Scene84『AGモード』
改造守り人達は素体となった守り人の頭脳であるコアを破壊し、その代わりに武霊ネットワークに繋がる通信系紋章魔法を組み込んでいる。
勿論、それだけでは守り人達と武霊ネットを接続できるわけではないので、通信の中継機としてルカは尊の援護に参加せずにここ暫くの拠点としていた温泉の部屋にいた。
四千を超える武霊使いと改造守り人達の橋渡しは、例え量子精霊であったとしても一人では負担が大きいが故に武装化ができないのだ。
もっとも大変なのは武霊がであって、その主たるルカは尊の苦闘を他所に暇を持て余していた。
温泉に足を付けながら避難してきた元でぃーきゅーえぬ達の武霊を眺めたり、撫で回したりとちょっかいをちょっかいも掛けたりしていたが、マスターとの契約を解除した影響か、それともそれまで受けていた虐待によるものか、いまいち彼ら彼女らの反応は芳しくない。
「はあ~尊ちゃん無事かしら」
自分が改造した守り人達がいるとはいえ、彼の作戦は前提として自分が前に出なくてはいけない。特に最後の一手は武霊使いでなくては成し得ない。
不安はそれ以外にもある。
その一手自体が理論と計算上では可能だとなってはいるが、実際に上手くいくかどうかは試していないのだ。
試せる類ではないのだからしょうがないが、現実も仮想も研究職であるが故に確実さを欲してしまう性分な彼女は落ち浮かない。
音を立てて温水を波立ててみるが、子供っぽいなと自身に苦笑するだけで終わり、眉を顰めた。
自身の武霊から思念通信がもたらされたからだ。
それも良くない類の。
「エラー? なんで!?」
報告内容に目を見開き、慌ててVRA画面を展開。
複数の画面を使い、指と口を駆使して詳細を把握しようとするが、こちらからの通信は正しく改造守り人に伝わっている。
だが、何故か四肢への命令が伝わらないと出ていた。
「四肢の神経構造に介入された!? そんなどうやって!?」
なにが起きたか原因がわからずとも、どこに異変が起きたのかを役割から即座に知り得たルカと違い、尊達現場は混乱に陥っていた。
「なっ!? なにをしているお前達!?」
「わ、わかりません! 急に腕のコントロールがっ!」
改造守り人達から戸惑いと驚嘆の声が響く中、突き刺そうとした刃が彼らの手によって白羽取りされた光景に尊は固まっていた。
そして、追い打ちをかけるように異変は別の場所でも起きる。
守り人達による拘束が解かれるという万が一の場合に備えて四方に五対ずつ計ニ十体配置していた。
それらが一斉に倒れたのだ。
「カナタ! 僕に異常は?」
「否定します。ありません」
引くも押すも出来ない状態に焦りを覚えつつも、なにが起きたか理解しようと試みる尊。
改造守り人は武霊使いによって動かされているが、その知覚機能は操っている者達より劣る。そもそもが人は勿論、武霊とも違う感覚器官によって動いている身体だ。それゆえに大雑把なことに向いてはいても、細かいことをするにはまだまだ調整と改造が必要だった。
だからこそ、なにが起きているか知り得るのに一歩遅れた。
「探知領域強化! 特に異変が起きている強化守り人の両腕を!」
「確認します……不自然に動く粒子の存在を確認。報告します。ナノマシンが関節部から守り人の神経構造に侵入し、コアからの信号を遮断すると共に形成している糸からの有線コントロールの支配を受けているようです」
「糸!? どこにそんなものが!?」
「視覚化します」
カナタの言葉と共に、尊の視界に翼が着込むヴァルキューレから無数に伸びる黒い糸が現れる。
それら糸はカナタの語った通り、強化守り人達の間接部分に巻き付いていた。
「うふふ。あなたもなにか時間稼ぎをしたかったようだけど、わたくしもなのですわ」
翼はそう言うと共に弱まった拘束から抜け出すために機体を持ち上げ始める。
「尊! 一撃で決めろ!」
自身が操る守り人にも異常が起き始めたことに気付いた総一郎は、完全に操られる前に行動に出た。
「自爆!」
ヴァルキューレを抑えるために一番下で組み伏せていた機体が閃光を放つ。
守り人が持っている紋章魔法を並列限界起動させて爆発に変えたのだ。
ただし、大型ガーディアン系以外が持つ紋章魔法は攻撃がメインでないため、その威力は魔法で強化しているであろうヴァルキューレを完全破壊するまでには至らなかった。
が、それであっても黒姫黒刀改を抑えている改造守り人達を吹き飛ばすには十分。
「精霊領域強化! やあああああああっ!」
裂ぱくの声と共に、止まっていた刺突が再びヴァルキューレに迫る。
白い裸体像の肩に突き刺さる黒い刃。
だが、
「狙うのであれば、中心を狙いませんと」
そこに翼はいなかった。
爆炎紛れ、空想科学兵装の中から脱出していたのだ。
しかも、その巨体の下で大型機関銃を抱え込んで。
「こういうことになるんですわ」
引かれるトリガー。
連射されたEPM弾は一発尊に命中するが、それ以外は明後日の方向に飛び、壁に小爆発を発生させるだけに終わった。
勿論、それは空想科学兵装が使うことの武器。撃った翼は反動と近距離からの爆発でヴァルキューレの下から、撃たれた尊は後ろへと吹き飛んでしまう。
転がり勢いを殺す二人。
先に態勢を立て直したのは尊だった。
二度目の攻撃であったことも重なって精霊力の減少は一割以下で済んでいたが、状況は一気に逆転されてしまう。
何故なら糸で繋がった改造守り人達は操る武霊使い達の奮闘を嘲笑うかのように四肢が捻じれ、一気にバラバラになってしまったからだ。
ただ千切れるだけならまだいい。それら取れた手足は別々に動き出し、倒れている翼の下へと群がる。
「ふふ。多分、改造守り人への探知を遅らせるためにこの墓場に罠を張ったのでしょうけど、それすら悪手でしたわね」
翼の言葉と共に、積もった雪から続々と盛り上がる。
現れたのは廃棄していた守り人達の腕。
「AGモード完全起動」
ゆっくりと集まった腕によって立ち上げられる翼。
その裸のようなサムライスーツには、全身に幾何学的な光の線が走っていた。
「AGスーツ『阿修羅』解放」
まるで全身が紋章魔法のようになった翼に白い腕達は巻き付き、鎧となり、新たな腕となる。
彼女自身が口にした言葉の通り、その姿は阿修羅を思わせる姿となっていた。




