サーチ失敗と魔力999,999の壁
次に目を覚ました時、窓からは明るい朝の光が差し込んでいた。
(あれ……私、寝ちゃってたんだ。頭が痛い……わけじゃないけど、なんだか身体がだるいな)
昨夜の激しい頭痛の記憶は残っていたが、不快な痛みはすっかり消えていた。
ただ、全身に鉛が入ったかのような、重い疲労感が残っている。
(ナビ、昨日のサーチ、どうなったの?私、途中で寝ちゃったみたいだけど)
≪セリア様、おはようございます。サーチの試みは、残念ながら失敗です≫
(やっぱり...。魔力を出しすぎたから?)
≪はい。セリア様が放出した魔力は、半径10メートルに薄く広げるどころか、一瞬で宿全体を覆い尽くし、そのまま暴走に近い状態になりました。幼いセリア様の脳に、宿の構造、宿泊客の情報、さらには建材の組成まで、あまりにも過剰な情報が流れ込み、脳が一時的に処理を停止しました。それが気絶の原因です≫
(宿全体...!)
私は驚愕の事実に目を見開く。
(両親や、宿泊している人たちに、何か影響はなかったの?魔力が漏れたこととか、バレてない?)
≪放出された魔力は、セリア様の気絶と同時に消失しましたので、周囲への直接的な影響はございません。本来なら、サーチに使用される魔力は微量のため、周囲に気が付かれることはありません。しかし、昨日のセリア様の魔力量は膨大だったため、町の中に魔力に敏感な者がいた場合、その放出に一瞬、気づいたかもしれません≫
(そっか...バレてないと信じるしかないな。それより、この失敗は私の何が問題なの?)
≪この失敗はセリア様の根源的な問題を示しています≫
(根源的な問題?)
≪セリア様は、生まれつき極めて膨大な魔力量を持っています。そのため、セリア様にとって『魔力を薄く、少量だけ放出する』という行為は、大きな鍋に入った水を1滴だけ正確に床に落とすという行為よりも、はるかに難易度が高いのです≫
(ええ!?そんな...じゃあ、サーチスキルは使えないってこと?)
≪理論上は可能です。既にセリア様は、魔力集中と魔力操作をマスターしています。しかし、魔力が999,999と桁違いに多いため、魔力を少量使用するよりも、多く消費することのほうが簡単な状況になってしまっています。もう少し体が成長するまで、サーチは当面封印する方が賢明かもしれません≫
(ナビ、大丈夫!私なら、絶対に出来るわ!やれるようになるまで、練習あるのみよ!)
≪セリア様...?≫
(それに、私、一瞬だけど何か分かった気がしたの!)
≪...昨夜は、すぐに気絶されましたが?≫
(魔力があふれ出したとき、波紋のように魔力が広がっていくのを感じたの。魔力を出すときに私がイメージした通りだった。でもそれじゃ多いってことだよね!霧のように...ううん、靄のようにもっと薄くイメージすれば、いいと思う!大丈夫、次は絶対成功するわ!)
ナビは戸惑っているのだろうか、しばらく沈黙が続く。
≪...わかりました。しかし、本日、昼間に外で試すのは厳禁です。万が一のことがあれば、ご両親にも気づかれてしまいます≫
(もちろん!今日は鑑定に集中するわ。サーチは、今夜もう一度、ベッドの上でチャレンジする!)
私はベッドから飛び降り、顔を洗って一階の食事処へと急いだ。
朝食を済ませ、両親に「お外で遊んでくるね」と笑顔で伝えて、町へと飛び出した。
今日の最初の目標は、昨日レンに教えてもらった武器屋だ。
武器屋の扉の前まで来ると、私は立ち止まった。
扉に掘られた剣の紋様が、なんだか威圧的だ。
(レンおにーちゃんは「顔がすごく怖い」って言ってたけど...)
私は恐る恐る、扉の隙間から、そっと店内を覗き込んだ。
「ッ!」
壁一面に飾られた無骨な剣や斧の奥に、太い腕を組み、仁王立ちしている店主の姿があった。
噂通り、顔には深く険しい皺が刻まれ、鋭い眼光は冒険者ですら怯ませそうだ。
(本当に、怖い顔...!)
一瞬たじろいだが、「子供には超優しい」というレンの言葉を信じ、私は思い切って店内に足を踏み入れた。
「こんにちわ!」
店の奥にいた店主が、ギョッと目を丸くして私を見た。
しかし、彼は私を一瞥すると、そのまま固まってしまったようだ。
「かっくいー武器みてもいいでしゅか?」
噛み噛みになってしまったが、満面の笑顔で問いかけると、店主の怖い顔が少し崩れた。
「...おい、嬢ちゃん。店内は危ないから、勝手に触るなよ。気を付けろよ!」
言葉遣いは荒く怖かったものの、店主は私を拒むことはなかった。
私は興奮しながらも、武器に触らないように、そっと奥へと進んだ。
小さな町にしては、陳列棚には磨き上げられた綺麗な武器が並び、見たこともないような曲刀や、変わった形状の斧など、興味をそそられるものが多い。
「すごい綺麗!かっくいー!」
店主に言われた通りに棚からは一定の距離を保って、武器を眺めていた。
そっと、店主を盗み見ると、口元をニヤニヤと歪ませていた。
「ふん。わかってるな、嬢ちゃん。おい、この剣を見てみろ。これはなぁ...」
店主の武器自慢が始まった。
(よし、今のうちに鑑定しよう!)
私は、店主が自慢げに話している間に、すかさず視界に入る武器へ次々と、鑑定を行った。
「全部、かっくいーね!セリアは将来、冒険者になったら斧使いたいなー!」
≪残念ながら、セリア様に戦士の才能はありません...≫
(えー!初心者安心パックについてない?)
「斧か。嬢ちゃんが斧を持とうと思ったら、筋トレをよっぽど頑張らないと無理だろうな」
店主が、私のぷにぷにの腕をジッと見つめる。
「むー。将来ムキムキになるでしゅよ!」
ムンッ!と力こぶを作るポーズをするが、ぷにぷにのままである。
「お、おぅ。嬢ちゃん、がんばれよ」
店主が残念な者を見るような表情で、励ましてくれた。
それから、しばらく店内を見て回っていたが、その間お客さんは一人も来なかった。
「お客さん、こないでしゅねー」
「まぁ、依頼を受ける前の冒険者が早朝に来るか、依頼が終った夕方に来ることが多いから、この時間は暇だな」
「じゃあ、この時間なら、また来てもいいでしゅか?」
「おう。嬢ちゃんは見る目があるからな。いいぞ」
「嬢ちゃんじゃなくて、セリアだよ」
「セリア嬢ちゃんな。俺はバルカスだ」
「バルカスおにーちゃん!」
「お、お兄ちゃん?!え、えーっと、セリア嬢ちゃん、りんご食べるか?」
「やったー!リンゴ大好き食べる!バルカスおにーちゃん大好き!」
「な、なっ、なっ!大好き...?!」
そういうと、バルカスは顔を真っ赤にしながら、後ずさりをし、奥に消えていってしまった。
(バルカスお兄ちゃん照れてる!レンお兄ちゃんがお菓子貰えるって言ってたけど、果物だった!リンゴうれしー!)
しばらくすると、うさぎに可愛くカットされたリンゴをお皿に乗せて、バルカスが戻ってきた。
「キャー!うさぎしゃんなのー!かわいー!」
「ゆっくり噛んで食べろよ」
(バルカスお兄ちゃん、面倒見がよすぎでは?)
こうして、鑑定スキルのレベルアップ場所として、武器屋を開拓したのだった。
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