4.対策本部ができました
冒険者ギルドに来ています。
やはり王都だけあってここの冒険者ギルドが一番大きいです。
会議室には二十人ほど集まっています。
……最後にギルド長がやってきました。
「すみません、お待たせしました! では始めます。議題は今朝北門から徒歩十五分のところに発見された魔工ダンジョンについてです」
そうなんです。
魔王はついにこの王都パルド周辺に魔工ダンジョンを作ってきたんです。
今朝からその話題で持ち切りです。
私たちの間ではですが……。
おそらくこの町に住むほとんどの人は全く危機感がないと思います。
ちなみに魔工ダンジョンという名称はロイス君が付けたそうです。
その名称が浸透してきてなんだか少し嬉しく思ってしまってるのは内緒です。
「先行して入ってもらった中級冒険者による報告をまとめましたのでこちらをご覧いただきながら話を進めていきたいと思います。それと、先日マルセール付近で出現した五つのダンジョンについても記載してありますので」
全員に紙が配られました。
……なるほど。
魔王は初めて三階層以上のダンジョンを作ってきたようです。
報告書では三階層に入ったところで帰還したと書いてあります。
大樹のダンジョンだと転移魔法陣で入り口に帰ってこれますが魔工ダンジョンは帰りも歩いてこないといけないですからね。
ふむ、二階層までは洞窟フィールドですか。
そして三階層は草原フィールド。
マルセールからの報告書を見ても思いましたが、魔王は全く芸がないですね。
完全に大樹のダンジョンのマネじゃないですか。
今回、第三階層に山フィールドを持ってこなかったことからおそらく魔王は大樹のダンジョンについては地下二階までしか知らないと考えてもいいでしょう。
隣を見ると師匠は退屈そうに話を聞いています。
それも当然です。
新しい情報は第三階層を追加してきたということだけなんですから。
例え第四階層以降が存在していたとしてもこの程度のダンジョンレベルならすぐに討伐して終わりでしょうからね。
「……ということになります。今後も中級冒険者たちにはさらに深い階層の探索をしてもらいます。水晶玉を持ち帰った者には5000Gを報酬としてお渡しする予定です」
5000Gですか。
四人パーティの一日の収入としてはいいんじゃないですかね。
「では質問のある方はどうぞ。……ではスピカさん」
手をあげたのは師匠だけです。
「水晶玉の扱い方は冒険者たちには伝えてあるの?」
「その中級冒険者や、冒険者ギルドに来た冒険者には伝えてあります」
「騎士隊長が来てるということは騎士も行くってことよね?」
あの方が騎士隊長さんだったんですか……。
ここ王都パルドは騎士によって治安が守られています。
お城直轄のエリートなんです。
みんなの憧れの職業ですね。
王都に住む冒険者の中には騎士を目指してる方もたくさんおられます。
「もちろんだ。本当は我々だけで行ったほうが早いんだろうけどな」
凄い威圧感です……。
頑固なおじさんって言葉がピッタリです。
ヒゲも立派ですし。
「ならなんで自分たちで討伐しないの?」
「騎士はそんなに暇じゃないんでな。せいぜい各階層の入り口に見張りを一人出すので精一杯だ。それに冒険者たちの修行の場としてもちょうどいいだろう」
「ふ~ん。まぁ私は早く討伐してくれるんなら誰でもいいんだけどね。見張りの騎士たちには水晶玉の扱い方を教えておきなさいよ? じゃないとダンジョン内にいる人間が死ぬかもしれないからね」
師匠はこんなにこわいおじさん相手に全く物怖じせずに話しています。
年齢は同じくらいでしょうか?
といっても師匠はかなり若く見えますからね。
二十代後半と言われても誰も驚かないと思います。
「話は以上か? なら俺たちはこれで失礼する」
「はい。ありがとうございました。見張りの件、よろしくお願いします」
騎士さんたち三人は部屋を出ていきました。
……もうこれで終わりなんですか?
