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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第七章 三日目(1)絶望は希望から始まる
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半狂乱

「東は駄目だった」


 あたしの代わりに東の様子を見に行ってくれた兎川が頭を振る。これであたしが関わってる人間では2人目だ。


「那名側のせいじゃないから仕方ない。彼の運命だったんだ」


 依田先生に治療を受けるながら、うんと短く返す。あたしの左肩は倍くらいに腫れたが残っていた湿布を貼られ、包帯を巻かれるという程度の治療で済んだ。

 幸いと言うべきなのか、かすっただけでもこれなのか。どう取るべきなのか──


「こ、これは、ど、どういう事なの? だ、誰か説明して頂戴!」


 いつも冷静だった筈の薙澤会計が田中を伴って現れた。彼女は激しく狼狽しているようで田中が宥めようとしているのだが一向に聞き入れる様子はない。多分、【パペット】の姿を見たせいなのだろうか。

 でもこいつに対する説明はあたしも誰かに聞きたいくらいだ。


「エクセキューショナー。レウケが倒されてから48時間前後でこの変化が起こる模様。eによる脳細胞の再生が起きている為にこれを完全に防ぐには運動神経を司る脳髄を破壊する必要があり。尚、人やゾンビを捕食する為、腐ることはないし飢えて死ぬことはないと思われる。冷気が弱点で凍結されると動けなくなる模様。通称はアフンルパル。アイヌ語で窪地・冥界への入り口」


 東のと思しきタブレットを持った鈴音とドラグノフ狙撃銃を持った海人が姿を表した。


「会長は何を言ってるんですか」


 混乱している薙澤は大声を上げる。田中が宥め、海人が人差し指を口の前で立てるが効果はない。


「説明しろと言ったじゃない。だから説明してるのよ」


「それは東の遺品になったタブレット?」


 鈴音はあたしの声に小さく頷いて肯定する。


「どうして早く言ってくれなかったんですか!」


「私も先程東から翻訳が終わったと渡されて読んだところなのよ」


 だがその対応にも薙澤は納得しないのか、或いは受け入れられなくて混乱しているのか落ち着く様子はない。それどころか今にも鈴音に飛びかかりそうな勢いだった。

 それを察して海人は彼女の盾になり、田中は右腕を浮かんで引き止めている。


「終わったよ。骨には異常はないと思うけど無茶しちゃいけないよ」


 はい。と答えて右腕を動かしてみる。痛いけど動かす分には支障はない。


「あの子ももう駄目だね。精神の限界を越えちまったみたいだ」


 依田先生は薙澤の方を見ていった。元々脆い所があると評していた女子生徒の言ったとおりになっただけかもしれない。

 現に薙澤は混乱しているのか何を言ってるのかよく分からない。押さえ込んでる田中が哀れに見えてきた。


「とりあえず、エクセキューショナーとやらはどうする? 燃やすか? 首を落とすか?」


 海人が誰ともなく言う。


「首を落とした方がいいかもね。もう一回蘇ってこられたら困る」


 あたしは他人事みたいに言ってしまった。その言葉に薙澤以外が固まる。二度ある事は三度あると言うことわざもあるのだからそういう反応もあるも当然か。


「貴方たち、早く首を切り落としてきなさい」


 薙澤の言葉に反応して生徒会の庶務と風紀委員たちが慌てて行動し始めた。全員が怯えているのは聞かなくても分かる。言われた通りに首を刎ねるのに適した獲物でエクセキューショナーの首を刎ねるのに必死になっている。

 その光景を見ていたい訳じゃないからあたしは薙澤に視線を戻す。


「あたしが言うものなんだけどいつも冷静だった貴女に戻れとは言わないけどみんなの前で取り乱さないで」


 薙澤は聞いていなかった。こうなったら気絶させた方がいいのだろうか。


「わ、わたしは貴女になりたかった」


 囁くような告白だった。だが誰に向けていったのか分からなかった。


「わた、しは貴女みたいに、生徒会長みたいになりたかった。貴女が本気になれば何でもできる筈」


 絞り出した言葉は砕け散った想いの残滓のように思えた。呪いみたいだとも感じる。人は自己がある限り、別人になる事は出来ない。限りなく近付くことは出来たとしても──


「薙澤さん、それは勘違いしてる。私は貴女の理想を体現した人間ではない。一人の人間が目指した基準を満たせなかったただの作り物」


 鈴音は自分で言って少し辛そうだった。

 この状況で誰も誰かを慰める余裕がないのは仕方ないのだろうけどこれではどうにもならない。


「田中副会長、とりあえず、薙澤会計にお茶でも何でも出してやってくれ」


 耐えかねた海人が口を挟む。田中はそれに頷いて応える。

 その言葉に薙澤が落ち着きかけた時に体育館から悲鳴が聞こえた。それも複数の──


「体育館の方からか」


 兎川がシャベルを手に走りだしていた。


「田中、見せなくていい。薙澤を下がらせろ」


 海人はそれだけ言って走り出す。多分、体育館の光景は地獄絵図になってる可能性が高い。薙澤が壊れない保証はない。ただでさえ錯乱してるのにこの以上の刺激は良くないだろう。

 あたしも消防斧を両手で持つ。


「無茶するんじゃないよ」


「はい」


 依田先生の言葉に感謝を表して体育館へ向かって駆けだした。

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