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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
3.黒い者と駆ける地下迷宮編
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Scene95『武霊使い同盟ブレイド』

 武霊使い同盟発足が決まってから三日後。

 尊を中心としたギルド長の活動により、会議で決まったことは滞りなく実行された。

 残されたのは同盟発足宣言及び同盟長お披露目会のみ。

 「…………なるほど」

 これから武霊ネットを介し会が始まると聞いて、尊は地下三階で密かに作られていたらしい準備部屋に入って三日前の鳳凰の言葉を思い出し納得した。

 何故ならそこに用意されていたマネキンというより活動を停止している守り人に着せられている衣装が、どこからどう見ても黒いドレスだったからだ。

 ちなみにそれを用意したプレイヤーは女装家なご老人だったが、若干死んだ目で大人しく着替えた尊にご満悦な様子だった。

 「言っていいのかどうかわからないが、なんだか着慣れた様子がないか?」

 一緒に来ている未だに少女姿の鳳凰は、どことなく慣れた様子で紋章魔法がアクセサリー代わりに散りばめられたドレスを着ている尊に素直な感想を口にした。

 もっとも頭の中では白いワンピース姿の彼を連想しているので、その格好自体に違和感があるというわけではない。

 「お母様にドレスも良く着させられましたから……」

 「それは難儀だな……」

 「こういう服なら鳳凰さんの方が似合うと思うんですけどね?」

 半回転して元に戻る動作をしてドレスの裾をひらりとさせる尊のその様子は、まさに苗字と同じ黒姫といった感じだった。

 「……い、いやそういう服は着たことがないからな。似合う似合わない以前に着こなせないよ」

 思わず見とれてしまった鳳凰ははっとなり頭を振るう。

 「よくない趣味に目覚めてしまいそうだな」

 思わずそんなことをつぶやいてしまう鳳凰を尻目に、尊は女装家なご老人と赤いドレスの方が~とか、白いドレスの方が~などと話し合いを始めていた。

 このままでは本当にドレスを用意されそうな気配がし始めたことに顔をひきつらせた鳳凰はそそくさと準備部屋から出る。

 今の姿を鳳凰だと認識しているプレイヤーは少ない。

 そのため部屋から出た彼女に声を掛けるプレイヤーは特にいないが、代わりに興味や行為の視線を集めていた。

 今まで目撃されたことがない美少女がいきなり今注目の的である尊の周りに現れ出したのだ。それで周囲の好奇心が刺激されないなどあるわけもなく、ここ最近の尊と伴って変な注目をされているのは鳳凰としては困りどころだった。

