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《28》久しぶりに帰った家にいたのは

皆さんこんにちは!

当作品を開いていただきありがとうございます!

 GW前半その初日の午後、いい日差しの下を俺はとある道をすこし大きめな荷物を持って自宅へと歩いていた。


 アビスとの戦闘を終えて一週間が早くも過ぎた。その間、連中とは二度ほど戦闘をしたが、回を重ねるにつれて武器の変更の速さが上がり、体の動きが神器に付いてくるようだった。


 蛇口に例えるなら、ひねり始めが硬く大きな力が必要だが、一度少しでも水が出れば後は簡単にひねれるようになる事と似ている。


 しかし力の解放が蛇口なら実力は流れる水だ。そして問題がこっち。


 水道管を整備したり、きちんと水があるところを使わなくてはどれほど蛇口を捻ろうとも水の出る量は限りがある。俺も同じで、「武器を使う技量」は授けられても肝心な「技量を行使して戦う」という面においてはまだまだ経験不足だ。


 神器で剣製される武器は、今の俺程度の実力でも切れ味に困る事がない。正確に触れされることができればスッパリと斬撃することができる。


 結論から言えば、やはり俺は神器の力を持て余しているだけなのだ。


 あいにくと俺は転生系主人公あるあるの神様によるステータス補正なんてものは受けてないから技量を授かっているだけマシで、後は自分の努力一つだ。むしろこっちとしてはそれの方が燃える、いきなりチートとか多分つまらない、なんて強がってみる。ほんとはすげー欲しい。


 しかし、痛いのは嫌だけど、戦うたびに自分の成長を実感している。この間は狼を一太刀で斬り伏せた事が嬉しかった。


 そんなことを考えていると目的地に着いた。どこにでもある住宅街のどこにでもある一軒家。ベージュの壁にレンガブロック、門があって申し訳程度の庭。自分の本当の意味での自宅。「藤堂」と書かれた表札が柳原照史は初めて来たのに懐かしさがあった。そりゃ自分が藤堂照史だからな、自分家だもん。記憶は消されてもデータには残っている。


 ピーンポーン!


 家の中をインターホンの音が門の位置からでも反響しているのが聞こえた。自分の家に帰るのにインターホンってのはなかなか切ないが、鍵がないんじゃ入れてもらうしかない。なんか複雑だ。


「はーい!どちらさ…お兄!!」


 ドアをからひょこりと顔を出して、来訪者が俺だと気づいた途端、ドアをバァン!!と開けて俺の妹、菜穂が飛び出してきた。


「おかえり!!お兄!」


 俺の前までツタタ〜と走ってきてぴょんぴょん跳ねている。犬みたいだ。


「あぁ、ただいま。とりあえず入れてくれない?」


 そう言って妹を引き連れながら家に入る。初めてのような、懐かしいような相変わらず初めて行く来たことがあるところはデジャヴがすごくて記憶が混濁する。


「照史おかえり。」


 そう言って母さんが台所から出てきた。おそらく菜穂の声を聞いてきたんだろう。


「ただいま。」


 正月の頃から大きな変化がないようで何より。しかしシワと白髪は増えた気がする。あまり無理はさせられんな。心なしか身長も小さくなって見えた。四捨五入で50なる歳だもんな、そうなるわな。


「お〜、アキ〜おかえりー。」

「ただいまって、何でいるの?」

「え〜、いいじゃん。」


 そう言って階段から降りてきていたのは幼馴染の真実だった。完全部屋着スタイル。ショートパンツに黒パーカーといつものヘッドフォン。妹にしてもだけど女子は本当に足出すの好きだよな。あとパーカー。むしろパッとイメージできるのそれぐらい。二人並ぶと本当の姉妹みたいだ。


「まぁとりあえず荷物置いてくるわ。あ、土産っすわ。」

「そうなさい。あとで降りてくるのよ。」

「んじゃあたしもアキの部屋にいーこおっと。」


 母さんに四条神扇名物の扇饅頭を渡して部屋に向かおうとすると、真実が勝手に部屋に入り込んでこようとしている。引き連れると面倒なことしか待っていないので勘弁願おう。


「こんでええわ。むしろ来ないでくれ。」

「いや。昼寝できないし。」

「何言ってんだ?」


 あっけらかんとしてその目的を言ってのけた幼馴染に呆れて開いた口が塞がらなかったのは俺だ。しかも何気に「何言ってるの常識だよ?」みたいな顔をしてやがるから常識知らずが俺なんじゃないかと思ってしまうが断じてそれはない。正しいのは俺のはずだ。


「それじゃアタシも〜。」

「なんでだよ!!」

「いいよ〜。あれの続きある?」

「あるよー!」

「ちょっと?俺の部屋の利用方法の決定権は?!」


 妹までついてこようとしてらっしゃる。その上なぜがその主人の許可ないところで事が進もうとしている。部屋の権利権って時効制度あったっけ?権利を主張してなかったら主張する権利無くすことってあったっけ?


