サーチ×アイテムボックス
本日も、お楽しみ頂ければ幸いです。
自分の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろすと、心の中でナビに話しかける。
(ナビ、さっそくだけどサーチの練習をしようと思う)
≪はい、セリア様。まず、先にサーチスキルについて、ご報告とお詫びをさせてください≫
ナビは深刻そうな口調だった。
(え、どうしたの?)
≪昨夜、セリア様がサーチを使用された際、スキルが失敗したのは、私の説明不足が原因と判断いたしました≫
(ナビのせいじゃないよ! セリアがちゃんとイメージできなかったから……)
≪いえ。セリア様の魔力量があまりにも膨大なため、本来起こらないはずの現象が起きてしまいました。セリア様の魔力が、周囲のあらゆる情報の細かい所まで検知してしまったのです。その結果、膨大な情報の処理が追いつかず、スキルが強制終了してしまったのです≫
(魔力が多すぎるからだよね。でも、私が選んだ初心者安心パックについてたんだもん。その魔力を使いこなしてこそ、安心ってことだよ)
≪今後はセリア様の強大な魔力を前提とし、より的確なサポートに努めてまいります≫
ナビの声はいつもと変わらないはずなのに、落ち込んでいるような声に聞こえた。
(ナビ……いつも助けてもらってるよ。ナビがいなかったら、鑑定スキルも上がってないし、すぐに転生者ってバレてたよ。これからも頼りにしてるからね)
≪セリア様……これからも、よろしくお願いいたします。さっそくですがサーチについて、昨夜の失敗の原因をナビなりに考えてみました。昨夜は細かくサーチした結果、情報量が多すぎることで、気絶に至ってしまいました。今後は、サーチを使用する際は、大まかなイメージで捉えることが大事になります。例えば、宿のどこに部屋があり、どこに人がいるか程度の、簡単なマップをイメージするのが良いでしょう≫
ナビは、失敗を踏まえた上でのサーチの注意点を説明した。
≪また、実際に会ったことのある人物や、目にしたことのある物であれば、その特定の人物や物をイメージすることで、その正確な場所を確認することができます。その他にランクB以上の素材や武器といったものは、サーチ使用時にはランクによって色がつきます≫
(なるほど。闇雲に探すんじゃなくて、意識して対象を絞るのも大事なんだね。それにランクB以上の物が分かるってことは、鑑定スキルのレベル上げにも役に立つのね!)
≪一度成功すれば、その次からは問題なくサーチも使用できるでしょう。ただし、朝に申し上げた通り、魔力量が多いため、成功よりも失敗する可能性の方が高いです。どうか、落ち込まないように≫
ナビの言葉を聞き、昨夜の失敗を思い出した。
やっぱり、ナビの言う通り、イメージが大切なんだ! まずは魔力の出力量をどうにかしないと。
(ナビ、まずは魔力を出力するときのイメージを『靄』にしてみようと思う。『靄』をイメージするためにちょっと集中するね)
ベッドの上に座って瞑想をする。
靄のイメージを何度も修正した。
三十分ほどだろうか、意識を集中し、完璧にイメージを固めた。
(ナビ、やってみる!)
私が心の中で「サーチ」と念じると、視界が切り替わった。
そこには、まるで簡略化された地図のように、宿の構造と、宿泊客の位置が、私の目の前に広がった。
(成功……した?)
私自身が戸惑っていると、ナビが少し遅れて返答した。
≪――成功です。セリア様、本当におめでとうございます!≫
ナビも、成功すると思っていなかったのか、驚きを隠せない声だった。
私は念のため、今度は少し範囲を広げてサーチを使用したが、問題なく情報が流れ込んできた。
≪……驚きました。セリア様は、その膨大な魔力を、わずか三十分の黙想で完全に制御下に置かれたようです。セリア様の才能は、ナビの想定をはるかに超えています≫
サーチの成功を喜び合っていると、ナビからさらなる提案を受ける。
≪セリア様、サーチが使用可能となり、またセリア様の外出も可能になりましたので、もう一つの初心者安心パックについて、お教えします≫
ナビは少し間を置いて、続けた。
≪それは、歴代転生者アンケート第六位『荷物が多くて移動が大変だった』との声を受けて実装されたアイテムボックスです≫
(アイテムボックス! やっぱりあるんだ!)
≪これから、セリア様が薬草など採取される際に非常に有用です。アイテムボックスの容量は、魔力量に依存します。セリア様のように魔力がカンストしている場合、その容量は、ほぼ無限となります≫
(む、無限!! すごい! アイテムボックスは使用頻度も高そうだし、一番便利かもしれない)
ナビの説明を受け、この能力が持つ無限の可能性に胸を高鳴らせた。
≪セリア様、アイテムボックスには入れられないものもあります。命のあるもの、つまり人や魔物は、そのまま入れることはできません。命を失った状態であれば可能です。またアイテムボックスの中は、時間停止機能がついています≫
(それって、死んでたら入るってことね……死体を入れるなんて、ちょっと考えたくないな)
翌朝、目を覚ました私は、一階の食事処に降りた。
「パパ、ママ、おはよー」
元気に挨拶をすると、両親から笑顔で挨拶が返ってきた。
そして、パパからAランクパーティー『ランド・エッジ』は、既に早朝に旅立ったと教えてもらった。
(もう行っちゃったんだね。また会えるよね。それまでに素敵な女性に成長して、みんなを驚かせないとね!)