 かといって自分が盾の乙女団団長であることを公言するのも今後に差し障るので秘匿するしかない。

 結果として謎の美少女を甘んじて受けるしかない鳳凰だが、単に時間潰しのためにうろつくだけでこの注目度には辟易してしまっていた。

 だからと言って尊の下からあまり離れ過ぎるわけにもいかない。

 周りは主に今日の同盟発足会の準備のために動いている者達だが、完全に信頼できるものだけで固めているわけではないからだ。

 未だに尊の強制転送は元に戻っていない。

 そんな状態の彼を守るために、ここ三日間鳳凰をはじめとした実力者が常に近くにいる状態にしているのだ。

 特に鳳凰は謎の美少女属性をいかんなく発揮すればよい牽制となるので、なにかしらの思惑で尊に仕掛けたい相手からすると面の割れている下手な強者より都合がいい。

 ある意味ではそれがための必要経費だと思えば我慢我慢。

 「相変わらず可愛らしいおすな。抱き着いてもかまへん?」

 などと言ってそっと鳳凰の隣に並んで歩き出したのは、戦の聖人ギルド長の高城八重だった。

 謎の美少女の隣にプレイヤーの中で最強と名高い彼女が横に並んだことにより、少女鳳凰に向けられていた視線が散る。

 「助かった」

 羞恥心から顔を赤くしていた鳳凰は、八重だけに聞こえるようにぼそっとお礼を言いつつ。

 すすすっと抱き着きに掛る彼女の脇腹に、身長差から丁度いい高さにある拳を叩き込んでおく。

 「ふぐお! そ、それはないんじゃないかな?」

 「お前は直ぐに抱き着いてくる。そこまで許すほどの親しみなどない」

 「え~? いいじゃない。こっちで鎧姿を脱いだのを見たのは久しぶりなのだし」

 「久し振りというほどの間柄でもないだろうが」

 「まあ、ここで初めて会って、ここでしか会ってないものね。でも、可愛いは正義だよ?」

 「一発じゃ足りなのか?」

 ジト目になる鳳凰に、八重は両手を上げて降参を示す。

 「そもそもなぜ抱き着く?」

 「ん~見る手段はいくらでもあるけど、やっぱり直接触って可愛さを感じたいんだよね。尊ちゃんは可愛かったわね~」

 「まさかお前! いくら何でも犯罪だぞ!」

 「いやいや、嫌がったらやらないわよ。単に運ぶ時の不可抗力でって感じかしら?」

 「ああ、臨時ギルド同盟会議の時か」

 「そうそう。だから、後はあなただけなのよ!」

 懲りずに抱き着こうとした八重にカウンター気味にボディーブローをかましてうずくまらせておく。

 これによりその様子を目撃していた周囲の者達から謎の美少女最強説が流布されるようになる。

 「まあ、わざとなのだろうが。余計な気を回されないように早く鎧の修復が終わらないものか……」

 そうつぶやいた鳳凰はため息と八重を置き去りにして尊の下へと戻っていく。

 もうそろそろ発足会が始まるのだ。




 地下一階から三階に掛けての小部屋は物資保存や一時的に魔物を置いておくための場所であったためか、どこも白で統一されたなにもない造りになっている。

 そのためプレイヤーの一体感をより高めるためにわざわざ行る発足・お披露目会にはあまり向かない。

 だからこそ多くのプレイヤーを使って地下三階階段回りエリアを確保し、地下四階をステージにすることになった。

 でぃーきゅーえぬや日暮翼などが暴れたことによってある程度はガーディアン系の警備網が崩れたとはいえ、少しでも間を開けてしまえば瞬く間に元に戻ってしまうのが今の状況の前になる前にプレイヤー達の攻略を阻んでいた原因の一つ。

 それが故に既に確保したルート以外を確保するのに三日も掛かったわけだ。

 単に地下四階へ行くためなら既にいくつかのルートは確保できているが、ついでに今の戦力であれば困難だった場所を攻略できるという証明も兼ねての新規ルート開拓でもある。

 そんなわけで今日この時までことが進んでいる以上、十分に武霊使い同盟を発足する意味は伝わっていた。

 なので、わざわざ同盟長が発足を宣言しなくても、顔を見せなくても全く支障がない。

 と主張して見たりもしたが、そんな意見が通るわけもなく、下手すれば抱えられた状態で用意されたステージに連れて行かれそうな感じになったので、尊は若干慌てて階段上まで移動したのだった。

 そこに向かう途中にもエリア確保しているプレイヤー達がおり、黒いドレスとついでに化粧までされてしまった美男の娘にちょっと前まで通った謎の美少女を凌駕する視線が集まることになった。

 全員が全員、色々と盛られた可愛さに感嘆の息を吐く。

 尊は尊で、普段より余計に集まっている視線に思考が段々と内へと向かい始め、ゾーン癖が発動し始めた。

 ただ与えられた役割をこなすためだけに沈んだことにより、そのための最適解をせんがために動き出す。

 同盟長に相応しいように、かつ、今着ているドレスに似合うようにぶれもなく悠然とした歩み。

 不安と羞恥が表に出ないように、口角を僅かに上げ余裕を持った微笑みを浮かべる。

 尊の後ろには武霊使い同盟の象徴が描かれた旗を持つカナタがおり、普段とは違うメイド服を着ていた。

 ドレスに合うようにと用意されたもので、主と同様に有名になった武霊であるが故にゾーン癖が出る前までは彼女にも注目は集まっていた。

 が、堂々とした様子を尊が見せ始めるのに伴って全ての視線が彼に奪われる。

 一種の姫に付き従うメイドという風景と化したのだ。

 感嘆から惚けへと変化した中、尊達はステージである階段へと到達する。

 一歩一歩ゆっくりと悠然に下へ下へ。

 階段下広間には主にギルド長とその側近が集まっており、情報系ギルドグラスペッパーズが姿を消しながら武霊ネットに生中継してもいた。

 見ている全ての者を虜にしながら、尊は階段中頃で止まった。

 カナタから旗を受け取り、静寂に包まれる中それを音が出るほど強く階段に突き刺す。

 武装化していないので床を砕きはしないが、勢いが付いたことによって垂れていて見えなかった布が明らかになる。

 尊とカナタらしきシルエットが向かい合って刀を握り合っている意匠が描かれていた。

 「ここに!」

 演出のために周囲の武霊達が吹かせている風によって旗がなびく。

 「武霊使い同盟『ブレイド』の発足を宣言する!」

 その瞬間、歓声が地下ダンジョンと狭間の森に湧き上がったのだった。

ドレスの似合う男の娘をもっとうまく表現できたなら……って思う話でした。


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