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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
3.黒い者と駆ける地下迷宮編
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Scene97『かつての出来事は今へと繋がる(前)』

 二十一世紀中頃。

 既に完成していた量子コンピュータを前に研究者・技術者達は頭を痛めていた。

 電子コンピュータの段階でも問われていた問題。

 機械側の性能が人の能力を遥かに超えているため、その全てを使いこなすことができない。

 一般人からしたらさして問題ないことだったが、それを扱う研究者や技術者からしてみれば許しがたい状況だった。

 十全に扱えているのなら、どれだけのことが可能になり、どれだけのことに手が届くか。

 勿論、こうなることは前々から予期され、そのための対策や準備などもされていた。

 時間を掛ければ全てとは言わずとも七割八割の力を発揮させることはできる。

 だが、そのために掛ける時間と労力が、本来成すべきことに注げられたのなら。

 そんな思いが日増しに強くなり、そのための研究開発が世界規模で行われるようになったのはしょうがないことだった。

 だが、ここで一つの問題が起きる。

 人を越えたコンピュータへさてどうアプローチするかだ。

 これは早急に解決されるべき問題であり、そのために注げるマンパワーはあればあるほど良い。

 だからこそ、これに関わった者達は一堂に会し、それぞれバラバラな方向性を一つにまとめるための大議論を行うことになった。

 長く白熱した論争の末、異なるアプローチ方法を掲げた二つの派閥ができることになった。

 一つは、機械を人類の友とするべきと唱える『友機派』。

 もう一つは、人類を機械へとするべきと唱える『機人派』。

 二つに分かれた研究開発だったが、当初の両派のは特にぶつかることなく進んでいた。

 それぞれの道から目的に至ればよいとされていたからだ。

 だが、機人派達が技術の確立のために行っていた実験が人体実験へと移り出した時、二つの派閥は大きく運命を分けることになる。

 いわばサイボーグ技術の確立といっていいそれは、当時の世界からは受け入れられなかった。

 実験の失敗による後遺症あるいは死亡事故なども相次いだのも良くないことに動く。

 批判の矛先が自分達に向かうことを恐れたそれまで支援者だった国や企業が動けば、世界規模で規制が行われ始めるのもさして時間が掛からなかった。

 既に動物実験を終え、人体実験によるデータの蓄積すらあれば技術は確立できる。

 その段階まで至っていると考えた機人派達は、世界的な規制があっても諦めきれず多くが闇に潜ることになった。

 対して友機派は順調に研究開発が行われ、今から七十五年前に一つの成果を発表する。

 自我を持った世界初のコンピュータ『マザー』が作り出されたのだ。

 そして、生まれ育った彼女は友機派が望む行動を誰に命じられることもなく望む。

 親を亡くした子供を育てたいと。

 人と共にあるべきことを願って作られたが故に生じた感情が、母星であったことに開発した者達は驚きつつ、その願いを試験的に叶えることになった。

 そうして育てられ始めた孤児達の中に、後に世界を救うことになる科学者天野歌人がいた。

 人を超えるコンピュータに育てられた孤児達は、その多くが歌人ほどでないにしろ世界に名を轟かす人物となる。

 それはある意味では、友機派の願いを一つも二つも先に飛ばすように叶えていた。

 だが、その成果は後世に出ることであり、その当時は自我を持ったコンピュータに懐疑的な者達は多かった。

 特に過剰に反応した者達は、機械による人類支配を妄想し、勝手に恐慌状態に陥るまでに至る。

 後に人類至上主義者と呼ばれる者達は、友機派の成功を快く思わなかった機人派達の密かなバックアップを受け暴挙に出るのだった。



 「わしと歌人はいわゆる幼馴染でな。その縁で何度かマザーに会ったことがある」

 「どんな人だったんですか?」

 「……尊は自然に人と呼ぶの」

 「?」

 「願わくばその感覚が新しい世代のスタンダードであることを願うよ」

 「すいません。よく聞こえなかったんですが」

 「いや、気にするな。ただの独り言じゃよ。とにかく、彼女はまさに理想の母親といった感じだったな。聖母と言っても過言じゃないかもしれん。優しく、気高く、なによりも人のことを、特に息子娘達を優先する人じゃった。人格固定のための仮想体も美人でな。私の初恋の人じゃったよ」

 「そうなんですか……でも、確かマザーさんって」

 「ああ、今から七十年前。その年の初詣に出かけた歌人達にウイルス兵器が投与された。後に人類至上主義者と名乗る連中によってな。マザーは国家の枠組みを越えて研究開発されていたコンピュータじゃった。当然、それだけ厳重に警護されておってな。直接手出しできないと思った奴らは、子供達に目を付けたというわけだ。そして、子供達の命を盾に要求した。ワクチンが欲しければマザーを破壊しろとな。奴らからしたら、それで国を動かそうとしたのだろう。じゃあ、様々な国が参加して作られたマザーの破壊など人が直ぐに決められるはずもない」

 「衰弱していく子供達を見たマザーが……自らの意思で自滅したんですよね」

 「そうじゃ。マザーは世界初の自我を持ったコンピュータであると同時に、機械で初めて自殺したコンピュータでもある」

 「……天野さんは?」

 「流石にどうあったかはプライバシーに関わるかの……しかし、この件が奴に影響を及ぼさなかったということはなかろう。なんせ、クオンタムナビゲータの生みの親なのだからな」

