伝説のアイテム?
翌朝。
身支度を整えて待っていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。
「セリア様、お迎えに上がりました」
入ってきたメイドに案内され、私は肩にルクを乗せてお屋敷の奥へと進んでいく。
連れてこられたのは、いかにも頑丈そうな重厚な扉の前だった。
扉の前には、昨日オスカーから話に聞いていた妻のエリーゼとメイドが一人待っていた。
若々しく美しいエリーゼの姿に、私は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにペコリと頭を下げた。
「初めまして、セリアさん。私はエリーゼよ。主人からあなたの話は聞いているわ」
「初めまして、エリーゼ様。今日はお時間をいただきありがとうございます」
前世の記憶を辿りながら、ぎこちないながらもカーテシーをエリーゼにする。
「まぁ! とっても可愛いわぁ!」
顔を上げると、優しく微笑むエリーゼと目が合った。
エリーゼは、控えていたメイドから大きな鍵を受け取ると重厚な扉を開け、そのまま優しく扉を押さえながら、私が部屋へ入るのを中で待ってくれた。
「さあ、どうぞ。中にあるものはどれでも自由に見てくださいね」
部屋の中に一歩入ると、そこには息を呑むような光景が広がっていた。
壁には見事な絵画が掛けられ、棚には歴史を感じさせる骨董品や、不思議な形の魔道具、さらには一目で名剣と分かる武器の数々がずらりと並んでいる。
(うわぁ、すごい……! これ、全部鑑定し放題ってことだよね!?)
私は胸を躍らせながら、まずは目の前の棚に置かれている古めかしい壺に視線を向けた。
(鑑定!)
『鑑定結果:ガイアノス古代陶芸の壺、ランク:B、制作:古代の宮廷彫刻師』
続けて、その隣にある装飾の施された短剣にも視線を向ける。
(鑑定!)
『鑑定結果:魔力結晶のダガー、ランク:A、ダンジョン産』
さらには、綺麗なアメジストのブローチなど、次々と鑑定を重ねていった。
すると、いくつか鑑定を終えたところで、脳内にアナウンスが流れた。
『鑑定スキルがレベル六になりました』
(やったぁ! レベル六に上がった!)
≪セリア様、おめでとうございます。四歳にして、目標であるレベル六に到達いたしましたね≫
(うん! ナビ、ありがとう! あ、鑑定スキルのレベルが上がったんだから、もしかして今なら、伝説ランクも文字化けせずに上手く鑑定できるかもしれない!)
そう考えると、じっとしてはいられなくなった。
この宝物室の中に、一体どんな伝説ランクのアイテムが眠っているのだろうか。
私はそれを探し出すために、部屋全体を見渡しながらサーチを発動した。
(サーチ!)
その瞬間、部屋の奥で金色に光るものが見えた。
(ん? 伝説ランクのアイテムなのに、なんで部屋の隅っこに?)
私がその光に引き寄せられるように近づいていくと、部屋の最奥に、小さなテーブルがぽつんと置かれているのが見えた。
他の宝物が並ぶ棚とは完全に区別されており、ひっそりとしてはいるものの、とても大切に扱われていることが伝わってくる。
テーブルの上は、何かを覆い隠すように、上等な厚手の布がかけられていた。
私がその布をじっと見つめていると、後ろからついてきていたエリーゼが、少し困ったように微笑みながら教えてくれた。
「セリアさん、そちらはライオネル家に代々伝わる、我が家で最も厳重に管理されている秘宝の一つなのです。なんでも、過去の勇者様から直々に譲り受けた物だと言い伝えられていますわ。日に当たると劣化してしまうほど大変繊細なものらしく、こうして光を遮る布をかけているのですよ」
「勇者様からの……!」
その言葉に、私の期待値は一気に跳ね上がる。
(過去の勇者ってことは、やっぱり神の武器とか、すごい魔法具なんじゃ……!)
「ただ……」
エリーゼは、声を潜めた。
「理由は分からないのですが、代々の当主から『この秘宝は、ライオネル家の男性しか中を見ることを許されない』という厳格な家訓が残されていますの。鍵がかけられ、女性は中身を見ることが一切できないようになってますのよ」
「そうなのですか……見たら呪いがかかるとか危ない物ですか?」
「いいえ、呪いの類だとは聞いていませんわ」
(呪いじゃないのなら、なんだろう?)
