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6. 収穫祭!! 狙った獲物は逃がさないシューティングスター

◇◇◇◇◇


「ミレイ、ちょっと買い出し付き合ってくれるー?」

「おっけー。あ、待ったお姉ちゃん。サティーさーん! 昼過ぎにお館様のご友人がたくさんいらっしゃるようだから、多めにお昼の用意をしてくれって言ってましたー!」

「はいよー。おっとそうだった。メイ、貴方アリサを呼んできてくれる? 私は手が離せなくてねー」

「了解しました」

「頼んだよー」


 秋の収穫祭が近いから。


 私たちが住み込みで働くこの館の中も、とても忙しくしています。


 例外は私ですかね。ご主人様の側にいるから、他の仕事は中々任されません。


 そんなご主人様でさえ、今は山のような書類と向き合っています。ロメルド様から頼まれたようです。


「俺はこういうインドアな仕事が得意なんだよ」

「はぁ、でもそれ、仕事ですよね?」

「ただの手伝いだ。仕事の内には入らない」

「そういうものですか……」

 

 でも確かこの前、酔っ払ったロメルド様が……『ライトは優秀! タダで楽々、仕事は完璧! よっ、ありがとうライト〜』


 とか言ってた気がするんですけど。ライト様は十分、お給金をいただいても文句の言えない仕事量を任されているんじゃないでしょうか?


 本人にそのつもりがないなら、私からは何も言えませんが。


「大体、俺に給料は必要ない。あまりに余り過ぎるほど父上に頂いているからな。

 父上のお金の使い道の半分は俺だ。もう俺にお金をやるのが趣味といっとも差し支えないくらい、あの人は息子に甘いんだ。全く」


 困ったように、嬉しそうにライト様はロメルド様の文句を言います。


 商人ロメルドがご子息にあげるお小遣いは、簡単に店を建てれちゃうくらいらしいです。愛されてるなぁ……


「ん? じゃあ、残りの半分はなんです?」

「仕事に回してる。父上の言い分では、金は動いてこそ価値がある、との事らしい」

「ご立派ですね」

「俺も、よく使い道には困るものだ」

「なんて贅沢な」

「額が額だからな……下手すれば経済がこんがらがる。幼い頃に一度、物の価値を変えてしまい父上を困らせたものだ」

「無邪気にえげつない思い出ですね。そんな小さな時からたくさんのお金を渡すなんて、ロメルド様は金銭価値が狂ってしまってるんでしょうか?」

「いや、仮にも商人。そこは間違えないだろう……いやだったら……わざとか? もしかして、俺に金の使い方を教えるために馬鹿みたいな金額だったのかもな」


 なるほどなるほど、とご主人様は頷き、一人納得しました。


 ありますよねーこういう、後になって親の考えが分かるってやつ。その時はなんだこのイカれた人でなしゴリラ首絞めて血抜きしてやる、なんて思っても、今では大事な大事なお母さんですし。


「でもそれ結構強引な教育ですよね」

「信用の裏返しとも取れる。どちらにせよ、父上は一人前の商人だが、親としては半人前なのかもな」

「私は? 私、もうそろそろ一人前のメイドですかね?」

「……頑張れ」

「え、あれ、私の想像していた答えとすっごく違いますよ。ご主人様?ご主人様ー?」


 ライト様は聞こえないとでも言いたげに、書類仕事へと戻りました。


 都合が悪くなったらだんまりなんですから。……でも、ライト様はこの頃、よく喋ってくるようになりました。これはつまり、主とメイドの親密度が深まったということに他ならないでしょう。


 グッジョブメリー! 日頃の積み重ねは無駄ではなかったのよ!


「……アリア」

「はい?」

「いや、アリアはどうしてるかな、と」

「王子の事ですよね?」

「他にアから始まる名前の奴はいないだろう。アは始まりを意味する。暗黙の了解だが、王家のしるしでもあるんだぞ」

「んん? でもそれっておかしいですよ。アリサちゃんがいます」


 はっ、もしや、アリサちゃんは神であり、天使であり、王女様だったと!?