「……ふぅ~、みんな楽にしていいぞ」
え……ギルド長の口調が変わりました。
「あんなにヘコヘコすることないのよ」
「そうはいってもなぁ。国からの援助でこのギルドは成り立ってるんだから仕方ないだろ」
「私たちの錬金術師ギルドみたいに独立すればいいんじゃないですか?」
「無理に決まってるでしょう……そんな資金あるわけないですって」
そうですよね。
錬金術師ギルドは資金が豊富なんです。
なんせほとんどの魔道具の販売権利を持ってますからね。
錬金術専門学校を卒業した生徒はほぼこのギルドへ加入します。
冒険者あがりの魔道士の方も加入を希望する方が多いようです。
でも冒険者ギルドみたいに誰でも加入できるわけではありません。
加入というより就職といった言葉のほうが近いのかもしれませんね。
仕事はポーションや魔道具の研究開発や作成が主です。
魔道具のメンテナンスの仕事もあります。
ちなみに錬金術師ギルドには師匠も加入しています。
でも加入しているだけで、ギルドの仕事は受けないようにしているようです。
私は加入していません。
専門学校を卒業したのと同時に加入しようとしたのですが師匠にとめられました。
なんでも自由じゃなくなるからだそうです。
師匠はかなり自由にやっているように見えるんですけどね……。
「それより魔工ダンジョンの件だ。今後増えたときのためにも情報を細かく集めていきたい。そういうのは魔道士や錬金術師が得意だから任せるぞ。ミランダさん、よろしいですか?」
「はぁ~、タダ働きみたいなものですけど仕方ないですね。じゃあスピカさん、指揮は頼みましたよ」
「えぇ~? 私は単独で動きたいんですけど」
「あなた以上の適任はいないでしょ? わがまま言わずにお願いしますね。私は若い子たちにポーションの作成量を増やすように指示しますから」
「はい……。じゃあこっちにも若い子でいいので何人か融通してください。情報提供してくれる冒険者の選定は任せるからその子たちにはダンジョンから帰ってきたらここに来るように言ってちょうだいね」
「あぁ、そっちは任せろ。ここの会議室は魔工ダンジョン対策本部として使ってくれ。じゃあほかになにもなければ今日は解散」
今度こそ解散のようです。
みんなそそくさと部屋を出ていきます。
この部屋に残ったのは私と師匠、それに冒険者ギルド長と……
「カトレアさん、お久しぶりですね」
「お久しぶりです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
錬金術師ギルドのギルド長であり、錬金術専門学校の学校長でもあるミランダ先生です。
「相変わらず丁寧ですね。それよりずいぶん成長しましたね」
「はい。一人で旅をしてきたんです」
「大樹のダンジョンのことも聞きましたよ」
師匠がお喋りしたに違いありません……。
そういうのはあまり人には言わないほうがカッコいいってロイス君が言ってましたよ。
「それとあの袋は素晴らしいですね。ぜひウチで量産してみませんか?」
「ちょっと!? うちの子を勧誘するのはやめてって言ってるじゃないですか!」
「怒らなくてもいいでしょう。みなさんの生活が豊かになるんですよ?」
「ダメです! あの袋の権利はもうこの子のものなんですからね!」
「はいはい、わかりましたよ。カトレアさん、ギルドにも学校にもいつでも遊びに来てくれていいですからね。良ければマリンさんもごいっしょにどうぞ。じゃあスピカさん、現場の指揮は任せましたからね」
ミランダ先生は微笑んで帰っていきました。
いつ見ても懐の深い方ですね。
「カトレア、行ったらダメだからね! それに袋を公表したのはあなたに全ての権利を持たせるためだから!」
「え……」
権利というのは販売権利のことですか?
つまり私の許可なしにあの袋に似た性能を持つ袋を販売することはできないということですか?
それはいいことなんでしょうか……。
「師匠、私は別に権利なんて持たなくてもいいのですが……」
「あっ、お金儲けのためじゃないのよ!? 粗悪品が出回ってあなたの評判が落ちるようなことになってほしくなかっただけだからね? それに先にギルドに権利をとられるとあなたの作ってる袋は今後ギルドの許可なしじゃ売ることはできないんだからね? あなたが売るつもりはないとしても色々面倒でしょ?」
正直そこらへんの事情にはあまり詳しくはありません。
でも師匠が私のためを思ってくれてるのは凄くわかります。
「なぁ、身内の争いよりもこっちの対策を頼むよ……そりゃたいした金は出せないし、お前らが金に興味がないこともわかってるけどさ……その凄そうな袋も見てみたいけど」
そうでした。
今は魔工ダンジョン対策が最優先です。




