Scene96『ダークエルフ風武装量子精霊』
ブレイドが正式に結成されたことにより、それまで伏せられていた情報が所属するプレイヤー達に公開されることになった。
もっとも、PMScsフェンリルに伝わってもいい情報だけなので、主に明らかになったのはでぃーきゅーえぬ達の後始末だ。
尊の企みと自業自得によって武装量子精霊達から契約を切られた彼らは、日暮翼が着用した空想科学兵装ヴァルキューレの機能エインヘリャルによって傀儡となり限界以上の戦いを強要されていた。
苦闘の末に兵装を撃破したことにより解放され、狭間の森のプレイヤー達によって操られた改造守り人達によって保護されているので、翼の自爆に巻き込まれることなく無事だった。
とはいえ丁寧に守るほどの人物達ではなく、群れるとろくなことをしないのは実害を伴って理解されている。
結果として現在彼らは、地下三階に一人一人隔離して閉じ込められていた。
紋章魔法を保有していたのは武霊達の異空間収納なため、扉をロックしてしまえば自力で出ることは不可能になる。よって小部屋は簡易的な牢屋として相応しい。
着ていたサムライスーツに関しては、操られたことが余程の恐怖だったのかほとんどの者が自ら脱いでいた。
その後に、自己的な主張をして服を要求したりもしていたが、流石に素っ裸のままというのは見苦しく、後々でそれに関して訴えられても面倒なため元の服をそれぞれの元契約武霊から回収し返されている。
当然、それら服に隠されていた紋章魔法も回収済みなので、それを使って脱出しようとしていたでぃーきゅーえぬ達は憤然としたりした。
が、彼らに懇切丁寧に自分達がログアウト出来たらどういうことになるか、懇切丁寧にリアルで弁護士をしている者達によって説明されたことによって皆蒼い顔をして黙ることになった。
量子精霊保護法。通称ナビ保護法によりクオンタムナビゲータ達は人と同じ人権を与えられている。
これはVRMMO武装精霊のために仕様を変更されている武装量子精霊達にも適応されることだ。
つまり、ハラスメントをすればそれ相応の罪に問われ、更に今回のような事件であれば世間的な注目も高い。
もう一つ加えれば、ナビ人権が適応されてから日が浅く、一般に浸透していない現状を鑑みれば、これを国やナビ擁護派などが有効活用しないなどということもないのだ。
また、そういう恰好な的に対して自分達がどういうことをするか身に覚えがあり過ぎるでぃーきゅーえぬ達は、今や悪意の巣窟になりつつある古巣の電子ネットワーク帰ることもできない。
もはや確定といってもいいほど、でぃーきゅーえぬ達はそれ相応以上の罰を受ける。
後はこれ以上の罪を重ねないように、少しでも罰が軽くなるようにおとなしくするか、協力するぐらいしかできないというわけだ。
もっとも武霊という力を失った彼らに、協力という選択肢はなく、また信頼もないため後はただただ閉じ込める以外ないのだが。
自殺でもすればここでの記憶などが失われ、それによるVR症を発病するリスクを抱えてログアウトできるだろが、彼らにそんな負の勇気があるはずもない。
我流羅のように自らのVR体を支えている武霊を殺害してという方法もあるかもしれないが、彼らと違って武霊達は丁重に保護され、自主性に任せて自由に動いてもらっている。
具体的には常に武霊使いないし、改造守り人が近くにいる状態で結成したばかりのブレイドの活動を手伝ってくれているのだ。
ただ、
「……なんでみんなカナタになってるんだろう?」
「否定します。正確にはダークエルフ風です」
尊は着物ダークエルフなカナタを見て、発足会の片づけを手伝っているローブ姿な耳長黒肌な美少女及び美女達へと視線を向ける。
目が覚めてから度々見掛けてはいたが、他にもダークなエルフさん達がいるんだ~と思ってさして気にもしてなかった。
のだが、流石に今日目撃したようにわらわらいると気になってくる。
そもそも武霊達は常に武装化しているか、姿を主の中に隠しているかしていることが多く、カナタのように常時出ているというのは珍しい部類に入るのだ。
尊達の影響で常時傍らに置き始めている武霊使いも出始めているが、それでも人間以外の姿というのは目立つ。
しかも、確認している限りだと似たような姿はあっても、ほとんどが個性を感じさせる異なった姿・恰好をしているのだ。
鳳凰のリチャードのように獅子の姿をしていたりと、人でない場合もあるのでいくらなんでもダークエルフばかりというのは不自然。
なので、カナタに聞いてみると、
「回答します。元でぃーきゅーえぬの武霊達です」
と回答されたのだ。
最後の記憶ではカナタの契約前姿と同じ感じだったのに、今では皆種族ダークエルフになっているのは正直尊でもよくわからない状態だった。
「なんで?」
「回答します。容姿未確定状態では人格が不安定になるため、本人達の要望で私の容姿データを提供しました」
「そうなんだ」
「事後報告します。それにより仮ですが彼女らのマスターはマスターになっています」
「そうな……ええっ!?」
「強調します。あくまで仮です。マスターの武霊は私です」
