4. ロイヤルメイドって頭もロイヤルなのかな
◇◇◇◇◇
王家の次に、国に対して影響力を持つのは何を隠そうロメルド様です。だから、そんなロメルド様が王家と仲の良い事は、至極当然の事なのかもしれません。
だからといってそれを、私が受け入れられるかどうかは別問題です。今日突然、王子が来ると言われても、私の頭の中はポッパラピーと笛を吹くくらいしか出来ませんでした。
っていうか、もう来てます。
「それじゃあ私は、アルベルト王の所へ行ってくるから。ライト、失礼のないようにな」
「お気をつけて父上」
ロメルド様は、第一王子アリア様の乗ってこられた馬車で、まるで代わりばんこのようにお城へと行ってしまわれました。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!」
ご主人様の言葉に元気に反応したこの御仁こそ、時期国王であるアリア様です。アリア様にはあと、1人の弟君と妹君がいらっしゃいます。妹君の方はひどく病弱だとかで、一度もお目にした事はないんですけどね。
アリア王子は男性のはずです。あ、どうしてそんな言葉を付け加えたのかというと、アリア様の容姿がご主人様以上に細くか弱いからです。多分、お化粧次第で女に化けますねあれ。
私がこんなに失礼なことを考えているのはもちろん、緊張しているからです。私は普段はしっかりしてますからね。
「メリー、落ち着け」
私の心中を察したのか、耳元でライト様が囁きました。
「アリアのメイドを見ろ。凄い。お前とは違って足と手がちゃんと動いている。歩いているぞ」
「でもご主人様ぁ」
「情けない声を出すな。今のお前への評価は、俺の評価に繋がると心せよ」
普段よりも厳しいライト様のお言葉にハッとします。そうでした。私は、ライト様のメイドなのです。
急に胸に熱い炎が燃え上がりました。いつまでもだらしなくては、ご主人様に迷惑をかけてしまいます。
それは、イヤです!
「何だ、やれば出来るじゃないか」
ホッとしたようなライト様。私は、どうやら心配をかけさせてしまっていたようです。
ですがご安心を。私はもうパーフェクトメリーです……まあ、やっている事といえば、歩いているだけなんですけどね。
二足歩行を心配される私って一体。
「そちらが、新しいメイドさんか。仲が良さそうだねライト」
「そうか?」
「うん、とっても……少し嫉妬するかも」
「嫉妬? メリーなら誰とでもすぐに仲良くなれる。お前ともすぐに友達になれるさ」
ちょっとご主人様ー!!
ライト様に仕えて以来、初めてのとんでもない無茶振りに私は心の中で悲鳴をあげます。表に出さなかったのは、意地です。
アリア様はアリア様で少し困ったように、小さく呟きました。私の〈メイド基本術 耳をすませば〉でも、微かに聞こえる程度の声でしたので、ライト様には聞こえませんでした。
「そっちじゃ、ないんだけどなぁ」
ライト様の部屋に着きました。
先ほどから見て分かる通り、お二人はとても仲が良いのですが、部屋に入るとさらにフレンドリーなプライベート。王子にもこんな姿があるのだなぁと、感心してしまいました。
……恐らく、この場だけなのでしょう。王子が王子を忘れて楽しめる空間は。そしてご主人様は、それを分かった上でわざと気楽な空間を作り上げているのです。
それにしても本当に、仲の良い。
「ごめんねライト。本当はもっと早く来たかったんだけど、予定より随分と遅れちゃった」
「気にするな。そっちが大変なのは分かっている。それにこっちも、何かと忙しがった。最近やっと目処が立ってきたところでな……まあそんな事はどうでもいい。喉は渇いてないか? 俺が淹れよう」
「ご主人様?」
「いいメリー。じっとしていろ」
私は言われた通りにします。隣を見ると、何となく先輩と雰囲気の似たアリア様のメイドは、言われずともジッとしています。
なるほど。これが普通なのですね。私達メイドはあまり関わらない、お二人の時間なのですね。
「うん、前よりずっと美味しいや。ライトは何でも出来るね」
「馬鹿言え。練習したんだぞ」
お茶を淹れる練習? はて……あ、1人にしてくれと言った時が、もしかして?
