第172話:第四階層探索完了
裏世界樹ダンジョン第四階層。中枢が倒されたとはいえ、第五階層が休憩階層だったのもあり、実質的な稼ぎ頭である。
今日はそこでリジィさんのパーティーに同行していた。
「そこに小さいゴーレムがいますね」
「さすがサズさん! いくぞ!」
「おお!」
岩に擬態していた小型のゴーレムめがけて攻撃が集中する。倒されるのはあっという間だ。リジィさんのパーティーは全員が神痕持ち。ダンジョン攻略にも慣れてきたのもあり、とても安定感がある。
同行した俺は、魔物の場所を伝えるだけで良いので、かなり楽をさせて貰えている。
「ここの魔物はこれだけ。危険個体も最近は大人しいみたいですね」
「中枢を撃破してから、少し数が減った気がするんだよね。助かるけど」
実際、過去の事例を見ると、中枢退治後にその階層で出現する魔物が変わることは珍しくないそうだ。同時に、産出する品も影響を受けるそうだけど。
第四階層に関して言うと、危険個体が減り、鉱物の産出量も微減という所だった。今のところ、ギルドの財政に影響するほどじゃない。
これが段々減るのか、時間を置いて元に戻るのか、観察が必要だ。
それはそれとして、大事なことがある。
「どうですか、サズさん」
「もう少し、見させてください」
リジィさんに促されつつ、室内の床、壁、天井をじっくりと観察する。魔力の有無の確認も忘れない。
時間にして五分ほど、特に気になるものは見つからなかった。『発見者』も反応がない。
「何も見つかりませんね。地図にはそうメモをしてください」
「やった! じゃあ……」
パーティーの一人が嬉しそうに言って、こちらを見てくる。
「ええ、第四階層踏破。そう見ていいと思います」
中枢退治後も全容が判明していなかった第四階層。ここ数日、ついに新しい道が見つからなくなり、いよいよ攻略したと言えそうな感じになった。
そこで、最後の仕上げとして俺が同行して、隠し通路などがないのを確認することになった次第である。
「な、長かった。これでようやく一息つけるよ」
「何か変わったものが現れそうで落ち着きませんからね」
リジィさんが安堵のため息を付く。俺としても、第四階層攻略は良い知らせだ。安心して冒険者達に案内できる。
「第五階層より下はまだ見つかってません。しばらくはここで稼いで貰う形になりますね」
「ちょうど良かった。実は、支部に来る新人冒険者に色々と教えてあげられないかって思ってるんだ」
リジィさんが意外なことを言い出した。ベテランに新人の指導を頼むのは大きな支部ならやってることだけど、冒険者から言い出すのは珍しい。
「いいんですか? 俺達は助かりますけど」
「ここに来る冒険者は増えたけど、せいぜい第二階層まででしょ? どうせなら、もっと強い人が増えてくれないと俺達だって困るしね」
「リジィ、『癒し手』が少ないって、困ってるもんね」
仲間の一人が言うと、リジィさんが頷いた。新人の誰かが『癒し手』に目覚めてくれれば、支部としてこれほど有り難いことはない。
「温泉支部として、新人対応をしっかり計画させてください。指導者はリジィさん達で」
「リナリーさんやジリオラさんはいいのかい?」
「ジリオラさんはともかく、リナリーはちょっと向いてないんですよね……」
イーファへの指導は上手くいったけれど、基本的に教えるのが上手くないんだよな。相性が合う人がいれば良いんだろうけど。
「ここでは大分稼がせて貰ってるし、色々作ってる冬の間に僕らも態勢を整えたいね」
リジィさんの言葉に、俺は素直に頷くのだった。
◯◯◯
第四階層踏破に続き、第五階層でも別の作業が始まった。
「大地の精霊よ、壁を作ってくれ」
この階層の地面は精霊の力が強い。あっという間に頑丈な土壁が作られていく。
「ふう。こんなもんかな」
「見事なもんね。これを仕事にしても食べていけるんじゃない?」
精霊魔法の仕事ぶりに、リナリーが感心して言った。
植物の少ない休憩区画とその外側を区切るように、簡易的な城壁が出来上がっていた。
とりあえず、第五階層を少しだけ整えることに決まった。
休憩できそうな広場になっている区画に、天幕や簡易ベッドを持ち込んで休憩所を作る。
植物が生えていて現在探索している場所は念の為区切っておく。
その作業のため、俺はリナリーと共に第五階層を歩いていた。階段近くではイーファやジリオラさん達が作業中だ。
「こっちに来てからも大分精霊魔法は使ってるからな。それと、ダンジョンの奥に行くほど精霊が強くなってる気もするんだ」
「神痕は深い階層ほど力を発揮しやすいって言うけど、魔法もなの?」
「ラーズさんが言うには、奥に行くほど魔力が濃くって精霊が多いらしいよ」
「そういうものなのね。不思議なものよね、ダンジョンって」
元々は神々が人間へ用意した試練だとか言う話だから、ちゃんと攻略するための仕掛けだろうとは資料室のフリオさんの言葉だ。
「ちょっと思いついたんだけど、深い階層ほど神痕は出やすいんじゃない?」
「……ありそうだな。でも、安全確保ができないぞ?」
リナリーの言いたいことはわかる。今、五階層までは直行できるようになった。ここから四階層なり、将来見つかる六階層に行ってもらって、神痕の発現を狙うというものだ。
多分、探せば実例はあると思う。深い階層ほどダンジョンの影響は強い。
同時に、非常に危険な方法だ。神痕を持たずに奥に入った冒険者は大抵の場合、死ぬ。
「やっぱりそうなるわよねぇ。あたしでも守りきれる自信ないし」
「地道にやるのが一番だよ。まずは、人が沢山来られる環境作りからだな」
しばらくは、第五階層の安全確認作業だ。泊まり込んだりして、本当に魔物が出ないかを実際に確認する。それから、植物だらけのエリアの再探索。勝手に入れないように扉を設置するので発注中だ。
休憩階層は嬉しいけど、なかなかすぐに利用とはいかないもんだな。
そんなことを考えつつ、俺は精霊魔法で土壁を作り続けた。




