《29》買い物デート?
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GW前半二日目。現在時刻は午前9:30、俺は朝っぱらから何故か馬鹿みたいに門の前に立たされている。初夏特有のお日様パワーが俺を灰にしようとしている。本来なら家にいるところだが、今日はそうはいかずこうして人を待っている。
「ごーめん!!おまたせ〜!!」
パタパタと向こうから真実が走ってきた。
「うん。めっちゃ待った。1時間ほど。」
「やり直し。」
どうやら俺の返答にご不満らしい。ぷくっと膨れながらお望みの「いやー、俺も今来たところだ。」を所望してらっしゃる。
「…それを言われたかったら遅れても5分にしような?」
「…器ちっさ。」
「お前が俺の好きな人で彼女なら我慢できる。」
「ひっど。」
「当たり前だろ。」
なんで大して好きでもない人に小一時間、御天道様に焦がされなきゃいけないんだ。恋に焦がれれば御天道様が燃せやせるモノもなくなるだろうに。正論を突きつけられて真実は黙った。流石にこれから出かけようってんのにそれはそれで少しかわいそうだ。
「服は…よく似合ってる。」
もう一つのお決まりのセリフは言ってみる。すると不貞腐れ気味の真実が袖を掴んで問うてきた。
「…服だけ?」
「…真実は可愛いよ。」
「ありがと!」
あまり心は込めてはなかったが、十分満足したようで笑顔になった。単純だけどこれぐらいが可愛くてちょうどいい。さらに言及されたら陽キャではない俺からしたら残弾がないから困る。
「…アキも、ね…?」
「…あざっす。」
照れるように放たれた、少し聞こえた言葉が照れ臭かった。
今日の真実は普段のポニーテールを下ろし、細身を見せつける少し大人っぽい服装だった。真実の私服自体その系が多く、制服ではどうしても釣り合いが取れてなくおとなしめのギャルっぽいコスプレ感が否めないのだが、明るめの髪や出るところが出てるプロポーションにヘッドフォンを組むことで私服姿は一見して大学生にも見える。
「今日は『NASUCA』でいいんだよね?」
「あぁ。ここら辺の服屋とかもうどんなのあったか覚えてねぇしな。」
「休暇中に登校ルートって変な感じ。」
「だな。」
そういって最寄りの駅へと向かう。「NASUCA」は大規模デパートで駅デパほか一般の商業施設のようにあっちこっちに展開している。「5駅に1ナスカ!」のキャッチフレーズがある程その知名度は全国規模でもトップクラスである。
電車に乗り、アパートと自宅のちょうど半分の駅で降りる。そこからナスカへは徒歩で20分くらい。吹き抜けの5階までの全ての階層に様々な店が入り込んでまるでバザールかなにかのような様相をなすナスカはGWとだけあって普段来るよりも何倍もの人で溢れ、人の流れが波のように見えた。
「ひゃー。人が多いねぇ。」
「連休だからな。仕方ねぇよ。」
流石の人の多さに真実も驚きのようだった。ここから目的地に行くには人の波を流れるよというよりも人の海を潜るといったほうが正確だろう。これが本当の人海戦術って奴だ。
「さて、行きますかね。」
「うん。」
「離れるなよ?探せねぇから。」
真実に確認を取ってから雑踏に踏み込こんだ。日本人のスクランブル交差点にしろ、大和人しろ、すごいところはこんな密集帯であってもお互いに派手にぶつかってドミノ倒しにならないところだ。お陰であちこちに右往左往させられてすぐに方向感覚をなくす。上が見えてなければ本当に迷子ものの人の流れだ。
前から来る人、後ろから抜かしていく人、横からくる団体、いろんな塊を右に左に入り身で躱して、躱されて、やっとの思いで少しずつ、しかし高速に進んでいく。
フッと後ろを確認する。スーツ姿の知らない人だ。案の定、真実は見えなくなっていた。立ち止まることはできず流されながら必死に探した。どこを見ても黒い山。茶色でもあればわかるのに。
「…キ!!」
声のする方を向くと真実が手を伸ばしていた。急いでその手を掴み引き寄せる。
「思った以上に人が多いな。」
「そうね。」
そう言ったからと思うと手を掴んだまま腕に絡みついてきた。いつも肩が当たりそうな所までは近くにいたが実際にここまで距離を詰められるのは稀だったのでドギマギする。柔らかい二つの双丘が腕に当たる。前回はその感触を楽しむ余裕のない展開だったから無意識に意識してしまう。
