8.ロイス君と揉めたそうです
ロイス君を怒らせた?
なぜそれが町長を辞めることと関係が?
「その……色々あってね……」
え…………。
デイジーさんが泣き出してしまいました……。
私と師匠は思わず顔を見合わせます。
泣きやむのを待って、一部始終をお聞きしました。
話し終えるとまたデイジーさんは泣き出してしまいました……。
デイジーさん視点ですからもちろんロイス君の感情はわかりません。
どうやらデイジーさんと秘書さんは、マルセールに新しくできた冒険者ギルドのギルド長をロイス君にお願いするために大樹のダンジョンに行ったようです。
そこでまず私たちが頼んでいた最初の魔工ダンジョンの水晶玉を預かり、ピピちゃんにパルドまですぐ届けてもらうように頼んだらしいです。
デイジーさんの秘書さんが言うにはそのあとからロイス君が少し怒っていたそうなんです。
そしてギルド長の件はあっさり断られたんだそうです。
それでも引かなかったデイジーさんは冗談半分でマルセールの子供を働かせてるのを問題にするわよ的な発言でロイス君を脅したそうです。
それほどロイス君にギルド長をやってもらいたかったみたいです。
するとロイス君はそれまでと同じ人物とは思えないほど冷徹な口調で逆にデイジーさんを言葉で責めてきたそうなんです。
その内容は……、聞いていてとてもツラくなるようなものでした。
ロイス君がそこまで言うなんてよっぽどです。
しかも表情は無表情だったというのがおそろしいです……。
私が怒らせたときの比ではないように思えます。
もし私がデイジーさんだったら……一生その言葉が頭から離れないかもしれません。
……さすがにそれは言いすぎですかね。
でもそんな言葉を十五歳の子供に言わせてしまった自分が嫌いになると思います。
それにロイス君がわざわざマルセールの冒険者ギルド長なんて面倒なものをやるはずありませんし。
……って私はロイス君側の立場ですからこう思ってしまっただけかもしれません。
聞けば小屋で話したそうじゃないですか。
その場にいた従業員の方たちは聞いていたんでしょうか?
そもそも私たちが水晶玉を譲ってくれるよう頼んだのがことの発端だったのかもしれませんし……。
「ロイスはピピをおつかいに出すのが嫌だったのかしら?」
師匠が聞いてくれました。
「……いえ、ミーノちゃんが言うにはそのおつかいを私がついでの用事って言ってしまったかららしいの」
「ミーノちゃん? 誰だっけ? ってそこはどうでもいいか」
なるほど。
ついでの用事にピピちゃんを利用されたことが頭にきたんですね。
デイジーさんも私たちの名前を出せば良かったのに。
「それにギルド長は私だけの意見じゃなくて町のみんなの総意なの。ロイス君のことはみんなが知ってるし、魔工ダンジョンを討伐した件でも評判が良かったし」
「でもそれはロイスが望んでいることじゃないわよね? ギルド長なんてあの子にとってメリットがなにもないもの」
「そうみたいね。次の日にもう一度秘書が行ってくどいたんだけど泣いて帰ってきたわ……」
しつこいですね……。
でもそのくらいじゃないと町長なんてやっていけないのかもしれません。
「あなたはあそこで働く町の子たちの話を聞いたことあるの?」
「……あとでミーノちゃんからいっぱい聞かされたわ」
「カトレア、ミーノってどの子だっけ? …………あ~、みんなを仕切ってた子だ。それならわかったでしょ? あの子たちはあそこで働くのが楽しいの。おまけに給料も凄くいい。それなのに冗談とはいえ居場所を奪うかのような発言をしたのよ。ロイスが怒らなくてもあの子たちが怒ってたんじゃないの?」
「うん。そうみたいね。ミーノちゃんに怒られたわ」
デイジーさんはミーノちゃんとよほど親しいんですかね?
