第14話『腐ったリンゴ:本編』
「……えぇ続いてのニュースです。東京都八王子市の各地で放火事件が発生しており、犯人は未だ特定を出来ていません」
「東京都八王子市、ここでは先月から放火事件が多発している。一体誰がどんな動機で放火しているのか? 一軒目の放火事件が発生したのは、八王子市のとある図書館。先月4日の午後1時47分ごろ、屋内の本棚から突如煙が発生したのを利用客が発見、直ちに通報。消防隊によって消火されました。それ以降コンビニや駅のホーム、時には住宅までもが。こうした次々と発生する放火事件に対し、住民達は不安の声を上げています」
「もうただただ怖いですよね。買い物の帰りとか、寝てる時に火を付けられたら気付けませんし」
「嫌ですよ。ゆっくり出来ないから。早く捕まってほしいですよ」
「八王子市を狙う放火事件。果たして犯人の目的とは?」
「はいっ、えぇ〜八王子市連続放火事件なんですけども、なんと先月から同一犯と思われる放火が14件も発生してるという。本当に残酷な犯行なんですけども」
「ねぇ、こんな立て続けに起こる放火を捕まえられない警察なんてね…… ハッキリ言って無能ですよ」
「ホントにハッキリ言いましたね」
「言いますよ。だってこんなの情けないじゃん、八王子市内で放火を14件も同一犯が起こしてんでしょ? ありえないじゃん。さっさと逮捕してほしいもんですよ」
「すみません、ここで一回ニュースの続きをはさみますね。そして昨日午後2時57分ごろ、同一犯による15件目の放火事件が発生しました。八王子市の商店街にある小さな書店が全焼、中にいた店員とその家族、そして訪れていた女性客が1人死亡が確認されました。えぇこの放火事件なんですけども、火種が“紙の本”と発表されてます」
「もうね、15件も放火させてる犯人の顔をいい加減公開すべきだと思うんですよ。この放火で何十人も死なせてるワケなんだし、警察は犯人を特定次第すぐテレビで顔写真なり特徴を公開して国民の手を借りた方が良いんですよ。というかさ、15件もの放火を許してる警察がどうして頑なに犯人逮捕に本腰を入れないのかが分かんないんですよ。建物燃やしてる、人も殺してる。どう見たって犯行を楽しんでる愉快犯でしょ? それなのに逮捕出来てないって事は“身内だから”じゃないかって思ってるんだよ。警察側の人間だから逮捕したくないんだよ。だって逮捕しちゃったら国民からのイメージダウンに直結するし、何より自分で自分の首を絞める行為だからですよ。そういう天秤にかけた結果がコレ。そんなんでよく警察やっていけるなって思いますよ‼︎」
「でも身内を逮捕するのって結構しんどいじゃないですか?」
「その迷いや葛藤に屈したらダメなんだって‼︎ 15件も放火してる人間はね、たとえ身内でも然るべき処罰を与えるべきなんですよ‼︎ いいかげんふざけないで犯人逮捕に本気を見せてもらいたいモンですよ‼︎」
「はぁ〜そうですか。ではここで15件目の放火事件をcmの後、深掘りしていきましょう」
朝から不快な気分になった。
ここ最近、ずっと放火事件のニュースで持ちきり。おかげで八王子市が余計に治安悪くなる一方だよ。
「七海ちゃん……」
「ケール、あの放火が魔法少女の仕業とかってありえる?」
「ありえる…… と言うより、モロに魔法少女がやった事件だよ」
「やっぱりいるんだね。あぁいう悪い魔法少女も」
「そりゃあゴマンといるよ。ボク以外にも契約主がいるし、悪い感情を利用するヤツも当然いる。あの放火事件はそういう魔法少女の仕業で間違いないね」
「そっか……」
学校でも微妙な空気が流れている。会話の話題は前と比べて若干ニュース関係が増えた気がする。それでもアイドルや授業関係の話題がほとんどを占めてる。
それでも、だ。
違和感がある。男女で会話する時に妙なぎこちなさがあるというか、無意識のうちに壁を作ってるというか。何となくだけど異性間で不自然なほどに距離がある感じ。
相手を怖がってるのと、少しだけ似てる。
「あ、満里奈だ」
自分の席で誰かと話す様子もなく、ただボーッと外の景色を眺めている。あの様子からしてイジメはもう起きてないふうに見えた。
学校からの帰り道でさえ明らかに雰囲気が一変している。街中の歩行者道路を練り歩く中年風の男女が、それぞれパネルを掲げてダラダラと叫び続けている。
そこ、通行の邪魔なんだけど。
「女性を差別するなー、女性を活躍させろー」
「女性を差別するなー、女性を活躍させろー」
デモ隊だ。しかも誰1人として私みたいな若い人がそこにはいない。コレって年寄りの暇つぶしじゃないの?