 そういうわけではないらしく、ライト様は盲点だったと目を瞑ります。とても後悔しているようでした。


「そうか、そういえばこんなにも身近にいたな。俺とした事が、アリサの事を忘れるなんて……いや忘れてない。忘れてなどいないが……」

「おや、おやおやもしかして。ライト様もアリサちゃんの事を好きですか?」

「……かわいいよなー」

「ですよねー!」

「客観的に見ても……かわいいよなー」

「ですです! 控えめに言っても天使ですよね!」

「妹がいたら、あんな感じなのかもな」

「ぐはっ、それ最高です」


 ここから謎のアリサちゃんべた褒め回が始まりましたが、割愛します。


 本題です本題。


 でーでん。どうして暗黙の了解とやらを破ってまでアリサちゃんの名前はアから始まるの?


 はい、人のルールなんて縛られない人間を超越した可愛いアリサちゃんだけに許された特別行為だから。


 間違い!


 いや間違ってないけど不正解!


「アリサは隣国のハーマフロダイトが出身だからな。ハーマフロダイトにそんなルールはない」

「え、それじゃあアリサちゃんってアイウエオの生まれじゃなかったんですね」


 そういえば確かに、異国風というか、不思議な美しさはありました。


 人形というか。


 アリサちゃんらしいというか。


「どーりで。あんなに優秀なのに、メイド組合では噂一つなかったから変だと思ってたんですよ」

「アリサがやってきたのは、7歳? 6歳の頃だったかな」

「ななっ!? 」

「そう。そんな歳から優秀過ぎたせいで、半ば厄介払いのようにうちへきたのがアリサなんだ。アリサは最初からとても大人しく、何でも出来た……問題は何一つ起こさなかったが、ロッテンマイヤーとは大分揉めたなぁ」

「……え! 先輩が!?」


 アリサちゃんと揉めた!?


 今までのを全部聞いた上で、今のが一番驚きました。うん、先輩の性格上あまり違和感はないけれど、でもアリサちゃんととなると……ほへぇ……


「誰一人として最初から完璧な人間(・・)などいない、という事だな。これ以上詳しくは俺の口から言えない。本人たちから聞いてくれ」

「むう、先輩話してくれるでしょうか」


 ……チャンスは、風邪を引いた日、かな。いえそんな日はずっとない方が良いですけどね!またあの可愛い先輩見てみたいなーなんて、思ってませんからね!


 ーーさて、優秀優秀言いますが、ご主人様も大概で、今の話し中に全ての仕事を終えたようです。


 窮屈になった体をめいいっぱい伸ばして、一息つくと、窓の外を眺めました。


 屋台。人混み。いつも以上に国は賑やかな場へと変わっていきます。衛兵さん達も今日は大忙しですね。


「収穫祭、か。催しは何があるんだったか。確か武闘会に料理コンクール……そういえばミス・コンテストなんてものもあった気がするな。あれだけは父上の管轄じゃないからよく知らないが、メリーは出る気はないのか? 優勝者には『白バラの冠』が貰えるんじゃなかったかな」

「わ、私がですか!? そんな、私なんか出ても良いところにだっていきませんよ! あれは女性の美しさを競う大会です。先輩やアリサちゃんの方が適役ですよ」

「それはまあ、そうかもしれないが……お前だってしっかり可愛いんだし」

「不意打ち!? ラ、ライト様こそ武闘会に出ればいいじゃないですか。いいところいくんでしょう?」

「……武闘会、か。いやいい。俺は特に競う事に興味なんてない。大体、争い事は好きじゃないんだ。それにーー」



 ライト様は窓の外、そのまた更に向こうを眺めながら、静かに言いました。


「武闘会は、アリアが出るんだよ」


 王子が?


「俺の友達だ。きっと決勝までいく。そして決勝戦で奴と闘うーー王国最強の剣士ブラック・クローバー」

「ああそんな人いましたね」

「ぞんざいだな。嫌いなのか?」

「ん、いや、別にそんな事ないですけど」

「ふむ……まあいい。確かにブラック・クローバーはキツそうな性格をしている。だが、実力は確かだ。今年こそはアリアに勝ってほしいが、こればっかりはな」

「応援に行きます?」

「いや行かない」


 意外にもライト様は即答でした。そういえばご主人様は、いつも大体優しいんですけど、時折父親譲りの冷静な判断をする時もあるんです。


 ドライなライト。ドライト。


「俺が武闘会でアリアと出会うときは、あいつが優勝した時と決めている。だからまあ、今年はそうだな、みんなで楽しく各所を見て回るか」

「えー……それってアリア様が勝てないと言ってるようなものですけど」

「気合だけではどうにもならない事があるのが現実だ。あいつは結構勝負事に関してのプライドが高いから、負ける姿なんて俺に見せたくないだろう」

「んー、でも応援は喜ぶと思いますけどね。あの方ライト様大好きですし」

「……心の中で応援するから大丈夫だ。喉が渇いた。水をくれ」


 最近、一つ分かった事があります。ご主人様はこうなったらもう真っ直ぐなんです。応援には行かないと、断言したのと同じです。合図は『喉が渇いた』です。


 何かあるんでしょうかね?