今まで実は不思議だった謎が、少しだけ分かった気がします。
「昔、お前にボロクソ言われたからな」
「そ、それはゴメンって言ったよ!」
「大丈夫だ、理解している。落ち込んだだけだ」
「だからゴメンって!」
「ふん……まあ、あの時はそう言われても仕方がなかっただろうさ。俺は紅茶を飲みもしない素人だったし、何よりお前はいつもセパスさんのーー」
この時のご主人様の視線によって、私の隣のメイドさんがセパスという名だと分かりました。
「セパスさんの淹れたお茶を飲んでいるんだからな。当然、セパスさんのお茶を飲んでしまえば、他の誰もが見劣りに感じてしまう」
「はは、良かったねセパス。ベタ褒めだよ」
「ライト様に言われると、照れますね」
ライト様から褒めていただける。ほへぇ。これがプロのメイドさんですか。王家に仕えるともなれば、それはロイヤルメイドですしね。なるほど真似したいです。
そして私もいつか褒められたい!
セパスさんの事、師匠とお呼びしてもいいでしょうか!?
「ところでライト様、私の事は馴れ馴れしくセパスちゃんとお呼びくださるようにと、常々お願いしているのですが」
……あれ? 何かおかしな雰囲気。
「いや、さすがにそれは」
「それが嫌ならセッちゃんでも、私は全然構いません」
「うむむ……助けてくれアリア」
「こらセパス。ライトが困ってるよ」
「失礼しました。つい」
「ごめんねライト。セパスったら、普段はもっとキッチリしてるんだけど」
「気にしてないからいいさ。この場では、何も気にしない。そうだろアリア?」
「……そうだね。ありがとうライト」
とても良い感じで終わってしまいそうでしたが、そこは私。気になることがあれば夜も眠れない性格と、勝手に動く口を持つメリーでした。
「もしかして、セパスさんはご主人様の事が好きなんですか?」
「おいメリーっ」
「その通りです!」
何とご本人からの同意。これはもう誤魔化せません。アリア様は知っているのか、何とも言えずに苦笑。ご主人様も分かっていたのか、何とも言えずに顔をそらします。
そしてセパスさんだけが、何か勝手にテンション上がっています。
「私はもちろん、ライト様と結婚を前提にお付き合いしたいと、毎日の事お望みしておりました」
誰だこいつ。
男なんて汚らわしい! とか思ってそうだよなぁという第一印象だったセパスさんはどこ?
「気をつけてねライト。打算もあるから」
「もちろんです。 私はメイド。王族になる確率などありえませんが、しかしライト様の妻ならまだ可能性はあります。例えそれが1パーセントにも満たない運命であろうとも、私は……一度でいいから楽な暮らしがしたい」
何故でしょう。さっきは、先輩と似たような人だと思ったのに、なーんだ意外と私にそっくりかもしれませんこの人! 仲良くなれそうです!
「何か今ひどく馬鹿にされた気がしますが……いいでしょう。この際はっきりと申し上げますが、もう私働きたくない」
「僕の前でそれ言う?」
「ライト様! 私はライト様個人の事をもちろん愛する事が出来ます! だからどうか妻として迎えてはくれませんか? 私は楽して暮らす。ライト様は毎日私の大人の魅力をイロイロとーー」
「ははっ、おかしなの。だってセパスは仕事仕事で、未だに処じっーー」
白のハンケチーフが、アリア様の顔に見事命中しました。犯人はこの中にいます。
当然セパスさんです。
何だろうこの人、凄い。色々と、凄い!
「投げた! 見たよねライト! いま主にハンカチ投げつけるメイドがいたよ! 世が世なら打ち首ものだよ!」
「……気にしない。この場では、何も気にしない。そうだろアリア?」
「ひどい! 僕の味方してよ!」
一体このカオスな空間は何?
誰が始まりかと聞けば、それはもちろんセパスさんですし、私のような気もします。
ま、楽しかったらいいですよね! 趣旨には、沿っていると思う!!
