1.マリンが卒業します
「卒業するんですか!?」
「うん……」
マリンはまだ十二歳なのにもう卒業ですか……。
「じゃあ四月からは錬金術専門学校へ?」
「うん。それも勝手に決まってた……」
飛び級はたまにあることですが三年もとなると滅多にあることではありません。
しかもこの年齢で錬金術専門学校への入学となるとかなり異例なのではないでしょうか……。
錬金術の専門学校といえど入学時はほぼみなさん素人同然です。
ですが入学のハードルは非常に高く、試験も最難関と言われています。
筆記試験に加え魔力測定試験なんてものもあります。
一学年の人数もたった数人です。
それだけ錬金術師は特殊ということなのでしょう。
私やマリンのように錬金術師の家庭で育っていても、専門学校には十六歳になる年から入学するのが普通です。
私は運良く一年早く入学することができましたが。
それに三年通うところを二年で卒業できましたし。
正直少し自慢だったのにマリンに一瞬にして抜かれてしまいました……。
私の場合はちゃんと筆記試験や魔力測定試験を受けたうえでの入学です。
でもマリンはその試験すらも免除されたようなんです。
ただ年齢の関係で二年で卒業ということはなさそうですね。
ここでは十五歳になる年で働いてる人なんてほとんどいませんから。
大樹のダンジョンやマルセールの方たちが少し異常なんです。
「師匠が提言したんでしょうか?」
「それがさ、どうやら錬金術専門学校から言われたみたい」
「え…………なるほど。どこかからマリンの噂を聞きつけたんですね」
「いやいや、お姉ちゃんのせいだよね……」
「え……」
私のせいですか……。
私が頼りないせいでマリンをいち早く凄腕の錬金術師に育てて早くから働かせようとしてるんですね。
いくら私のせいだとしてもそんな理由ではマリンが可哀想です。
「絶対にあの袋のせいだもん。あんなのお姉ちゃんが作ったって聞いたらそりゃ私にだってみんな期待しちゃうもん」
「え……」
あの袋のせいなんですか!?
私が毎日三つずつ作ってるあの袋が!?
かれこれ三か月近く作り続けてますから数はそれなりにあります。
毎日出来の良い一つを師匠に納品することにしてますが。
「でもあれは師匠と顔なじみの行商人の方に渡しただけでしょう? しかもつい最近ですよ? それに数枚だけですよ?」
「はぁ~。ウチの常連さんが言うとは思えないから師匠が錬金術師仲間に見せたんだよきっと。みんなで自分の弟子の成果物を見せ合って楽しんでるんじゃない?」
……その可能性はありますね。
つい先日錬金術師の集まりがあったばかりですし……。
私も師匠に誘われたんですが断りました。
今は少しの時間も惜しいんです
「それにそんなものを市場に出すんなら事前に周知とかしておかないといけないのかもしれないし。師匠が昔から持ってる袋ですら誰にも言ってなかったらしいしさ」
マリンの言うことはもっともです。
だからこそこっそり常連さんにだけ渡したんですから。
今はまだ試用期間ということで使い心地を試してもらってるんです。
なのにこんなに早く周囲に言ってしまって良かったのでしょうか……。
もし殺到されたりしても対応することはできませんよ。
「……マリンは卒業させられることが嫌ですか?」
「う~ん。さっきはお姉ちゃんのせいって言ったけどよく考えたらラッキーなのかもね」
「ラッキーですか? 良かったと?」
「だってこのままなんとなく学校行ってても無駄な気がするし。それにちゃんと卒業したことにしてくれるんだからね」
「今の学校の友達のことはいいんですか?」
「学校が変わるだけで引っ越すわけじゃないしね。それに専門学校では同級生の数も少ないんでしょ? それならいつ入学しても変わらないかなぁって」
なんだかマリンが急に大人になったような気がします……。
「それに専門学校に行ったら今までより家の仕事も手伝えると思うしね。家で錬金の練習してるとしか思われないだろうしさ。またいつお姉ちゃんがいなくなるかもわからないし……」
「私はもういなくなったりしませんよ。たまにお手伝いに行くだけですから」
「そんなこと言って平気で一年くらい帰ってこなさそうだもん」
すっかり信用をなくしてるようです……。
「でも今月末はマリンもいっしょに行くでしょう? それならいっしょに帰ってくるに決まってるじゃないですか」
「お姉ちゃん一人だけ残りそう」
どうしてこんなことに……。
私は師匠とマリンとこれからもずっといっしょにいたいと思ってるのに。
大樹のダンジョンに行って色々学んだからこそ、そう思うことができてるんです。
「それなら行くのはやめにしますか?」
「ヤダ! 絶対行く! 春休みになったら行っていいって約束だもん!」
ふふふっ。
やっぱりマリンも行きたいんじゃないですか。
ピピちゃんによると四月からの地下四階オープンに向けてロイス君は色々悩んでいるようです。
そういうときこそ私がお力になれるはずです。
なのでマリンが春休みに入ったらすぐにでも行こうと思っています。
「ただいま~」
師匠が帰ってきました。
「おかえりなさい。なんのお話だったんですか?」
師匠は冒険者ギルドに出かけていました。
なんだか急用だということで呼び出されてたんです。
冒険者ギルドが師匠になんの用事なんでしょうか。
「……二人とも、緊急会議を行うわよ」
「緊急会議!? なにそれ!?」
ふふっ、懐かしいと思ってしまいました。
ダンジョンではロイス君がたまに急にみんなを集めてやってましたからね。
みんなはなんの話かと思ってドキドキするらしいですよ。
今までは私は知ってる側だったので今回は少しドキドキしています。
師匠は椅子を持ってきてソファに座ってる私たちとテーブル越しに向かい合う形で座りました。
……え?
師匠の顔色が変です。
「師匠? なにがあったんですか?」
「……謎のダンジョンが出現したらしいわ」
……ダンジョン?
謎?




