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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第七章 三日目(1)絶望は希望から始まる
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体育館の惨劇

 あたしが体育館についた頃には射撃ポジションに着いて膝立ちでドラグノフ狙撃銃を構える海人と扉の横に立ち、シャベルを構えた兎川が立っている。

 こっちを見た2人にハンドシグナルであたしとドアとサインを送る。海人と兎川は縦に首を振ってくれた。あたしが扉を開けるという意図に気付いてくれたようだ。

 中からは悲鳴と声にならない叫びと呻き声だけが響く。恐怖で簡単な錠前すらも開けられないのだろうか──

 後ろを見ると和泉と弓道部員たちも来てくれた。それを確かめてから初日に使ったヘアピンだった成れの果てを鍵穴に突っ込んで解錠する。

 ハンドシグナルで、右手の指で5・4・3・2・1と作ってから思い切り体育館の扉を開け放って後ろに下がる。ほぼ同時に兎川も反対側の扉を開け放つ。

 あたしも一瞬だけ中を見て再び扉を閉めたくなった。一言で言うと地獄。二体のエクセキューショナーとレウケった生徒たちが生きてる生徒を襲っていた。体育館内部に血は飛び散り、赤で染まってないところは無いように見え、エクセキューショナーはレウケ人間を丸齧りして咀嚼している。もう1体はレウケや生きてる生徒見境なく近くにいる者を手当たり次第に攻撃していた。

 生きてる生徒たちは開け放った扉を目掛けて逃げ出そうとするがレウケに道を阻まれ、動けないで怯えて噛まれる。まるで蟻地獄に吸い込まれる昆虫みたいに──

 多分、レウケやエクセキューショナーは彼らが燃やすのを躊躇った親友や恋人なのだろうが今この時点で心の底からその判断を下したことを悔やんでいるだろう。

 銃声が響いた。狙撃銃から放たれた銃弾はレウケを食べていたエクセキューショナーの頭部を横から吹き飛ばす。だがまだ動いている。再び、銃声が響き、エクセキューショナーの息の根を止める。エクセキューショナーはあと1体。

 銃声にレウケたちが、エクセキューショナーが、そして、止せばいいのに生き残っていた一部の生徒たちまで押し寄せる。


「他から出ろ!」


 海人の声に我に返って他の出口を目指した者も多少は居た。でもレウケとエクセキューショナーの中に飛び込んで助かるわけがない。

 それでも和泉が正確にレウケの頭を矢で貫き、脱出を援護するがそれでも数は減らない。ようやく冷静になったのか、そこで立ち止まるものも居たがかえって危険を招き噛まれてしまう。

 エクセキューショナーが健在で床に転がってる人影がレウケかもしれない時点で迂闊に体育館の中には踏み込めない。誰のせいでもないがここに怪我人を運んだのが完全に仇になってしまった。

 矢の群れと銃弾でこっちに向かってきたレウケは全員床に転がった。しかし、エクセキューショナーがこっちに迫ってくる。

 エクセキューショナーが扉付近まで来た所で金属の矢が左目に深々と突き刺さって奴が仰け反った。遅れてやってきた鈴音の矢だった。同時に海人が撃った銃弾が右膝を撃ち抜く。そしてエクセキューショナーは膝をついた。

 その隙に和泉と弓道部員たちが放った矢が胸、腹、腕、大腿、頭を貫いてようやくエクセキューショナーは力尽きた。

 だがレウケの姿も見えないけど誰も体育館に入ろうとは思わなかった。化物たちを倒したけど体育館の中は数日前の姿は見る影もない。連続殺人犯とかが暴れてもこうはならないだろう。

 外まで血と死の臭いが漂ってくるのみあたしも含めて誰も吐き出さないだけマシと言うべきなのだろうか、それとも──なんて考えてしまう。もし、無事に最夜市の外に出れた時、あたしたちは本当に正常で居られるんだろうか。PTSDを発症したりしないのだろうか。


「ここからじゃなくて他の扉から出るんだ。それと生きてる化物が居るかもしれないから棒かなんかで確認しながら移動して注意しろ」


 海人が的確な指示を飛ばすが聞いてきないのか反応がおかしい。恐怖で我を失っているのかもしれない。


「他の扉を開けるから待ってて」


 あたしは叫ぶように言った。

 でも女子生徒の一人がノロノロとこっちへやってくる。ここに立て篭もっていたのは1年生が大半なのだから1年生と見て間違いないのだろうがその表情はやつれて酷く老女のように見えた。

 大地、行くなと海人が制止する。レウケってる可能性があるのだから当然だ。それが正しい。


「止まって。判断できないから。周囲に誰も居ない所で待機して」


 でも女子生徒は止まらない。ただヨタヨタをこちらに近付いてくる。海人もドラグノフ狙撃銃を構えたままだし、和泉も弓を構え矢を右手で番えている。弓道部員たちも同じく戦闘態勢を維持したままだ。


「あ、あ、助かった。助かった」


 正気に戻ったのか慌てて扉の外へ出ようと亀のような遅さで走ってくる。その顔は嬉しさで涙を流している。

 反射的に兎川が飛び出そうとしている。


「兎川、駄目!」


 叫んだあたしを見て兎川踏み止まった。

 本来はあの子を助けに行くべきなんだろうが凄く嫌な空気しか感じ取れない。ホラー映画なら助かる瞬間に襲われる人みたいに──

 そして扉まであと3mくらいの所で彼女は躓いた。いや、倒れていた人物に左足を掴まれた。それが只の人間であることを祈りたかったがそうじゃなかった。──レウケ人間だった。そしてそいつは彼女の脹脛に噛み付く。

 女子生徒は声にならない悲鳴を上げる。取り出した包丁でレウケの首をめった刺しにして止めを刺す。そこまではまだいい。叫ぶ暇もなく、彼女は包丁を自分の首に添えて勢いよく手前に引いた。傷口から吹き出た赤い血が花のように周囲を染め抜き、力なく床に倒れこむ。でも引きが甘かったのか変異しているのかまだ動いていた。

 銃声がして彼女の頭頂部から血が出た。海人が安らぎを渡してあげたのだ。他の生徒たちはその様子を見て一箇所に集まるのが危険と察したのか、別の扉から緩慢な動きで脱出をし始めた。

 その数は15人にも満たず、体育館に留まっていた1割程度だった。

 体育館を燃やそうなどと意見が後からやってきた風紀委員たちから出ていたのは仕方ない流れだったのだろう。多分、体育館の件でこの学園に残っていた人数の6割以上を失ってしまった。

 あたしも海人も兎川も和泉も無力感に襲われて立ち尽くしていた。でも鈴音の姿が見えないのを気にすべきだったのに──

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