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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
2.機械仕掛けの戦乙女は阿修羅編
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Scene77『空想科学兵装ヴァルキューレ』

 「く、空想科学兵装?」

 今まで相手にしてきたガーディアン系魔物や自動兵器とも、サムライスーツとも違うその姿に気圧される。

 例えるなら三メートル近い翼の生えたギリシャ彫刻のような白い女神像。

 裸体のようなサムライスーツを晒したヴァルキューレは、そのコードネームと同じ名前を冠した機体へと収まっていた。

 背に生えた金属の羽が女神を天使へと変え、一部から噴出しているなにかによって僅かな羽ばたきと共にその巨体を浮かせている。さながらそれは、

 (機械の天使)

 尊にそう思わせてしまうほどの芸術性も兼ね備えているようだった。

 もっとも、そういう感想を抱くにはまだまだ成長が足りないカナタは冷静に報告を上げる。

 (魔法現象をいくつか探知)

 (うん。物理現象だけじゃ説明できないのがいくつかあるね)

 翼の浮遊は幾分か科学技術が使われているようだが、その頭上に浮いているリングにはそれらしき現象は確認できなかった。

 構造の多くが人工筋肉で作られているようだったが、内部には多くの紋章魔法が組み込まれているのをカナタは尊の視界内に示す。

 (どうしよう?)

 尊は油断なく構えながら迷いを見せていた。

 そんな彼の様子に機械仕掛けの戦乙女が微笑む。

 内部のヴァルキューレとリンクしているのだろう。その動きは自然な物であり、隠される前に見せた彼女と同じに見えた。

 「流石にあなたを相手にサムライスーツだけで戦う気はありませんわ。あなたのことですもの。きっと今まで見せた戦いを基に対策を用意しているのでしょう? 高城八重も協力しているでしょうし、そんな無謀なことはしませんわ」

 その指摘通り尊はヴァルキューレが現れた場合、地上で行われた八重との戦いを基に準備していた。

 あの二戦の情報だけでも尊には十分に驚異的であり、対策を用意してもなお不安にさせるものだったのだが……

 (これは駄目だね)

 (肯定します。現状では敵能力が不明です。強調します。なにより、ここではマスターは全力で戦えません)

 周りにはでぃーきゅーえぬが首だけ出た状態で氷漬けされている。

 その表情はサムライスーツのフルフェイスマスクで全く確認できないが、沈黙していることから全員顔を青ざめさせているだろう。

 尊自身は彼らになにも手出しする気はない。

 が、助ける気もさらさらない。のだが、だからといって間接的に被害を与えることを良しとするわけにはいかなかった。

 自身の心情的な問題も大きいが、なにより今この場は武霊ネットだけではなく妖精広場を通して中継されている。非人道的な行いは今後のことを考えれば極力避けるべきなのだ。

 例え相手がでぃーきゅーえぬのような相手であっても。

 (提案します。現状を放棄。予備案に移行すべきです)

 (うん。わかった)

 心の中で頷きつつ、その場から逃走するために動こうとした。

 その時、ヴァルキューレがつぶやく。

 「エインヘリャル起動」

 その瞬間、うめき声でその場が満たされる。

 「え? え? なに!? なんで!?」

 予期しないでぃーきゅーえぬ達の苦悶の声に尊は動揺を抑えられない。

 サムライスーツを纏っていれば武装化していなくても氷の中でしばらくは無事でいられる。

 元戦場ジャーナリストの一二三からそう情報を仕入れたからこそ、彼らが精霊領域を切ってくるのを見越して氷漬けという選択をしたのだ。

 「ひ、一二三さん!」

 思わず抗議と確認の声を上げてしまう尊に視界にVRA画面が展開される。

 「思い出した! 尊君そいつはまずい! 今すぐ逃げるんだ!」

 一二三の必死な声に返事もせずにVRA画面を消し、ヴァルキューレに背を向け走り出す。

 精霊領域補助も使っての一気に氷牢から向けだそうとするが、それより早く周囲で砕ける音と、

 「ああああああぁああああ!」「いてぇええええ!」

 でぃーきゅーえぬ達の絶叫が聞こえ、灰色のサムライスーツ達が飛び出した。

 ほぼ同時に尊の視界が半透明な赤で埋め尽くされる。

 (避ける場所がない!?)

 それは攻撃予測線によるものだった。

 今までのでぃーきゅーえぬ達の射撃にはどこかに隙間があり、互いの銃撃を邪魔するような射線軸さえあったのにだ。

 なのに、今は尊が避ける位置まで潰すかのような見事な連携を見せていた。

 「シールド!」

 両手をクロスさせ、多重シールドを足元以外の全方位に展開すると同時に銃撃が開始された。

 一部を開けていることにより探知領域が使える。

 そのためカナタとのイメージ共有によって自分がどんな目に遭っているのかわかり、尊は眉を顰めてしまう。

 スコールのように降り注ぐ弾丸が周囲ごと砕き、シールドに覆われていない足下の氷にすら余波でひびが入る。

 このままではほどなくして崩れ落ちることを予見させるには十分。

 しかも危機はそれだけではない。

 籠手に嵌められていたシールドの紋章魔法の消費が階段下での戦いより圧倒的に早かった。

 その速度は十秒以下で一つ。既に百以下を切っている現状では、もって十六分しかこの状況を維持できない。

 勿論、このまま尊が防御に徹するなどありえないが。

 (カナタ!)

