまで帰って来るなって!
うわあああん!国に捨てられたああ!!」
「……グ、グオ……」
スリスリ。
「……ヴァリスティル、お前は偉いなぁ
こんなにもカラダを冷たくしてるのに、自分の仕事を頑張ってる」
「……いや鋼だからこれが普通か」
身を寄せていたこの犬みたいなヤツはヴァリスティル。
バリスタとスチールを掛け合わして創られた幻想神族である。
「私だってなあ、夜間哨戒班に配属さえされなければこんなにはなってなかった。
ここは私が生きるには辛過ぎるよ」
「ハァ……」
自宅を差し押さえられ、そのうえ返せる見込みもない借金を
さてどうしたものか。
「──復職希望の子かい?噂は聞いたよ」
声がした方へ視線を向ける。
誰もいないと思っていたのに声をかけられた、
その多少の同様と驚きを隠しながら。
「借金3兆円だって?ウケる笑」
振り返った先には私の家を奪った
憎き役人と同じ格好をした女性が立っていた。
この人、確か……。
「壮年術師のYさん」
「概念術師!!そんな老け込んでらんわ!」
概念術師──概念魔術という極めて稀な適性を持つ
通称:高級取り
「そんなリッチメンが私を嘲笑いに来たんですか?」
「おいおい、昔のお前はそんなに捻くれてなかったぜ?
新卒ピチピチ時代を思い出せ」
「……すぐに鬱になりましたよ」
「……それはすまなかった。
その詫びに私に出来ることあれば協力するぞ?」
「え?……そうだなぁ」
──あ、それなら、
「──え?借金を返すつもりか?」
「はい。巨乳税とか本当、馬鹿らしくてクソ国だと思ってますけど、暮らす環境は充実してますから」
「だからYさん、お金持ってそうな国に私を転送してください」
♢♢♢♢
魔女の国、儀式の間──の隣の部屋。
「いいか、私の概念魔術は一回5000万の価値がある」
「分かりましたって。何度も言わないでください」
今からやろうとしていること、それは近隣諸国への転移動。
それを可能にするのがこの扉。
この先はトイレなんだけど、トイレへの入口という既成概念を消費して、別の入口にしてしまおうという、極めて原理が不明な魔術である。
概念という世界のルールを書き換えるため、
この魔女の国からトイレが一つ消えるという訳だ。
「相変わらずトンデモ魔術ですね」
「一度消費した概念は二度と戻らない。不便も多いのさ」
「5000万のトイレが一個消えるだけです」
「ったく、私の魔術は戦略兵器に扱われるくらいなんだぞ?それをただの出稼ぎに使ったなんて知られたら私の首だって……」
「かわいい後輩のためだと思ってください」
なにやらブツブツと文句を言っているが、
何故か嬉しそうな表情を浮かべるYさん。
そうこうしてるうちに準備は完了したらしい。
「そんじゃ行くぜ──《私の掌握術》」
概念術って大罪欲の派生だったのか。
《移送換門》
「うぉーう……」
扉の色が白から青へ移り変わる。
かと思えば直後、その隙間から光が漏れだす。
扉の向こうから聞こえる喧騒。
分からないが概念魔術は成功したのだろう。
「ありがとうございます。次は巨乳税の概念も消費しておいてください」
「概念としての蓄積が浅いのはちょっと難しいな」
この先私は、3兆円を超えるお金を稼いでここへ戻って来なければならない。
それは全て、自分の世界を取り戻すため。
本当はもっと準備とかしたい派だが、こんな無一文ではそうは言ってられない。
「必要に迫られた状況ならやるしかない」
私はYさんに会釈をし、魔女の国へ別れを告げた──。




