9.ダンジョンが討伐されました
ダンジョンが出現して十日が経ちました。
昨日、ついに死者が出てしまったんです……。
初級者の方でした。
被害にあったのは第五階層、つまりベビードラゴンにやられたんでしょう。
冒険者ギルドへ向かう私と師匠の足取りは重いです。
きっとほかの三人も同じはずです。
お互い無言のまま、あっという間に冒険者ギルドへ着いてしまいました。
……ん?
騒がしいですね……。
「あっ、来たか!」
「ダンジョンがなくなったんだって!」
「えっ!?」
ダンジョンがなくなった!?
どういうことでしょう!?
「説明して!」
ギルド長とモニカちゃんといっしょに対策本部に入ります。
あとのお二人を待たずに説明が始まりました。
「ダンジョン入り口にいる騎士たちの話なんだが、なにやら夜中にいきなり馬車が現れたんだと。仮面かなにかを被った小さな女性……おそらく少女二人に、同じく仮面を被った小さなペットが二~三匹いたらしい」
少女二人?
それに小さなペット?
仮面?
「騎士がとめるのも無視して強引に中に入ったらしいんだ。しかも馬車は消えたんだとさ。夜勤の騎士たちは五人ほどいたらしいが魔物と戦っていたこともあってとめられなかったらしい」
馬車が消えた?
まさか……。
「でも夜中だから中には騎士も冒険者も誰もいなかったから放っておいたらしいんだ。それから四時間後、水晶玉を持って出てきたんだと……」
四時間?
四時間で第六階層まで行って帰ってきたんですか?
いや、第六階層で終わりとはまだ判明してませんでしたが……。
あの通路の広さだと馬車は使えないでしょうし。
でも第三階層の草原フィールドからは使えますか。
第五階層は階層自体狭いですし。
……魔物との戦いで立ち止まらなければ可能ですね。
「師匠……」
「やっぱりそう? でもなんで仮面なんて被ってるのかしら」
「おい、誰かわかるのか? 知り合いか?」
「たぶんね。出てきてからは? 当然騎士たちが話を聞いたんでしょ?」
「それが……」
……まさかなにも聞けなかったんですか?
「水晶玉は我々がいただいたのです! たった5000Gなんて子供でも欲しがらないのです! おととい来やがれなのです! こっちは寝不足なのです! みたいなことを言ったんだそうだ……」
ユウナちゃん……。
「そしてもう一人は……まさかベビードラゴンくらいでビビってたんじゃないでしょうね!? それとものんびり魔石稼ぎでもしたかったの!? あなたたちがこんな雑魚を相手にしてる間にも魔王は魔力を蓄えていってるのよ!? 騎士なら国を守りなさい! そんな覚悟も実力もないようなら今すぐやめてしまいなさいよ! って言って馬車でゆっくり去っていったらしい……」
「……」
その通りです。
私が言いたくても言えなかったことを全て言ってくれました。
なぜゆっくり去っていったのかはわかりませんが。
「……騎士たちはそれを聞いてどう思ったって?」
「朝の交代時間まで全員無言で魔物と戦い続けたそうだ……」
響いてる証拠ですよね?
