両親へのサプライズ
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本日もお楽しみ頂けたら幸いです。
薬屋を後にした私は、宿へと戻り、両親と一緒に昼食をとった。
母のエリーナが作ってくれたオークのお肉が入ったスープは、いつも通り野菜もたっぷりだ。
「セリア、朝からどこに行ってたんだい?なんだか上機嫌だね」
父が笑いながら尋ねてきた。
「えへへー、ちょっとお出かけしてたでしゅ!冒険者さんが話してた薬草をね、いっぱい採ってきたんだー」
「ほう、セリアが一人で薬草採りか!偉いな」
父は感心して私の頭を撫でてくれた。
母も、私と父の会話をニコニコ楽しそうに見ている。
(銅貨9枚も稼いだってことは、まだヒミツにしておこう)
私が夢中になってスープを食べていると、ふと、ある大事なことを思い出した。
「ああっ!」
思わず大きな声を出してしまい、両親が驚いて私を見た。
「セリア、どうしたの?急に大声を出して、喉に何か詰まった?」
母が心配そうに尋ねてきたので、私は口をもごもごさせながら答えた。
「ち、違うよ!だいじょぶ」
(グリーンリーフが売れたのが嬉しくて、すっかり忘れてたよ!)
私は心の中でナビに問いかけた。
(ナビ、せっかく薬屋に行ったのに、どうして私、珍しい薬草を見せて貰ったり、薬を鑑定したりしなかったんだろう!)
≪セリア様は、初めての取引の成功と初収入に興奮されており、冷静な判断が難しかったと推測されます。しかし、その経験も大切です≫
(ううー、ナビ、ありがとう。今度行くときは、忘れないようにしないとね)
私は残りのスープを飲み干し、気持ちを切り替えた。
(午後からは絶対、鑑定をいっぱいするよー!)
「セリアどうしたんだい?」
心の中で気合を入れていると、自分でも気が付かない内に右手で拳を作り上へ突き上げていたようだ。
「えへへ、なんでもないでしゅ!」
恥ずかしなり、そっと右手を降ろした。
昼食を終えると、両親に外出する旨を伝え、私はすぐに宿を出た。
次に目指すは、薬屋の近くにあった花屋だ。
道すがら、私は胸ポケットに仕舞った銅貨をそっと触った。
(ナビ、今日、私、1時間ちょっとで銅貨9枚も稼げたんだよね!)
≪はい、セリア様。公園でグリーンリーフを採取し、薬屋で売却するまでにかかった時間は、およそ70分です≫
(70分で銅貨9枚かぁ。銅貨1枚がだいたい100円程度って考えると、900円かぁ!結構稼げたんじゃないかな?)
≪はい。一般的な肉体労働者の日給は、銀貨8枚(銅貨80枚)程度とされています。もし労働時間を10時間と仮定すると、肉体労働者の平均時給は銅貨8枚です。≫
(えっ!?じゃあ、私の時給は、平均時給を上回ってるってこと?)
≪その通りです。セリア様は、わずか1時間強の作業で、平均的な肉体労働者の日給には及びませんが、時給換算ではそれを上回る収入を得ました。これは、セリア様が持つスキルの組み合わせが、いかにこの世界で強力であるかを示しています。3歳の子供が自力でこれほどの効率の収入を得ることは、極めて異例です≫
(たしかに!日本でも3歳の子が、稼ぐって異例だよ...)
≪さらに、セリア様が薬屋に売却したのは、あくまで鞄に詰めた分だけです。セリア様が採取した総量から換算すると、売却したのは全体のおよそ10分の1にすぎません。アイテムボックスには、まだ残りのグリーンリーフが保管されています。その総額を考慮すれば、セリア様は既に、一般的な冒険者の一日分の生活費に相当する資産を手にしていると言えます≫
(あ、そっか!アイテムボックスの中身を合わせたら、今日の収入はもっとすごいことになるんだ!)
無限容量のアイテムボックスと、サーチと鑑定の完璧な連携。
(このスキルがあるだけで、こんなにお金が稼げるなんて。ナビのおかげだね、いつもありがとう)
もちろん初心者安心パックに入っているスキルも、とても便利な物ばかりだが、ナビがいなければ上手く使えるまでに時間もかかっただろう。
産まれたときから、ずっと一緒に歩んでくれているナビは、もう大切な家族のような存在だ。
≪いいえ、私の力だけではありません。セリア様の努力があってこそですよ≫
ナビの優しい言葉が、努力を怠らず、これからも邁進しようという気持ちにさせてくれる。
(まだまだ鑑定スキルを上げないといけないし、お金を稼ぐのも目的じゃない。鑑定の儀を乗り越えることが一番大事!)
