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第13話『腐ったリンゴ:プロローグ』

 八王子の商店街にある、とても小さな書店。今日もそこへ大人になったばかりの私、千海(ちかい)(あや)は訪れる。そこに行くのは家から一番近いってのが理由の1つなんだけど、それじゃもう1つの理由は何なのか。それはこの書店で店番をしている小学校からの幼馴染、千島(しちま)日菜(ひな)がいるから。

 彼女はカウンターを担当していて、今日も今日とてたった数人しかいない立ち読み客に見つからないようコッソリさぼっていた。

「あっ、い、いらっしゃいませ〜…… てぇ〜、なぁんだ文じゃん。また昼間から息抜きに来たの?」

「まぁね。日菜のいる所が私にとって1番落ち着くから。それにココは家や外よりも静かだしさ」

「ちょっと〜、それじゃココがいっつも活気が無くてガランドウだって言ってるようなもんじゃん‼︎」

「でも実際そうでしょ?」

「否定は、しない……」

 日菜も私も、子供の頃からの夢を叶えたつもり。本に関する夢を持つ者同士で仲良くなって以降沢山の本を読んでいって、私はネット小説でギャグ作品をメインに執筆。日菜も小さい頃に執筆をしてた時期があったけど、自分のセンスの無さを自覚してからは販売業に就く事で間接的に叶えた。

「あそうそう新作読んでるよ〜、日々絶えず異世界転生される人間のワガママに手を焼く女神の気苦労を描いたギャグ作品」

「あぁ…… ありがとう読んでくれて。実を言うと元々ボツ案だったのを無理矢理引っ張りだしたんだけどね」

「そうだったんだ、それは良い事聞いちゃったなぁ……」

「んでも書けてせいぜい20話くらいかな。マンネリになる前に完結させて、さっさと次いきたいし」

「もうアイデアが頭の中にあるの?」

「あるけど、肝心な最終回がまだ決まってないんだよね。構想ならスラスラ出てくんだけど、どうもキャラが弱くてさぁ…… やっぱダメだね、私ってば」

「ううんそんな事ない。文ってばスゴイよ、そうやって諦めずにいくつも小説を書き続けられるなんて。その努力の甲斐あって今じゃ沢山の人に読まれてさぁ……」

「そんな沢山ってほどじゃないって。ブックマークだってせいぜい20人くらいしかないし……」

「逆に言えば20人もファンがいるんだよ、文の作品。異世界作品がはびこるウェブ小説の世界で文が作ったギャグ作品が20人に読まれてる。私からしたら十分過ぎるって、20人のファンはさ」

「そっか…… そうだよね、まだ始めたばかりだし。それにこれからファンを獲得する為にも他の作品を読んで技を盗んでいけるし‼︎」

「その調子その調子‼︎ これからも応援してるよ、文‼︎」

「ありがと、日菜」

 日菜のおかげでだいぶ元気が出てきた。よし、もっと綺麗に纏まった作品を作れるように頑張るぞ‼︎

「んじゃ今日もラノベを爆買いしてくるからー」

「棚買いとかはやめてよー、見栄え悪くなるからー」

「はいはい、言われなくても分かってるって‼︎」

「えー、ホントにー?」

「ホントだってばー」

 これから私はもっと沢山の人に読まれるウェブ小説家になるという決意を改めて固めたんだから、今日はちょっとだけ奮発しなきゃ。じゃなきゃ決意し直した意味が無い。

「んーと、どの本買おっかな……」

 隅っこにあるラノベコーナーには、今日も男性客が数人いるだけ。ここにいる相手の顔を細かく覚えてしまうほど通い詰めてるせいか、だいたい何時頃にその人がここに訪れるのかも予想付くようになってきた気がする。

「よし、20冊くらい買おうっと」

 ラノベコーナーを独占してるのは異世界転生して手に入れたチート能力で無双しながらハーレムを無自覚に築くなろう系、異世界でチート能力を手にしながらもただのんびりと平和に暮らしたり何かしらの職業で活躍する、いわゆる異世界スローライフ系ラノベの2パターン。それらを一冊ずつ見て手に取っては軽く立ち読みしていく。最近また新しいアニメが放送されたから、それの原作ラノベもカゴに入れてく。

「なんか急に暑くなってきた…… 早めの暖房か?」

 パチパチ変な音がする背後に目を向ける。

「え……」

 私の真後ろで、火だるまの人が跪いて本棚にもたれかかってた。しかも全身が派手に燃え盛ってるせいで周りの本達に引火し、どんどん火が広がっていく。

「な、何コレ⁉︎ 消化器早く‼︎」

「……………………」

「日菜?」

 火元が邪魔で確認しに行けない。近くに消化器が無い。別の場所から同じような音がする。もしや店の人間を全員まとめて人体発火させた?

