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最終話 無人島の小さな家族

 春の息吹がこの島を満たしていた。

 冬の間、雪で見えなかった地表からは草花の芽が出て、山の動物達も活動を活発化させている。

 久しぶりに新鮮な獲物を、ということで私たちは狩りをしに山に入っていたのだが……


「あーーっ! ジェイドがまた魔法使った!!

 狩りは剣でやらなきゃいけないのにい!」

「うっせえ! ネイトがのろまだからオレがしとめてやったんだろうが!」

「ふたりとも〜、ケンカしないの」

「セレナも少しは手伝えよ! 父さんに肩車されてばっかでさ!」


 獣たちもこの喧騒を察知して、山の奥深くに逃げ込んでいることだろう。

 それでも、きっちり獲物を仕留めている辺り、さすがとしかいいようがないんだが……


「母さん、母さん! 見て! オレが仕留めたんだよ!」


 銀色の髪に赤い瞳で髪飾りのような小さな角をはやした少年はジェイド。

 3人の中でもっともわんぱくな子どもだ。


「魔法使ったから今のナシ!

 しかも体のほとんど吹き飛んで、元が何の動物か分からないじゃないか!」


 黄金色の髪に青い瞳で私に似て生真面目な少年はネイト。

 事あるごとにジェイドとケンカしている。


「父さん、父さん、アレ食べたい」

「うん。あれは食べたら死んじゃうやつだから我慢しようね」


 白金の髪に緑色の瞳で背中からちょこんと小さな天使の羽を生やした少女はセレナ。

 毒キノコを父親にねだっているおかしな子どもだが、それもまた愛らしい。


「子連れで狩りって……結構疲れるな」

「アハハ、でもいいじゃない。3人共たくましく育っているのが確認できたわけだし」

「本当にたくましいな……

 まだ4歳にもならないと言うのに、軽々と狩りをしているんだから」


 本当に末恐ろしい。



 私がこの島に住み着いてから6年の月日が経とうとしている。

 最初は二人きりで暮らしていた私たちだったが、子どもが増え、今は5人で暮らしている。

 気が遠くなるような激痛の中、ジェイドを産み落としてホッとしたのもつかの間、下腹部の痛みは消えず続いて、ネイト、セレナが私の腹から出てきた。

 まさか、一度にこんなにたくさん生まれるとは夢にも思わず、取り上げたシオンも大混乱だし、用意していたものも二人分足りないし、私は瀕死だし、と筆舌に尽くしがたい修羅場になった。

 どうにか私も一命をとりとめ、育児書を参考にしながら子育てを始めるものの、言葉も通じない子どもを相手に私とシオンは人生最大の苦闘を繰り広げることになった。


 それでも、なんとか皆元気に育ち…………育ちすぎて今や子どもたちだけで大型の獲物を狩るような規格外の三兄弟が出来上がってしまった。


「寂しい……ってなんだっけ……」


 シオンが毒キノコを欲しがって泣きじゃくるセレナをなだめながらポツリと呟いた。


「さあ、昔はそんな言葉もあった気がするが……

 今の私たちには無縁の言葉だろう」


 ケンカがエスカレートして魔法の打ち合いを始めようとするジェイドとネイトの頭をポカリと小突いて仲裁する。

 拗ねるジェイドとぐずってしがみついてくるネイト。

 セレナは癇癪を起こして、シオンの頭を殴り始める。

 三つ子だと言うのに見た目も中身もてんでバラバラだ。


「もう帰るぞっ! クライネ! ナハト! ムジーク!

 お前たちは獲物を狩って帰ってこい!」


 子どもたちとは対照的に従順な三匹は命令を了承し、森のなかに飛び込んでいった。

 小さかった三匹も今では牛のような大きさに育った。

 この島の動物の中で彼らより強い者は存在しない。

 だが、性格は極めて温厚で趣味で狩りをするようなことがない上に、子どもたちの子守役兼遊び相手としても働いてくれている。

 彼らもまたかけがえのない家族の一員だ。


「ジークさん。今日のご飯はどうする?」

「今日はもう簡単にバーベキューで済ませよう。

 準備するから子どものことはよろしく」

「はーい」


 ジークは相変わらず屈託のない笑顔を私に向けてくる。

 そして、わたしのズボンの裾を子どもたちが引っ張ってきた。


「僕もご飯作るの手伝うー!」

「俺もっ!」

「私もキノコ切るー」


 ああ、たしかに見た目も中身も違う3人だが、一つだけ共通しているものがあった。

 目を糸のように細め、口角を大きく上げて歯を見せて笑うその顔。

 父親譲りの屈託のない笑顔だ。

 おかげでどれだけ大変でもこの子どもたちを疎ましく思えない。

 親子揃ってズルい連中だ。


「よし、じゃあ協力してもらおうか」


 私は3人の頭を荒っぽく撫でた。




 聖剣を手にとり、戦い続けた少女の頃……

 人類の救済という大きな使命だけが私の中身だった。

 運命に導かれるまま、剣をふるい命を賭けてたどり着いた世界は平和だけど私の居場所はなかった。

 その顛末は他人から見れば悲劇だろう。

 私自身何のために生きてきたのかと嘆いたこともあった。


 だけど、今はこう思う。


 もし、私が聖剣の勇者でなければシオンには出会えなかった。

 もちろんジェイドやネイト、セレナにも出会えなかった。

 私の生きてきた意味は彼らに出会うためで、それまでの戦いも苦難も過程でしかなかったのだ。

 そして、きっと今もまだ道半ばだ。


 子どもたちはさらに大きくなるだろう。

 この島だけでは満足できず、外の世界に向かうかもしれない。

 それぞれが家族を作ることもあるだろう。


 時を重ね、老いて、やがて……みんなを置き去りにする日がやってくる。

 だけど、そのことを嘆いたりはしない。

 私たちは幸せになるために出会ったのだと思うから。



「シオン」

「ん?」


 私は並んで歩くシオンを見上げて、


「楽しいな。今日も」


 と笑いかけた。

まだ続きます

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