≪そうです。まずはセリア様の希望である、転生者と周囲に気が付かれないようにしっかり対策いたしましょう≫
(そうだね!早く鑑定スキルをレベル6にしたいな。花屋では、しっかり花にも鑑定スキルを使っていくよ)
花屋に入ると、店内は優しい花の香りに包まれていて、色とりどりの花が並んでいた。
そして、その店番をしていたのは、20代だろうか?笑顔が素敵な綺麗な女性だった。
「こんにちは、ちっちゃなお客さん。何かお探しかしら?」
女性は優しく私に話しかけてくれた。
「こんにちは!セリアね、お花を買いたいんだ!」
私は胸ポケットの銅貨9枚を誇らしげに見せた。
「一人でお買物なんて、すごいわね!銅貨9枚ね。どんなお花が欲しいのかしら?ゆっくり見て、気になるのがあったら教えてくれる?」
「わかったー」
私は許可をもらい、嬉々として店内を見て回った。
そして、次々と目の前の花を鑑定していく。
(鑑定!)
『鑑定結果:ブーケ草、ランク:D、効果:観賞用、花言葉:純粋』
(鑑定!)
『鑑定結果:月影花、ランク:B、効果:夜に微かな光を放つ、花言葉:密かな憧れ』
色とりどりの鑑定結果に、私は夢中になった。
地球と同じようにバラやチューリップなどの花もあったが、この世界でしか見ない不思議な花もあった。
特に月影花は、ランクBで効果も面白く、小さなランプのような黄色い花が縦に複数並んでいて、思わず手に取ってしまった。
「この月影花は、夜に光るのよ。とても綺麗なの」
「すごいでしゅね!このお花、買いたいな!」
「これは、ちょっと高くて1本で銀貨1枚なの」
手持ちの銅貨1枚では足りないと分かり、情けない顔をしていたと思う。
そんな私を見た花屋のお姉さんも、困った顔をしていた。
「あっ、初めて買いにきてくれたお客様には、サービスがあるんだった!銅貨1枚値引きしてるのを忘れてたわ。ごめんなさいね。月影花は、銅貨9枚よ」
それが花屋のお姉さんの嘘だと、精神年齢が大人の私はすぐに気が付いた。
でも、お姉さんの優しさを無駄にしないのも、また大事なのだ。
「わぁ!本当?銅貨9枚でいいの?セリアうれしー!」
お姉さんの気持ちが本当に嬉しくて、両手を上げて目いっぱい喜ぶ。
私はポケットから銅貨9枚を渡した。
お姉さんは月影花に丁寧に赤色のリボンを結んでくれた。
月影花が一輪だけになってしまったが、沢山の花をつけており綺麗だった。
「お父さんとお母さんに、いつもありがとうの気持ちを込めて、渡すんだ」
私がそう言うと、お姉さんは目を細めて、とびきり素敵な笑顔を見せてくれた。
月影花を持って宿に戻った私は、さっそく両親のところへ向かった。
「パパ、ママ!いつもありがとう!」
私は月影花を差し出した。
父と母は、突然のサプライズに驚きながらも、顔を見合わせて本当に嬉しそうだった。
「セリア、これはどうしたんだい!」
「月影花ね、ありがとう。このお花は、ママが一番好きな花なの!嬉しいわ」
「えっ?ママが一番好きな花でしゅか?」
そういうと、パパとママは顔を見合わせて面白そうに笑っていた。
「実はパパがママに初めて花を贈ったのが、月影花だったんだ」
まさか、パパと同じ花を選んでいたとは、さすが親子としか言いようがない。
「えー!同じのを選ぶなんて、さすがパパの娘でしゅね!」
「そうだな!さすがパパの娘だな!」
とパパが楽しそうに抱き上げてくれた。
やっぱり、両親が笑っているのが一番嬉しいなと、これからも親孝行沢山しようと心の中で誓った。
私が送った月影花は、宿のカウンターに飾られることになった。
その日の夕食も月影花の話で持ち切りだ。
「今日ね、セリア、グリーンリーフを採ってきたの!いっぱい採って、薬屋さんで売ったら、このお花を買えるくらい、お金をもらえたんだよ!」
私は、サーチを使ったことや、アイテムボックスがあることは伏せ、一生懸命薬草を採ってきたことだけを話した。
そして、お花屋さんで綺麗なお姉さんに月影花にリボンを結んでもらったことも話した。
「そうか!セリアは優しいな。自分で採ってきたもので、こうして花を買ってくれるなんて」
「セリア、ありがとう。お母さん、とても嬉しいわ」
両親は代わる代わる私を抱きしめてくれた。
その優しいぬくもりに、私は心が温かくなるのを感じた。
(ふふ、両親を笑顔にできた!サプライズ成功ね!)