 私には皆目見当もつきませんが。


 ご主人様達とあちこちを楽しむ。それはとても、楽しみなのでした。



◇◇◇◇◇


 当日。


 お外に出かけるメンバーを発表します。まず当然ご主人様。久しぶりの外出ですね。次にこれも当然私ことメリー。久しぶりの外出ですね。


 さて、続いての方はこちら。ツンデレ疑惑が度々浮上するベテランメイドこと先輩と、陽気に呑気なポジティブメイドことミレイさんでした。


 ミレイさんのお姉さんとサティーさんはお留守番です。執事のハロルドさんはいつもロメルド様と一緒にいて、今日も大忙しのロメルド様を手伝っています。天使疑惑に確信が持たれつつあるアリサちゃんも、今日は低血圧が原因でお留守番です。私の調査では、アリサちゃんは三日に一回低血圧がひどくなります。台詞に句読点が多い時がそれですね。まあ、そんなジト目アリサちゃんも可愛いんですけどーー


 気を取り直して。


 つまり私も入れて4人! これが今日のメンバーとなります。グダグダにならないよう是非気をつけたいところですね。


『人が多い。だから今日は馬車が使えない。かなりの距離を歩くことになるから、それ相応の服装で来るんだぞ』


 ご主人様はそうおっしゃいました。そして遂に出発の時。玄関で皆が集合して、ご主人様は溜息をつきました。


「メリーもそうだが、もしかしてお前らは外行き用にメイド服以外の物を持っていないのか?」

「私は持ってますよ!」

「恐れながら申し上げますライト様。私は5着ほど持っております……メイド服の予備を」

「んー、あったようななかったような? お姉ちゃんが知ってる」


 ここに来て表れる女子力の差。案外、私がまともだったという。


 逆に先輩は驚異のメイド力を発揮してしまいました。何ですこの人、どこまでメイドにこだわってるんです?


 そして安定のミレイさん。ミレイのお姉さんもこれには頭を抱えました。何より頭を抱えたいのはご主人様らしいですけどね。


「今日は人が多いと言っておいただろう。そんな格好で大丈夫か?」

「ご安心をライト様。生き物の呼吸。そこにらある隙を見つければ、誰にも私を触れる事はかないません」

「そんな事が出来るのはお前くらいだ。それで、メリーとミレイは」

「私はどこまでもライト様のメイドですし」

「何とかなると思うんですよー」

「はぁ……ならもう何も言わん。時間が惜しいから出発するぞ」


 お留守番組に見送られ、私たちは夕方のアイウエオ国を堪能します。


 収穫祭ーーそれは10月に行われる。母国豊穣の祈りと感謝を込めた大変賑やかな祭り……なーんて大袈裟に言いますが、今となってはただ単に楽しみたいだけです。騒ぎたいだけなのです。


 武闘会はもう昼から始まっているらしく、会場は遠くの遠くなのに歓声がここまで届いてきます。因みに結果は逐一王国中に発表されています。


 さっきまで実況の1人にロメルド様がおられましたが、今度はミス・コンテストに用があるそうで、休む暇もありません。ミス・コンテスト優勝者には白バラの冠が送られます。因みに、“貴女が一番美しい” という意味の込められたその白バラの冠からとって、世の中の男の人たちはプロポーズに白バラを使う事が多いようです。第一回ミス・コンテストの初代優勝者が授賞式にサプライズとして白バラの冠をプレゼントしたのが始まりです。


 さて、武闘会のアリア様。ミス・コンテストのロメルド様。そして私たち。純粋に楽しむだけにやってきたお祭りを、これでもかと楽しみます。


 もっぱら、騒いでいたのは私とミレイさんくらいでしたが。


「っ……これは、ウンマ〜イ!」

「ずるいミレイさん私も……っ、旨っ!」

「何だいあんたらメイドやってんのかい。んじゃあこれオマケしとくよ。代わりに宣伝よろしくね」

「やった! これアリサちゃん達のお土産にしましょう!」

「お姉ちゃんにあげるのはもったいないけど仕方ないね。おばちゃん! いたずらようにクソ辛いのもちょこっと作ってくれる?」

「仕方ないねぇ。残したら許さないよ」

「大丈夫だよ! 食べさせるから!」


 可哀想なマナミーさん。お気の毒に。


 ところでこれ何の肉でしょう?


