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第二章の一

第二章 




「ユリ、この間の花火大会楽しかったな!」

「わ! ケイくん!」

 夏休みも終わり、二学期に入る。蝉は、もう鳴かない。

「いつまで言ってんの?」

 いつも一緒に登校するレイは私の隣でダルそうにそう言った。

「だって、楽しかったじゃないかよ!」

「はいはい、楽しかったよねー」

 レイは素直じゃない。

「ふん、ま、いいけどさ!」

 ケイくんはそういうと爽やかに笑って去って行った。鮮やかな後ろ姿を、レイは少し悲しげな表情で見送っていた。


「レイ、アタック」

 私はそんなレイに向かってそう言った。

「は?」

 レイは顔を赤らめる。

「ケイくんってさ、絶対鈍感だと思う」

 私はレイを困らせるケイくんのちっちゃくなった後ろ姿を睨みつけるようにして見た。

「そ、バカがつくほど鈍感なんだ」

 そんなところも好き、といわんばかりのレイの表情だった。ケイくんの話になると、気の強さが滲み出たレイの顔も柔らかくなる。

「ずっと、小学校の頃からの片想いだもん」

「でも、ケイくんってモテそう。もちろんレイも」

 私はそう言った。

「そう。でも、私の知る限り、あいつは誰ともつき合ってないよ」

「でもさ、絶対好きな子ぐらいいたでしょー?」

「……知らないよ! いないの!」

 レイは強くそう言った。

 もう、かわいいなぁ。ケイくんは、知らない間にレイのことが好きって可能性もあるのかな。そこまでの鈍感かもしれない。

 私の胸がズキンと痛む。

 あれ?

「ユリ、私たちも走らないと遅刻しちゃうかも!」

「あ! うん!」

 私は俯き気味だった顔をパッと上げた。

 レイが私の手を取る。

「足、遅いでしょ」

 そう意地悪そうに笑うと、レイは私の手を取って走りだした。私はレイに手をひかれ、美しくなびく黒髪を見ながら、なんだか涙が出そうになった。

 かわいくない私。どうして……。

 

 どうして?






「おねっがい!」


「えー? やだ」


「おねがい! ねぇ、レイカ!」

「何よ、まどか。私が身長高いからってバカにしてない? 全然戦力にならないってば」

 レイは不機嫌そうに腕を組む。

「だってぇ、エースの先輩が足ねんざ! 部員が足りないんだよ?」

「なんで私なのよ!」

「部長命令なの! レイってさ、去年の体育祭でも目立ってたし……」


「レイ! やってあげなよ。レイのバレーしてる姿、見たい!」

 私はそのやりとりを黙って聞いていたけど、思わず声が出た。ポニーテールに結ばれた髪が左右に揺れて、しなやかにジャンプする体。キレイな手が、白いボールを……

「体育で見てんでしょ?」

 レイは冷たくそう言い放った。

「……はい」

 私はちっちゃくなってそう言った。

「だよねぇ、だよねぇ、もっと言ってよ! ユリ!」

 まどかが私にすりよる。

「こら、ユリから離れなさい!」

「何よぉ、レイがオッケイ出すまでユリは離さないよ!」

 まどかがギュっと私を抱きしめた。

「……」

 別に、まどかのことなんとも思ってないけど、なんだかレイがやきもちをやいてくれているようでうれしかった。

「ユリを人質にするな!」

 まどかの力が強くなった。

「ねぇ、レイ。たったの二週間なんでしょ? バレー部の手伝い。レイはそう言うけど、レイ、そこらのバレー部より絶対上手だよ」

 私はそう言った。まどかはなんだか微妙な顔をして笑っていた。

「う……うん、そうそう」

 そしてその微妙な顔のまま私に続く。


 レイは1つため息をついた。私の顔を見る。

「そうね、ユリが言うなら、しょうがない」

 ぷい、と私の顔から目線を外してレイはそう言った。

「マジ!? 感謝! レイ大好きっ!」

 今度はまどかがレイに抱きついた。

「うっとうしい! 絶対二週間だけだからね!」

「わかってる、わかってる! ユリ、ありがと!」

「え? う、うん」

 まどかはスキップしながら教室を出ていった。少しの沈黙。レイ、怒ってるの?


「はぁ、ユリ、暫くは一緒に帰れないよ」


 私はその言葉にぽかんとした。

「あ……、そうか」

 それはさみしかった。


「あ、朝は一緒だよね!」

「そうね」

「でも、レイの試合見るの楽しみだな―」

「……、私のことは好きになっちゃダメなんだぞ」

「わ、わかってるって! もう!」

 私は顔を赤らめる。レイはそういうこと、自然に言うんだ。全然嫌じゃない。全て受け入れられてるって、本当の、友達だって、感じることができるから。




「ケイに送ってもらう?」

「いいよ!」

 私は首を振る。

「え? 私に気を使ってるの?」

「そんなんじゃない!」

「ユリのことは信じてる」


「もう……、そういうこと言わないでって……」

 私は小声でそう言った。レイは首を傾げて私を見ていた。

「いいの。たまに、レイの部活が終わるまで待ってたいし……」

「もう、ユリ……」


「だから! 違うってば!」


 違う。違う。違うよ。これは違う。違わないとしても、この気持ちは一生表に出ることはない。一生、秘密。








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