歴代転生者アンケート第9位
日の傾き始めた頃、私は遊んでくれた子供たちに笑顔で手を振り、家へと急いだ。
家に帰ると、ちょうど夕食時で、食堂は活気に満ちていた。
その日の夕方に町に到着したばかりの冒険者や商人が、食事を求めてテーブルを囲んでいる。
賑わう食堂の隅には、Aランクパーティー『ランド・エッジ』の姿もあった。
彼らは昼間とは違い、各々の武器を傍らに置いて、リラックスした様子で食事をしていた。
(よし、今だ!)
私は両親の手伝いを装い、食堂の様子を見ていた。
昼間は忙しさやロイドの耳への興奮で鑑定ができなかったが、今がチャンスだ。
カウンターの陰から、ランド・エッジが脇に置いた武具を鑑定していく。
(カイお兄ちゃんの剣を鑑定!)
『鑑定結果:鋼の長剣、ランク:A、製作:トール・フレイム』
(ロイドお兄ちゃんの鎧を鑑定!)
『鑑定結果:獣人専用の鎧、ランク:A、製作:トール・フレイム』
(ローラお姉ちゃんの杖を鑑定!)
『鑑定結果:魔法杖、ランク:A、効果:魔力効率上昇、製作:A級ダンジョン』
(リズお姉ちゃんの弓を鑑定!)
『鑑定結果:エルフ族の弓、ランク:S、効果:風魔法付与、製作:不明』
(わあ、やっぱりすごいや! 特にリズお姉ちゃんの弓はランクSなんて、初めて鑑定したわ!)
ランクSという最高峰のアイテムを鑑定できたことに興奮するが、残念ながら、鑑定スキルはレベルアップしなかった。
(それにしても、鑑定スキルのレベルが4になって、ランクと効果、製作について分かるようになったけど、リズお姉ちゃんの製作については表示されなかったのはなぜ?)
≪表示されない要因の一つとして、製作者が人族ではない可能性があります。鑑定スキルがカンストであるレベル10になると全て表示されるようになります≫
(レベル10!? まだまだ先だなぁ。それにしても、人ではない……? まさかね……)
それからも、カウンターから見える範囲でランド・エッジパーティーの装飾品や、ほかの冒険者や商人の持ち物も鑑定していく。
(やっぱり、Aランクパーティーって、すごいのね。装飾品もランクAが多いし、ダンジョンから手に入れたものも複数あったな)
冒険者たちや常連客で賑わっていた食堂も、夕食時を過ぎて少し落ち着きを取り戻し、家族三人で夕食をとる時間になった。
今日の夕食は、具だくさんのスープと大きな丸パンだ。
私は目の前のスープを覗き込む。
スープには肉の切れ端やいろいろな種類の根菜がたっぷり入っている。
味付けは塩と少量のハーブだけで、素材の味が中心の素朴なものだ。
宿泊客からは「美味しいし、具も多くて満足できる」と好評だが、前世の記憶を持つ私としては、正直、薄いと感じる。
横に置かれたパンは、噛みごたえがあり、子供にはそのままでは食べにくいほど固い。
パンは細かくちぎってスープに浸し、柔らかくしてからでないと食べられない。
(うーん、前世の記憶があると、食事の時間だけは地球が恋しくなるな)
≪セリア様が、もう少し大きくなられたら食事も改善されますよ≫
(え? どういうこと? 食事が改善されるって?)
しかし、質問しても、ナビはそれ以上は何も言わなかった。
気を取り直して、私は両親に今日の出来事を話すことにした。
「ママ、パパ! セリアね、きょうはお外でいーっぱい遊んだの!」
私は、満面の笑みで両親に報告する。
パパは、私の頭を撫でながら、
「そうか、外で遊べてよかったな。危ないことはなかったか?」
と、優しく聞いてくれた。
「うん! レンおにーちゃんたちと、追いかけっこしたり、お砂場であそんだりしたの。セリアね、町の外にはぜったいに行かないって、ママとおやくそくしたから、ちゃんと町の中であそんだよ!」
私が町の子たちの名前を出し、約束を守ったことを強調すると、パパとママの目が、心配から安堵へと変わっていくのを私は見逃さなかった。
「公園、たのしかったよ! こんど、パパとママもいっしょに行こうね!」
「よかったわね、セリア。やっぱり、子供は外で遊ぶのが一番ね。明日も、遊びに行ってもいいからね」
母のエリーナが、目を細めて微笑んでくれた。
(これで、明日からも心置きなく外出できるわね!)
私は、無事に外出許可を確実なものにできたことに満足し、スープに浸したパンを口に運んだ。
夜になると、両親からおやすみのキスをもらい、いつものようにベッドに入った。
パパとママが寝静まったのを確認する。
(ナビ、夕方に話してた提案って何かな?)
≪セリア様、外で鑑定スキルのレベルアップを始めるにあたり、一つ提案がございます≫
(はい!)
≪歴代転生者アンケート第九位『異世界怖すぎ、危険な魔物は避けて旅をしたかった』との声を受けて実装された『サーチ』の活用です≫
(サーチ?)
≪はい。現在、セリア様は鑑定スキルレベル6の習得を目指しておられますが、効率的にランクB以上のアイテムを見つけるには、あらかじめ目星をつけることが重要です。『サーチ』は、この情報収集を大幅に効率化します≫
(鑑定スキルとは違うの?)
≪『サーチ』は、自分の魔力を体外に薄く広げ、その範囲内に存在する特定の対象の位置や、セリア様が求める情報を捕捉するためのスキルです。鑑定スキルと異なり、魔力コントロールが必須となります≫
(鑑定みたいに詠唱だけではうまくいかないってことね)
≪『サーチ』は魔力を体外に放出し、その際に一定の薄さを保って周囲に広げる必要があります。これは、将来的にセリア様が実際に魔法を使う際の、魔力コントロールの練習としても最適です≫
(カモフラージュに必要な鑑定レベル6へのアイテム探しと、魔法の練習を同時にできるってことね! さすがナビ!)
≪ただし、魔力を体外に放出するのは初めての試みです。万が一、魔力コントロールを誤った場合を考慮し、最初は必ずベッドの上で行ってください≫
(分かった!)
ナビの言葉に、私はベッドの中で静かに頷いた。
≪まずは魔力を薄く、半径十メートル程度の範囲に広げるイメージです。詠唱は『サーチ』、それでは始めてください≫
私は深く息を吸い込み、魔力を集中させた。
「サーチ」
両親を起こさないよう、ごく小さな声で唱えると、身体の内側から私の魔力が溢れ出すように放出されていくのを感じた。
(あれ? 薄くって言われたけど、なんかすごく出ちゃったかも……)
ナビの忠告を思い出したときには既に遅く、大量の魔力が、目に見えない波紋のように宿全体へと広がっていく。
その直後、視界が白く光ったような気がした。
半径十メートル以内にある隣で眠る両親の姿や、宿に宿泊している冒険者や商人の位置や持ち物、さらには宿に使われている木材や釘に至るまで、あらゆる情報が一気に流れ込んできたのだ。
「ッ……うぅ……」
その情報の奔流は、三歳の幼い脳には負担が大きすぎた。
頭が割れるような激しい痛みに襲われ、私はそのまま意識を保てなくなり、目を閉じた。
【お礼】
評価やリアクションをありがとうございます。
本当に読んでくれている方がいるのだと、実感して嬉しく思っています!




