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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
1.仮想世界で踊る黒刀の武霊使い編
23/107

Scene22『紋章魔法を試してみよう』

 ペケさんによって閉じ込められていた部屋を出た尊と武装化中のカナタは、現在の探知領域限界内でも上に行くための階段が見当たらなかったため、適当に歩いて進む。

 最初はガーディアン系以外の魔物の出現を警戒していたが、どんなに歩いてもそれらしき気配がないため、とりあえず手に入った紋章魔法をあれこれ試してみることにした。

 「手に入った紋章魔法は防御魔法のシールドが二つ。拘束魔法のバインドネットが二つ。光線魔法のレーザーが一つ。照明魔法のライトが一つ。計六個か……」

 「追加します。鍵の紋章魔法のキーも確認しました」

 「鍵? もしかして、閉じている部屋に入れるの?」

 尊の前にも後ろにも延々とドアが三つと十字路がある光景が続いており、ほとんど変化がない。

 時折、尊が閉じ込められていた部屋のように、まるで中から打ち破られたかのようにドアが通路側に倒れている所があったりするが、その内部は決まってもぬけの殻だった。

 「……状況から考えて、この部屋って魔物を閉じ込めていたのかな?」

 偶々前方に現れた倒れたドアを見ると、なにかに追突されたかのようにややくの字に曲がっており、まるで牙のような跡が二か所存在していた。

 「肯定します」

 「だとすると、ペケさんが飼育担当って予測は正しかったってことか……ん~でもさ。そうするとここって、結局なんなんだろうね? ただの都市として考えるなら、地下にこんなのがあるなんて物凄く不自然だし。ゲームとかである秘密の研究所とか悪の企業施設とかってわけでもないんでしょ? 普通に考えれば、異世界疑似創造計画に関係ある施設?」

 「肯定します。妖精広場から得られた情報によりますと、都市ティターニアはQCティターニアを使った前プロジェクトの観察研究都市だったのではないかと推測されています」

 「観察研究? ということは、地下が捕獲・採取したサンプルを保管する場所で、地上部分がその観察・研究する場所ってこと?」

 「肯定します」

 「確かに前プロジェクトから考えると、そういう施設があっても不自然じゃないけど……あの荒れようはいったい?」

 尊が思い出すのは、地上部分の荒廃ぷりだ。ひび割れや、汚れ具合は勿論、植物の無秩序な成長、更に所々見受けられた壊れた様々な場所。そもそも、尊が使った出入口そのものが壊れてからかなりの年月が経っているように見えたのだ。

 そこまで思い出して、尊にはピンとくるものがあった。

 「プロジェクトが凍結されてから、VRMMO化するまでの間も、時間加速化が行われていたのかな?」

 「推測します。その可能性は高いでしょう」

 「となると、なんでそんなことをしたんだろう? そんなことをせずにそのままVRMMO化すれば余計な手間が掛からないと思うんだけどな……」

 「補足します。多くのプレイヤーは演出のためにわざと荒廃させた。と考えているようです」

 「わざとね……確かにVRゲーム化する以上は、それらしい雰囲気があった方がいいとは思うけど……そもそも、なんでプロジェクトは凍結されたんだろう?」

 「不明です」

 「……『外』で、なにかがあったのかな? 妖精広場で誰か外の様子を見たって人はいないの?」

 「確認出来ません」

 「行く方法がないってこと?」

 「肯定します。都市はドームに覆われどこからも出ることができないようです」

 「破壊もできないの?」

 「不可能です」

 「……情報改変もできる武霊でも壊せないって……どんだけ頑丈なの?」

 「強調します。ただし、ティターニア城で発見された立体映像地図によると、地下ダンジョンの最下層には外に行くための通路が存在しているようです」

 「ああ、そういえば、そう説明してくれていたよね。しかも、ティターニア城には特殊な封印が施されていて外に行けないって話もしてたっけ?」

 「肯定します」

 「……ん~過去のことすら正確にわかってないのはどうにもな……本来ならそれがゲーム目的になって、プレイヤーさん達を期待させるところなのだろうが、今の状況では危険性を感じさせる不確定要素にしか感じられないかな? 上の施設や設備が壊れているから、そこから情報を集めることができなかったって考えると……もしかしたらここなら?」

 閉じられている扉を見ると、ついついそんなことを考えてしまう尊だったが、直ぐに首を横に振って余計な思考を吹き飛ばす。

 「今はそんなことより、上に行くことが先決だよね。もう、六日も経っちゃってるんだ。どこまで状況が悪化しているか……もしかしたら、カナタが持っている情報でも状況を覆せなくなってしまう可能性だって……」