 まあ聞いても意味ないですかね。こういうのって、こういう場だからこそ美味しいと感じるものであって、記憶におぼろげな楽しさくらいが丁度いいんでしょう。


 次行こう次!


「もう、ミレイとメリーったら。ライト様を置いて……」後でお仕置きね

「今日くらいはいいんじゃないのか。ロッテンマイヤーも、何か興味のあるものがあったら遠慮なく言ってくれよ」

「私は特に何も」


 先輩の完璧たる猫被りは何者をも欺いたかのように思われた。私も遠くから聞いていて先輩って大人だなぁと思った。


 ーーしかしその時、商人ロメルドの息子ライトには、ロッテンマイヤーの心の視線が見えていた。



「射的、か。面白そうだな。やってみよう」

「へっ? あ、そ、そうですか! ライト様がそう言うのなら、そうしましょう」


 本当に面白そうなので、私もやってみる事にしました。大丈夫。任せてね。


「私メリーはかつて早撃ちのシューティングスターと呼ばれていたかもしれない女! 見ていてください。目指すは大物! 狙いはよし! きた、フルパワー! いっけぇ!!」


 パスン。ポト。


 落ちたのは弾だけでした。


 ……


「大丈夫。分かってたぞメリー。良い子だから簡単なのをじっくりと狙っていてくれ」

「……はい、そうします」


 パスン。ポト。


 あれ、む、難しい。簡単そうなのって、どれ? 狙えメリー。貴女はいずれシューティングスターと呼ばれる女!


 じっくり。じっくり。


 パスン。ポト。


 ……


「どれ、先に俺からやってみるか」

「ライト様ならば問題ありません」

「よく言う……初心者だからな。そう期待しないで見ていてくれよ」


 ーーライトはそう言うが、この男、結構何でも出来てしまう。一回目は失敗した。だが二回目。見事小物をゲット。続いてお菓子もゲット。


「なるほど、コツがつかめてきた」

「いけますよご主人様」

「任せろ……目指すは大物。狙いはよし。後は引き金をーー引くだけだ!」


 ーーライトの鷹のような鋭き眼光が獲物を貫く。同時に、放たれたゴム弾が一直線に獲物の中心部へと……当たった!


「クックック、甘ぇな坊主」

「なにっ」

 

 ーー当たった……だけだった。それだけだ。獲物はピクリともしない。さながら不動の魔王。今になってライトは気付く。敵は、強大だ……!!


「相手を見誤った、か。だがどうしてだ。的には当てたはず」

「何だ、この俺にいちゃもんつけようってかい? 言っておくがよう坊主、これら商品に糊なんてついちゃあいないぜ? 卑怯イカサマ嘘っぱち、全部俺のきれぇなもんだ。この的当て、貴様がただ実力不足だったって事だなぁ!? クックックッ……ハッーハッハハハハ!」

「……だが、弾はあと一つある」

「当てれるのかよぉ〜? 一度しくじったこの環境、極度の緊張状態で貴様は本当に、引き金を引けるのかぁ?」

「……」


 ーー戯言だ。耳を貸すな。そう思ったライトだが、気付く。自らの手元が微かに震えている事に。そう、店主の言う通り、今のライトには余裕がなかった。大丈夫、さっきだって外したわけではない……そんな言い訳も、敵を前にすればあまりにも無力。


 パスン。ポト。


 ーー弾はまた獲物に当たった。獲物はほんのちょぴっと動いた。それだけだった。


「残念だったな坊主。この世は弱肉強食。てめえはただ、弱かった。それだけさ」

「くっ……その通りだな」


 ーー悔しい、という気持ちがないわけではなかった。単なる遊び、何を本気にしている。そう思う者もいるかもしれない。だが、ライトは確かに全力を出し尽くし負けたのだ。それはとても、無様……


 ーー終われるはずがなかった。この状況を、黙って見届けない女がいた。


「ロッテンマイヤー、お前」


 ーー彼女は銃をとる。全ては主の為に


「お任せくださいライト様。……2秒で終わらせます」

「何だぁ? 次は嬢ちゃんか。いいぜ。ただしそんだけ大口叩いたからには」


 ボトッ。


「っ……な、なにぃ〜!?」

「聞いていなかったのですかヒゲダルマ。私は2秒で終わらせると言ったはずです」

「なっーー」


 ーーこ、この女……出来るっ!!


