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第八話 碧撃の破壊者

 突然アイリスから告げられた予想外の言葉に、俺は驚愕を隠せなかった。


「む、婿!?」

「そうじゃ……歳の事なら心配いらんぞ、わらわはこれでもおぬしの倍以上生きておるからな」


 驚く俺をまるで気にも留めず、アイリスは淡々と話し続ける。


「いや、そうじゃなくて」

「ふむ、何故お主を婿にしたいのかという事かえ?」

「ああ……」

「意外に小さい事を気にする奴じゃのう……」


 この前会ったばかりの俺を婿にしたいだなんてあまりに唐突過ぎるし、普通気にすると思うんだけど……


「まあ良い、そもそもわらわは、この場所に婿探しに来たのじゃよ」


 ゆっくりと歩きながら話し始めるアイリス、その顔は、昔を懐かしんでいるようでもあった。


「わらわの一族は、まあそれなりに高貴な一族でもあるんじゃが、妙な慣習があってのう」

「強い力を持った相手を見つけ、結婚しなければ、一人前として認めて貰えないのじゃよ」


 そこで彼女は、壁に立てかけてあった鏡を見ながら、悲しそうな表情で続ける。


「お陰でわしは力を封じられ、こんなちんちくりんな体のまま、という訳なのじゃ」


 ということは、本来であればはもっと成長した大人の姿になってるはずなのか? 


「だったら、貴方の居た場所で相手を見つければ」


 俺より年上だというアイリスに一応敬意を払い、俺は敬語で質問した。 

 

「勿論わしも最初はそう思ったのじゃが、どいつもこいつも、自分の力を誇示することしか考えてないような奴でのう……」


 そううんざりとした顔で言って、アイリスは俺を見た。


「そこであちらでは無く、人間の街で相手を探そうと思ったのじゃよ、そして最近この辺りで、妙な魔力を感じて来て見れば」


 俺を熱っぽい視線で見続けながら話すアイリス。


「貴方の事情は分かった、でも、何故俺なんだ?」


 俺は正直、悪魔に認められるほどの腕なんて持ってないと思うのだが。


「お主自身では気付いていないかもしれんがの、この前見せたお主の力、あれは素晴らしいものじゃ」


 あのスライムを倒した時、アイリスも俺が変身して戦った所を見ていたらしい。


「このわらわですら、今まで見たことも無いようなものじゃった、あちらでも十分通用するじゃろう」

「……ふむ、まだ乗り気ではないかえ?」


 俺がまだ訝しげな顔をしているのを見て、彼女は俺に近付き、俺の顔を下から見上げる格好で更に続けた。


「わらわと結婚したとしても、お主は何もしなくてもよいのじゃぞ? わらわと一緒に悠々自適の生活を送るだけで良いのじゃ」


 その駄目押しの一言で、俺はどうするかを決意した。


「そんな上手すぎる話、信用出来ないね!」


 話の筋は通ってると思うけど、やっぱりどこかおかしい、それに、もう声も聞こえなくなって、姿を見せないサクラ達のことも気になるし…… 


「出来れば話し合いでなんとかしたかったのじゃが……仕方ないのう」


 そう言った彼女の周りに、何か黒いオーラの様な物が立ち昇るのが、俺にもはっきりと感じられた。


「少々手荒に、行かせて貰うかの!」


 そして、俺に向けられた彼女の右手から、幾つもの黒い光弾が連続で放たれた。


「変身!」


 RIDE ON RIDE HERO DASH!


その光弾を変身しながら弾き、一気に走りだす。


「そうじゃ! その力じゃ! その力さえあれば……」


 嬉しそうに笑う彼女に、まず動きを止めようと足払いを掛けるが。


「なっ……!?」


 その姿は霧のように掻き消え、俺の攻撃はあっさり外れてしまった。


「ふふ、無駄じゃ無駄じゃ」


 笑いながら俺の背後に現れたアイリスに、裏拳の要領で攻撃。


「このっ!」

「無駄じゃと言っておろうに」


 だがそれも外れ、お返しとばかりにアイリスの右手から黒い光線が放たれる。


「うわっ!?」

「ほう、今の攻撃を耐えるとは……」


 その光線を両手を交差してどうにか耐えた俺を見て、アイリスは更に嬉しそうに笑い、一瞬姿が消えたかと思った次の瞬間。


「ますます欲しくなるではないか!」

「増えた!?」


 その姿を数えきれないほど瞬時に増やし、俺の周りは数十人のアイリスが取り囲んでいた。 


「さあ、どれが本物のわらわか分かるかのう?」


 一斉に喋り出すアイリス達、近くにいた何人かに攻撃するが、先程と同じようにまるで手応えがない。


「このままじゃ埒が明かない……」


 分身から一斉に放たれる光弾を回避しながら、俺は体制を整え。


「ここじゃあんまり使いたくなかったけど……!」


 ベルトの左のボタンを強く押し込み、右腕で素早く十字を切る。


 RIDE ON! RIDE HERO CRUSH!


