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帰還

お久しぶりのツァーリ様です。

 私は朝からキッチンに篭ってお菓子を作っていた。


 もちろん一つはツァーリ様に差し入れするためのチーズケーキ。

 それから、スフレチーズケーキとレアチーズケーキ。

 せっかくゼラチンも手に入ったんだし、どうせならツァーリ様にも食べ比べをしてもらおうと思ってチーズケーキセットを作ることにしたのよね。


 時間があればチーズタルトも追加する予定。


 というか、そもそも何時に行けばいいのかわからないから闇雲に作っているとも言えるんだけど。


 すでにチーズケーキは焼いてあるし、レアチーズケーキも冷やすだけ。

 今はスフレチーズケーキを焼いている途中なんだけど、今からタルト生地を作るべきか悩んでいる。

 冷凍してある生地はこの間使い切っちゃったのよね。

 どうしようか……今日作れなかったとしても生地はストックで置いておけばいいから作っちゃおうかな。

 あとはレアチーズケーキにかけるソースを作るだけだし。


 問題はどうやってこれを持っていくかだよなぁ。

 ラミィに箱がないか探してもらってるけど、最悪お皿に盛ったまま何かで蓋をして持っていくしかない。


 やっぱり箱問題はどうにかしないと。

 あとケーキのフィルムも必要だよね。

 最低でもこの二つは用意したい所だけど、これも誰に相談したらいいのやら…

 そんなに知り合いがいる訳でもないし、またラミィ達に聞いてみようか…




「ユーカ様」


 生地をまとめながら考えていると、私の邪魔をしないようにと気を遣って外で待機してくれているアリエスがノックと共に声を掛けてきた。


 ラミィは箱を探しに行ってくれていて、ファーラは今日お休みらしいから今日はアリエスが付いてくれているのよね。

 アリエスはラミィと変わらないくらいの歳でおっとりした感じの優しい侍女さん。

 今日みたいにラミィやファーラの代わりに付いてくれることは時々あるけど、アリエスと二人っていうのは実は初めてだったりするからちょっと新鮮。



 返事をしてどうかしたのか扉越しに問いかけると、アリエスは扉を開けて一礼し、来客があることを告げてきた。


 誰だろう?


 聖女と接点を持ちたい貴族もいるから無闇に会う必要はないとラミィが侍女さん達にしっかり言い含めているので、基本的にこうして私に来客があることを告げるのは会う必要のある人か知り合いだけ。

 他は門前払いされているらしい。


 で、今声を掛けてきたってことは、来客は会う必要があるか知り合いってことなのよね。



 私はお通しするようアリエスにお願いし、作業の手を止めてお茶の準備をするためポットの核にそっと手を触れた。






「失礼致します、ユーカ様」

「え、ツァーリ様!?」


 アリエスに案内されて入ってきたのは、今日帰ってくると聞いていたツァーリ様だった。


 待って、いつ戻られてたの!?

 差し入れをしに行くはずが、逆に来てもらっちゃってるってどんな状況?


「随分ご無沙汰してしまいましたね。お変わりありませんか?」

「あ、はい! ツァーリ様もご無事で何よりです!」

「ありがとうございます」


 見た感じ怪我をしているようにも見えないし、少し疲れてるみたいだけどお元気そうで安心した。

 いつも通りニコニコと笑うツァーリ様は「今日は何を作られているのですか?」と作業台を覗き込んでいる。


 本当は差し入れとして持っていくつもりだったけど、久しぶりにツァーリ様とお話もしたいし、お茶していく時間あるか聞いてみてもいいかな…?

 帰ってきたばかりでお忙しいだろうから無理かもしれないけど、聞くだけなら…

 無理なら無理って言ってくれるよね…?


