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《48》『正義』と傷跡

「解放…ねぇ…。一体誰から…なにを…解放するんだ?」


 余裕の表情を浮かべたいけ好かない野郎にに区切った言葉の釘を突き刺す。


 意味わかんねぇ…。俺が勝手に真実と杏果を監禁してるみたいな言い方じゃねぇか…。


「決まってるじゃないか。君から、2人を、だよ。」


 赤松がヤサシイ目をして真実と杏果を交互に見る。そんなツラするなよ。虫唾が走る。


「ちょっと!アンタ!なによいきなり!」


 真実が赤松にくってかかった。しかしそれでもヤツの笑みは崩れない。それどころか少し暴れる犬を手懐けるブリーダーのようだった。


「可哀想に…。きっと彼らが言ってた通り、脅されてるんだ…。大丈夫。僕がいま助けてあげるから。」


「触らないでっ!」


 すっと頬に伸ばされた手を真実が、パシィ!とその手を叩き払ってこっちに飛び戻って腕に巻きついた。静かに奴らを睨みつける様は狼が「うううっ…。」と牙を剥くようだ。


「おい。彼らって言ったな?誰だ?そいつら…。」


 今日何度目かのドスのきかせた声を出す。


 正直、外交術は嫌いだ。いつものペースでやれば呑まれるだけだから声音も言葉も変えるが決してキレイなものじゃないからな…。でもコイツらのためなら…。


「あぁ、知らないのかい?翔、連れてきてやってくれ。」


「あぁ…。」


 そう言って『四皇』の副リーダー青柳 翔が人混みに向かって雑に「出でこい…。」と小さく一言放った。


 感じ悪いな…。曲がりなりにも人を呼び出そうってんのに。これがあれか?「イケメンなら許される」ってヤツか?


 そんなことを考えてるうちに後ろからなんか出てきた。チビデブノッポにけばけばしい男女五人。男子三人は顔に傷が付いている連中だ。


 んー?こいつらはたしか…。


「見覚えがないとは、言わせないよ?照史クン。君が、やったんだろ?この間、映画の帰りに、ね?」


 そうだ。こいつらは映画の時にエントランスを我が物顔で牛耳った挙句、店員さんにいちゃもんつけて、真実を蹴り飛ばした奴らだ。さては、俺が地面に沈めたことを根に持ってやがるな。


 四皇連中の引き連れてきた女子からどよめきが上がる。さしずめ俺の非難だろうよ。言葉だけを聞いて俺を悪者扱いか…?たいそうなことしてくれるじゃねぇか。


「忘れるわけがない。あんな横暴を働いておいて許されるとでも思っていたのか?」


 断じて許されてなるものか。たとえ世界が許しても、俺が許さない。


「横暴?おかしなことを言うね?この顔の傷は?彼女たち2人は泣いて僕らに助けを求めてきたんだ。真実が脅されてるって。」


「そーよ!あいつがわるいやつなの!」


「やっちゃって!赤松くん!」


 騒ぐなッ!耳障りだッ…!


「やーん!こわいー!あいつが睨んできたー!」


 ちっ、すぐにヤツの後ろに引っ込みやがった。自分じゃまともになにもできないクズどもが。


 アイツも「大丈夫だよ。」なんて甘やかすから「きゃー!赤松くんかっこいー!」とか持て囃されるんだよ。見てて腹立つ。


「まーちゃん!こっちに来いよ!もう安全だ!赤松サマが助けてくれるってよ!」


 あれは…山猿か。みっともねぇな。ちょっとインファイトしたら顔面あざだらけな上に絆創膏でほとんどみえねぇや。


「勝手なこと言わないで!あたしはアキと一緒にいたいからここにいるの!」


 真実が声を張り上げて、俺の腕にくぐっと腕に力を込められる。


「新島さん。なにを言っているんだい?君の隣にいるのは君のお友達をこんな目に合わせたひどい奴だ。早くこっちにおいで…。なにをされるかわからないよ。正義はこっちにある。」


 赤松は真実に向けて手を伸ばしたが、それでも真実はそっちにはいかないらしい。さらにぎっと腕を締められた。正直、かなり痛いがここで振りほどいたりはしない。


『正義』か…。それは、正義じゃないぞ。お前の価値の押し付けだ。


 ズキリと左手が強く疼く。それは傷を負った時のことを思い出させた。それは栄華との決別と敗戦の証。


 俺が…柳原だった頃。親父は警察官でいつも強くて俺の憧れだった。誰にも優しかった親父は俺にとって、スーパー戦隊モノの正義の味方のようにみえた。だから俺は『正義』に憧れていた。