 思わず今自分がしていることが全て無駄だったという不安に苛まれる尊だったが、首を横に振ってそれを振り払う。

 「可能性だけで身動きを取られなくなってしまうなんて、一番やっちゃ駄目だ。可能性に希望を持って、それでも駄目なら、駄目じゃなくせばいい!」

 「確認します。どうやってですか?」

 「え? えっと……どうやってだろうね?」

 自分自身を鼓舞するための言葉に純粋に問われるとは思っていなかった尊は、ただひたすら困るしかない。

 「と、とにかく、今は手に入れた紋章魔法を試そう。確か、柄に入れればカナタの制御下に置けるんだったよね?」

 「肯定します」

 カナタの声と共に、黒姫黒刀改の柄が勝手に開き、五つの紋章孔が現れる。

 「確認します。セッティングがどうしますか?」

 「とりあえず、丁度五種類あるから一つずつかな?」

 「了解しました」

 尊の要望に応え、カナタは異空間収納を開き、白い小さな円を紋章孔の隣に出現させ、そこから濃淡の違う白い球体を出し嵌めた。

 「色が紋章魔法ごとによって違うみたいだけど、属性を表している感じ?」

 「肯定します。込められた魔法性質によって光の屈折率が変化するそうです」

 「魔法でも物理現象の影響は逃れられないってことかな?」

 そんなことを言いながら、嵌められた紋章魔法達を撫でる尊だったが、ふと気付く。

 「……これ、どう考えても入らなくない?」

 明らかに収納されるべき柄より出っ張っている球体に、ちょっと困ってしまう。

 柄が伸びれば、その分だけ刀の重心が変わってしまう。剣の達人なら僅かな変化でも対応できるかもしれないが、尊はそこまでできるほど刀の振り方を習得しているわけではない。

 「問題ありません」

 自らの言葉を証明するかのように紋章孔を動かし、吸い込まれるように柄内部に収納させた。

 その際に紋章魔法が壊れた様子は一切ない。

 「空間を少し広げているとか?」

 「肯定します」

 「……魔法って凄いね」

 「基礎仕様です」

 「まあ、そうなんだろうけど……ん~とりあえず、使ってみようかな?」

 若干ワクワクしながら黒姫黒刀改をちょっと手間取りながら抜く。

 「……で、どうやって使えばいいの?」

 とりあえず正眼に構えて見たものの、そこから先の説明を受けていないため小首を傾げてしまう。

 「回答します。紋章魔法の名前を唱えてください。通常の紋章魔法が発動します」

 「うん。わかった」

 頷いた尊は、少しだけ息を吸い、唱える。

 「シールド」

 その瞬間、剣先に光の円盾が現れる。

 「これ、紋章孔に嵌めないとどうなるの?」

 「回答します。紋章正面に対して展開されます」

 「紋章? そういえば、どこら辺が紋章魔法なのか聞いてないよね。見た感じ、宝石みたいな感じだけど、そういうってことは紋章がどこかにあるってことだよね?」

 「肯定します」

 疑問に答えるため、尊の前に異空間収納を展開し、そこから紋章魔法を一つ出し、精霊領域で空中に固定する。

 「中央を確認してください」

 言われた通り注視してみると、確かに幾何学的な紋章らしきものが球体の中に描かれていた。

 「確かに紋章ぽいね。でも、これってなんなの? 名前からすると重要なものだよね?」

 「回答します。一種の回路です」

 「回路? これが?」

 「肯定します。これに魔力を流すことによって魔法現象を発現させることができます」

 「名前はあるの?」

 「肯定します。魔を操る術。魔術回路とプレイヤー達は呼んでいるようです」

 「ファンタジーだね……でも、これだとなにがなんだかわからないよね? 武霊さん達に聞けばいいんだろうけど、いちいち聞くのも不便な気がするよ」

 「肯定します。そのためプレイヤー達は自作の紋章魔法には幾何学的な模様ではなく、文字にしているようです」

 「この形じゃなくてもいいの?」

 「肯定します。紋章の形そのものに意味はなく、描いている線に魔術回路は組み込まれています」

 「……なるほど、よくよく見れば小さい点でできているね。ちなみにこれの裏表は?」

 「回答します。紋章が見える方向が表です」

 くるくると回転し始める紋章魔法。カナタの言う通り、角度が変わると紋章が見えなくなる。

 「なるほどね……それで、変化させたい場合は、どうしたらいいの?」

 「回答します。私が行いますので、指示してください」

 「うん。わかった。思考制御でいいよね?」

 「肯定します」

 (刀身の横に移動)

