決定
新キャラ登場です!
「決定致しました」
「はい?」
何がでしょう。
突然現れたツァーリ様は、満面の笑みでそれだけ言うと私をどこかへ連れていこうとする。
「さぁ、参りますよ」
「はい?」
何処へでしょう。
さっきからツァーリ様の意図が全くわからないんだけど。
どこ行くの?
いつもなら魔道士団の訓練場だけど、何か違う方向に向かっている気がするのよね。
いや、私方向音痴だからもしかしたらちゃんと魔道士団の詰所に向かってるのかもしれないけど。
それすらわかんないからどうしようもない。
「ツァーリ様?」
「何でしょう?」
「何が決まったんですか?」
「討伐の予定ですよ」
「なるほど、討伐の予定……討伐!?」
「ええ」
何だかすごいあっさり言われたけど、討伐の予定が決まったって……私が参加する討伐の予定ってことだよね?
え、もう!?
そのために訓練してるんだしその内来るとは思ってたけど、予想より早かったから心の準備が追いつかない。
いや、でも最初から逃げ腰じゃダメだよね…!
もちろん怖いけど、一人じゃないんだし。
何とか自分を鼓舞しようと大きく深呼吸をする。
………あれ?
まさか、今から討伐に出る……なんてことはないよね…?
「あ、あの…今は何処に向かわれてるんですか?」
「ああ、騎士団ですよ」
よかった。
さすがにそんな突然連れていかれることはなかったみたい。
ツァーリ様、時々突発的な所があるからなぁ。
でも、何故騎士団?
「今日は第二騎士団の方ですけれどもね」
「第二騎士団ですか? あんまり行ったことがないです」
「そうでしょうね。今回の討伐には第二騎士団と共に出ることになりますので、その顔合わせです」
私は第一騎士団の詰所にはよく行くけど、第二や第三騎士団には全然行ったことがない。
最初に保護されたのが第一騎士団だったこともあるし、近衛騎士を除く全騎士団の権限を持つのが第一騎士団の団長さんだからそこに行けば大体の用事が済んでしまうので、他の騎士団に顔を出す必要がなかったんだよね。
そっか、第二騎士団の人達と討伐に行くのか。
「勿論討伐には私も帯同致しますので御安心下さい」
「ありがとうございます」
「その前に、何名か伴って近くの森で実践演習を致しましょう」
「はい」
ツァーリ様の口振りからすると、討伐の予定は決まったけど直近な訳ではないみたい。
森の歩き方とかも全然慣れてないから、違う場所とはいえ事前に外で練習できるのは有難い。
「近場の森の討伐は第四騎士団が担っておりますので、そちらにも後程挨拶に伺いましょうか」
「わかりました」
「第四騎士団は騎士見習いのようなものだそうですが、その方達だけでも回れる程度の森ですのであまり気を張らずに」
「そ、そうなんですね」
「ああ、不安でしたらクライス殿にも帯同して頂けるようにお願いしておきましょうか?」
「ええぇ!? いやいやいや! アルバート様もお仕事がありますし!」
何故そこでアルバート様の名前が!?
