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7. 収穫祭!! 狙った獲物は逃がさない、それは乙女の恋心

◇◇◇◇◇


 収穫祭を楽しむ私達。射的に夢中になるあまり、レイナさんを見失ってしまった。任せてね。私が見つけるから! 安心してね!!


 しかし優しいメリー、迷子を探すあまり自分が迷子になる。こんなこと誰もが予想できず想像しなかったであろう不運な出来事。何だか変な男に絡まれちゃうし、私一体どうなっちゃうの〜??


「私食べても美味しくありませんよ!」

「は? いや食べねえよコエー事考えんじゃねえよ。何だ嬢ちゃんあんたも酔っ払ってんのか?よく見れば変な格好もしてるし」

「なっ、これは由緒正しきメイド服です! 馬鹿にすると締めますよ! 首! 抜きますよ!血!」

「だからコエーって。ん? 何だ嬢ちゃん、メイド? ……はははー、って事はあれか、いいとこに仕えてんのか」

「アルカヌム家ですけど」

「あるかぬむけー? ハッハハハハ、はっはは……はぁー…………アルカヌム家かぁ。そっかぁー」


 急に酔っ払いおじちゃんがしおらしくなりました。見ていてかわいそうになるくらい、急に元気をなくしたようです。


「だから言っただろうやめようって」

「言ってねえよ! いや言った気がする! けど言ったとしても覚えてねえよ! やばいやばいどうしよう。これ俺もしかして打ち首か? 打ち首なのか? それとも……馬に引きずられて国一周なのか!?」

「分かんねえよ。でも想像以上にマズイな。ここは早く逃げてーー」


「ーーその判断、少し遅かったな」


 私は懐かしく感じる声を頼もしく思いながら、後ろを向きます。


 ああやっぱり。


 何となく来てくれるんじゃないかなーっと思ってました。


 私の、ご主人様。


「ライト様!」


 3人組からげぇ! っという悲鳴が聞こえました。ライト様は全てを察したようで、だるそうに酔っ払いさん達を睨みます。


「確かに今日は宴の日だ。酒を飲んではいけないなどと野暮な事は言わないが、酒に飲まれる奴は酒飲みの資格がないぞ」

「くっ……」

「ど、どうする?」

「いや……まだ俺たちの運は終わっちゃいねえ。ライト様といえば根っからの引きこもり。女かもしれねぇっつう噂もある。ここは一発なぐって伸して記憶ふっ飛ばせばいける!!」

「……」

「行くぞお前ら、うぉぉおお!!」


〜〜〜〜〜


 間抜けな人たちです。最初から謝っていれば、ライト様は許してくださったはずなのに。


 目の前にはボロ雑巾が3人。ぷぎゅうと断末魔をあげています。おっと、まだ死んでいませんでした。


「まあ、食後の運動にはなったな」

「ずびばぜんでしだ」

「俺なんにもしてないのに」

「とめろ馬鹿」

「俺止めたのに」

「同情する。友は選んだ方がいいぞ」


 思わずボゴボコにしてしまったようなので、このまま兵に連れて行くというのもライト様は気が咎めるらしく、厳重注意という事にしました。


 3人の大人が、ライト様の前で正座をして頭をうなだれています。


「大体なあ、記憶ふっ飛ばせばってお前、俺のよく知るお馬鹿より馬鹿な作戦だぞ」

「すみません。マジ酔っ払ってました」

「……まあ、あそこで俺が入らなければもっと穏便に終わっていたのかもしれない。先を読めなかった俺にも非がある」

「そ、そうっすよね!」

「……」

「すんませんライト様。こいつまだ酔っ払ってるようです。後でタコ殴りにしますから許してください」

「全く、気をつけろよ。罰として一週間は酒を禁止にしておけ」

「うっ、そ、それで許してくれるのならありがたいことです」

「……今日はもう飲んでいるから仕方ない。一週間禁酒の為、たっぷり充電しておくといい」

「っ……あざまーす!!」

「ただし! もう迷惑をかけるなよ!」

「はい!」


 本当ならライト様を殴ろうとしただなんて重罪なんですけどね。はっきり言えばロメルド様のファンに殺されちゃうくらいで、リアルな事を言えばみんなからのけ者にされまくって、まともな暮らしが出来なくなるくらいと思うんですよね。


 一ヶ月のお酒禁止って結構キツイと思いますけど、それだけで済んで酔っ払いさん達はラッキーです。家計にも優しいですしね!


