変わったもの。
ぼちぼちね
放課後の学校。その校舎の渡り廊下で声が聞こえる。
「りっくん!?いたの!?」
空が驚きの声を上げて陸人を見ている。
それはそうだろう。まさかいるとは思わないだろう。
そんなことを思いながら陸人は苦笑しながら言う。
「はは…。悪い。その声が聞こえてきてな?」
「え!?あ、いえ、それは今はいいのよ!?なんでここにいるの!?帰っててって言ったわよね!?」
近づきながら言う空に陸人は質問攻めされる。
なんでいるのかと言われて、気になったからとは陸人は恥ずかしくて言えなかった。なので、
「ほら、それは今まで一緒に帰らなかったことはなかったからさ」
陸人は頭を掻きながらそう言って誤魔化すことにした。
すると先ほどまでの勢いを無くした空が俯きながら言う。
「そ、それはそうかもだけど。でも、小学校の頃の話じゃない…」
確かにそれはそうだ、と陸人は思う。実際、小学校の陸人と空はほとんど一緒に帰っていた。もちろん例外はあるのだが。
そんな事を陸人が考えていると空は続けて言う。
「それで、その、どこまで聞いたの…?」
俯いたままの空が気まずそうに陸人に聞いてくる。
「どこまでって?」
陸人は疑問を口にした。陸人の頭はまだ小学校の頃に考えを寄せていたのだ。
「さっきの話よ!」
そう言って空は顔を上げてさらに近づいてくる。
少し顔が赤い気がするが照れているとかではなく、怒りの感情だろう。
さっきの話というのはここで会ったことの話だろう。
「あぁ…。それなら…」
「それなら…?」
陸人はそう言って言葉を止めた。
陸人は考えていた。
よく考えてみろ…。男女が放課後、人目のつかない校舎裏にいた。まあ、大体のこういう時は告白とかそう言うものだろう。仮に告白だとして、男子生徒が喜んでいたな。だから、男子生徒が告白して、それを空が受け入れたところだろう。まあ、いずれはこうなると思ってたけど、まさかな。こんなに早いとはさすがに思ってなかった。とりあえず聞こえなかったことにでもするか。
そう考えた陸人は言う。この時、無自覚に陸人は不機嫌になっていた。
「いや、何も聞こえてないよ。ここを歩いてたら空が出てきただけなんだ」
距離が近い空から顔を背けながら言う陸人。目を合わせないようにしていた。
それを疑わしそうな表情で見る空。
「本当に…?」
「ああ」
目を逸らしたままの陸人の言葉を聞いて少し悩んだ様子を見せた空だが、その表情を笑顔にしてから頷いて言う。
「分かったわ。りっくんがそう言うなら信じるわね!」
今までの信頼関係なのか。素直に陸人の言葉を受け入れて空はそう言った。
「そうしてくれると助かる。…それじゃまたな。俺は帰る」
唐突な陸人の突き放すようなその言葉に空は動揺した声で言う。
「ぇ?一緒に帰らない…の?」
余程の動揺だったのか空の口調は昔のように戻っていた。
それに気づいたのか分からないが少し考えた陸人は言う。
「…急ぎの用事を思い出したから。ごめん」
陸人はそう言うが、もちろんそんな用事なんてない。むしろ空のことを探していたぐらいだった。その考えを変えたのは先ほどの出来事なのだろう。
「それなら…。仕方ないよね。また、ね」
空は何かを察しているようだが、今の陸人の言葉にその疑問を口にしなかった。
「ああ、またな」
陸人はそう言うと探していたはずの空を置いたまま家路に着く。
陸人にとって朝日空、彼女とは一度は離ればなれになったが、身近な存在でなんとはなしに再会したこれからはこのままずっと一緒にいるものだと無自覚に感じていた。しかし、そんな彼女に彼氏ができたのかも知れないのだ。
朝日空に彼氏が出来た。そんな事を考えてしまった陸人はこの感情を抑えられなかった。
嫉妬のような、落胆のような、とにかく暗く複雑な感情。
自分勝手だと自覚しながらも抑えることは出来なかった。
そんな感情を抱えながら家に帰るのだった。
若い頃の過ちと言いますかなんというか、自分の感情を抑えきれない時ってありますよね。