 電子音声が鳴り響き、俺は激しい緑色の光に包まれた。

 そしてその光が収まった時、俺はスラッシュに続くもう一つの形態へと、変身を完了させていた。 

 

「何じゃ!?」


 ライドヒーロークラッシュ、全身に火器を装備した、遠距離戦用の形態で、両肩にキャノン砲、両腰に取り外して携行可能なビームライフル、両腕部に内蔵式マシンガン、脚部に小型グレネードランチャーがそれぞれ装着されている。

 その火力は全形態一だが、その分機動力が著しく落ちるという欠点があった。

 それともう一つ…… 


「この力なら! クラッシュストライク!」


 CRUSH STRIKE!


 その言葉とともに全身の火器が発光し、全武装から一斉に砲弾が乱射された。 


「闇雲に狙えば一発は当たると思ったようじゃが、無駄じゃ!」


 周囲全てを破壊し尽くす様な俺の攻撃を受けても、アイリスの余裕は崩れていなかった。

 だが、俺は勝利を確信していた。


「いや、俺の……勝ちだ!」

「何を……?」


 攻撃が収まり、次第に煙が晴れると、建物の天井や壁に開いた幾つもの大穴から、太陽の光が差し込み始めた。

 これがもう一つの欠点、クラッシュフォームはその火力ゆえに、周囲の建物などへの被害が大きくなりすぎるのだ。

 後でナタリアには謝っておかないと…… 


「これは……光が!?」


 その光に、俺の周囲を取り囲んでいたアイリス達の姿が掻き消え、最後に光を受けて苦しんでいる本体のアイリスが一人残った。


「そこだ!」

「ぐうっ!」


 その本体に向け、ビームライフルを発射、流石に避けきれなかったのか、アイリスは直撃を受け、一回転して吹き飛んだ。


「何故、わらわの弱点が太陽だと……」


 床に倒れ込みながら、苦しそうに呻くアイリス、どうやらもう攻撃を仕掛ける気力も残っていないようだ。 


「貴方が現れてから、カーテンが自然に閉まった事に違和感を感じたのと、さっき、影がどうこう言ってたから……まあ、一番はただの感なんですけど」


 アイリスには言わなかったが、こういうタイプの敵は光に弱いって第三十一話「シャドウ・インスペクターズ」でやってたから、という理由もあった。


「ふふっ、仕方あるまい、ここは……」


 その言葉を残し、ここから撤退しようとするアイリスだったが。


「そうは行きません!」

「この声、みんな!」


 部屋の入口から武器を構え勢い良く入ってきたのは、サクラとシェリーの姿だった。


「さっきまで散々好き勝手やってくれたわね、もう許さないわよ!」


 その顔は怒りで真っ赤になっており、どうやらさっきまでアイリスの影攻撃に苦戦していたらしいのが伺える。


「ふふ、手負いの体とは言え、ここから逃げるくらいは……」


 そう言って、何かの魔法を使おうとし、薄く発光し始めたアイリス。


「いや、それは無理だね」


 そのアイリスに、何故か上の階に開いた穴から現れたナタリアの言葉が掛けられた。


「ナタリア!」「あんた今まで何処に……」

「ふふ、私が只捕まっているだけと思ったかね?」


 そう不敵な態度で彼女が何事か呟くと、部屋全体を覆う様な巨大な魔法陣が、一瞬で展開された。


「この魔方陣は……!?」

「君と彼女が戦っている間、私がこっそり張り巡らしていたのさ」


 どうやらナタリアはアイリスに捕まっていたわけではなく、俺達の戦いを上の階から隠れて観察していたらしい。


「そんな……動け……!」

「この私がじっくり時間を掛けて作成した、特製の拘束魔法だ、そう簡単には解けないよ」


 自信満々な態度のナタリアとは対照的に、次第に表情が暗くなっていくアイリス。


「ふん、あんたにしてはやるじゃない」

「正直、子供を相手にするみたいで気が咎めますけど……」

「借りは、返させて貰うわよ!」


 そう言って、サクラとシェリーが武器を動けないアイリスに向けた、その時。


「う……」

「う?」

「うわぁぁぁぁん! 痛いのは嫌じゃぁぁぁ!」


 両目一杯涙を浮かべたアイリスが、突如幼い子供のように大声で泣き喚き始めたのだった。

 その形振り構わない様子は、先程までの威厳溢れる大悪魔と言った感じから遠くかけ離れていた。


「え、ええー……」


 そのあまりに見苦しい光景に俺達は拍子抜けしてしまい、これ以上戦う気も起きなかったのだった。


 もう抵抗しないから痛いのは止めてくれと懇願するアイリスを軽く縄で縛り、俺達は事の経緯を聞いていた。


「それじゃあ、あんたがこいつと結婚したがってたのって……」