 つまり、一件落着!


 ライト様が介入するとハッピーエンドになるというジンクスがここに出来上がりました。


「さっきはありがとうございますライト様! 見事な正拳突きと投げ技でしたよ。剣術以外にもライト様ってお強いんですね」

「俺は何も剣を極めてるだけじゃないからな。あの程度の護身術は、ロッテンマイヤーに教えてもらった。メイドならあれくらい基本だと言っていたが」

「いやそれ先輩くらいですから」

「ふむ、まあいい。そんな事よりメリー。俺はお前にも怒ってるんだぞ」

「あー、さっき褒めたからそれで精算は」

「出来るかお馬鹿」

「あいてっ」


 ライト様からチョップを頂きました。この痛み、かつての母を思い出します。あのイカれーーじゃない、お母様ったら娘の私に遠慮がないもんですから。お陰で逞しくなりましたよ。


「聞いているのかメリー? お前はもう少し危機感を持て。相手がとびっきりのお馬鹿3人組だったからよかったものの、中には極悪な犯罪者がいる可能性もある。いつだって俺がお前を助けられる訳ではないし、何よりメイドのお前が主に迷惑をかけてどうする」


 こ、これは長くなりそうな説教。全て正論なだけに心が痛い。


 話をそらせないか試みます。


「そ、そういえばレイナさん達は?」

「レイナはとっくに一人で戻ってきた。既にロッテンマイヤーと一緒に家へ帰らせてある。迷子を探すあまり迷子になるなんていう馬鹿な真似をしないようにな!」

「はひぃすいません!」


 やっぱり、お説教は続きます。


 グサグサと胸に言葉の針が突き刺さる中、ふと、私はライト様の様子を確認することができました。


 レイナさんと先輩が帰ったということは、ライト様はお一人で私を探すつもりだったんです。そして見つけてくれた。


 こんなに……汗をかいてまで。


 思わずハンカチで汗を拭き取ります。拭き取った後に気づきます。あざとい。なんてあざといのメリー。


「……説教はまだ続いてるんだが?」

「すみません。言い訳の余儀無く私が迂闊でした。お説教は館に帰って幾らでも受けます。でも今は……ただ私に、感謝をさせてください。

 ありがとうございます。ライト様」

「……」


 ライト様は「好きにしろ」とだけ言ってくれました。私は、好きにする事にしました。


「おやおや、老婆には刺激の強い光景だねぇ。どうだい若旦那、今日は縁起のいい日だ。こういう日は老婆の頼みを聞くといい事あるよ」


 ここに来て新キャラ!?


 私がライト様の首元などの汗を拭っていると、端の端、暗がりの暗がりに潜むようお店を立てた怪しげなお婆ちゃんの姿。


 これにはライト様も疑惑の視線を隠しきれず、冷たい口調で言います。


「俺たちは今表通りへと向かう途中なんだ。裏商売には付き合わないぞ」

「ケッケッケ、そう言いなさんな。だいいち老婆の商品はどれも清く正しい便利な道具さ。実はあんたらの話が聞こえてね、ちょうどいい道具があるんだぁよ」


 老婆はゴソゴソとソレを取り出します。月の明かりを反射して、現れたのは二つのネックレス。どちらもクリスタルのようなものがついてあり、赤と青、まるで対をなすように作られてあるのが特徴です。


 老婆はソレを愛おしそうに撫でつけながら、誘うように私達へ話しかけます。


「赤は情熱な欲を意味し、青は冷静な心を表す。どちらも人間には必要不可欠なものであり、互いは互いを求めあう性質がある。どうだい、中々楽しいアクセサリーだぁろ?」

「訳がわからないな。つまりなんだ?」

「せっかちだぁね。つまりさ、これは双方の居場所を知らせてくれる、迷子さんにはぴったりの道具って事なのさ」

「珍しい道具だ……お前魔女か」

「老婆は老婆さ。それで、どうするんだい?」

「……買おう」


 怪しいお婆ちゃんの怪しい効果の商品を、まさか信じるなんて私には理解出来ませんでしたが、ライト様がそう決めたのなら、私はただ見守るだけです。


「あんたぁ、信じるのかい? いやぁそれとも、信じたかったのかい?」

「お客の気分を害するなんて商人失格だぞ。あるだけ買う。全部だ」

「ケッケッ、そうかいそうかい。じゃあ毎度あり。お望み通り、あんたになら全部売るよ」


 商品の値段は私など手の出せない値段でしたが、ライト様はそれでも堂々と全額を支払いました。


「ん、メリー」


 私は当たり前のように、その中の一つ、赤いクリスタルのついたネックレスを渡されます。


 ……もしかして、ご主人様からこういう物ををプレゼントされたのは、初めてかもしれません。


 ありがとうライト様! それとありがとうお婆ちゃん! 胡散臭いなんて疑ってごめんね! もう特別な効果なんてどうでもいいからただ嬉しいよ!