「デモの割には声に張りが無いよね。誰1人やる気を見せてないし、周りの人達に迷惑をかける。警察の世話にならないだけ幸せ者だよ」
「最近なんかおかしいよ。女性女性って、そんなに女性を特別扱いして何になるのかな?」
「何にもならないよ。むしろアレは建前だね」
「あんだけやっといて、女性なんかどうでもいいとか?」
「それに近いかな。あういう人が言ってる主張は“女性の解放”は建前で本音は“女性の束縛”なんだから」
「まるっきり逆じゃん‼︎ そんな主張なんか誰も支持しないよ⁉︎」
「でも実際、支持しちゃうバカは沢山いるんだよ。特に年寄りは知能が無いクセに知識と人生経験が無駄にあるからね。だからどうあがいても両極端になるんだよ。意見が合えばとことん同調して気に入り、意見が合わなければとことん貶して排除する。もし他人から批判されようものなら弾圧して事実改竄…… 想像するだけで怒りや吐き気が込み上げてくる悪行の数々なんだけど、七海ちゃん達があと30歳くらい年をとったら同じ事をするんだよ。いくら“自分はああなりたくない”って気を付けてもね、運命レベルで老害行動は必ず起こすんだよ。でもまぁその度合いは個人差あるけどね」
「そっか……」
私もいつかああなっちゃうのか。イヤだなぁ。
「女性女性って言うけど、そんなに自分勝手な事されたら私達の人生滅茶苦茶じゃん……」
「向こうも無自覚でやってるからね。“自分達は若い頃こんなに苦労した”って経験がある以上、働く若者との労働には必ず壁がある。働き方改革は“若者がサボる為に作った”と決め付ける。労働と給料が不釣合いなのを“当たり前”と疑わない。セクハラは“されたら良い事”、パワハラやモラハラは“向こうのせい”、諸事情の欠席は“だらしない”、残業は“一流のやる事”と言いながら自分はその人より早く退社。全部が無自覚もしくは無意識の行動。なろう系無自覚主人公が可愛く見える程のおぞましさだよ」
「そのたとえはちょっと分からないけど、とにかく大人は汚い人間だって事がよく分かったよ」
デモ隊のせいで家に帰れない。ゆっくり歩きながら大声で威勢のない訴えを吐き続ける。
最近は八王子市のあちこちで事件が多発している気がする。もちろん事件は日本中で起きてるってのは分かってる。日常茶飯事なのも分かってる。
だけどテレビのニュース番組が毎日同じような記事で、しかも八王子市の事件ばかり取り上げているせいで、まるでココは犯罪都市として見ている気がしてとても複雑な気持ちになっている。
ここ一週間だけでも、朝に見たニュースの6割が八王子関連だった。さらにいえばその内10割が悪い印象を与えるつもり満々の、悪質な報道をしてる。だけどその報道を見た人がSNSで八王子を誹謗中傷していく悪循環。
これって、テレビが悪いのかネット民が悪いのか。私にはちっとも分からない。
「そういえば最近、裏ビデオ業界に向けた法律が定められたのを七海ちゃんは知ってる?」
「あぁ、ネットニュースで名前を見たくらいだけど…… どうしてそれを急に?」
「政治家にもいるんだよ、ツイフェミがね。そのツイフェミが制定したのがあの新法さ。アレが制定してから、セクシー女優が次々と辞めてるんだよ。そうなったのは法律が邪魔して仕事が激減したからさ。セクシー女優の業務を政治家は遠回しに“性被害の象徴”と見て、あの新法を作った。でも実際は自分の物差しと被害妄想で作り上げた自己満足でしかない新法だった。その事実を知ってもなお政治家は“女性を救ったつもり”でいる。もちろん本職の人がSNSでソレについてツイートしてるんだけど、制定した人以外も含む大勢のツイフェミ達が揃いも揃って擁護せず“被害妄想”を貫くという、地獄絵図が広がってるんだ。詳しく知りたかったら動画サイトで検索すると簡単に出てくるよ。“ツイフェミ 新法”でね。まぁ胸糞展開しかないから自己責任だけど」
気になって動画を軽く観たけど、ケールの言うとおりでとんでもない胸糞展開だった。
「なんというか、ツイフェミって女性差別もするし男性差別もする感じの集団なんだね。会社の偉い人が椅子にふんぞり返ってるみたいに」
「その例え良いね。とまぁそんなツイフェミが最近八王子で悪行三昧してるわけなんだけど……」
するとケールが、いきなり窓を開けて外へ飛び立つ。
「ちょっとノルマ達成した魔法少女がいるから、行ってくるね」
「あ、うん…… 気を付けてね」
そのままケールは空の向こうまで飛んで行った。それにしてもあぁやって魔法少女の元へ向かってるんだね。いちいちワープとかしてるわけじゃなく。
「そういえば、悪い魔法少女が悪い願いを叶えたら…… この八王子はどうなるの?」
そんな不安が、ケールとの会話でふいに浮かび上がってしまった。
◇◆◇
「呼んだー?」