「凄いぞロッテンマイヤー。どうやってやったんだ?」

「簡単です。ライト様の最後の一撃。あれで的は少し動きました。そしてその一撃は、ライト様が緊張のあまり的の中心ではなく、僅か上部に当ててしまわれたものです。

 その結果、私は理解してしまいました。この遊びは中心部を狙うだけではいけない、と。そう、1センチでもズレてしまえばハズレとなるスリリングの先に、勝機はあったのです」

「なるほど、流石だな」

「くっ! だ、だがいい気になるなよ。これは難易度中! まだ上には上がいるんだよ。はんっ、恥をかく前にここらでやめておいたほうが身の為……」

「あのリンゴ型ポーチ中々可愛いですね。では、頂くとしましょう」


 ーー馬鹿めが! それは難易度上! 俺でも三日に一度しか落とす事のできない的だぜ。今日初めて射的をやった素人さんに落とせるはずが……


 ボトッ。


「ぬ、ぬわぁにぃ!?」

「これはポーチ本体ではなく、ハンドル……宙にぶら下がる持ち手の部分を決められた角度から当てるしかなかったのですね。ぶっつけ本番でしたが、上手くいって良かったです」

「う、嘘だ! 角度に少しのズレも許されない高等テクニック! ただの初心者のお嬢ちゃんに出来るはずがねえ! 貴様、何者だ!?」

「私ですか? 私はただの、メイドですよ」


 ババーンと謎の効果音が入った。


 ーー店主、恥を掻く。世の中には凄い奴がいるもんだと、半ば悟りを開く。かつて祭りの覇者と呼ばれた自分はもうそこにいなかった。今はただの、射的の店主。


 ーー子供の頃、どこも甘っちょろいものばかりで満足できなかった。将来は自分が最高難易度の的を作り上げるのだと胸に誓った。だが、実際はどうだろう。それは難しすぎて、つまらないと言われる始末。店主はただ、子供の頃の夢を叶えただけなのに。


「……お前さんなら、落とせるかもしれねえ。この、等身大ぬいぐるみを!」

「っ、確かに、手強そうですね」

「俺だって年に一度しか落とせねえ最高難易度! やれるか、お嬢ちゃん?」

「愚問です」


 ーー彼女は銃を構える。全ては主の為に


「一度落とせたのでしょう。そこに可能性がゼロでない限り、何の問題もありません」


 ーー狙うは上部。それも限りなく、ギリギリの許される範囲内。いまのロッテンマイヤーが外すレベルではない。


 パスン。ポト。


 ーー結果は非情だった。


「確かにギリギリを狙ったのに! ……そう、これは、そういう事なのね」


 ーー彼女は遅れながら気付く。そもそも一発で落とせる相手ではなかった。一度に打てる四発を絶好の場所に、絶好のタイミングでぶつけなければ獲物は落ちない。


 ーーなるほど、最高難易度は伊達じゃない。だが、ネタが分かれば話は早い。彼女は新しい銃を取って



「おっと、気をつけな嬢ちゃん。他のお客様を待たせるわけにはいかねえ。お一人様2回限りだぜ。つまりあんたのチャンスは、それで終いだ」

「いいでしょう。私も何度も挑戦する気はありません。これで、終わらせます」


 ーー彼女は絶対的な自信があった。ベテランメイドとしての誇りがあった。目指すは大物。狙いはよし。後はどのタイミングで弾を発射するか。これが肝心なのだ。


 ……ヒューと風が吹く


 ーー追い風だった。


 今!


 パッーーー!!


 ーー余りにも早い発射音は、まるで一発だけのように聞こえる。しかし四発撃った。彼女にもう、チャンスはない。後は、結果だけ……


 ーーいける! と思った店主。風向きが急に向かい風に変わったのを長年の経験で感じ取り、訪れる未来に顔を俯ける。


 ーーぬいぐるみは確かに落ちそうだった。だが、そこまでだった。完全なる追い風でなかったせいで、落とすまでには至らなかった。あと一発でもあれば良かったのだが、ぬいぐるみは無事に生き残り……可哀想なぬいぐるみの記憶は、そこで途絶えたのだった。


 パスン。


 ボドンッ。


 やけに重い音が響きました。


 あれ、どうしたの皆さん。私の事をそんなに見つめて。メリー何にも悪い事してないよ?


