布丁
タイトルはプリンの漢字表記です。つまりプリンです。
王宮に戻り、ラミィに帰宅を告げてからアルバート様のエスコートのままマイキッチンへ。
早速買ってきたゼラチンを氷水に漬けて、その間に荷物を片付ける。
ゼラチンで作るプリンはオーブンや蒸して作るよりもずっと早く出来上がるからサクッと作ってしまおうと、ついでに準備も整えておく。
アルバート様には片付けとプリンを作っている間のんびり待っていてもらおうと思うんだけど、私が何か作り始めると毎回横で様子を見ていて、声を掛けても先にお茶をしようとしないので最近は私が落ち着いてからコーヒーを淹れるようになった。
「そのぜらちん? は水に漬けるのか」
特に今日はこの得体の知れない板が自分の好物を作るのに使われるって聞いて、気になって仕方ないんだと思う。
ジーッとゼラチンがふやけていく様子を眺めている姿は、まるで理科の実験をしている子どものように見える。
そう思うと、アルバート様が剣以外に全く興味がなかったっていうのが不思議なくらいだよね。
私に興味があると言っていたからそれに付随する興味なんだろうけど、それにしても色んな反応を見せてくれるようになった。
紳士的なのにめっちゃグイグイ来るしね。
やっぱりこれまで興味が持てなかった反動なのか、剣みたいに興味が持てるものには元々のめり込んでいくタイプなのかわからないけど、今のアルバート様は最初会った時のような「落ち着いた大人の男」だけではない少年のような面も見せるようになって、大分印象が変わった気がする。
まぁ基本的に落ち着いてるし、カッコイイし、大人の男なのは変わりないけど。
「これをふやかしてプリン液に入れるんだよ」
日本のゼラチンとは違うかもしれないから作ってみないと上手く固まるかわからないけど、やってみないことには始まらない。
片付けもそこそこにプリン液を作って、温かい内にふやけたゼラチンを混ぜて溶かす。
あとは何度か濾して滑らかにして、冷蔵庫で冷やすだけ。
蒸したり焼いたりする必要もなければ、粗熱をとる時間も要らないので一時間も冷やせば十分だ。
「さて、お茶にしよっか」
「そうだね」
プリンを冷蔵庫にしまい、コーヒーを淹れるためにテーブルセットに向かう。
アルバート様は私の言葉に応えて定位置の椅子に腰掛けていた。
「さっきの話だけれど」
「さっきの話?」
「硝子けーす? という物の話だ」
「あぁ、うん」
「どのくらいの大きさがいいんだ?」
「うーん…とりあえず十種類並べられればいいから、二段…いや、三段のケースを片側から開けれるようにしてほしいんだよね」
「保冷庫を透明にしたようなものかな?」
「そうそう」
寸法とかは考えてないけど、ざっくりこの位の大きさとか形は伝えておく。
近くにあった紙とペンで簡単なイメージ画を描いて見せると、シェナード様への手紙に添えたいからもらってもいいかと聞かれたので首肯と共にお渡しした。
他に必要な物はないかとアルバート様は言ってくれたけど、こうして市井への買い物を付き合ってくれるだけでとても助かってるから特にない。
そう伝えると、何故か困ったような顔をして笑っていた。
「貴女は本当に欲がないな」
「そんなことないと思うけど…?」
アルバート様が何でそう思ったのかわからないけど、私は自分が欲に塗れていると自覚しているから何となく複雑な気分になる。
一攫千金とか、玉の輿とか、そういう欲はないけど、この国にお菓子文化を広めて、あわよくばお菓子を作る人が増えて自分で作らなくてもいつでも食べれるようにしたいっていう大きな野望もあるし。
お菓子作るの好きだから、きっと売られるようになっても私は私で作るんだろうけど。
それに、お菓子に関しては欲しいものもいっぱいだしね。
もっと色んな材料を集めたい。
ゼラチンが見つかったから、次は小豆とかないかなって思ってる。
そうしたら片栗粉でお団子作って……………って、片栗粉あるんだからみたらし団子は作れるんじゃ!?