ボクを呼んだのは、ツイフェミ系インフルエンサーの魔法少女。ちなみに年齢は30代後半のオバサンで、“人を魔法少女にする魔法”を持っている。
「遅いよ、早く叶えたい事あるんだから急いで」
とか言いながら、彼女はスマホで新しいツイートをする。
「はいはい。じゃあまずはそのスマホを……」
「そんくらい待っててよ。今打ってるトコだから」
今度はボクが待たされるのか。昔とは違って面倒くさい人になっちゃったな、この人。
「……よし、出来た。ほらケール、さっさと願い叶えさせて。私の願いは“クソオスに差別されずアンチが女性を攻撃しなくて女性がのびのび自由に暮らせる世界”が欲しいんだから‼︎」
ふむふむ、なるほど。
「あー、一応聞くんだけど…… ボク達が叶えられるのは一つだけで、つなげて言われても困るというか……」
「なにソレ。メンドくさい奴ね…… なら“女性だけの国”をさっさと作って。クソオスが入れない、とびきり綺麗な国を‼︎」
「一瞬だけ余計な言葉が聞こえたけど…… いいよ。女性だけの国を作ってあげよう」
とは言ったものの、ボクには大陸を動かす力なんて無い。地殻エネルギーを左右させるような膨大なエネルギーは、地球にしか操れない。
「国を作る前に最後の確認。ちょっと面積が狭くなるけど男がいないなら構わないよね?」
「えぇ、クソオスさえいなければ結構」
「……そう」
この人が求める願いをなるべく忠実に叶える為には、こうすればいい。日本の一部をツイフェミだけの国に作り変え住まわせる。日本中のツイフェミが一箇所に集まるという、特別な瞬間さ。
◇◆◇
明石市、もとい私達の国。
ここに集められたのは私のフォロワーやフェミニストの皆。長い間クソオスやアンフェに差別され続けながらも声を発信し続けた女達。
ようやく私達は、男共に差別や痴漢や加害される心配をしなくて良いんだ。
「さぁ〜て、早速ドラマでも観よっと」
テレビに出てくるイケメンは、誰もが私に恋してくれる。何でも出来る訳じゃないのに、頑張る姿に一目惚れしてくれるイケメンもいれば、恋愛関係にならない代わりに仲良く接してくれるイケメンもいる。主役の女優なんてブサイクだし顔なんかイケメンと違ってどれも一緒だし、個性が無い。
だから抱き付かれるシーンとかは、イケメンを汚さないよう私に置き換えて観ている。そうすればイケメンからいくらでも胸キュンセリフ言われ放題で最高の気分よ。
『俺と、結婚してくれ』
「あぁー‼︎ アナタなら喜んで結婚します‼︎」
今頃オスは女性を加害してんだろうなぁ。ちょっと嫌な事があった程度で道を歩いてる女性を殴ったり裸を触ってストレス発散するんだ。何も出来ず一方的にされ続けて心に深い傷が入っても、周りは知らんぷりして無視を決め込む。それで最終的に少しも傷が癒えず、ずっとオスに加害され続けていく。
だからオスは隔離されるべき。精神病棟とかで異常者という自覚を持って、自分の残虐性を自覚すべきだと思う。
「あっ、ソコで他の人に見られちゃったぁー‼︎ 大胆な所でキスなんかするからー‼︎」
はぁ、結婚したいなぁ……
「私に寄ってくる男、どいつもこいつもクソなんだけど…… 大したことないクセにナンパしてきてさ……」
何人ものキモオスに言い寄られた私だから分かる。男には頭が無い。頭で考えずに下半身で物事を考えてる。だから毎日24時間欠かさず、女を乱暴する事しか考えていない。仕事を早く終わらせたいのも、結婚が長続きしないのも、20代以下の女しか好きにならないのも、全部全部全部。何もかも、下半身で考えてるから。
献血だって所詮、グッズ目当て。
AEDでの人助けも、痴漢目当て。
歳の差婚も、女を奴隷扱いするため。
……全て、男が優先された世界。
「でももう男にキショい目で見られたり、触られたり、殴られる心配もない。ここはフェミニストの国でもあり女性専用の国。男がここに入っただけで国民全員がソイツを排除出来る権利を持ってる。
男は社会のゴミでもあり、世界のガンでもあるんだから。
◇◆◇
「君達はいつになったら気付くんだろうね、自分達のしてる事に。ボクは彼女の願い通り“女性だけの国”を作った。あとの事は彼女の普段の行い次第で、そこに責任が伴う。そこにご都合主義のフェミニストなんて甘えは許されないし、他力本願だけで逃げられるとは思わない事だね。君達がよく名乗ってるフェミニストという肩書きの本家のガワだけでも付け焼き刃でもない、差別主義の人間達がストレス発散するように男女平等を掲げる代償はキチンと払ってもらうからね」
夢をみる代償として、現実をみる。
それでもなお、現実を逃避し続けるってのが君達の常套手段なんだから実に見苦しいよね。
絵本のシンデレラに魅了された女こそが、君達なんだ。空想を追い求める代償が現実の放棄なんだとして、今君達がしてる事が空想の真似事じゃないんだとしたら一体何だと言うのかな?