 このままお土産にチーズケーキをお渡ししようかとも思ったけど肝心の箱がないし、どうせなら今食べ比べしてもらってお好みのやつをお持ち帰りしてもらったらいいんじゃ…なんて考えて、心の中でツァーリ様をお茶に誘う言い訳を並べていた。



「あの、ツァーリ様」

「何でしょう?」

「お忙しいとは思うのですが、少しお茶をするお時間はありますか…? あ、もちろん無理にとは…!」

「ええ、勿論ですよ」


 私が慌てて取り繕っている前でツァーリ様は気にした様子もなく二つ返事で承諾してくれる。

 時間は大丈夫なのか聞いてみたけれど、もうミライズ様には帰還報告が済んでいるし、国王様への討伐状況の報告は騎士団の団長と魔道士団の団長が行くことになっているからツァーリ様は自由なのだそうだ。


「それに、私が不在の間どう過ごされていたのかお話も聞きたいですしね」

「私ですか?」

「ええ。クライス殿に剣の指導は受けていたのですよね?」

「はい。でも普通の剣が重くてすぐに姿勢が崩れてしまうので、結局水の剣で素振りしてました」

「女性が持つには重いかもしれませんね。実際にユーカ様が使うのは魔法の剣ですので差し支えはないかと。他には何かありましたか?」

「えぇと、光の剣と闇の剣も安定して出せるようになりました」

「光の剣と闇の剣…!?」

「あ、はい」


 ツァーリ様の目の色が変わった。

 あれ、光の剣と闇の剣出せること言ってなかったっけ?

 同時に出せるのは…今は言わない方が良さそう。


「そこまで闇魔法を制御できるとは……そろそろ攻撃魔法の練習に入っても良いかもしれませんね」

「攻撃魔法!」

「明日また現状を確認して決めましょう。明日は剣の指導は入っていますか?」

「明日は…確か夕方からだったと思います」

「では朝お迎えに参りますので、魔道士団にいらして下さい」

「明日は魔道士団でやるんですか?」

「ええ。攻撃魔法は暴発の恐れがありますので、訓練場で行うのが良いでしょう」

「なるほど…」


 それもそうだよね。

 いつもの王宮裏で暴発なんてしたら大変な事になっちゃう。


 私は明日の予定に承諾し、コーヒーをツァーリ様の前に差し出した。


「おや、これは珈琲ですね」

「はい。あと、ツァーリ様にチーズケーキを食べ比べていただこうと思って作った所だったので、良ければ食べていって下さい」

「宜しいのですか?」


 お、嬉しそう。

 ツァーリ様、本当にチーズケーキお好きなんだなぁ。


 冷蔵庫から三種類のチーズケーキを取り出し、カットしてお皿に載せてお出しすると早速手を伸ばしていた。

 私も同じように自分の分を用意して向かいに座り、新作のレアチーズケーキから口に入れる。


 うん、いい感じ。

 ラズベリーが無かったからイチゴでソースを作ったけど問題ないね。

 このプルプル感と底とビスケット生地が上手く調和されていて、一からビスケットも作った甲斐があったと内心ガッツポーズだ。


 ツァーリ様もまずは一口ずつ口に含め、違いを楽しんでいるようだった。



「これは全部食感が違うのですね?」

「そうなんです。左がいつものチーズケーキ、真ん中のふわふわしてるのがスフレチーズケーキ、右のプルプルしたのがレアチーズケーキです」

「このれあちーずけーきというものは暑い時に食べたくなる食感ですね」


 優雅な仕草であっという間に食べ終わったツァーリ様にお土産は要るかと聞くと、もう一度全部食べたいからと一カットずつ持ち帰るとのことなので結局箱は必要になるね。

 ラミィ、何か見つけられたかな?



 あ、ついでにツァーリ様にも販売すること話しておこう。

 箱やフィルムを作れる心当たりがいないかも聞いてみようか…



 新しくコーヒーを淹れながらこれまでの経緯を説明しつつ相談してみたら、ツァーリ様は少し考える素振りを見せた後ゆっくり口を開いた。


「ふぃるむとやらはわかりませんが、紙箱でしたらもしかしたらアルター殿が力になって下さるかもしれませんよ」

「第一騎士団のアルター様ですか?」

「ええ。アルター領は確か紙の産地だったと記憶しております」


 一度お話を聞いてみても良いのでは? と勧められ、クライス領のガラス細工に続きアルター領が紙の産地とは思ってもみなくて驚きで目を見開いてしまう。


 でもそうか、騎士団には貴族の次男以降の人が多いって聞いてるし、不思議はないのかも。

 アルター様なら面識もあるし、明日の剣の練習の時にアルバート様にアルター様の勤務を聞いてみよう。



 よし、明日の予定が決まったね!

読んで下さってありがとうございます!

ツァーリはブレないので書きやすいです。もう少しツァーリとのお茶は続きます。

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