「ぉ、おい。」
「仕方ないでしょ?はぐれちゃうよ。」
もっともな正論を言われ反論ができなかった。たしかに入ってわずかでこれだ。エントランス部というのもあろうが、ここでこのザマなら奥に行けば更に、ということもある。距離が近いのは問題なかったが、実際に触れられるのに加えて、人目があるということを意識してしまっては心の平穏は保てなかった。
「アキはここではよくいくお店とかあるの?」
人の心を知ってか知らずか真実があたりをキョロキョロしながら聞いてきた。たしかにちょくちょく来るので行きつけの店はある。
「ある。3階、2階、5階だ。3階から行こう、一番使う。」
そう言ってエスカレーターに乗り直接3階の店へと向かう。この店は青と白を基調としてシックな落ち着いた感じな店だ。値段は少々張るのだがデザインや機能性においても最高品質で、物を長持ちさせたり買い換えず長く使う俺からすれば服装を選ぶ軸になる服が売られている店だ。
「いらっしゃいませ。本日はいかがなさいますか?」
シャツ姿にメガネ、髪をワックスで流した店員さんが出てくる。ここにくるといつもいる人で回数通ううちに顔を覚えられた。
「こんにちは。新作は何かありますか?春から夏にかけて使えたらと。」
「でしたらどうぞこちらに。」
そう言って店の奥へ通される。小さく流されるジャズの音楽がこの店の品格を更に高めている。
「こちらはいかがでしょう?薄手のパーカーです。紺、黒、灰の3色です。」
見せられたパーカーは生地が透けるほど薄く、白のライン、顎元まであるチャックがついたかなりスポーティーな感じのカッコいい物だった。一通り試着して黒が気に入ったので黒を選ぶ。
「これに合わせるのにいい服はありますか?」
「そのパーカーですと、6月くらいまでお使いになられますので、下には半袖でがよろしいかと。ズボンはお使いのものでもよろしいです。」
次はシャツ売り場へ向かう。ズボンは俺がこの店で買っているのを知っているからあえて提案してこなかったんだろう。
「シャツと合わせれば少し大人っぽく、Tシャツなら活発に見えると思います。どうぞ彼女さんとお選びになってくださいな。」
「えっ、あっ…はい。」
パーカーを選ぶ間すっぽかしにされていた真実に気を使ったんだろうが突然彼女という単語を口にされてキョドってしまった。店員はそのまま笑顔のまま何処かへ行ってしまった。
「…どれがいいと思う?」
店員さんの言葉に少しペースを崩されながら隣にいる真実に聞く。
「んー。活発な感じじゃない気がするからシャツ系かな。これとか?」
選び出されたのは無地の白のシャツだった。黒には白の方程式は完成されたものだと思う。俺の服の割合も割とこの組み合わせを想定されているものが多いと思う。
「試着してくる。」
そう言って試着室を借りる。手早く着替えてサイズの確認をする。袖口や裾が出ていたらみっともないので、そこの確認だ。今回は調節なしでいいだろう。
「待たせた。これにしよう。」
「そう。」
そう言ってレジに並ぶ。メルカリクーポンを使ってもお値段にして最高金額の紙幣が消えたが、ここまでは想定の範囲内。むしろ少し安く済んだと思う。再び人の大河の中に飛び込むと真実もまた腕に絡みついてきた。
「次はどうするの?」
「んー、ひとまずアウターはもう間に合うと思うから、ウニクロだな。黒と白しかないから色を追加しないとな。」
服の量販店ウニクロ、安さが売りだ。品質その他は値段相応だがインナー系はどうしても年持ちさせ続けるのは難しいのでここは安さで大量に確保を目指す。
「なら、あたしも少し見ようかな?選んでくれる?」
「トレンドとか知らんぞ?雑誌読まないし。」
「あたしの服装見て言ってる?気にしなくていい。」
たしかに女子高校生らしいかと言われるとあまりそんな感じじゃない。20代が選ぶような大人っぽい服装だからこそなのだろうが、真実は割とそういうところは見た目と違って我道を行くというかサバサバしている感じがする。雑誌を見るようなイメージがない。制服を着ている姿が不真面目に見えてしまうのはこいつの色香に制服が負けているんだろう。ワイシャツとスカートとネクタイだけの夏服なら十分凛々しいと思う。