 尊の意思に応え、指示通りに光の盾が動く。

 「これで防御力が上がったかな?」

 「肯定します」

 「で、内包魔力が切れたら放置してれば自然に回復するだよね?」

 「肯定します。強調します。ただし、異空間収納に入れたままでは回復しません」

 「魔力がないってこと?」

 「肯定します」

 「そんなデメリットがあるんだね……ちなみに他にもある?」

 「肯定します。紋章魔法は使用の度に魔術回路が摩耗していきます」

 「摩耗って……使い続けると壊れちゃうってこと?」

 「肯定します」

 「修理は?」

 「可能です。強調します。ただし、そのためにはその紋章魔法を製造した際に使用した魔法素材が必要です」

 「魔法が込められている素材ってことだね。ん? もしかして、魔術回路って自作できないの?」

 「肯定します。現状、紋章魔法を作るためには魔法が込められている物体から魔術回路を抽出し、そのまま使用するか、分解して組み合わせるしかないそうです」

 「そうなんだ……だとするとちょっと厄介だね。今のところ、僕達に紋章魔法を作るノウハウはないし、修復だってできそうにない」

 「肯定します」

 「となると、あんまり試せないね……」

 そう残念がりながら、閉じているドアに近付く尊。

 「キーアンロック」

 カシャとなにかが開く音がし、ドアがスライドする。

 「おお、ちゃんと開けれた……でも、なにもないね?」

 「肯定します。強調します。ただし、中には魔物の死体や鉱物などが入っていることもあるそうです」

 「え? 死体?」

 「肯定します。研究資材だと推測されます」

 「……ちょっとヤダな……ん~別に今そういうのを手に入れても僕達じゃどうしようもないしね。基本的にスルーしようか」

 「了解しました」

 「キーロック」

 開いていたドアが自動的に動き閉まるのを確認した尊は、今度は元来た道へと振り返り、剣先を適当に向ける。

 「バインドネット」

 剣先から放射線状に白いネットが広がり、通路の天井・壁・床にくっ付き、まるで蜘蛛の巣を張ったかのような状態になる。

 「うん。これは魔物から逃げる時に使えるかも」

 「肯定します」

 「じゃあ、次は……」

 進む方向に向き直り、剣先を上に向ける。

 (球体に状にして頭上に浮遊させて。ライト)

 思考制御による命令によって発動した光の魔法が、指示通りに出現して辺りを照らす。

 通路が既に天井に埋め込まれているライトの紋章魔法によって明るいため、あまり意味がないその光をじーっと見て頷く。

 「うん。これも色々と使えそうだね。消灯」

 パッと消える光の球体を確認した後、黒姫黒刀改を正眼より真っ直ぐに構え直す。

 「後は……レーザー!」

 剣先に光が集まり、光線が撃ち出される。

 「あれ? ペケさんが使った時よりタイムラグがあったよね?」

 「回答します。マスターの指示通りに変更しました」

 「へ? あ……あはは、ついアニメのレーザーをイメージしちゃってたんだね」

 ちょっと恥ずかしくなりながら、試しが終わったため黒姫黒刀改を鞘に戻そうとし、前方で光が僅かに散ったのを尊は見た。

 「壁?」

 かと思った尊だったが、直ぐにそれは否定されることになる。

 何故なら尊の視界に赤い攻撃予測線がいきなり現れたからだ。

 「いっ!?」

 しかも、その線は通路全てが埋まってしまうほどの数と密度だった。

 「シールド! キーアンロック!」

 身体全体を覆うほどにシールドを拡張展開し、閉じたドアを再び開けて飛び込もうとする。

 しかし、その寸前でそれは起きてしまう。

 まるで横から降り注ぐスコールのようななにか。

 一瞬でシールドは砕け散り、満タン近くだった精霊力ゲージが一気に黄色にまで減少する。

 「にゃぁあああああああっ!」

 なに振りなどかまってならない尊は転げるように部屋の中に入り、こけて壁に回転しながら壁にぶつかった。

 「な、な、なっ!?」

 言葉にならないほど混乱している尊に、どんな時でも無感情なカナタが言う。

 「確認しました。ガーディアン系魔物『守蜘蛛』の機関銃掃射だと推測されます」

 「も、守蜘蛛!? つ、土蜘蛛の御親戚かなにかかな!?」

 若干混乱を引き摺った尊の問いに、カナタはVR画面を展開し、白い機械の蜘蛛を映し出す。

 「肯定します。守蜘蛛は、土蜘蛛を参考にして作られたと思われるガーディアン系魔物です」

 「そ、そりゃ、上で鳳凰さん達が土蜘蛛と慣れていたっぽいから、いるとは思ってたけど! ここ狭いよ!?」

 「肯定します。本来、守蜘蛛は広い地下四階へと繋がるであろう階段エリアに陣取っているそうです」

 カナタの説明に、尊は嫌な引っ掛かりを覚える。

 「であろう!? も、もしかして、誰も下に行ったことがない!?」

 「肯定します。現在のプレイヤー達の最大の障害は、守蜘蛛であり、この環境下であるためか誰も突破したことはないそうです」

 「そ、そりゃ、戦車とこんな狭い場所でまともに戦えるはずが……ちょっと待って、ペケさんが攻撃的になったのって、僕の攻撃が当たってからだよね!?」

 「肯定します」

 「で、さっきのレーザーは……」

 「回答します。守蜘蛛に命中したと推測されます」

 「にぎゃー!?」

 カナタの推測を肯定するかのように急速にこっちに近付いてくる地上でも聞いたことがあるモーター音に、尊は思わず悲鳴を上げてしまうのだった。

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