〜〜〜〜〜
「そうだアリア。久しぶりに、あれをするか」
今度の始まりは、確かそんなライト様の言葉からだったと思う。
原型の掴めないライト様の言葉を、それでも理解したアリア様は快くイエスと返事をなされて、私たちは庭に出ました。
誰が予想できるでしょう。商人ロメルドの一人息子と、この国の王子が、互いに木刀を握りしめ、ぶつけ合っているなどと……
カキン、カキンッ! と気持ちのいい音が続きます。いけ、そこだ、小手! 深く考えることをやめた私はすっかり順応し、2人の試合を応援します。
驚いたのは、アリア様です。ライト様の剣の腕前は毎朝拝見していますが、一見細く頼りないアリア様はそんなライト様に負けず、息を切らしながら剣を振ります。
二人の美しい姿。こういうのを、絵になるというのでしょうね。
「アリア様は、ライト様の剣の師匠でもあるのですよ」
「そうなんですか!?」
「はい。そしてアリア様は、あの王国最強剣士、ブラック・クローバー殿の一番弟子でもあります」
「はあ、そうなんですか」
「……昔、ライト様とアリア様はそこまで仲が良くありませんでした」
「本当ですか!?」
「というのも、アリア様はまだまだ子供だったので。そこをライト様は上手く付き合って下さり、秋の収穫祭後の出来事にて、無事にお二人は今のような友人へと至ったのです
おかげでアリア様は昔より大分元気になりました。ライト様には感謝しています」
「ご主人様がそんな事を」
お二人の仲が悪い時なんて、私には到底想像できないんですけど。
「はい。実をいうと、アリア様は今でも弟君と仲がよろしくないのですが」
「へえ、大変ですね」
「……分かりやすいーー素直な方ですね貴女」
「はい?」
「いえ何でも……時に貴女は、ライト様の専属メイドだとか」
「そんな、私はただライト様のお側にいるだけで、正式な専属メイドではありませんよ」
専属メイド。それは文字通り、専属。簡単に言うと、無期限のメイド契約。メイドをする中で、一つの最終目標とも言えるかもしれません。
私は一年契約です。先輩たちは優秀ですしもっと長いんでしょうけど……そういえば一年後は、ご主人様が成人になられる年ですね。私はそんなめでたい年に、お別れを、するんですか。
ご主人様と、あと、一年。
「例え専属メイドでなくとも、ライト様と一緒にいる事に変わりはない。つまり、私のライバルとなるのですね」
「……ふえっ!? いやいや、そんな。ライバルなんて、私は別に、ご主人様をそのような目で見てはいませんよ!」
「おや、そうなんですか?」
「はい。失礼です。私はメイドですから」
「それなら良いのですけど。本当に、ただそれだけなら……ね」
セパスさんの鋭い視線が私を射抜きます。やっぱりこの人、先輩に似ている。どことなく雰囲気が……その蒼く深い瞳が、私たちとは違う何かを映している。
ふっと、私を睨み見つめていた目が、ご主人様たちの方へと向きます。お二人の試合は、もう終わりへと近づいていました。
「ーー私は、メイドだから、なんて言い訳を使うつもりはもうないのですよ。自分が何者であろうと、全力で、自分の目指す目標へと努力します」
……カッコいい。
その姿勢は、憧れる。
そこに焦がれるものがある。
「全力で、楽がしたいのです」
訂正。やっぱり、残念な人でした。
私は怠惰な勤勉さんから目をそらし、ご主人様達の方へ向き直ります。丁度、終わっていました。
倒れたライト様に、アリア様が手を伸ばしたところでした。
「俺の負け、か。やっぱり強いな」
「これでもライトの師匠だからね。負けてられないよ。でも、この頃は本当に危ないけどね。僕も鍛えなくっちゃ」
「王子一人がそんなに強くなっては、周りの兵士達も気が気でないな」
汗を拭き取りながら、二人は剣を収めます。木刀ですけどね。
それから二人は部屋へ戻り、たくさんの事をお話になられました。アリア様は王子としての苦労を、ライト様はそれを慰めながら自分の悩みを。
『何になればいいのか、分からない』
私が知らなかったライト様の悩み。