 一人の俺と二人が付いてきて三人でゾロゾロと俺の部屋に行く。決して広くはない部屋で、ベッドと机、タンスに本棚を置いたらそれ以上いれるのは窮屈に見えるほど狭い。その中に三人である。なかなかの圧迫感…でもないけどすこし狭くは感じる。


 てか、あのベッドの掛け布団の荒れ方、あそこだけ何故かめっちゃ生活感があるんですが?


 机のイスに腰掛ける。ローラーを前後左右にコロコロさせて遊びながらベッドにダイブしていった真実に聞いた。


「そいで?今日お越しの目的は?」

「え?暇だっただけだよ?」

「いや暇って。ほか遊ぶ人おらんのかい。」

「昨日帰ってきたからね。菜穂もいるし。」


 そう言って真実は俺の漫画やらラノベや辞書から小説までぎっしり詰まった本棚を眺めている菜穂を見ていた。そして答えになっていない。


「あー、あったあった。お姉ちゃん、はい。」

「ありがと菜穂。」


 どうやらラノベの最新刊がお目当てのだったようだ。真実に頭を撫でられて菜穂がニッコニコの笑顔だ。しかし、ここに帰ってくるときは少なく、ここに置いてある本は正直もう読まないと言っていいような本だが、勝手に漁られてみるとちょっと腹立つものだ。


「ねぇ?ここ俺の部屋だよね?」

「だよ?何言っているの、お兄?帰って来なすぎてボケた?」


 あまりの事態の掴めなさに本当に俺の部屋かどうかを確認する。なかなか辛辣な言葉が飛んできたがひとまずは俺の部屋でいいらしい。


「ならなんで本人の預かり知らぬところで色々起きているんですかね?」

「だってアキ帰って来ないじゃん?あたしはほら、ほぼ毎週帰ってきてるから。」

「答えになっとらんよ?」


 俺はどうして俺の部屋が俺の理解を超えた領域で使われているのかを確認しているのであって、真実がどれくらいの頻度で帰ってきているかなんて聞いてない。


「お母さんもお父さんもいないとき、ここに来てご飯作り来てくれたのはお姉ちゃんだよ。」

「あーそうなの?そりゃ助かるわ。でも関係ないよね?」

「そんなわけないじゃん。お兄の部屋だけど実質お姉ちゃんの部屋だよ?ここ。」

「さいで…。」


 事態は思ったより深刻だった。俺以外に主人がいたことに驚く。別に悪いとは言わないけど一報くらいは欲しかった。それでもこの部屋の管理はしっかりしていてくれたようで部屋に埃が溜まっていることがないあたり、大切に使われているようで何より。


「よいせっと。」


 すこし押入れをガサゴソする。確かここら辺にあったはずだ。今回の帰省については顔を見せるとは別にこの間一つ予定を追加してあった。


「何しているの?」


 本の奥からニョキっと蟹か何かのように目を出して押入れを漁る俺に真実が声をかけてきた。


「んー、ちょっと探し物―。」

「あー、適当に捨ててあるよ?ゴミは。」


 なぬ?ここにも俺の知らぬことが起きている。というか、大切なものとか捨てられていたら嫌なんですが?捨てられていないことを願って探し物を続ける。見つけた。


「あったあった。」

「何が?」

「木刀。」

「あー、アキが京都の修学旅行のとき買ってたやつね。見てて恥ずかしかったわ〜。」


 引っ張り出したのは木刀だった。真実の言う通り京都修学旅行の時に買った。ホームルームで旅行の注意事項を言われていた始めのうちは「そんなん買うやつおらんだろ?」なんて俺も思っていたのに当時の悪友たちに囃し立てられていつのまにか買ってしまった。しかも競技用らしく地味に普通のお土産用の値段よりも高かった。いまや封印したい黒歴史の一つとなっていたが今回、日の目を見ることとなった。

 そうだ、俺はこの時のためにこいつを買ったんだ。


「お兄、そんなんだして何するの?」

「向こうに持って行こうとね。運動しないと。」

「ふーん。」


 アビスと戦うにあたって全く戦闘能力なしでは救いようがない。ある程度向こうでなんとかコントロールしてくれるだろうけど、ゲームのようにレベルが段階的に上がっていくなんて保証もないんだから素振りくらいの訓練はしておかないといつ死ぬかわかったもんじゃない。相手になるのは神々の結界を突き破ってくるアビスだ。どんな相手でもなめてはかかれない。素振りは剣術をやっていた祖父に一度教わっているから出来る。


「アキ…、あんた…。」

「んだよ…。」


 すげー残念なものを見る目で真実がこっちを見ていた。まぁ当然だわな。運動するって言って剣道やってたわけじゃない俺が木刀を持とうってんだからおかしな話だ。でもその目はやめてくれ、メンタルがやられる。