本当は白玉粉が欲しい所だけど、そこはまぁあると思ってないので仕方ない。
よし、明日はみたらし団子とスイートポテトを作ろう。
…って、そうじゃなかった。
「でも少しわかってきたよ。貴女はドレスや宝石よりも甘味に関する物の方が喜ぶんだろう?」
「うん、そうね」
「やはりこの国の女性とは感覚が違うようだ」
コーヒーを啜りながら、それはそうだろうなと考える。
国が違えば文化も違うし、育った環境だって全然違うからねぇ。
たまたま私はお菓子作りにハマってたからこうなってるけど、もしファッションに目覚めてたならドレスに興味があったかもしれないし。
だから違って当たり前だと思う。
私はあくまで私。
島崎佑花はこういう感覚なので、そんなもんだと思ってもらえると助かります。
「ところでアルバート様!」
「何だ?」
「今日はプリンの食べ比べを用意しております!」
「食べ比べ?」
「そう!」
色々と話している間に随分時間も経ち、いい感じに冷えた三種類のプリンをアルバート様の前に並べていく。
あ、もちろん自分の分も並べますよ。
食べない選択肢なんてないので。
「見た目はどれも似た感じに見えるが…」
「ふふふ〜」
「食べてみろってことか」
アルバート様がまずいつもの固めプリンを口に含め、これはいつものだなと小さく頷いた。
そして真ん中の蒸しプリン。
掬った感触が違うから少し戸惑ってるみたい。
最初に固めプリンを“これがプリン”って教えてるから、同じプリンなのに柔らかかったらそれはビックリするよね。
最後にゼラチンのプリン。
これは柔らかい上にとろっとぷるっとしてるからきっと驚くに違いないと思っていたけど、予想に違わずめっちゃ驚いてくれていた。
「何だこれは…!」
「どう?」
「ああ、どれも美味しい………美味しいのだが、これは全て同じぷりんなのか?」
「そうだよ。どれもプリンだし、材料はゼラチン以外全部同じ」
「ぜらちん………そういえばあれはどのぷりんなんだ?」
「一番最後に食べたやつだね」
「あの舌触りがとろりとしたものか!?」
信じられないと顔に書いてある。
本当、意外と顔に出るよね、アルバート様って。
どうやらゼラチンのプリンが一番お気に召したらしい。
残っていた分も食べ比べ、どれが一番好きか聞いてみたら複雑そうに指を差して教えてくれた。
材料聞かなければ気にならなかったんだろうけど、アルバート様は私が買い物してる時にゼラチンの原料が牛の骨って聞いちゃってるからね。
でも牛が食べれることはわかってくれてるし、何ならアルバート様もたまに一緒にお肉食べるし。
食用じゃないって訳でもないからそこまで気にしなくてもいいと思うけどなぁ。
「ご馳走様でした」
「いえいえ、お粗末様でした」
「いつも有難う、ユーカ殿」
「いやいや! こっちこそ買い物付き合ってくれてありがとう! 荷物もたくさん持たせちゃったし…」
「そんな事は気にしなくていいんだよ」
うん、相変わらず紳士。
知ってる。
でも耐性はないから、そんなに優しく微笑まれたらこっちが恥ずかしくなるんだって。
どう反応していいか目を泳がせていると、そういえばとアルバート様が何かを思い出したように声を上げた。
「どうしたの?」
「確か、討伐部隊が明日帰ってくると聞いたのを思い出した」
「討伐部隊って、ツァーリ様が参加した…?」
「ああ」
ってことは、無事に討伐も終わったのね!
ツァーリ様は笑顔で大丈夫だって言って討伐に向かってしまったけど、国の外を知らない私にとってはどうしたって不安に思ってしまうわけで。
そもそもツァーリ様は研究者であって討伐組ではないから滅多に討伐に行くことはないって聞いてたのに。
何か討伐に行かないといけない理由があったのかな…?
わからないけど、その辺はまたツァーリ様に聞いてみよう。
あ、ツァーリ様に明日チーズケーキを焼いて差し入れてみる?
でも帰ってすぐには疲れてるよね…
明後日くらいの方がいいのかな……こういう時どのタイミングで顔を出していいのか…
そんなことを考えていたら難しい顔になっていたらしく、アルバート様に心配されてしまった。
考えていたことを素直に話すと、その時の討伐状況で疲労度は変わるから何とも言えないが、今回のような定期討伐ならそんなに気を遣うことはないから顔を出すくらいは問題ないよと背中を押してくれた。
それなら差し入れだけして顔を見たらすぐに帰れば大丈夫かな。
私はホッと胸を撫で下ろし、冷めてしまったコーヒーに手を伸ばした。
読んで下さってありがとうございます!
デート(仮)は終わりですね。ようやくツァーリが帰ってきたのでまた魔法でしょうか。