「見てもいいですか?」
「ええ、鍵を開けなければ大丈夫ですよ」
エリーゼに許可をもらい、私はかけられていた布をそっと外した。
厚手の布が外されると、そこには厳重に鍵がかけられた立派なガラスケースが隠されていた。
そのガラスケースの中にある「秘宝」が姿を現した瞬間――。
(……え?)
私は、その場に呆然と立ち尽くした。
この世界には存在しない、極めて高精度な印刷技術。
色鮮やかで美しい、艶のある紙の質感。
何より、表紙にデカデカと写っているのは、服の上からでもはっきりと主張する豊かなプロポーションを誇り、カメラ目線でとびきりの笑顔を浮かべる見覚えのある黒髪の日本の女性だった。
そして、その本には見慣れたフォントで、タイトルが書かれている。
『YUKA HOSHINO:Pure Smile』
(……って、ただのアイドルの写真集じゃーーーーーん!!!)
あまりの衝撃と落差に、私は心の中で思いっきり叫んだ。
確かにこの世界の人にとっては、本物の人間がそのまま閉じ込められたかのような美しい「カラー写真」は、未知のオーバーテクノロジーであり、伝説のオーパーツだろう。
金色に光るのも納得のレア度だ。
(でもこれ、表紙は服を着てるけど、中身は絶対に水着とかの際どい衣装のやつだよ! そりゃあ当時の勇者も『これは男しか見ちゃダメなやつだから!』って置いていくよ!!)
つまり、最初に貰ったご先祖様と、成人して中身を知ってしまった歴代の男性陣が、妻や娘に絶対にバレないよう「勇者様が遺された高潔なる禁書であるぞ!」と最高に立派な大義名分を掲げて、何百年も必死に隠し通してきたわけだ。
日に当たると色あせるから布をかけるなんて、グラビアの鮮やかさを維持するためのただの紫外線対策だ。
(神聖な家訓のフリをした、男たちの全力の隠蔽工作(伝統)じゃん……!)
期待に胸を膨らませていた分、凄まじいガッカリ感に襲われ、私が引きつった笑いを浮かべていたその時だった。
私の肩の上で、ルクが突然、しみじみとしたトーンで念話を送ってきた。
『お? 懐かしいなこれ。ゆうかちゃんやんけ』
(……え?)
思わぬルクの言葉に、私は固まった。
『このゆうかちゃんがな、海辺で生地の少ない、明らかに防御力の低そうな服を着てな……。長い木の棒を持って、目隠しをされた状態で、果物型の魔物に挑んどる姿は見てて泣けてきたわ。地球って怖いところやな……』
ルクはその姿を思いだしたのだろうか、ブルブルと身震いをして青ざめた顔をしている。
(え? ……それって、スイカ割りじゃない!?)
どうやらルクは、勇者がこの本を見ているところを一緒に見ていたらしい。
(ちょっと勇者様、聖獣になにを見せてるのよ……)
私は思わず額を押さえた。
私はなんとも言えない気持ちになりながら、一応ガラスケースへ鑑定をかけた。
(鑑定!)
【鑑定結果:★U?A HOS〇※NΔ Pu&e Smi!e(ライオネル家秘蔵:勇者の聖書)
ランク:○■
詳細:勇者が持ち込んだ異世界の書物。内部には精巧な?性の姿が多数記録されている。刺%の強い描写も存在し、見る者によっては衝☆を受ける可能性がある――】
(文字化けしてる……いや、表紙に書いてるのに隠す必要ある……?)
鑑定結果にツッコミを入れていると、エリーゼが不思議そうに首を傾げた。
「セリアさん?」
「あ、いえ! なんでもありません!」
私は慌てて布をかけ直した。
中身が写真集だなんて、エリーゼにはとても言えない。
するとエリーゼが、ふと思い出したように口を開く。
「あっ、そういえば勇者様に関する物が、もう一つありましたわ」
「もう一つ?」
「ええ。手紙です」
そう言って取り出されたのは、一通の古い羊皮紙だった。
私は何気なく視線を落とし――息を呑んだ。
そこに書かれていたのは、この世界の文字ではない。
見間違えるはずもない。
前世で毎日のように目にしていた文字。
日本語だった。
『日本人へ』
胸が大きく跳ねる。
過去の勇者が。
私と同じ世界から来た日本人が。
この世界のどこかに、確かに存在していた。
震える指で、私はそっと羊皮紙を開いた。
評価、ブックマーク、リアクションありがとうございます。
とても嬉しいです!