 (了解しました。ヒート)

 思考制御による尊のイメージを受け取ったカナタが水の中に混ぜていたもう一種類の紋章魔法を発動させる。

 氷の中から赤い光が漏れ出し、一気に周辺全てをその色で染め上げ氷の床を溶かす。

 シールドの展開起点を身体にしていたために尊はそのまま水の中に沈み、個体から液体に急激に変わったことによって大津波のように流される。

 ダンジョン探索中に最初は事故で、後は故意に同じことを何度か経験している尊は全方位展開に切り替えたシールドの中で思念通信。

 (一二三さん! 今の内の知っていることを!)

 上下左右に揉みくちゃにされながらの問いに、一二三のVRA画面が即座に展開され早口で説明が行われる。

 「空想科学兵装。通称SFAは、いずれは実現できるだろうとされている理論上は可能とされている技術を基に設計されている兵装と兵器のことだ。勿論、あくまで設計上のものであるため、現実では造られてはいないが……自動兵器並びにナビの台頭を危惧する者達から製作することを切望され、基本的に人が使うことを前提にしている。ただし、そのコンセプトなどは外に漏れることがあったため、VRゲームの中で登場したり、使われていることがあるんだが……VRゲームの場合はその空間のルールで補っているが、この世界では紋章魔法で補っているんだろう。だとすれば、純粋な意味での空想科学ではないな」

 「それはわかりますけど……」

 全体の話は確かに必要だが、今は必要なのはSFAとしてのヴァルキューレについてだ。

 それをわからない一二三ではないと理解している尊ははっとなる。

 「抵触するんですか?」

 「ゲーム化も、公開もされていない類だ。知る人間も少ないだろう」

 それ以上の返答はなかった。

 つまりそういうことなのだと尊は納得し、より危機感を募らせながら思考を巡らす。

 そうこうしている間に、水によって流される速度が落ち、カナタがタイミングを合わせてシールドを解除。

 まだ下半身が浸かるほどあるが、精霊領域によって影響を殺しているため尊は普通に立ち、直ぐに飛び上がって重力を変化させ天井に着地する。

 それと同時にVRA画面が展開された。

 映し出された光景は背後の様子で、氷牢が作られていた場所の天井に灰色のサムライスーツが無数に張り付いている。

 どうやら彼らのサムライスーツには、どんな場所にでも撃ち込めるスパイクが射出できる機構と吸盤機構が両腕に付いているらしく、紐のようなものを垂らしている者もいれば、蛙のように天井や壁についている者達もいた。

 (報告します。全員、回避したようです)

 (全員!? さっきまで素人丸出しだったのに?)

 驚愕しながら尊は天井を走り出し、水が無くなる場所まで一気に駆け抜けると、天井から壁へ、壁から床へと回転するように移動しながら思念会話を続ける。

 (推測します。でぃーきゅーえぬの激変に、まず間違いなくあの空想科学兵装が関わっているでしょう)

 (ヴァルキューレって名前から考えれば……もしかして、エインヘリャルってのが?)

 (確認します。マスターは知っているのですか?)

 (うん。そもそもヴァルキューレは北欧神話で、優秀な戦死者の魂を神々の世界に連れて行く役割を持った女神だったかな? いや、半神? よく覚えてないけど、その戦死者の魂がエインヘリャルって呼ばれていたはず。で、その人達は神々と敵対する巨人達と戦うために何度も死んでは生き返り繰り返して互いを殺し合いながら訓練してたとか)

 (納得します。なるほど、まさしくそれそのものだと言えるかもしれません)

 (そうなの?)

 (肯定します。なんらかの手段により彼らは限界以上の身体機能を発揮させられ、更にコントロールされているようです)

 (だから悲鳴を上げているの?)

 (肯定します。肉体の限界以上の動きを内外から強制されているようです)

 (外はサムライスーツからだろうけど、内側も?)

 (肯定します。元々彼らにサムライスーツを全力で操れる技能も、身体能力ありません。強調します。しかし、現在の動きはサムライスーツの本来ものだと武霊ネットに報告が上がっています。そこから推測します。この状態は、サムライスーツの緊急システムによって起こされている可能性が高いようです)

 (緊急ってことは、普通は使えないんだよね?)

 (詳細説明をします。自動投薬システムにより身体のタガを外し、無理矢理サムライスーツに合わせるため、使用すればダメージを受けるようです)

 (そんなことすれば直ぐに動けなくなるんじゃ……あ、だから痛覚をカットしてないんだ)

 既に十字路二つ分ほど離れることができているのに、背後からは絶え間なく阿鼻叫喚が起きている。

 どれほどの痛みを与えられ続けているのかよくわかることであり、よくよく確認すれば悶えているのもいれば不意に動きを止めて弛緩しているのもいた。

 (肯定します。気絶。VR体リセット。覚醒を繰り返しているようです)

 (もしかして、コロシアムでの拷問ってこれのため?)

 (賛同します。可能性は高いでしょう)

 (まさに機械仕掛けの戦乙女ってところなのかな……)

 水が完全に引いたのか、次々と天井から落下するでぃーきゅーえぬ達の上空に翼を羽ばたかせながら宙に止まっているヴァルキューレを確認した尊は、ここから先の戦いを思い唾をのんでしまうのだった。

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