「文‼︎」

 そこへ日菜が火だるまの人を力ずくでどかして逃げられない私のもとへ駆けつけてくれた。よく見ると衣服ごと全身が濡れてて、さっき火だるまの人を触ったせいで両手が少し火傷している。

「ねぇ、これどうなってんの⁉︎ 魔法か何か⁉︎」

「……かもしれない」

「まさか最近テレビで取り上げられてる“魔法少女”ってヤツら?」

「だと、思う。毎朝テレビとSNSを見てるからすぐに分かった。これはどう考えても魔法少女の仕業…… ううん、正確に言えば“カルト集団”の仕業だよ」

 カルト集団…… 最近テレビで見ない日がないぐらいに露出が増えてる、本来の魔法少女とは正反対の魔法少女。

 アイツらはどう見ても歳食った女なのに“魔法少女”って名乗り、ストレス発散にしか見えない“女尊男卑活動”を生業にして社会に甚大な迷惑をかける、言わば“ツイフェミ”が柄に合わない事をしだした。

「……ホント迷惑だよね。自分より目立つ女は排除、イラストは個人の物差しで規制、自身の無能さを責任転嫁。それで“女性を守る”だなんてご大層な正義を振りかざしてるんだもの。あの女達はネットで飽きずにイキって論破されてるのに、自分の行いを反省するどころか“自分の意見を理解出来ない方が無能”呼ばわりして愚行を繰り返す。結局のところ、周りより目立ちたいだけのクズなんだよツイフェミは」

「そう、かもね。批判するならソレを徹底的に知ってから反論なり批判なり好きにしろっての。そうすりゃ真面目に相手してくれるのに、飛躍しすぎな解釈で被害妄想に取り憑かれた結果あのザマ。映画ン時だけカッコよくなるガキ大将の方がまだ話が通じるよ」

「それ同感。アレじゃ“見た目は大人、頭脳は子供”だもの」

「それどころか、“見た目は大人、頭脳はスッカラカン”だよアレは」

「ふふっ、それ言えてる」

 2人に軽く笑い合う。

「……しっかし、暑いね」

「……私がいるから、大丈夫」

 日菜が私に抱きつく。周りの暑さに負けない“別の熱さ”が私の身体を温めていく。

「……ねぇ、日菜」

「なぁに、文?」

「……死ぬ時も一緒だから」

「……うん、そうしよう」

 いよいよ髪に火が付き、プスプスと音を鳴らしながら服と一緒に私の身体へ迫る。背中に火が触れても顔に出すのを必死に我慢するけど、涙は我慢出来なかった。日菜がとっても優しくなだめてくれるけど、そんな日菜の背中から火が吹き出し、首元にまで火が進んでいる。その首元を見て昔の思い出がフラッシュバックするのと同時に、火が私の頭を焼き尽くさんばかりに皮膚を焦がして骨の随まで焼いていく。

 呼吸が出来なくなっていく。だけど想像してたよりも苦しくはない。目の前が地獄絵図なのは確かなんだけど、それよりもすぐそばに大切な人が寄り添ってくれるから不思議と幸福感と安心感に包まれてるというか、死ぬのが怖くないって思えてくる。それがきっと死ぬ合図なのかもしれないし、この状況を前に頭がイカれちゃった可能性も捨て切れない。でもこれだけは間違ってないと断言出来る。

 たとえ他殺という形で死ぬんだとしても、好きな人と一緒に死ねるってのは人生が最高潮の証なのかもしれない。生涯を誓った愛人と共に人生を終える。こんなロマンチックな末路も悪くないんじゃないかな。

「あ、はは、は……」

 ……私ってば、本の読みすぎかも。

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