「そ、それで!あしたはどうするんだっ?!」


 雰囲気が気まずすぎて急遽話題変更を試みる。心地が悪すぎて声が上ずってしまった。


「明日…?」


 菜穂の目がテュピーン!と言わんばかりに光った。やっべマズったかもしれん。この手合いの話は大好物だった。こいつの部屋の本棚は上から下まで、右から左までも恋愛モノでタイトルを読むだけで口が砂糖を噛むようにじゃりじゃりする。


「デート!?」

「違っ…。」

「そう。デートよ?」


 言葉を潰された。後ろの疑問符と一緒に真実の目が「そうでしょアキ?そうだと言いなさいな。」と言っている。怖い。


 —これあれだ。将来尻に敷かれているやつだ。


 そんなことが見えてしまう俺の人生が悲しい。あっ、そんなことしたら血の海なんだ。すっかり忘れてた。これは榊か誰かを招集した方がいいかもしれない。


「まぁ、買い物に行くな。主に俺の服を見に…。ん?」


 ふといいことを思いついた。


「菜穂も来い!」

「えぇ?!」

「なっ、何言ってるのアキ!?」


 突然の俺の発言に菜穂以上に真実は驚いたようだ。素っ頓狂な声を上げて抗議してきた。


「いやだって、俺の服を見に行くなら意見が多い方がいいだろ?」

「そうだけど…。」

「ちょっとアキ!」


 煮え切らない菜穂と反論たっぷりと言いたげな真実。そうな真実には「実際にはそうだろ?」と目線で送る。憎たらしげに「ぐぬぬ…。」と聞こえそうな顔をした。


「お姉ちゃんお姉ちゃん!」


 急に菜穂が真実の気を引いた。すると突然何やらへんな宗教の踊りのような動きをし始めた。それを見た真実も似たり寄ったりな動きをしている。どうやら審議中らしい。口で話せよ…。


「お兄!あした風邪引くからアタシ行けない!!」


 何を言い出したの、この子?急に翌日病気宣言されても困るんですけど?


「いや、まぁ、来たくはないのはわかった。でもつくならもっとマシな嘘をつけ。」

「ほーい。」


 2人がまた少し審議してなにかを伝え合っていた。途中真実の方から210というか数字を送ったのは見て取れた。これあれだ、菜穂の好物のプリンで買収されたやつだ。210円のちょっとお高いやつで…。ちくしょう。


 しかし、まだ死にたくはない。どうしてくるかは知らないがまずい可能性が高いのなら2人で行動しない方がいい。榊に連絡を取ろうとしてポケットからスマホを取り出した。画面のロックを開きRINEを起動した時、すっと水色のマニキュアを塗ってある白い手が伸びてきた。


「まぁ、そんなわけだからアキ!明日は『2人で』買い物行こうね。」

「はい…。」


 優しく触れた手は「それ以上は動くな。」と優しさのかけらもない台詞を語っていた。手の主である真実はそれはそれはすごくいい笑顔だ。うん。笑顔なんだよなぁ…目が笑ってないけど。


 んー、まぁ恋愛神さんもここには言及してなかったから平気でしょ…。あとは奇跡におまかせしよう。


 観念したようにスマホを滑り投げ、考えることをやめた。今考えたら悲惨な運命しかない気がするから。和やかな雰囲気とは別な意味で、凪の心な俺であった。


「ちょっとあたし、一旦家に戻るね。」

「よろしくね〜。」


 女子2人の内緒の話の流れだろう。女子会の会話は首を突っ込まない方がいい首を突っ込んだらすっ飛ぶのがわかる断頭台の穴だということをすでに何度かここで経験しているので適当に流す。


「お兄様?お姉ちゃんがお義姉ちゃんになるのはもうすぐなのかな?しししっ。」


 真実がいなくなったあとでいたずらめかして菜穂がすり寄ってきた。「お姉ちゃん」の言葉が少し前後で変わったようだが正直、そこまでは考えてない。


「今は考えてない。」

「ほほう?今は、ですか?ひぇっひぇっひぇっ。」

「笑い方がキモい。」

「酷い!!」


 結婚か?今のままで行ったら間違いなく無理な話だよなぁ…。それは悲しい。ヤンデレプラグインを無視して幸せになる方法か。いっそ一夫多妻の国にでも行こうかな…。


 軽い現実逃避をかましながら今後についても考える。1人1バッドエンドのこの世界がその牙をまだむき切っていないとはまだ知らず。


 その後戻ってきた真実の手には手作りプリンが乗っていた。菜穂が美味しそうにそれをパクつく。実際に食べたが美味しかった。しかし、審議の途中にあった210の意味は結局わからずじまいになってしまった。

ここまでご一読いただきありがとうございました!感想等ございましたら、ツイッター、感想欄にて受け付けております。


ブクマ等していただけたら泣いて喜びます。

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