5.魔工ダンジョンに入ってみます
朝早くから冒険者ギルド内の魔工ダンジョン対策本部に来ています。
師匠は昼から来る予定です。
今日はマリンの学校の終業式なんです。
つまりマリンは実質一人だけ卒業式になります。
マリンは来なくてもいいと言ったんですが師匠はこっそり行くつもりです。
私も行きたかったのですが二人も行くわけにはいかないので泣く泣く我慢しました。
ここには私以外にも錬金術師ギルドから三人が来てくれています。
三人とも私より年上です。
そのうちのお二人は冒険者あがりの魔道士の方なのでダンジョン対策や魔物対策については私たちよりも詳しいと思います。
しかも夫婦らしいんです。
それに師匠とも長い付き合いなんだとか。
「ねぇカトレア……私なんかが来て大丈夫なのかな……」
「大丈夫ですよ。モニカちゃんが優秀だから選ばれたんです」
「本当かなぁ……。カトレアと知り合いだから選ばれただけだと思うけど……」
……それは否定できませんね。
あとの一人のモニカちゃんは専門学校時代、年下の私とも仲良くしてくれてたんです。
私は一年早く卒業してしまいましたけど……。
あれから二年経ってますから正直今のモニカちゃんの腕がどうなのかはわかりません。
でも今回の件に錬金術はあまり関係ないように思えます。
どちらかというと頭のほうですよね。
ロイス君が得意そうなことです。
「ではすみませんがここはお任せして、私たちはダンジョンに行ってきますね」
「あぁ、魔物に気をつけてな」
「昨日の情報を元に地図を作っておくわね。いってらっしゃい」
そうなんです。
私は今から魔工ダンジョンに向かうんです。
実際に見たほうがいいに決まってますからね。
それにここで待っていても夕方まで冒険者のみなさんは帰ってこないでしょうし。
「ねぇ……二人だけで大丈夫なのかな?」
「いえ、冒険者の方をお二人ほど誘っていきます」
話を聞く限り第二階層までなら私とモニカちゃんだけでも大丈夫でしょう。
でもなにがあるかわかりませんからね。
今日は違う魔物が出現するかもしれませんし。
それに人間に襲われることも考えておかなければいけません。
「こんなに人いっぱいなんだね……」
「みなさんダンジョンに向かわれるんでしょう。おそらくパルドの冒険者はダンジョンに入ったことない人がほとんどでしょうからダンジョンが新鮮なんだと思います」
「え……それって危ないんじゃないの?」
「第二階層までなら初級者でも問題ありません。ただみなさんどこかワクワクしてるのが気になりますね……」
きっと魔工ダンジョンのことを理解していない方がほとんどなのでしょう。
魔王が作ったダンジョンって聞いてもピンときていないのかもしれません。
それに第二階層までの魔物の情報も聞いてるんでしょうね。
それなら楽勝だと思っていても不思議ではありません。
さて、二人パーティはいらっしゃいますかね。
……あの女の子たちに声かけてみましょうか。
「あの、お二人ですか?」
「え……はい」
「よろしければ私たちといっしょにダンジョンに行ってみません?」
「えっ!? いいんですか!? あ、でも私たちまだ冒険者になったばかりなんです……」
「そうみたいですね。でも心配しないでください。地下二階までならお守りできますから」
「……じゃあお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。では早速行きましょう」
ふふっ、初心者の方だって見た瞬間わかりました。
杖を持ってることからお二人とも魔道士なんでしょう。
つまり私たち四人は魔道士パーティ。
ふふっ、あまり見ない組み合わせですね。
冒険者ギルドから馬車と徒歩で四十分ほど、魔工ダンジョンに到着しました。
入り口では騎士さん二人が入場管理をしているようです。
代表者の名前とパーティ人数を書かされました。
「では入ります。エーテルはたくさん持ってきてますから遠慮なく魔法を使ってくださいね」
「はい!」
ふふっ、初々しいです。
ここに来るまでの間に色々お話したんですよ。
お二人とも年齢はロイス君と同じ十五歳でした。
この春から冒険者生活をスタートしたんだそうです。
私たち錬金術師のことにも興味がおありのようでした。
それに大樹のダンジョンのことも聞きたがってくれたんです。
おっと、早く魔工ダンジョンの中に入りましょう。
……普通の洞窟フィールドですね。
通路は少し狭いかもしれません。
でも明るいのはいいですね。
魔王も人間に来てもらうために必死なのかもしれません。
早速魔物さんのお出ましですね。
「ではお任せしてもいいですか?」
「はい!」
「やっつけます!」
……うん、ちゃんと撃退できてますね。
ベルちゃんはもう初級攻撃魔法を覚えているなんて凄いじゃないですか。
学校に通いながらもきっと自分でしっかり修行してきたんですね。
エマちゃんはまだ魔法を使えないみたいです。
でも最初は誰もがみんなそうですからなにも問題ありません。
だから私が持ってきた杖をお渡ししました。
「うわぁ! 本当に攻撃魔法が出ました!」
うん、なんとか実戦でも使えそうですね。
「こんな杖があるんですね!」
「それは私が研究中のものなんです。まだ不完全ですから耐久力はそんなにありませんけどね」
「えっ!? カトレアさんが錬金したってことですか!? 凄いです!」
そんなに褒めないでください。
こんなものただの欠陥品なんですから。
まだまだ修行が必要なんです。
「壊れてもまだたくさんありますから気にしないでくださいね。ほら? どんどん来ますよ?」
このお二人を見てると私が初めて大樹のダンジョンに入ったときのことを思い出します。
毎日一人であの遠い道を通ってたなんて今となっては考えられません。
そういえばマリンは明日から春休みなんですね。
残念ながら私はいっしょには行けそうにないです。




