女子会
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リズに教会の話を聞いて、落ち着かない気持ちでソワソワしていると、背後から弾んだ声が聞こえた。
「セリアちゃーん、みーつけた!」
この声と共に、背後からギュッと抱きしめられる。
ふわりとした甘い香りがして、頭には柔らかくも重たいものがのっかった。
「ローラおねーちゃん、重たいでしゅ」
私は情けない声を上げた。
後ろを振り向くと、抱きしめているのは予想通り、ランド・エッジのローラだった。
そして、頭に乗っかっていたのは、ローラの大きな胸だったらしい。
ローラの傍には、パーティーリーダのカイと、獣人のロイドが、笑顔で立っているのが見えた。
「ローラ、セリアちゃんが苦しいだろう」
カイが笑いながら注意すると、ローラは「えー!」と声を上げ、ようやく私を解放してくれた。
「もう!リズもセリアちゃんもずるいわ!二人だけで仲良くおしゃべりしてたなんて!」
ローラは頬を膨らませて騒ぎ出した。
「私も、セリアちゃんとお話したいわ。そうだ!今、そこで売っていたクラッカーを買ってきたの。一緒に食べましょう!ね、リズも!」
「それはいいわね。セリアちゃんは、まだ食べられるかしら?」
リズはハーブティーを一口飲むと、穏やかに微笑んだ。
「お菓子は別腹でしゅよ!」
「決まりね!!」
ローラがそう言うと、カイが少し離れた席を指さながら、
「俺たちは、ちょっと明日の予定を相談してくるよ」
と、ロイドと二人で別のテーブルへ向かっていった。
「女の子だけになったわね!」
ローラが楽しそうに言うと、少し離れた席から見ていたカイが
「女の子?女の子はセリアちゃんだけだろう」
と呟くのがはっきりと、こちらまで聞こえてきた。
「カイ?あとで、ちょっと話し合いが必要ね」
とローラの低い声が響く。
「ヒッ、なんにも言ってないよ。素敵な女性の集まりだなと思っただけだよ」
と、カイの慌てる様子に、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。
「もう、女子だけで楽しみましょう!」
とローラが仕切り直しと言わんばかりに、手をパンと鳴らした。
しかし、私はこの状況に興奮していた。
(え?女子だけ?これは、もしや前世でキラキラ女子がやってた憧れのシチュエーションでは?)
興奮のあまり、プルプル震えていたようだ。
リズが心配そうに、声をかけてくれる。
「セリアちゃん、どうしたの?お腹痛くなっちゃった?」
リズが声をかけてくれた瞬間、私はバッを顔を上げた。
「じょ...」
「「じょ?」」
リズとローラが聞き返す。
「女子会でしゅかぁぁーー!」
「「え?」」
あまりの私の興奮の様子に、リズとローラだけではなく、食事処にいた周囲の人たちまでも、あっけにとられている。
「女子だけで、お菓子やお茶を飲みながら、おしゃべりをするという、女子会でしゅかーー!」
「そ、そうね。お茶会?いいえ。女子会ね。セ、セリアちゃん落ち着いて」
リズが、私を落ち着かせようと、肩をポンポンと叩いてくれた。
「そうよ!女子会よ!誰が何を言おうと女子会よ!」
なぜか、私と一緒になってローラも興奮している。
「セリアちゃん。女子会って、どんなことすればいいの?初心者に教えて!」
ローラに言われて、ハッとする。
なぜなら、私も1度も女子会をしたことのない初心者なのだ。
前世の知識を思い出し、頭をフル回転させる。
「こ、恋バナです!女子会は恋バナをするのでしゅよ!!」
「「おぉー!」」
なぜか、リズとローラは拍手をしていた。
ローラが買ってきた、ディートムの町で一番ポピュラーな木の実を練りこんだクラッカーをテーブルに並べた。
「さて、はじめましゅよ。ローラおねーちゃん、好きな人はいるでしゅか?」
女子会に参加しているのを周囲で見守っている男性は、「え?女子会って、そんな始まりかたするの?」と、不思議そうな顔をしている。
「いるわよ!もちろんいるわ!セリアちゃん、聞いてくれる!?」
ローラは嬉しそうに身を乗り出し、目を輝かせた。
「私、王国の騎士団長様に夢中なの!もう、とにかくクールでかっこいいのよ!普段はちょっと無愛想で、私のことも全然相手にしてくれないんだけど...それがいいのよね!」
「そうね、まったく相手にされてないわね」
ローラは騎士団長からあまり相手にされていないようだが、それがかえってローラの情熱に火をつけている様子だ。
「リズおねーちゃんは?好きな人いる?」
次にセリアがリズに尋ねると、リズは静かに首を振った。
「私はまだ、誰かを特別に思ったことはないわ」
「えー!じゃあ、好きなタイプは?」
リズは瞳を伏せ、真剣に考え始めた。
食事処全体に、静寂が訪れる。
セリアとローラだけでなく、離れたテーブルのカイとロイド、さらには周囲の男性客までが、固唾を飲んでリズの答えを待っている雰囲気が伝わってくる。
「...ごめんなさい。やっぱり、わからないわ」
リズが困ったように答えると、食事処全体から「ちぇーっ」という、ため息に近い空気が漏れた。
「そっかー、じゃあ好きな人が出来たら、教えてね!」
そして、ローラとリズの瞳が、今度はセリアに集中した。
「セリアちゃんは?セリアちゃんは、好きな人いるの?」
セリアはクラッカーを飲み込むと、顔を真っ赤にして答えた。
「セリアが今気になっている人はね、大きなふわふわの耳に、鋭い眼差しの男性なの!」
この言葉を聞いた瞬間、一斉にロイドを見てニヤニヤし始めた。
ロイドのふわふわの耳にするどい眼差し、そして昨日のセリアの求婚騒動は、冒険者たちの酒のつまみのネタとして広がっていて、セリアが誰の話をしているか全員が分かっていた。
「でもね...年の差があるから、相手が受け入れてくれないのが、セリアの悩みなんだぁ」
セリアは頬をぷうっと膨らませた。
「あと15年ぐらい待ってくれれば、ローラおねーちゃんみたいなナイスバディになって、悩殺できるのにー!」
周囲の男性客たちは、肩を震わせて笑いをこらえ始めた。
そんな様子にロイドは額に手を当て、深くため息をつくのだった。
その後も、ローラとセリアは王都の流行りのドレスや、最新のお菓子の話題で楽しく話をした。
リズは時折静かに微笑みながら二人の話を聞き、時折コメントを加える。
すっかり夕暮れ時になると、ローラは立ち上がった。
「セリアちゃん、楽しかったわ!でも、明日は朝早くから町を出るから、私たち、これで部屋に戻って準備しなくちゃね」
リズも立ち上がり、優しくセリアの頭を撫でた。
「また一緒に女子会しましょうね」
「うん!約束だよ!」
別のテーブルで様子を見ていたカイとロイドも、こちらにやってきた。
「セリアちゃん、楽しかったよ。またな」
「セリアちゃん、お父さんを困らせすぎないようにね」
ロイドはそういうと、父がいるキッチンのほうを見て、頭を下げた。
Aランクパーティ『ランド・エッジ』のメンバーは、翌日に備えるため、それぞれの部屋へと戻っていった。
彼らが去ると、私は皿や空になったハーブティーのカップを下げ、夕食の準備を手伝った。
父の作る具沢山のシチューと、母のエリーナが焼く丸パンをみんなで食べて、賑やかな夕食を終えた。
食事が終わると私は両親に挨拶をし、早めに自分の部屋へと戻った。