「メリー、お前……やったな!」

「え? ほえ? 今わたしライト様の為に狙った筆ペン外しちゃったところで」

「悔しいけどメリー、今日は貴女に助けられたわ。だからといって、べ、別に感謝なんて少ししかしてないんだけどね」

「………………そ、そのとーり! 私はかつてシューティングスターと呼ばれた女ですからね! 狙った獲物は逃がさない。当然の事ですよ」


 な、何のことかさっぱり分かんないんだけど、まっいいよね! こういうのってノリだよね!


 優しそうな店主が何故かぬいぐるみを持ってきたけど、これってつまり、私が落としたという事でいいのかな? いいや貰えるものは貰っちゃお! ウサギのぬいぐるみ可愛い!


「シューティングスター、か。そういえば聞いた事があるかもしれないぜ」

「は?」

「狙った獲物は逃がさない。それは確かにシューティングの決めゼリフだった。まさかこんなところで本物に会えるとはな」

「……え、えへへぇ」

「っ、その笑顔」


 ーーそうか、俺は……誰かの喜ぶ顔が見たかっただけなんだな。んな事も忘れちまっていたとは、馬鹿な野郎だぜ俺もよ……それに、いいもん見れた。ぬいぐるみを落とす方法は一つだけじゃなかったぜ。


 ーー1人じゃなくとも、2人なら、か。……そろそろ俺も、かみさん探すかね


「このぬいぐるみ、先輩にあげますね」

「え? あの、私は別に欲しかったから取ろうとしたんじゃなくてね」

「はいどうぞ」

「ちょ、ちょっと」


 口ではそんな事言って、体は正直者の先輩なんですから。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、まんざらでもなさそうです。


 いやー良かった。大きな荷物が邪魔になるところでした。まだ色々と屋台の物を食べ尽くしていないし、先輩がいて本当に助かりました。


「さっきのはかなり満足できたな。おかげでいつの間にかもう夜だ。はぐれないよう気をつけよう……って、そういえばミレイがいないじゃないか!」

「え、ミレイさん!?」

「あの馬鹿。こんな時間帯に迷子になっても探せないわよ」

「そういえば! 私さっき射的中にミレイさんらしき人影を見た気が……ちょっと探してきますね!」

「あ、メリー、おい!」

「大丈夫です。すぐ戻ってきますから!」

「そういう問題じゃーー」


 大丈夫。任せてね。


 ミレイさんはメイド服ですから、探せば意外とすぐに見つかると思うんですよね。パパッと探してパパッとご主人様の所へ戻りましょう!


 どうですこの、私の、完璧な作戦! 死角なし。


 ……と、思ってました。


 探しても探してもミレイさんは見つかりません。夜はますます闇を帯びていき、私以外の皆はますます賑やかになる事が余計に不気味に思える謎の現象。


 早く見つけて早く見つけてと思う度に、自分の体は勝手に動き……賢いメリーは気づいてしまいました。


 あれ、これ私が迷子なんじゃ?


 ……


 そーなのかー。私が迷子なのかー。


 こうなれば話は早いです。ご主人様達のところへ戻りましょう。


 ……ここはどこ?


 しまった、私は迷子でした。


 悪い事は重なるようで、前方から酔っ払いさんが3人ほどやってきました。その内一人は、なんとこのメリーに絡んできました。


「ちょ、やめてください」

「いいじゃんかよぉ〜。ちょこっと、ちょこっと一緒に酒飲んでくれるだけでいいんだよぉ〜」

「おいやめろって」

「うるへぇ! お前だってこんなカワイ子ちゃんと一緒にいた方が楽しいだろう」

「それは、まあ、そうだけど」

「だったらいいんだよ。一人みてえだし、なあいいだろ嬢ちゃん。これから俺たちゃ二次会なんだ。一緒に飲もうゼェ」

「もう本当にやめっーー締めるぞ」

「締め……え?」


 しかし困りました。幾ら威勢をよくしてもメリーの護身術の成績は本当にからっきしで、このままではご主人様達のところへ戻るどころか、知らないおじさん達とどんちゃん騒ぎをする事になりそうです。


 どうなるメリー!?

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