もしこれで騎士を辞めたくなったとしてもそれは仕方ありません。
「魔瘴の浄化には向かってるの?」
「あぁ、先に来ていた二人にはほかの魔道士といっしょに向かってもらった。ほかにも何人か依頼するつもりだ」
だからいなかったんですか。
私たちじゃ力になれませんからね。
「どう報告するつもり?」
「そのまんま言うさ。仮面を被った謎の少女二人組とペットたちによって討伐されたとな。もちろんそのあとの言葉もそのまんまな」
「ふふっ。できれば冒険者にも伝えてほしいものね」
「そうだな。で、知り合いなんだよな? 誰なんだ?」
「仮面を被ってたんじゃ誰かわかりっこないわ」
「おい……」
「じゃあ適当にまとめてこの仕事は終わりにするから。ほら、あなたは早くみんなに説明してきなさい」
「……はぁ。できれば王都の冒険者であってほしいものだな」
ギルド長さんは肩を落として部屋を出ていきました。
魔工ダンジョンが討伐されたんですから喜べばいいのに。
「あの、スピカさんはその少女二人組が誰か本当に知ってるんですか?」
モニカちゃんも気になって仕方ないようです。
「もちろんよ。一人は私の姪っ子だし」
「姪っ子!? じゃあカトレアが行ってた大樹のダンジョンの子ですか!? 最初の魔工ダンジョンを討伐したっていう子ですよね!?」
「そうよ。まだ十一歳なんだからあまり危ないことはしてほしくないんだけどねぇ~、ふふふっ。あ、このことは誰にも言ったらダメだからね?」
そんなことを言いながらも師匠はとても嬉しそうです。
私だって嬉しいんですから当然ですね。
「でもわざわざ仮面を被ってきたなんてよっぽどバレたくなかったのかしら?」
「いえ、ララちゃんやユウナちゃんはそういうのが好きなんです」
「は? 好き? 仮面が?」
「仮面がじゃなくて、謎のヒーロー的なやつがですかね。名前を言わずに報酬も受け取らずに去っていくなんてカッコいいじゃないですか?」
「え……そうね……」
残念ながら師匠には理解してもらえないようです。
私はそういうノリ好きですよ。
あのお二人は見ていて楽しいですからね。
「わかる! 私も二人に会ってみたくなったもん!」
モニカちゃんはわかってくれましたか。
「ねぇ、大樹のダンジョンって錬金術師募集してるんだよね? 私が行ったら雇ってもらえるかな?」
「え、モニカちゃんがですか? たぶん雇ってもらえるとは思いますが……」
「たぶんなの? それじゃこわくて行けないよ……遠いし」
いえ、モニカちゃんならきっと雇ってもらえると思います。
でもその場合きっと私はもう必要としてもらえません……。
……私はなんて嫌な人間なのでしょうか。
自分はもう大樹のダンジョンに行く機会がないかもしれないなんて言っておきながら、ほかの錬金術師の方の機会まで奪おうとしてます。
……これではダメです。
モニカちゃんの背中を押してあげることが今の私にできることです。
モニカちゃんならきっともっと成長できるはずです。
「あの、モニカちゃ……」
「カトレア、なんでララたちはこのタイミングで来たんだと思う?」
「え……師匠?」
師匠こそこのタイミングで私に聞きます?
今モニカちゃんに大事な話をしようとしてたんですよ?
「だっておかしいじゃない。普通来る前にこっちの様子を聞くもんじゃないの? それこそピピに伝言を頼むとかさ。デイジーとの一件があったにせよ、私たちがいるのに勝手に討伐とかするかな?」
「それは……夜中だから遠慮したんじゃないですか?」
「でもロイスはきっと騎士たちとの揉め事とか嫌がるでしょ?」
「確かに……でもそれも夜中だから大丈夫と思ったのでは……」
「違うわね。私なら国のやり方に呆れて放っておくもの」
それはロイス君も同じはずです。
魔瘴がどれだけ拡がろうが被害が出てない間は手を出そうとはしないでしょうし。
でもそれでも来たんですよね。
ということはロイス君たちはなにか目的があって来たと考えるべきでしたか。
……ただララちゃんたちがダンジョン討伐したかっただけとかじゃないですよね?
いえ、わざわざこんな忙しい時期に来たりするはずないでしょうし。
……忙しいのにわざわざ?
ユウナちゃんは寝不足って言ってたんでしたっけ?
ユウナちゃんの第一声は……水晶玉はいただいたのです?
あ……
「師匠、お二人の狙いは水晶玉です!」
「水晶玉? そんなにダンジョンの構成が気になったのかしら」
「違います! 魔力です! きっと作業をしてて魔力が足りなくなったんですよ! ダンジョンコアの!」
「……なるほど。あなたの言うように大きな改装作業をしているとしたらそれもあり得るのかもね。でも無駄足になる可能性もあったんじゃないの? 水晶玉が魔力を持ってないかもしれないしさ」
「おそらく既にいくつか吸収したんだと思います! 以前に出現した四つの水晶玉はロイス君が持ってるはずですし! それを吸収して魔力が豊富なことを確認済みなんだと思います!」
「え……そんな貴重なものを勝手に吸収させるなんてなに考えてるの……国から提出を求められるかもしれないのに……」
「ロイス君は普通じゃないんです」
どうせこれからどんどん出現するんだから出来損ないの水晶玉ならいいじゃんって思ってるはずです。
それにこれだけ魔瘴が拡がってるんだからその分魔力が余分に溜まってたらラッキーとも思ってるんですきっと。
「ロイス君って管理人の子だよね? なんだかヤバい人みたいだからやっぱり関わらないほうがよさそう……」
あ……貴重な錬金術師が……ロイス君、ごめんなさい。