特に語尾を強めているというわけではないが、それでも確かに譲れないと主張している様子は尊としては微笑ましい。
が、それを傍で聞いていたダークエルフ風な方々は、うらやましそうな視線を尊とカナタに向けている。
容姿データを提供したのであれば、彼女のデフォルトである白い花の柄が入った袖がひざ上までしかない着物も付いてくるはずなのだが、それに関しては頑なに提供を拒否されていた。
故に彼女達の恰好は緊急用のローブ姿のままであり、それが仮であると烙印を押されているようなものになっていた。
人に仕え、奉仕することを喜びとする本能を持つナビからすると、尊は立場・人格・経歴どれをとっても主として相応しく、だからこそ精力的に今回の発足会を手伝っていた。
のだが、それを成したとしても、間にカナタが立ちふさがっている以上はどうにも中途半端なところがある。
片付けを手伝いならすすっと近付いて見ても、尊の視界に入らないようにカナタが自然と動いて視線を誘導したりした。
実のところ、この三日間そういう密かな攻防が生された結果、今日まで尊が彼女らのことを気に掛けなかったのだった。
翌日。
「ようこそいらっしゃいましたブラックプリンセス」
「…………」
簡素なシャツとズボンを着て尊は武霊ネットワークにアクセスした。途端に不本意な呼び名を呼ばれて絶句することになった。
若干の間を置いて復活した尊は、そう口にした老人・VRA画面に映る小河総一郎に困った顔をしながら言うべきことは言っておく。
「僕は男ですよ?」
「うん? わかっておるよ?」
「……からかうためだけに呼んだのなら帰りますよ?」
「待て待てわしがそう呼んどるわけじゃない。皆がそう言っとるんじゃよ」
「そりゃあんな恰好で人前に出ればそうなりますよ……本当にみんな女の子だって勘違いしてたんですか?」
「うん? 大体はそうじゃな」
「……大体は?」
尊のうろんげな視線をどこ吹く風と受け流す総一郎は、不意にきりっとした表情になる。
「今日呼び出したのは他でもない。話せる条件が整ったことを教えようと思ってな」
確実に誤魔化せるタイミングでそういうことを言い出す大人の汚さに尊は深いため息を吐いてから、その話に乗ることにした。
「条件ってなんですか?」
「一つ、秘匿事項と同レベルの危機であること。二つ、その危機を回避あるいは打倒できえる者であること。三つ、その者を秘匿システム下にある者が規定人数認めること。四つ、その者が知ることを了承することだな」
「小河さんと早見さん以外にもティターニアワールドにいる人がいるんですか?」
「まあの。わしが一応の代表を務めとる『オールドマスターズ』に所属しとる連中や、ほれ、お前も会ったじゃろ? 鉄人もその一人だ」
「神室さんも? 国境なき料理団関連でですか?」
「ああ。あ奴もギルバートと面識があるからの」
「そうなんですか……あとオールドマスターズってなんですか?」
「ん? わしのように第一線を退いた者達の集まりじゃな。余生をこの世界で過ごそうと思っとったところ、こんな事態になったからの。人生なにが起こるかわからん」
「VRで余生ですか」
「今の時代らしいじゃろ? ここなら現実的でありながら、武霊達のサポートによって現実以上のことができる」
「他のVR空間じゃ駄目だったんですか?」
「過度なサポートを鬱陶しく思う連中も多いみたいでな。僅かな現実とのずれも気になる神経質な奴らもいる。その点、ここは現実の法則すらも全て再現している世界だ。そういう過度さもなければ、ずれも特にないらしい」
「小河さんもなんですか?」
「ん? わしは単なる付き合いじゃな。まあ、不幸と言うべきか幸運と言うべきか。引退とはなんだったのかと思わんでもないかの?」
「小河さん……」
「まあ、気にするな。これもまた運命なのじゃろう。あるいは全てに決着を付けられなかった者達のつけと言うべきか? なんにせよ。黒姫尊。条件その四だ」
「はい」
「お前は真実を知るつもりはあるか?」
「もち――」
「それが今回の件に直接関わらないことであってもか?」
「え?」
「少なくとも解決には繋がらないじゃろうな。わかるのは、どうして、どうやってをある程度推測できる材料を得られるぐらいじゃろう。それでも聞くか? 人の中に言動を制限するナノマシンを入れるような世界の闇を」
その問いに尊は困ったように目を巡らせた。
一介の中学生が聞くような話にはどうしても思えず、かといってそれが今起きていることに直接繋がらないとなれば迷いが生じる。
だが、動いた目の先に自分を見ているカナタがいれば、揺らいだ決意は固まる。
「今はどんなことでも関係あるのなら知っておきたいです。例え直接関係なくても、空想科学兵装のようなことだってありますし」
その言葉に真剣な表情していた総一郎はニヤリと笑う。
「そうか。わかった。まあ、安心せい、話を聞く程度では秘匿システムを入れられることはないからの」
「証明できないからですか?」
「そういうことじゃな……さて、どこから話そうか……そうじゃな。事の始まりは百年ほど前、二十一世紀中頃まで遡る」