 まだガキだった俺はある日、親父のように強くなりたくて剣術を習いたいと頼んだ。しかし親父はそれを許さず、俺に合気道を教えてくれた。


 今思えば、合気道はお互いの心と心を合わせて一つの技を作るもの、決して戦闘のためとは言えない代物だ。しかし、だからこそ、他人に感謝をすることを覚えることができると考えて俺に教えてくれたんだ。


 それなのに俺は小学校に入った時に剣道部に入った。さらには祖父の道場にも無料だというので母が入れてくれた。

 そして、幸か不幸か、俺は剣道の才能に目覚めた。いかなる相手にも引けを取らず、百戦百勝の神才、常勝剣豪、何千年に一度の逸材とありとあらゆる呼び名を欲しいままにした。


 向かえば敵なし、戦えば必勝。入って数年で地区を超え、県を破り、全国で戦うまでになった。

 いつしか俺は自分に自惚れていた。相手を舐めてかかるようになった。舐めても勝てたから。日頃からもやや横暴に振る舞うようになってしまった。誰も止められなかったから。


 心を鍛えることをやめた剣道はただのチャンバラごっこだ。

 実際に殺すことを目的として、技を鍛える剣術、剣の理を理解し、もっとも有効な技を繰り出す剣法、心を鍛えることを重きとする剣道。俺はいずれにも属さないただのちょっと強い棒振りになっていた。


 中学2年の時だった。

 ある剣術道場との親善試合があった。俺も試合のひと枠をもらって竹刀を下げていた。相手は同い年の相手。俺よりもずっとヒョロく、メガネで、白く、気迫がない。そんな相手を見て俺は癖で驕っていた。


 ろくに準備もせずに向かえた出番。

 くるくると竹刀を振り回して形だけの礼をした俺はすでに勝った気でいた。試合開始直後、勝ちが見えていためんどくさい試合をさっさと終わらそうと俺は得意の上段袈裟斬りの一刀で試合を終わらそうとした。


 しかし負けたのは俺だった。

 相手は俺が振り下ろした竹刀をわずかな動作で紙一重でかわし、逆に俺の左の小手、すなわち、竹刀をもった手のうち、より体に近い方の小手を同じく一刀で切り上げたのだ。

 その鋭さたるや、まさに真剣そのもの。俺の小手を裂いてそのまま俺の手の甲もバッサリ引き裂いたのだ。


 俺は痛みのあまり泣き叫んだ。無様を晒してのたうちまわった。

 試合は直ちに中止されすぐに救急車で運ばれて治療を受けたが、手の甲には一生消えない跡が残った。


 それがいつまでも疼くのだ。『正義』という言葉聞くたびに。

 自ら踏み外した道のせいで自分で砕いてしまった夢や憧れを思い出すたびに。


 以降は左手が竹刀を持つたびに痛むようになった。防具をつければあの剣閃を思い出し発作起こすようになった。


 そんなザマでは当然、剣道は続けられず、部活を退部して、祖父にひどく叱られて道場も破門された。無様を晒した俺はそれまでの行動のツケを払わせられるかのように毎日、散々、いじめられた。


 …だから俺はゲームに逃げたんだ。なにをしても全て肯定してくれる世界に逃げ込んだんだ。いつだって『正義』でいられたから。


もし、あの斬撃を右手に受けていたら…。きっと俺の手は無くなっていた。きっと、加減してくれたんだ。間違えてる俺に引導を渡してくれた。斬撃を受けて虐められてた頃はひたすら恨みつづけたが、今は感謝している。


 目の前に立つ奴は過去の俺と似ている。方向性は違えど、どちらも自分が絶対だと思い込んでる。そんな奴に…負けるわけいかないよな…。


「別にいいじゃねえか。」


「アキ?」


 手の甲に傷はない。証はないんだ。


 だからもう一度、『正義』を目指そう。俺なりに正しい道を歩みたい。


「真実がここにいたいっていうんだから。選ばせてやれよ。それくらい。」


 知ってるか?そいつらが蹴り飛ばした店員さんがどんな顔をしてたか。蹴り飛ばされた真実がどんな気持ちだったかを。真実も杏果も、お前らには渡さない!

ここまでご一読頂きありがとうございます!

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