「そういうことなら。」
「よろしくねー。」
そんなことを話しているうちにもう赤い看板に白でウニクロとローマ字表記された店が見えてきた。量販店とだけあってその規模はこのナスカ最大規模と思われる。少なからず目玉だろう。
インナー系の適当に見繕う。出来るだけ白や黒をさけ、青や水色の服を選らんでいく。途中で1600年代の大和絵をあしらっている半袖Tシャツを見つけて「いいセンスしてるじゃん。」と思ったが、真実に「誰に需要あるのよ…。」を言われてしまったのでその言葉は飲み込んでおいた。そのあとに見つけた変なキャラクターが絶叫しているプリントが入ったTシャツを勧められたがさすがにお断り申し上げた。
「俺はこんな感じだな。4着と3本も追加できれば当分は持つだろう。」
「それじゃ次、あたしね。」
そう言われてレディースの服を見に行く。正直周りがエリアがエリアなだけに女性しかいないので場違い感が甚だしく心苦しいところがあるのだが、レディースの店に行くとは言われていないし、あえてそれは避けてくれたんだと思って覚悟を決める。
「アキはどんなのがいいと思う?」
「んー、少し見てみるか。これからの時期でいいのか?」
「そうね。アキと同じ。」
「御意。」
少しうろついてみる。真実が近くにいてくれるので思う存分歩いて、手に取ってみてもよそからの違和感はないだろう。
「んー。これか?組み合わせはこれ。サイズはM?」
「んー、Lかな。」
そう言って胸元に手を当てる。そうか、こいつ身長も高くて、それもそれなりだから普通のサイズじゃ太く見えるのか。
「それなら追加これ。」
そう言ってフリルのソフトオフショルダートップスと七分のジーンズを渡す。加えて渡したのはロングスカート。
「それじゃ試着してくる。外で待ってて、覗くなよ?」
「覗くなよ?」だけがトーンが違った。怖い。
試着室の中から「パサリ。」など服を変える音がする。カーテンの奥で起きていることに嫌が応にも想像が巡る。さっきまで腕にあたっていた感触をしていたものがそこにあると考えると頭に血が上った。
いけないいけない。こういう時はたしか円周率だ。3.141592…あってんのか?というかこれ。1.41421356…これは…ルート2のなんとかだっけ?もう数字はダメだ。数学なんて消えてしまえ、というか俺が消す。
「どう…かな?」
俺がくっだらないことを考えて数学を消し飛ばす覚悟を決めているうちにカーテンが開かれた。着替えが終わったようだ。真実が選んでいたのはジーンズだったようだ。
「いいと思う。一応、真実の好みに沿ったつもりだが?」
「うん。こんな感じがいいと思う。でも、アキはどう思う?」
「俺?」
いまいち質問の意図が掴めなかった。
「あたしにどんな服が似合うかな?」
「それでいいと思うけど?」
「じゃあアキはこんな感じの服が好きなの?」
なるほどね。俺の好みか。
「好みというかもう俺の中は真実がこんなイメージって感じかな。フリフリスカートとかないなーて思うもん。その姿が真実らしいと思う。」
「そう…。これにする」
そのまま、何も言わずにシャッ!とカーテンを閉めてしまった。また煩悶とする時間の到来。今日一日は本当に真実に引っ掻き回される。
しばらくして真実が出てきた。会計はさすがに分けるということになり個別に会計する。モテ男なら「俺が出すぜ?」とか言っちゃうんだろうけど、気心のみならずお互いの経済状況まで見透けそうな関係の俺たちはそんなことしてもかえって気持ち悪く見えるのでやめておく。
「次はどうしよ?」
紙袋が少し邪魔ではあるけどいまだ右腕の自由を奪う真実が雑踏の中で聞いてきた。左腕の時計を一瞥する。11:00。
「11:00か。少し早いが飯にしないか?これ以上は混みそう。6階にレストラン街あったろ?」
「そこにしよー。あたしパスタ食べたい。」
「オケ。イタリアンな。」
スパッと次の行動が決まるあたり本当にいい。無駄に気を回さずに済む。イタリアンの店はまだ時間が早かったのか少し喧騒はするがなんとか入れそうだ。
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