これに対し、王子は答えました。
『僕とライトが、入れ替われば良かったかもね』
『……いや、王子なんて疲れそうなもの、俺はごめんこうむるな』
『あ、ひどーい!』
互いに不満を言いつつも、お二人は楽しそうでした。本当に、仲が良い。
楽しい時間とはすぐに過ぎるものらしく、アリア様は名残惜しそうにしながらも、帰ってきたロメルド様と入れ違いに城へと帰って行きました。
またお会いするのは、きっと遠い日の事でしょうから、ライト様も心なしか寂しそうな顔をしてらっしゃいました。
「……戻るぞメリー」
「はい」
私では駄目なんでしょうか。アリア様の代わりには、ならないんでしょうか。
えへへっ、ならないんでしょうね。だってアリア様はご友人で、私はただのメイドですから。
ご主人様の寂しそうな顔一つ消すことの出来ない、ダメメイドですから。
ダメイド、なんちゃって。
……なんちゃって。
〜〜〜〜〜
ライトは毎度の事ながら、父ロメルドと一緒に夜を過ごしていた。といってもお酒はどうにも好かないので、一人だけオレンジジュースを美味しそうに飲んでいる。
ロメルドはただそれだけを残念に思いながら、お酒を飲んでいた。二人の話は当然の事ながら、今日に繋がる。
「どうだい、アリア王子とは楽しかったか? なんて当然だね。聞くまでもなかったかな」
「もちろん楽しかったさ。だが、悲しみを知っているからこそ喜びを知るとはよく言ったものだよ。とても楽しかったからこそ、終わるとキツイものがある」
「なるほど……わかるよ。父さんも若い頃は貧乏だったからね。それが嫌だから必死になってお金持ちになったんだけど」
「心と金を一緒にしないでくれ」
「ははっ、これがどうだい。案外心ってものはお金で動かせるんだよ。お金は何だって買える」
「商人らしい言葉ですね。では、俺は一体幾らでしょうか?」
「……」
「なんて。聞くまでも、ありませんでしたね」
「ふふっ、全く、負けるなお前には」
カチンッ、と二つのグラスが音を鳴らした。乾杯とは、特に喜びや祝福の気持ちを込め、杯を触れ合わすことである。
ロメルドのグラスの中身は赤紫の液体が。ライトのグラスの中身は橙黄色の液体が。夜に浮かぶ月を映していた。
「ところで、父上の方はどうだったのですか? アルベルト王は、確か容態が優れないとか」
暗い表情をしながら、ライトは尋ねる。ロメルドが難しい顔で酒を一飲みしたので、更に暗いものとなった。
「そうですか。おじさんにはとてもお世話になった。俺が小さい頃、もう覚えていない時その時からきっと、たくさん……」
「ああ、そうだね。時間の流れというものは、いつだって残酷なものだよ」
「……」
「アリア達をよろしく頼むと、言われたよ」
「っ……そこまで悪いのですね」
「アリア王子が王になるのも、そんなに先の事ではないのかもしれないな」
「不敬ですよ。それは」
「分かっているとも。もちろん、それはまだまだ先の事だと願っている。アルベルト王の為にも」
「アリアの為にも」
「……ああ」
将来を憂いる、二人の男の言葉は、夜風に紛れて消えていく。
二人は知っている。
命の脆さと、残された者の辛さを。
それはとても痛くて……
「アリア。お前は俺より、強いはずだよな」
ライトはただ、願うしかなかった。
◇◇◇◇◇◆教えてウィキ◆
Q アリアって実は女じゃ?
A その質問には答えられない。彼(彼女?)は公式も認める性別不詳である。作者の間でも度々議論にあがるが、今も確立はされていない。恐らくそれは今後も変わらないだろう。ただ、一つ言えることは。
アリアは最初の友達として、確実にライトを好いているという事だ。アリアにとって、ライトにとって、互いが大事な友である事は間違いないだろう。
Q ロッテンマイヤーってライトの事好きなんじゃ?
A それは違う。例えその気持ちがあったとしても、恐らく微々たるものだ。ライトはロッテンマイヤーの事を信用し、信頼して、深愛してもいるが、それは家族愛。ロッテンマイヤーの気持ちも似たようなものである。