町自体そんなに大きくないですから知り合いでもなにも不思議ではありませんけど。
「でもなんで辞める必要があったのよ? 単にギルド長の件を断られただけでしょ?」
「だってロイス君を怒らせたことが次の日には町中に知れ渡ってたのよ? そのせいでみんなから非難されるし……。私自身もロイス君に申し訳ない思いでいっぱいだったし。謝りに行きたくても勇気が出ないし。もし次に魔工ダンジョンが現れたとしてもロイス君たちやそこに通ってる冒険者が討伐してくれるかわからないわけだし。そんな状態で続けられるわけないでしょ……。私が辞めることによってあの一件は忘れてもらえるかもしれないし。それなら魔工ダンジョンの討伐もきっとしてくれるはずだから町も安心だし……」
また泣きそうになってます……。
それより話がとても長いです。
もしかして師匠に愚痴を聞いてほしくてここまでやってきたのでしょうか?
「う~ん。そこまであの子の影響力があるとはね……。でもおかげでなんでロイスたちが王都の魔工ダンジョン討伐に来ないかがわかったわ」
はい、私もわかりました。
デイジーさんとの一件から、ロイス君はマルセールの町だけじゃなく王都……国を見捨てたんです。
ロイス君からしたら国は魔王を手助けしてると思うはずですから。
……見捨てたじゃなくて見切りをつけたと言ったほうがいいですね、すみません。
それにきっとこんな遠くてしかもレベルの低い魔工ダンジョンに構ってる暇があるんならその時間を使って大樹のダンジョンの冒険者たちに強くなってもらったほうがいいと判断したんです。
王都には中級冒険者もいっぱいいると思ってるはずですし。
……もしかして私も嫌われたのかもしれません。
ただ黙って見てるだけなんですから。
でも私にベビードラゴンを倒すことはできませんし……。
「で、町長を辞めて今後はどうするのよ? ここでまた旦那と子供といっしょに暮らすの?」
そういえばさっきご飯をいっしょに食べてきたって言ってましたね。
旦那さんたちはパルドに住んでるんでしょうか。
「私はマルセールに住んでいたいの。息子もようやくパルドの学校を卒業したしね」
「旦那はなんて言ってるのよ? 漁業関係の仕事がしたいからこっちに住んでるんでしょ?」
漁業関係?
お魚さんですか?
船に乗ってたりするんですかね?
「うん。こっちに住みたいって。だから私も来いって言われたの」
「ふ~ん。なら町長になる前みたいにまたこっちに住めばいいじゃない。なにか仕事がしたいんならここで働いてもいいわよ?」
「本当? それは助かるわ! ……でもマルセールのことが気がかりなのよね。もうそんな立場じゃないんだけど」
責任感が強いお方ですね。
でも旦那さんはお魚さんが好きでこちらにいるんでしたらマルセールには行きたくないでしょう。
……ん?
魚?
「あの、デイジーさんの旦那さんは漁業のどういったお仕事をされてるんですか?」
「え、港の市場の魚屋で働いてるの。自分の店ってわけじゃないけどね」
魚屋さん……ぴったりじゃないですか?
「あのねカトレア、デイジーの家は代々魚屋だったの。でもマルセール周辺って港がないでしょ? だから離れた町から運んでもらってたのよ。でもそれもコストがかかるし、鮮度も落ちるしで……鮮度? そうか! カトレアの袋があれば!」
「袋ってこの間のあの袋? ……そういえばロイス君は見た瞬間に凄い袋って見抜いてたわね」
え、ロイス君はすぐに気付いてくれたんですか?
なんだか嬉しいですね。
「そうよ! この子、その袋の中に凄い状態保存もかけられるの! それなら鮮度を保ったままマルセールまで届けられるわ!」
「本当なの? カトレアちゃん、噂通り凄いのね……。でもそれで旦那や息子はマルセールに住んでくれるかしら?」
「息子さんも魚屋さん希望なんですか?」
「そうなのよ……。だから港があるここにいたがるに決まってるわ」
「そんなものどうにかして説得しなさいよ! せっかく自分の店を持てるんだからさ!」
マルセールで魚を見かけなかったのはそういう事情があったんですね。
……って私が言いたいのは袋とか状態保存とかじゃないんです!
「師匠、少し違うのです」
あ、ユウナちゃんみたいな話し方です……。
「違うってなにが?」
「……魚をほかの町から持ってくるのではないのです。大樹のダンジョンから……」
話してて思ったんですが、ロイス君の気が変わってたりしませんよね?
そのためにティアリスさんたちに依頼出したんですもんね?
そういえば依頼の期限は三月末でした。
ティアリスさんたちはもうダンジョンに戻ったのでしょうか。