 ライト様は老婆のもう一つの商品も気になっていたようでしたが、私は有頂天のあまり気づけませんでした。


「ケッケッケ、また会おうさね。おっとそうだ若旦那、一つ老婆からの親切だよ。

 ……あんたは多分、他人からどう言われようが気にしない不動の心を持っている。でもね、他の誰もがあんたのように強くないんだ。周りの事くらいちゃんと、気にかけてくれよ。特に、可愛い子供にはね」


 その時、遠くで、多分武闘会の方から大きな歓声がして、私とご主人様はそっちの方向を向きました。


 ハッとして視線を戻すと、もうそこにお婆ちゃんの姿はどこにもいませんでした。どこにも、お店ごと、消えてしまいました。


「何だったんでしょう。本当に、あの方は魔女だったんですか?」

「さあな。だが、口数の多い婆さんだった。今度会った時は気をつけないとな」


 それから、私達は自然と、あちこちを歩き回りました。本当なら安心させる為にも先輩達の所へ帰らないといけないと思うんですが、ご主人様は何も言いません。


 少し経って、クワワワァ〜ンという音と共に、音を伝える道具によって武闘会の実況が知らされます。


『おぉっと、残念! 残念! そして感激!感激! 素晴らしい闘いでした! 王国最強は少しも衰えていなかった!

 讃えましょう! 武闘会優勝は、ブラック・クローバー選手!』


 その結果に、国中で歓声がわきました。喜ぶもの。悔しがるもの。感心するもの。


 ご主人様はやはり、黙ったままでした。その胸にどんな気持ちがこもっているのかも分からず、私はただ、ご主人様の後をついていきました。


 やがて、私達は特に何の特徴もない丘へとたどり着きました。


 祭りは終わるどころかさらなる盛り上がりを極め、眼下には音と明かりが静まることを知りませんが、この丘では、寂しそうに虫の音が聞こえるだけです。


「何だかここは、静かな所ですね」

「ああ……そうだろう」


 ライト様は地べたに座りました。いつもなら私が下敷きになりましょうとギャグをかます所ですが、何だかそんな気にもなれず、恐れ多くも隣へと座らせてもらいます。


 ……ここは静かな所。


 だからはっきり、ライト様の声が届きます。


「ここには母上の墓がある」

「……え?」

「静かなこの丘を、母上は気に入っていた。何よりここは、近場で一番月が近い」


 ライト様は空に手を伸ばします。


 けれど何も掴まず、力が抜けたように腕を下ろすと、私の方へ向き直りました。


「そろそろ言っておかなければならない時だろうな。どうしてお前が、アルカヌム家に仕える事になったのか」

「それは、私も気になっていました」

「なんて事はない。俺から頼んだ事だからだ」

「ライト様、が? でもどうして、どうしてです? 私は優秀じゃありませんよ。お馬鹿だってライト様から言われるくらいですし」

「成績なんてどうでもいい。お前はメイドとなって初めて俺の事を知ったかもしれないが、俺はもっと前からお前を知っていた」

「……どこかでお会いしましたっけ?」

「直接的にはない。見かけただけだ、一方的にな。お前はあの日、街中で迷子の子供の世話をしていた」


 ……えーっと


 ……むむむ?


「心当たりが多すぎるか? 後から聞いたが、お前はボランティアみたいな事をしてたらしいしな」

「ああ、まあ、そうですね」


 改めて人から言われるのは恥ずかしいけれど、何かライト様が勘違いしているのかと思うと、もっといたたまれなくなる。


「あのですね、ライト様、私は別に気高い精神や親切心からでそんな事をしていた訳じゃないのですよ。その時はメイドとしてのお仕事が来なくて暇で、ただ何となく困ってる人の助けになればと思っただけでして……」

「そういうところだ。だからお前を一目見て思った。お前は、母さんに似ている」

「私がムーン様と? それこそ、ライト様の勘違いでしょう。だって、ムーン様はとても優しい方だったそうですし、聡明な方だったと聞いています。私とは天と地ほどの差もありますよ」