寂しさを感じたが、また会える時までにやることはたくさんあると思うと、頑張れる気がした。
朝食をさっと食べると、部屋に戻り、鞄を肩から斜めにかけ、出かける準備をした。
「さっそく、お外に行くでしゅ!」
私は勢いよく部屋のドアを開け、階段を駆け下りた。
「ママ!ちょっとお出かけしてくるでしゅ!」
食事処で接客をしていた母のエリーナに声をかけると、彼女は忙しそうにしながらも、いつものように優しく見送ってくれた。
宿を出た私は、まず人通りの少ない近くの公園へと向かった。
(まずは薬草。町で一番需要があるのは、傷薬になる『グリーンリーフ』だったはず。『グリーンリーフ』は町中にも生えてるけど、雑草と間違えやすいから採取はちょっと難しいって冒険者たちが話してた)
宿の食事処では、冒険者や商人が多いため、いろんな情報が飛び交っている。
(お手伝いをよくしていてよかったなぁ。みんなセリアを可愛がってくれるから、ほとんど食事処にいたし、結構情報収集できるんだよね!)
≪セリア様は、そこまで考えておられたのですね≫
(まぁ、そこまで考えてお手伝いを始めたわけじゃないけど、結果的には大正解だったってことかな!)
公園に着くと、公園の隅にある、雑草が生い茂る一角に向かった。
(うーん、どれが『グリーンリーフ』かなぁ。とりあえず、何種類か異なる草を鑑定してみようかな!鑑定!)
『鑑定結果:雑草』
(鑑定!)
『鑑定結果:雑草』
(うーん、鑑定!)
『鑑定結果:グリーンリーフ、ランク:D、効果:傷薬の材料』
(あったー! よし、じゃあ、さっそく使ってみようかな。サーチ、グリーンリーフ!)
すると視界一面に広がった雑草の中で、青色に光る草が所々に表示された。
≪青色に表示されているものが、グリーンリーフになります≫
(おぉー! めちゃくちゃ便利!)
雑草の中から、グリーンリーフだけを丁寧に摘み取る。
あまりに多いため、鞄に入らなくなった。
≪セリア様、アイテムボックスに入れたい場合は、【収納】と詠唱してください≫
(収納!)
そう念じると、手のひらにあったグリーンリーフが、一瞬で消えた。
≪成功です。グリーンリーフがアイテムボックスに収納されました≫
「すごーい!」
私は喜び、さらにその周辺にあったグリーンリーフを次々とサーチで発見し、アイテムボックスへと収納していった。
(これなら、いくらでも集められる! 無限容量って、本当に便利!)
鞄をパンパンに膨らませ、アイテムボックスの中にも大量のグリーンリーフを入れた私は、満足げに公園を後にした。
そして、その足で町の薬屋へと向かった。
薬屋は、宿から歩いてすぐの、少し古びた建物だった。
薬草の独特な匂いが漂う店内に入ると、白髪で小柄な老婦人が一人、カウンターの中に立っていた。
「あら、いらっしゃい。おや、君は宿屋のセリアちゃんかい? 今日はどうしたんだい?」
老婦人は、私の顔を見て穏やかに微笑んでくれた。
「あのね、おばあちゃん! セリアね、薬草を持ってきたんだけど、買い取ってくれる?」
私はそう言って、鞄の中に入れてあるグリーンリーフを全てカウンターの上に出した。
カウンターの上には、先ほど集めたばかりの新鮮なグリーンリーフの束がたくさんある。
「ほぅ、これは綺麗な! それに、こんなにたくさん。どこで採ってきたんだい? 見分けるのが大変といわれているグリーンリーフだが、雑草が交ざっておらずグリーンリーフだけ見事に採取できておる」
老婦人は驚いた顔で薬草を手に取ると、目を輝かせた。
特に薬草の新鮮さと品質の良さに感心したようだ。
「えへへ、セリアだけのヒミツでしゅ!」
私がそう答えると、老婦人はニコニコと笑い、それ以上は聞いてこなかった。
老婦人は薬草の品質を丁寧に鑑定し、価格を提示してくれた。
「これだけの量と質なら、銅貨八枚だね。どうだい?」
(えーっと、銅貨八枚……)
≪セリア様、相場より銅貨一枚分ほど安いです。この老婦人は、セリア様が小さな子供であることにつけ込み、買い叩こうとしています≫
ナビの声が、冷静に告げてきた。
(うーん、でも、初めてだから、言い値で売っちゃってもいいかな……? ううん、だめだ。安く買い叩かれることに慣れちゃダメ!)
私は小さな背筋を伸ばし、老婦人の目を見て、勇気を出して言った。
「あのね、おばあちゃん。このグリーンリーフは、摘みたてで新鮮でしゅ。銅貨九枚が妥当だと思うんだけど……ダメ?」
老婦人は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに破顔した。
「ハハッ! これは一本取られたね! 小さな子だと思って、つい癖が出てしまったよ。分かったよ、セリアちゃん。銅貨九枚だ。次からはちゃんと正当な価格を払うよ」
老婦人は楽しそうに笑いながら、私に銅貨九枚を手渡してくれた。
「ありがとう、おばあちゃん! また持ってくるね!」
私は胸ポケットに銅貨を仕舞い、老婦人に挨拶をして薬屋を後にした。