「う、嘘は言ってないのじゃ」


 確かに、俺と結婚すれば一人前と認められる、という点は間違ってはいなかった、間違ってはいないのだが……


「自分が楽したいだけ……か」

「うう、父様も母様も酷いのじゃ、わらわがちょーっと家でごろごろしているだけで、いきなり追い出すなんて……」


 アイリスは確かに名家の生まれなのだそうだが、それに胡座をかいて怠惰な生活を送っていた所、耐えかねた両親から勘当を食らってこの街に流れ着いてきた、ということらしい。


「それで結婚すれば、家にまた戻れると思ったんですね」

「そうじゃ、結婚相手を見つければわらわも一人前と認められ、そのうち家の遺産も貰えるからの」


 悪びれもせずにそう言うアイリス、そんな態度だから追い出されたんじゃ……


「じゃあ、魔界に相手が居ないってのは……」

「単に相手にされなかったのじゃ」


 アイリスの年齢が俺の倍以上というのも本当の事だったが、寿命のかなり長い魔界の住人からすればまだまだ子供の歳であるらしく、それで相手が見つからなかったらしい。


「まあ、こんな子供と結婚したがる奴なんて、居ないわよねぇ……」

「こ、子供じゃないのじゃー!」


 その言葉に両手を挙げて感情的に反論するアイリスは、正直見た目そのままの子供にしか見えなかった。


「……それで、どうするの?」

「うーん、取り合えず、ギルド本部に……」


 サクラの話では、珍しい魔物を捕まえた際にはギルド本部に連行し、そこで本部がどうするか対応を決めるのが通例らしい。

  

「それは待ってくれないか」


 その方向で話が纏まり掛けた時、ずっと黙ってアイリスの話を聞いていたナタリアが、突然待ったを掛けてきた。


「ナタリア?」

「君達は薄情だね、こんなに泣いてる彼女を、無慈悲に見放すつもりかい?」

「お主……」


 そう言って優しげな表情でアイリスを見つめるナタリア。

 二人の視線が交錯し合い、二人の間がなんだかいい空気になっていた、その時。


「あんた、本音は?」

「貴重な生きた魔族の体が手に入ったんだ、解剖の一つでもしないと、死んでも死に切れないよ!」


 ジト目で突っ込みを入れたシェリーの言葉に、ナタリアは興奮を抑えきれない様子で高らかに叫んだ。


「うわぁぁ! 痛いのは嫌じゃぁぁ!」


 その言葉を聞いて、更に泣き出してしまったアイリス。

 まあ、解剖は嫌だよな……


「はぁ……そんな事だろうとは思ったけど」

「ヒカルさんは、どうするのが良いと思いますか?」

「そうだな……」


 呆れ顔のシェリーと困惑した様子のサクラに問いかけられ、俺は……


「全く、なんでわらわがこのような下働きを……」


 自身の分身と共に荷物を運びながら、不満そうに呟くアイリス。


「手が止まってますよー!」

「わ、分かっておる!」


 同じように作業をするサクラに呼びかけられ、慌てて仕事を再開していた。


 アイリスについて、結局本部に引き渡すのも可愛そうだという話になり、取り敢えずは更に破壊されたナタリアの家の修復作業を手伝って貰う事になった。

 それから先は、また話し合って決める事になるだろう。


「もしサボったら……」

「たら?」

「今度こそあいつに解剖してもらうからね!」

「か、解剖は嫌じゃぁぁ!」


 シェリーの脅しに本気で怯えながら、凄まじい勢いで仕事をこなしていくアイリス。


「全く君は優しいね、あれだけの目にあったというのに」

「まあ、結局皆無事だったし……」


 そのアイリスを見ながら作業をしていると、相変わらず自分は仕事をせずに悠々自適といった様子のナタリアが話しかけてきた。


「ふふ、益々君に興味が沸いて来たよ、今夜一緒に食事でもどうかな?」


 そう言って、俺に熱っぽい視線を向けてくるナタリア。


「……本音は?」

「この私が見たことも聞いたことも無い魔法を使う人間を始めて見たよ! これは是非、標本にしてじっくりと研……はっ!?」


 俺の問いかけに、ナタリアは先程と同じように凄まじく物騒な考えを一気に捲し立てた。

 まあ、俺が女の子にモテる訳無いし、そんな事だろうと思ったけど……


「ふーん、良かったわね、一日に二人の女の子に告白されるなんて、モテモテじゃない」

「は、ははは……」


 そんな会話をしている俺の背後から、呆れ顔で話し掛けてくるシェリーの言葉に、俺は乾いた笑いを返すしか無かったのだった。


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