「母上が天でメリーが地、か。否定はしない。お前と母上では似ても似つかないしな」

「どっちなんです!?」

「本質的には一緒だという事だ」

「あ、商人の目ですね!」

「……そう。父上の目だ」

「……」

「……」


 ……私が、ライト様のお母様と似ている。そんな事があっていいのだろうか。何だか申し訳ないのです。


 身にあまる評価は、心から喜べません。


 でもーー


「天には頑張っても手が届かない。代わりに、こうして地面は気楽に触れる事ができる。どちらが良いなどと比べる事は出来ないが、俺はどちらも好きだ。

 メリー、お前はもう少し自分に自信を持て。これまでお前は立派にアルカヌム家の、俺のメイドを()めてきた。その感謝として、主としてお前に渡したいものがある」


 そう言ってご主人様は、私にソレを見せてくれました。


 白い薔薇がかたどられ、星のようにたくさんの宝石がちりばめられた冠。


 美しいなんてものではありません。これを付ける事が出来たなら、世の女性は何だって差し出す事でしょう。


「ライト様、これってもしかして、白バラの冠ではないんですか?」

「さっきの老婆が持っていた。商品だ」

「えっ……高かったんじゃ」

「金額なんてどうでもいい。名前だって何だっていい。受け取れ」


 有無を言わせないご主人様の迫力に、思わず私はソレを手に取ります。


 間近で見ると、より一層美しさに見とれてしまいそうです。自分がこんな物を持っているなんて、ここは夢でしょうか?


 夢だったのなら、もう夢でいいや。もう少しだけこの、特別な空間を味わっていたいです。メリーだって、女の子ですから。


「どうした、付けないのか。俺はお前に似合うと思って渡したんだぞ」

「あ、そ、そうですね……では」


 これが夢でよかった。恐れ多くも私は、ご主人様から受け取ったものをその場でつけようとしているのです。


 シャボン玉でも扱うように、私はそっと頭にのせて……


 その瞬間、自分が王女様のような気分になりました。まるで自分は本の中にいるみたいな、不思議な感覚に包まれます。


「どう、ですか?」

「……う、うむん。ありきたりな言葉で悪いが、似合ってるぞ」


 特に飾った言葉なんていりませんでした。それがライト様の正直な感想だと分かっているからこそ、私は今、この場が夜で良かったと思います。


 だって、こんなに顔が赤くなったのは、おぎゃあと生まれたその日以来の事かもしれません。


 私は、こんなに幸せでいいんでしょうか? こんなに幸せなメイドがいていいんでしょうか?




「メリー、これからも頼むぞ」

「……はい!」




 この日、私ははっきりと自覚しました。


 本当はもっと早くに気づくべきだった、いえ、気づいていても、それ以上考えないようにしていた事です。


 私はメイドだから

 ライト様は主だから


 目をそらし、自分自身すら欺いて否定し続けてきた欲望。


 でも、もうダメです。


 どれだけ自分を偽ろうとも、心の奥底では、ずっとずっと隠しきれない想いが叫んでいたのですから。



「さて、そろそろ帰ろうか。みんな心配している。付き合わせて悪かったな」

「いえ全然私はっーー」


 神様のいたずらか、地面の草むらに足を取られて私はバランスを崩し、そのままご主人様の胸へと飛び込んでしまいました。


 メリーの馬鹿。


 わざとじゃないよ?


「ご、ごごごめんなしゃい!」

「……まったく、危なっかしい奴だ。ほら、手を繋げ。離すなよまた転ぶから」

「っ……」


 気付かれていないのかな?


 体の奥から溢れ出る熱い熱い熱が、どうかライト様に気付かれないようにと祈りながら、私は差し出された手を優しく握りしめます。


 この温もりを、離したくない。


 そうなのですライト様。メリーはいけないメイド。でももう、自分に嘘はつけません。


 私は……



 ーー私は貴方の事が、好きなのです


◇◇◇◇◇


 今日確信した。


 この気持ちがいつから芽生えたものだったかは、俺自身分からない。


 もしかしたら館で初めて出会った時、それよりも前の昔のあいつを見かけた時から一目惚れだったのかもしれないが。


 まあ、何時からかなんてどうでもいい。


 まだまだ未熟で、どうしようもないお馬鹿な子だけど、こいつはそれでいいのかもしれない。


 ……母さん、俺


 ーー好きな人が、出来たようです

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