 「そうですね」

 「この一件で、友機派の研究は大きく停滞することになる。責任問題などで関わった国々や研究機関がごたごたしたというのもあるが、この成功で気を良くした人類至上主義者達と機人派の妨害工作が激しくなったというのも大きいな。そして、これが機人派をより深く闇に沈めさせることになり、ある一つの秘密結社が結成させる切っ掛けともなった」

 「秘密結社ですか?」

 「フィクションみたいな話じゃろ? 表にも出とらん話だしの。しかし、奴らは確実におった。通称『DEM』」

 「『デウスエクスマキナ』?」

 「……よくまあ、直ぐに思い付くの。若さかの?」

 「えっと、その、そういうこともよく考えるので」

 「そうか。まあ、それぐらいの年頃じゃものな。わからんでもない……ともかく。そうさ。デウスエクスマキナ。通称DEM。奴らは人を機械どころか、機械化によって神にまでなろうとしたとち狂った科学者集団者じゃよ」



 時代は進み、二十五年前、二十二世紀初頭。

 国際連合世界食糧計画が、世界規模の干ばつと寒冷化に加えた人口増加による世界同時食糧危機が起きると発表。

 これを切っ掛けに世界各地で紛争が頻発し、多くの国々が過剰なまでに自国を優先するようになる。

 そして、大国がその経済力を利用して海外の食料まで独占し始めたことにより、その国々の貧困層が大国国民を襲撃する事件が多発。

 これに反応した大国が自国民を守るためと派兵し、武力による鎮圧をその国の政府を無視して行い始める。

 同時に大国に反発した国々の軍のみならず民間の船が攻撃を受け撃沈する事態が多発。

 これをほぼ全ての国が大国の仕業だと決めつけたことにより、第三次世界大戦が勃発することになった。

 五年にも及ぶ戦争により急速に世界が疲弊していき、それに伴って国対国の図式だけでなくそれぞれの国内で独立や内紛までも起き始めることになる。



 「実のところを言うとな。世界同時食料危機なんぞ本当は起きなかったんじゃ」

 「え? でも、実際に世界中で餓死者が出たって」

 「そうさな。食糧危機という偽情報を真に受け動いた力ある連中のせいで、実際に食糧危機になってしまったからの」

 「じゃあ、そんな発表さえなければ?」

 「なんの問題もなかったじゃろうな。万が一、食糧危機が起きたとしても第三次世界大戦なぞ起きていなければ、通常の流通ルートを使ってわしらがなんとかしていた。そのための準備もしとったしの」

 「天野式QCアマテラスを使った食料生産システムですか?」

 「おう。あれは元々、そのために作っとったものじゃからな。今や日本を支えるQCの一つじゃが。ともかく、世間的には第三次世界大戦を天野がぱっと止めたみたいに思われとるかもしれんが、いくら奴とてなんの下準備もなくそんなことはできんよ。もっとも、奴らの方がこちらより早く、規模も大きかったからの。結局後手に回らざるを得なかった」

 「DEMが第三次世界大戦の裏にいたってことですか?」

 「そうじゃよ。世界同時食料危機の偽情報も、それを本当にしてしまった流れも、なにもかも、第三次世界大戦を勃発させるために奴らが仕掛けたことじゃったんじゃよ」

 「なんのためにそこまでしたんですか? 成果を試すためとか?」

 「それもあるじゃろうが、主な理由は実験材料が大量に欲しかった。じゃな」

 「じ、実験材料?」

 「これも知られとらんことじゃがな。第三次世界大戦での戦死者数約十三億人の大半は戦争では死んどらん。奴らに捕まり、戦争が原因で死んだことにされ、機械化の実験を受けた結果なんじゃよ」

 「いくらなんでも多過ぎませんか!?」

 「狂っとった奴らは他人をデータ収集の道具としか見取らんかったようじゃからな。生かすための実験はほとんどしとらんかったようじゃよ」

 「それをしやすくするために世界大戦を?」

 「ああ、そのために世界各国の軍や政府の中枢に入り込んでおったからな。機械化による不老不死とかうたっての」

 「そんな状態でよく終戦まで持ち込めましたね?」

 「それは勿論、わしらとて手をこまねいていたわけじゃないからの。世界大戦をコントロールしておる奴らを潰せば、DEMになびかなかった、そもそも声も掛けられなかった者達が終戦へと導く。そう信じて対デウスエクスマキナ部隊『クリプティッド』を結成した」

 「部隊ですか?」

 「なにも世界中の戦いに介入する必要はないからの。まあ、世界各国の軍がほぼDEMに掌握されていたというのもあるが……じゃとしても、ただの部隊じゃないぞ? 世界中から化け物と呼ばれるほどの兵を集めた少数精鋭部隊じゃったからな」

 「いまいち想像できないんですが」

 「まあ、ゲームではなく現実の話じゃからの。じゃが、こういえば多少は想像しやすくなるんじゃないかの? クリプティッドには新兵としてギルバート=レギウスが参加しとったと言えば」

未来のPCインターフェイスって結局どういうのになるんでしょうね? 個人的にはどんな形でもいいので早くより手軽なものにならんものかと思わんでもないですが。


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