騎士見習いさん達と行くのが怖いわけではないので、無闇にアルバート様を引き合いに出さないで下さい。
ツァーリ様もいるんだから、そんなに危ないことにはならないでしょうし。
「ふふっ、そうでしたね」
「……ツァーリ様、私で遊んでるでしょう」
「おや、そんなつもりはありませんでしたが」
「そんなに笑って言われても説得力ないです」
「これはこれは。失礼致しました」
そうは言うものの、ツァーリ様は変わらず笑ったままだ。
まぁ確かにアルバート様はお願いしたら仕事調整して来てくれそうだし、めちゃくちゃ強いらしいから居たら安心なのはあるけど。
でも第一騎士団って確か市街の巡回が主で討伐はたまにあるくらいだって言ってたから、毎回着いてきてくれる訳じゃない。
だったら私は私でどの部隊の人とでも討伐に出られるようにならないと。
アルバート様がいたら絶対甘えちゃうのがわかってるから。
そうやって自分に言い聞かせながら気持ちを切り替えて、ニコニコと先導するツァーリ様について歩いていく内に見知った場所に辿り着いた。
「あ、詰所」
「ええ。第二騎士団の詰所はもう少し奥になります」
「そうなんですね」
何度も来ていた騎士団の詰所。
よく見ると奥の方に幾つも似たような建物が並んでいた。
いつも手前の第一騎士団に入るだけだから、奥の方を見たことも無かったんだなぁ。
第一騎士団の入口をスルーして行くのは何だか変な感じだけど、今日用事があるのは別だからそのまま横を通り過ぎる。
入口にいた顔馴染みの騎士さん達が声を掛けてくれるのを「また来ます」と手を振って奥に向かっていった。
騎士団の詰所はどこも同じような造りらしく、第二騎士団の中も見慣れた風景だった。
違うのはそこを歩く人達くらい。
「団長は訓練場にいると伺っておりますので、そちらに向かいましょう」
第一騎士団と同じだとわかっているのに、それでも迷う私は大人しくツァーリ様に着いていく。
迷いなく進むツァーリ様を羨ましく思いながら歩いていくと、程なくして賑やかな声が聞こえてきた。
何だろうと訓練場の扉を開くと、声はさっきよりも大きく広がり響く。
どうやら訓練場で模擬戦闘が行われていたらしく、中央で二人の騎士さんが剣を交わしていた。
「フォルティス団長殿、宜しいですか?」
「ああ、ツァーリ副団長殿」
入口にいた大柄の騎士さんにツァーリ様が声を掛ける。
この人が第二騎士団の団長さん……
大きいけど、優しそうなおじさんって感じがするなぁ。
第一騎士団の人達は大抵気のいいおじさんばっかりだけど、やっぱり同じだね。
「ユーカ様、こちらは第二騎士団団長のフォルティス殿です」
「聖女様、お初にお目にかかります。カイエン・フォン・フォルティスと申します」
「は、初めまして、ユーカ・シマザキと申します」
今更初めましてでいいのか少し悩んだけど、どこかで顔を見た事があったとしても会話をするのは初めてだからいいかとそのまま挨拶を返す。
フォルティス様は人の良さそうな笑みを浮かべて騎士の礼をとり挨拶を済ませると、ツァーリ様と討伐の日程についての確認を始めた。
私は何も知らないので一緒に聞いているだけだけど。
お二人の話によると、討伐は一ヶ月後フォクシーアの森。
出発は討伐予定日の二日前。
第二騎士団から二十名、魔道士団から十名の系三十名。
因みに私は魔道士団の十名の中に含まれるらしい。
まぁ主に魔法攻撃だしね。
討伐自体は十人ずつの隊を三つ作ってそれぞれで分担することになるらしい。
…ところで、フォクシーアの森ってどこ?
「では、部隊決めはこのように」
「ええ、異論ありません」
どうやって行くんだろうとか、どのくらいかかるんだろうとか考えている間にお二人の話は終わったらしく、団長さんは模擬戦闘で盛り上がっている中央に向かっていくとビックリするくらい大きな声で騎士さん達に集合を促した。
やっぱり騎士さんは皆声が大きいものなの…?
「一月後、サンレーヌ領のフォクシーアの森への討伐が決まった。名前を呼ばれた者は後程私の所へ来るように」
「「「はっ!!」」」
「それから、この討伐にはこちらに居られる聖女様とツァーリ副団長殿が帯同する」
団長さんが私達を紹介すると、一斉に騎士さん達の視線が降り注がれる。
「聖女様が討伐に…!?」と途端にザワつく周囲にどうしたものかとツァーリ様を見るが、いつも通り笑顔で返されてしまう。
これは慌てず堂々としてろってことかな…?
そう感じとった私は騎士さん達に向かってよろしくお願いしますとぺこりとお辞儀をする。
そしてにっこり笑って見せた。
ま、ツァーリ様の真似なんだけどね。
この人の笑顔は有無を言わさない所があるから。
でも、隣で小さく頷いている様子を見ると私の行動は間違ってなかったようだ。
読んで下さってありがとうございます!
新キャラは第二騎士団の団長さんでした。ここからは討伐に向けての話になるかと思います(何も決めていない)。
 




